トピックス

2025.12.12

減量後に体重のリバウンドを促進する生物学的反応

要 約

カロリー制限によって個人が体重を減らすと、代謝、神経内分泌、自律神経、行動の変化の協調的な作用を伴う適応反応が引き起こされ、体重の再増加が促される。これは、減量のためのカロリー制限がしばしば失敗する理由を説明できる可能性がある。

(1) 代謝適応
個人がカロリー制限によって体重を減らすと、体組成の変化などから予測されるよりも有意に安静時エネルギー消費量が低下する。これは、減量を維持しようとする痩せた人にも肥満の人にも作用し、体重が戻るのに理想的な状況を作り出す。

  
(2) 内分泌機能

消化管と脂肪組織から分泌される多くのホルモン(レプチン、グレリン、ペプチドYY、コレシストキニンなど)が食欲、食物摂取量、エネルギー消費量の調節に関与している。カロリー制限による減量は満腹感の低下と空腹感の増加を同時に引き起こし、過食を促す可能性がある

  
(3) 食物報酬、依存症との類似性

美味しいものを食べると、脳内ではドーパミンなどの神経伝達物質が分泌され、脳内の報酬系という神経回路が活性化される。この快感をもう一度得たいという欲求が、次の食事への動機づけとなる。カロリー制限や絶食は、食物、特に高カロリーで美味しい食品の報酬価値を高める可能性がある

  
(4) 抑制系、過食

ダイエットの短期的な成功は、行動制御に関わる抑制性神経反応の亢進が、「食べたい」という欲求を一時的に克服できることにより説明できる。しかし食事制限が長引くに連れ、脳の報酬関連領域の活性化が抑制系を上回り、美味しい食品を食べたいという衝動が抑えられなくなる可能性がある。

  
(5) 脂肪細胞密度

減量によって脂肪細胞の大きさは縮小するが、数は基本的に変化しません。ただし、体重が再増加する段階で、脂肪細胞が新たに増える(過形成)
可能性はゼロではないと指摘する研究者もいる。もし過形成が起これば、これらの脂肪細胞が再び肥大し、結果的に脂肪組織全体の拡大が促進される可能性がある

  
(6) 腸内飢餓

上記(1)~(5)とは異なり、エネルギーの大幅な不足が契機となり引き起こされる訳ではない。

 
<結  論>
一部の研究者は、「これらの減量後に体重の再増加を促す生物学的力は非常に強力であり、克服するのは容易ではない」と指摘する。私は、こうした反応を「克服する」のではなく、できるだけ強く起こさないようにすることが重要であると考えます。

具体的には、長時間にわたり空腹を我慢するのではなく、カロリーを調整しつつも、栄養価があり、加工度の低い食物を多く摂ることが大切です。それによって満腹感を持続させ、空腹感を減らすことがポイントです。

【全 文】

<目次>

1.リバウンドを促進する多様なメカニズム
(1)代謝適応
(2)内分泌機能
(3)食物報酬、依存症との類似性
(4)抑制系、過食
(5)脂肪細胞密度
(6)腸内飢餓

2.結  論

<はじめに>

「肥満者は食べる量を減らし、運動するように」という処方箋は、十分に文書化された失敗にもかかわらず、今日でも体重管理のためのアプローチとして一般的に、広く使われている[1]。減量した体重のほとんどは長期的にリバウンドすることが示唆されているのだ[2]

遺伝学、疫学、生理学の研究によると、体脂肪/体重は制御されていることが判明しており、減量を維持しようとすると、代謝、神経内分泌、自律神経、行動の変化の協調的な作用を伴う適応反応が引き起こされ、減量した体重の維持に「対抗」することが示されています[4]

今回はその様な、減量後に体重を戻し、さらなる増加を促す可能性のある生物学的メカニズムについて、簡単に紹介します。私の腸内飢餓の理論についても、その違いを説明したいと思います。

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1.リバウンドを促進する多様なメカニズム

   
(1)代謝適応

エネルギー制限は安静時エネルギー消費量(REE)の減少と関連している[5]。多くの研究では、行動的な減量により、体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも、安静時および総エネルギー消費量が有意に大きく減少すると報告されている[4,6]

この現象は適応性熱産生(AT)または代謝適応と呼ばれ、体重が戻るのに理想的な状況を作り出す[7]

代謝適応は、身体が飢餓状態と認識した際に、生存に必要なエネルギーコストを低下させ、延命を図る反応として目的論的に解釈することができるが、興味深いのは、肥満の人にも同様に作用し、エネルギー貯蔵量(体脂肪)の大小によって弱められないように見えることである[7,8]

基礎代謝の低下

(著作者 rawpixel.com /出典:Freepik)

