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2015.06.27

摂取カロリーを単純合計することに意味はない

目次

  1. アトウォーター係数は平均値に基づく
  2. 消化吸収率は皆が同じではない
  3. 根本的な肥満の原因は「基本体重」の値
    <まとめ>

その日の摂取カロリーを正確に計算し、ダイエットでの体重管理にあてはめてもあまり意味がない、という話をしたいと思います。私達が摂取カロリーを計算する時に使う食品のカロリー値にはアトウォーターのエネルギー換算係数(炭水化物、タンパク質4kcal/gなどの係数)が使われていますが、その正確さについてはいろんな問題が指摘されています。
【関連記事】カロリー計算:アトウォーター係数が完全ではない理由


私はその中でも、消化率や吸収率が平均的な数値に基づいていることが問題であると思っており、その問題点について説明します。(今回は吸収されるまでの過程であり、吸収された後の代謝過程やホルモン分泌の違いなどについては言及しません。)

1. アトウォーター係数は平均値に基づく

一日の摂取カロリー

「あなたの体が必要とするカロリーより多く摂取すれば太り、摂取するカロリーより多くのカロリーを燃やせば痩せる」(注1)と言われています。

この理論は、非常に単純であり、ある意味で核心をついているとも言えますが、「体が必要とするカロリー」「摂取するカロリー」という表現が曖昧なため危険です。

体が実際に消費するカロリーは基礎代謝でさえ変化していると言われるし[1]、体が実際に吸収しているカロリーも常に変化するので(私の考え)、単純に食品のカロリー値を合計して比較しても、正確な数値を導き出すのは難しいと考えます。


アトウォーター係数は、単にその食品のもつ吸収可能な平均エネルギー値を示すものですが何時に食べるか、何時間おきに食事を摂るか、どの食品をどの様に組み合わせるかによって、吸収率がどの様に変化するかについては調査されていないうです。

また、この係数は被験者の平均値なので、すべての人の消化吸収率を同じとして考えているのです[2]

2.消化吸収率は皆が同じではない

私はすごく痩せていたので、消化力が弱く、常に消化吸収の問題を抱えていました。まるで自分が実験台のようでした。脂っこい食事や繊維質の多い食事を食べ過ぎると胃がもたれ、7-8時間たっても空腹にならず、その状態で無理して食べると、さらに痩せました。

アトウォーター係数では、脂質は物理的燃焼度が1グラムあたり9.4 kcalで消化吸収率が95%で設定されているので、9kcalの熱量と言われるのですが[3]、私を含め消化に手こずる人にとっては、その数値は意味がありません。
以下で、私の経験に基づき、一個人において吸収率がどの様に変化するかについて説明します。

(1)吸収率は一定ではなく、空腹や運動で高まる

痩せたいと思う人が、カロリー摂取量を減らし自身を半飢餓状態にすると基礎代謝量も低下するということも実験で証明されていますが[1]、私は吸収率も同じではないと考えます。

吸収率は、空腹が長時間にわたり続く時や運動後に高まります。これはエネルギー源だけでなくカルシウムや微量元素含めすべての栄養素についても言えるでしょう。

腹ペコ時又は疲れている時にお酒を飲むと悪酔いしたり、またラーメン・スイーツなどを食べると血糖値が急激に上がることがありますが、それは体が栄養を必死に摂ろうとしているからです。

血糖値上昇

もう少し具体的に言うと、700 kcalの昼食を400 kcalにして夕食まで我慢したとしても、お腹の中には朝食もまだ残っており、そこから栄養を摂ろうと体は必死に頑張っているはずです。体に蓄えられている栄養を使う場合でさえ、先に使われるエネルギー源があるので、すべてが体脂肪の減少につながる訳ではありません。また、空腹が数時間続けば夕食を摂ったときの吸収率も高まると考えるので、減らした300 kcalを毎日、例えば2週間、合計しても計算通りに体脂肪は減らないでしょう。(また体重減少に伴い基礎代謝も落ちるので、予想よりも少ない体重減少で体は均衡状態になると言われる。)


それとは逆に、空腹でもないのに3~4時間おきに無理して食べ続けると吸収力は相対的に低下します。3~4時間かけて消化され胃袋をやっと出て、『これからさらに吸収するぞ・・・』という時に、また胃に別の食べ物が運ばれてくるわけだから、体は『また、食べ物が入ってきたぞ。あれから栄養を摂ればいいや・・・』という風になるわけです。

先ほどの血糖値の例で言うと、食事の2時間前にアイスクリームを食べておけば、食事での血糖値の上昇は緩やかになるはずです。

プロテインと女性

バーベルを使用した激しい運動をする人が、食事の合間にプロテインや牛乳を飲むことは必要かもしれませんが、軽い運動をする一般の人がこのような食べ方をすると、吸収率が低下し、消化のためのエネルギー(食事誘発性熱産生)は増加するのでダイエットに効果がある場合があります。

(2)食品の組合せによって吸収率が変化する

食事中の食品をどの様に組み合わせるかによっても、空腹感や吸収率に違いがでてくるのです。

一例として400 kcalの朝食(トースト、ハム、目玉焼き)について考えてみましょう。たとえカロリーが増えたとしても、朝食にゴボウサラダ、チーズ、豆、キノコソテーなどを加えれば、昼食時の空腹感は和らぎ、昼食時の血糖値の上昇も抑えることができるはずです。(NHK「ガッテン流、脱糖尿病の新ワザ」2011年)