しかし、その開始時期についての証拠は一貫性がない[9]いくつかの研究では、エネルギー制限から1週間以内にATを検出した。これは、インスリンの急激な低下、グリコーゲン貯蔵の枯渇、細胞内外の液体の損失に関連している[10]

対照的に多くの証拠は、ATの発症するまでに数週間かかることを示唆しており[11]これは、主に貯蔵脂肪の減少によるレプチン分泌の低下に関連している[9,12]

ATの持続性についても議論の余地が残るが[7]、エネルギーバランスが回復した後も代謝適応が何年にも渡って続く可能性が指摘されている[13]

  

(2)内分泌機能

消化管と脂肪組織から分泌される多くのホルモンが食欲、食物摂取量、エネルギー消費量、および体重の調節に関与していることがわかっています [14, 15]

レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、満腹中枢を刺激することで食欲を抑え、エネルギー消費を増加させることで体重を調節します。レプチンレベルが高いと脳はエネルギー貯蔵量が多いと解釈し、レプチンレベルが低いとエネルギー貯蔵量が少ないと解釈します[16]

レプチンは、エネルギー制限後 24 時間以内に低下すると確認されているが [17]、多くの研究では、脂肪組織の損失に対して予想されるよりも大きなレプチンの減少が報告されています[18,19]レプチンの主な役割は、体重調節そのものではなく、飢餓の防止である可能性が示唆されており[15, 20]、レプチンレベルが閾値(特定の反応の起こる境界値 [注1])未満になると、まだ豊富な脂肪が蓄積しているにもかかわらず、飢餓防御反応が誘発され[17]、代謝率と身体活動性が低下し、空腹感が増加する[ 21,22]

(注1)この閾値は脂肪組織の増加に伴い上昇すると提案されている[17]


さらに、減量した人において、食欲促進ホルモンであるグレリンの増加と、食後満腹シグナルであるペプチドYY(PYY)とコレシストキニン(CCK)の減少が観察されています[23]

したがって、行動的な減量は満腹感の低下と空腹感の増加を同時に引き起こし、過食を促す可能性があります[15]

(3)食物報酬、依存症との類似性

食物報酬とは、食事をすることで得られる快感や満足感と、「また食べたい」という欲求(動機付け)が生まれる脳の仕組みです。脳内の報酬系という神経回路が活性化され、ドーパミンなどの神経伝達物質が放出されることで、幸福感や食欲増進につながります。

ドーパミン

(著作者 rawpixel.com /出典:Freepik)

食物摂取量の調節には、恒常性因子非恒常性(快楽的)因子の密接な相互関係があります。

前者は栄養必要量に関連し、血液と脂肪貯蔵庫内の利用可能なエネルギーを監視し、エネルギーバランスを維持する。後者の多くは脳の報酬系に関連しています[24,25]

食事量を決定する機構は多くの場合は恒常的であるが、報酬関連シグナルは、本来は安定した体重を維持するために働く恒常性シグナル(満腹感)を容易に無効化するため、過食につながる可能性があります[25,26]

現代の神経画像技術を用いた実験により、栄養状態(例:空腹時 vs. 摂食時)と食物刺激(例:高カロリー vs. 低カロリー、食欲をそそる vs. 味気ない食品)は、どちらも脳報酬系の活動を変化させることが知られている[27,28,29]

健康的な被験者を対象とした最近の研究では、短期又は長期のカロリー制限や絶食は、食物、特に高カロリーで美味しい食品の報酬価値を高める可能性があることが示された[27,30]

これらの研究結果は、減量のためのエネルギー制限食がしばしば失敗する理由を説明できるかもしれません[28,30]

<食品中毒、薬物との違い>

薬物と食品は共通する特性を持つ一方で、質的および量的にも異なる点があります。

コカインなどの乱用薬物は脳のドーパミン回路に直接影響を与えるが、食品は「間接的」であり、味や匂いといった感覚からの信号、消化管などに存在する栄養センサー[31]、食べ物の消化吸収によって生成されるホルモンの働きを通じて脳に伝達され、ドーパミン回路が活性化される[25]

食物中毒

砂糖、甘味料、塩、脂肪などの食品成分に依存性プロセスを引き起こす可能性があるかどうかは議論されているが[25]、脂肪や糖分を含む高カロリーな食品(例えば、チョコレート、アイスクリーム、クッキー)や塩味のスナック菓子などは、ストレスの多い現代社会では快楽と満足感を生み出す強力な報酬となるため、「食品中毒」という概念で薬物中毒との類似性が指摘されている[32,33]

 
(4)抑制系、過食

食物摂取は、主として、恒常性維持系、報酬関連系、抑制系という3つの相互作用する神経系によって調節される[15]抑制系は、主に自制心や意思決定をつかさどる脳領域が関与しており、食行動を調整し、過剰な食物摂取を抑制するのに役立っている[34]

<食物報酬の認知制御>

人間では、おいしい食べ物を求める行動欲求は認知、特に実行機能によって抑制されます。日常生活における中心的なジレンマの一つは、自分の内的目標(例えば、健康維持や体重管理のためにスイーツを控える)と、食欲をそそる食物を摂取するという目先の報酬とのバランスを取ることです。

この葛藤は、食べたくて仕方ない食べ物(例えば、ドーナツやピザ)がすぐに手に入る場合に特に困難です[25]

過食

(著作者及び出典: Freepik)

ダイエットの短期的な成功は、抑制性神経反応の亢進が、おいしく高カロリーな食品を消費するという神経生物学的衝動を一時的に克服できることを示唆している[35]

しかし、最近の証拠は、報酬関連神経シグナル伝達が抑制性シグナル伝達と連動して活性化されることを示している[36]

つまり、簡単に言えば、食事制限が長引くに連れ、食欲をそそる美味しい食品を食べたいという衝動が抑えられなくなる可能性がある

若者を対象とした前向き研究、並びにげっ歯類による動物実験の結果は、24時間の断食や無脂肪食を特徴とする著しいカロリー制限は、将来の無茶食い神経性過食症の発症リスクを高める可能性を示唆している[37,38]
               

(5)脂肪細胞密度

減量ダイエットでは脂肪細胞の大きさは縮小するが、脂肪細胞の数は減らない[39]。体重が抑制されていた人の体重再増加が、過形成(脂肪細胞数の増加)によって促進されるかどうかはまだはっきりと分かっていないが[15]、肥満ラットによる研究では、絶食後の再給餌で脂肪細胞数の増加(過形成)が観察された[40]

人においても、以下の可能性が指摘されている[15]

通常、エネルギーが不足しているときには、脂肪貯蔵庫のトリグリセリドは分解され、細胞にエネルギーを供給します。

しかし、脂肪分解の速度は脂肪細胞の大きさと細胞表面積に関連しているようであり[41]、脂肪細胞が小さくなることで脂肪分解の速度が低くなります。

サイズが縮小した脂肪細胞が脂肪の分解を減らすように、そしてより多くの脂肪を貯蔵するように改変された場合、これらの脂肪細胞が再び肥大し、結果的に脂肪組織全体の拡大が促進される可能性が指摘されている[15,42]

体脂肪増加

(著作者 brgfx /出典 Freepik)

(6)腸内飢餓

上記の(1)~(5)の反応は、グリコーゲンの枯渇や貯蔵脂肪の大幅な減少を契機とする一連の抗飢餓又は抗減量メカニズム(注2)と考えられている[15]。その一方で、私の言う「腸内飢餓」はエネルギーの大幅な不足によるものではない

腸内飢餓は、減量目的の厳格な食事制限(食事を抜く、極少量しか食べない)で引き起こされる場合もあるが、より気軽なダイエットや、減量とは直接関係のない生活習慣(朝食抜き、軽い昼食、遅い夕食、一日二食など)でも引き起こされる可能性があります。
【関連記事】「腸内飢餓」の定義:肥満多因子モデルへの適用


また腸内飢餓が引き起こされると、体重の設定値の上昇を示唆する体重増加が起こると私は考えていますが、それは体脂肪だけでなく筋肉など徐脂肪組織も含むと想定しています。よって、腹部や全身の体脂肪の異常な増加を特徴とする体重増加メカニズムとは異なる可能性があります。

(注2)これらの反応は、十分なエネルギー貯蔵量があるにもかかわらず作動するため、一部の研究者は抗飢餓ではなく抗減量メカニズムという表現を好む[15]

2.結 論

今回、言及した上記 (1)~(5)のメカニズムと直接的な体重増加促進作用についての因果関係はまだ証明されている訳ではないが[15]、ダイエット後にリバウンドを経験したことのある多くの人にとって、共感できる部分が多々あるのではないだろうか?

一部の研究者は、「これらの減量に抵抗し失った体重を取り戻そうとする生物学的力は非常に強力であり、行動介入によって減量を試みる人のほとんどにとって克服できそうにない」と指摘する一方で、長期的な減量を達成するには、これら生物学的メカニズムを弱める介入法の開発の必要性にも言及している[15]


私の考えとしては、これら生物学的力を克服しようとするのではなく、抗飢餓(抗減量)メカニズムをなるべく呼び起さないことが必要だと考えます。

現在は「カロリーの摂り過ぎや運動不足」が肥満の原因と考えられているため、その逆をすること、つまり「摂取カロリーを減らして運動をする」ことが推奨されていますが、多くの人は、軽い食事にしたり極少量だけ食べ、長時間の空腹に耐えようとします。食物報酬及び抑制系の知見から明らかな様に、それは明らかに人体のメカニズムを無視しています。