繊維たっぷり料理

繊維質を多く含む難消化性の食べ物や、消化に時間のかかる食べ物を常に食べることで、体の中では未消化物がまだある状態が続き、その結果、空腹感が抑えられ吸収率が低下することが一部の理由と考えます。繊維質そのものが吸収を若干抑えるという可能性もあります。

ですから、たとえ摂取カロリーが増えたとしても、このような食べ物を毎日の3回の食事に加えることは、ダイエットに効果がありえます。


逆に摂取カロリーを減らしたとしても、繊維の乏しく加工度の高い食品ばかりを食べていると、すばやく消化されるために体は労力を使わずに多くのカロリーを得ます
[4]。常に空腹感を感じるため吸収率は上がり、血糖値のアップダウンを繰り返すことも考えれます。

(3)脂質が常に太るわけではない

エネルギー源となる、炭水化物、タンパク質、脂質の組合せでも違いがでます。

カロリーの理論に基づくと、脂質は1グラムあたり9kcalなので「沢山食べれば太る」というふうに、私達は、栄養士や医師、テレビなどを通して教えられています。

三大栄養素

しかし、糖質制限ダイエットに見られるように、炭水化物を減らし、タンパク質や脂質を食べたいだけ増やす食事は、一日の摂取カロリーが増えたとしても被験者に体重が減少したという研究結果が1970年代まで繰り返し報告されています[5]

2008年にイスラエルで行われたDIRECT試験 (食事介入による無作為比較試験)でも、「地中海食ダイエット」、「アトキンス・ダ イエット」(低炭水化物)は、「低脂質ダイエット」に比べ体脂肪減少に大きな効果があることが確認されています[6]

もちろん、タンパク質の消化に使われるエネルギー(食事誘発性熱産生)が高いことや、刺激されるホルモンに違いが出ることが知られていますが、私が付け加えたいのは吸収率です。

上記(2)の難消化性の野菜などと同じ理由で、消化の良い精製された炭水化物を減らし、消化のよくない脂質や肉類(特に加工されないブロック)などを相対的に多くした食事は、未消化物質が長時間に渡り腸内に残るので、空腹感を抑え、吸収率を低下させダイエットに効果があるでしょう。脂質を毎食あるいは、間食にも取り入れることでより多くの効果を得ることができるはずである。


もちろん脂質、タンパク質を早く消化できてしまう人や民族はこの効果が薄い可能性があるのですが、私を含め脂質をすばやく消化できない人にとっては、脂質を多く摂取することは太る原因とはならないでしょう。

これはアメリカにおいて、1976~1996年にかけて低脂質ダイエット(高炭水化物)を推進した結果、BMI 30以上の人が1977年から劇的に増加したとするデータ[7]とも関係するのではないかと思っています 。

【関連記事】脂質における3つの視点
   

3. 根本的な肥満の原因は「基本体重」の値

上記「2」の説明は一個人における吸収率の変化ですが、私がこのブログを通して言うように、根本的な太り過ぎと痩せの違いは、基本体重(Base weight)の値の違いであると思っています。

カロリーの摂取量や運動によって、多少太ったり又は痩せたりするのは、基本体重(BW)の範囲内(図のb :の矢印)ですが、基本体重そのものがアップするのは腸の飢餓メカニズムなので、摂取するカロリー量とは直接関係ありません。

そして私の理論上、この基本体重が高いことは、平均的な体重の人に比べて「吸収率が絶対的に高い」ことを意味していて、すべての栄養が増加すると考えるので、体重の増加は体脂肪だけでなく、筋肉量の増加などとも関連しています。

今の時点では、アトウォーター係数の矛盾を指摘して、基本体重がどう変化するかを説明をすることはできないのですが、必ず腸の飢餓状態で人が太ることを証明したいと思っています。

<参考文献>
[1](ジェイソン・ファン, 「The Obesity Code」,2019, P.67)
[2](Rob Dunn,"Science Reveals Why Calorie Counts Are All Wrong",2013)
[3](Japan Food Research Laboratories, 「食品のエネルギーについて」,2003) 
[4](Rob Dunn,"Science Reveals Why Calorie Counts Are All Wrong",2013)
[5](ゲーリー・トーベス, 「人はなぜ太るのか」,2013, P164-175)
[6](ジェイソン・ファン, 「The Obesity Code」,2019, P.177-179)
[7](ジェイソン・ファン, 「The Obesity Code」,2019, P.54-55)

(注1)1878年、ドイツの栄養学者マックス・ルブナーは「等力価法則」と呼ばれる法則を作り上げ、栄養の基本はエネルギーの等価交換であると主張し、1900年代初頭にドイツの内科医、カール・フォン・ノールデンによって肥満の研究に応用されました。
([A calorie is a calorie] From Wikipedia)

まとめ

(1) 大量調理(給食や老人ホーム)などの場合に、平均的な目安として一日の摂取カロリーを計算することに意味があるが、それをダイエットでの体重管理にあてはめてもあまり意味がない。過体重・肥満という概念においては別の問題が多くある。

(2) アトウォーター係数では消化吸収率は被験者の平均値だが、人の消化吸収の過程は複雑であり平均値では語れない

(3) 空腹感や運動によって吸収率は変化すると私は考える。食事の時刻や間隔、どの食品をどの様に組み合わせるかも結果に影響する。

(4) 肥満の根本的な原因は「基本体重の設定値が高い」ことが原因であり、摂取カロリーを減らすことで一時的な減量にはなっても、長い目では効果が薄い。

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