私はむしろ、以下のような方法をお勧めします。

               
(a) 主に精製炭水化物を減らし、摂取カロリーを調整する。しかし、極端な減らし方は避けます。

(b) その他の食品(繊維の豊富な野菜や海藻、乳製品、加工度の低い肉・魚、ナッツなど)はむしろ増やす。特に、難消化性食品や消化に時間のかかる食品(注3)を多く摂る。


この食事法を継続することによって、腸脳軸を通じて「食べ物が十分にある」というシグナルが伝達される可能性がある。満腹感を持続させ、空腹感を減らすことが重要です。

さらに、消化管や体の他の部分にある栄養センサーも、食事中および食後の食物報酬の生成に寄与していると示唆されており[43]ゆっくり嚙んで味わって食べることによって、味蕾からの即時の報酬だけではなく、食事が終わった後も長く続く報酬(満足感)が得られる[44]

(注3)オイルやナッツなどの高カロリーな食品も、摂取の仕方によっては問題ないと考えている。

現在の肥満の蔓延は、現代の豊かな食環境と、食料が乏しい環境で進化した生物学的反応パターンとの不一致として説明されることがあり[44, 45]、その観点から、美味しい食べ物が容易に手に入る環境下では、日常の3~5時間程の空腹であっても、食べ方によっては、長期的に体脂肪の増加を促す可能性があると私は考えているのです。
          

<参考文献>

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[3](削除)

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2025.08.07

ダイエットの普及が肥満の増加に拍車をかけている可能性

要 約

(1)過体重や肥満の有病率の増加と並行して、ダイエットの普及率も、過去数十年間、継続的に増加している。ダイエットが逆説的に、肥満を助長しているのではないかと懸念されている。

  
(2)いくつかの観察研究は、ダイエットと体重増加の間に、少なくとも部分的な因果関係があることを示唆しているが、一部の研究者は、ダイエットは食べ過ぎ傾向の代理マーカーであると主張している。

  
(3)いくつかの前向き研究は、青少年・中年女性、並びに正常体重の範囲内の人が減量のためにダイエットをすることが、将来の体重増加を最も強力に予測している。理想的な痩せ体型を求める社会的なプレッシャーや、太ることへの恐怖が、一部の人を過激なダイエットに駆り立てている可能性がある。

  
(4)青少年に関する前向き研究では、不健康な体重管理行動(食事を抜く、極少量しか食べない)を継続的に行った男女で、10年後のBMIの増加が最も大きかった。一部の研究者は、青少年にとってのダイエットは、長期的に体重管理に逆効果となる行動パターン(無茶食い、朝食抜き、野菜の摂取不足など)を促す可能性が高いと指摘する。

 
<結論>

(5)いくつかの観察研究は、遺伝的要因とは無関係に、ダイエット自体がBMIの増加を予測することを示唆している。過酷なカロリー制限を課した長期的な臨床研究(飢餓実験)においても、制限解除後の体重のオーバーシュートが確認されている。

  
(6)(私の考え)すべてのダイエットではないが、一部の人の実践する食事制限や不健康な体重管理行動(食事抜きなど)が、社会全体として体重増加に拍車をかけている可能性が高い。

    
(7)食事制限による減量は、最終的には、代謝・ホルモン・神経学的変化を伴う生物学的飢餓反応を引き起こすことが判明しており、体重が減量前より増加する可能性を説明できるかもしれない。

【全 文】

<目 次>

  1. ダイエットと肥満に関する近年の背景
  2. 観察研究における問題と注意すべき点
  3. ダイエットと肥満増加の因果関係は?
  4. 結論

<はじめに>

近年、世界中で減量の為にダイエットをする人は増加傾向にありますが、ダイエットが肥満の増加に拍車をかけているのではないかと一部で懸念されています。

例えば、テレビに出演している女優や女子アナが “昔に比べ太ったのでは?” と感じることはないですか? 私には彼女達が “食べ過ぎている” とは到底思えません。むしろ 太りたくないがために、ダイエット(例えば、食事を抜いたり、軽い食事で済ましたり)をしているのではないかと推測しています。

今回は、ダイエットの普及と肥満の増加に関連性があるのかについて、観察並びに臨床研究の結果を基に考えてみたいと思います。

1.ダイエットと肥満に関する近年の背景

(1) 1992年、アメリカ国立衛生研究所が招集した専門家委員会は、次のように結論づけた:「管理された環境下での減量プログラムを継続すれば、参加者は通常、体重の約10%を減らすことができる。しかし、体重減少後1年以内に体重の1/3から2/3が戻り、5年以内にほぼ全部が戻る」のだと[1]

また、長期的な結果に関する研究では、ダイエットをした人の少なくとも1/3は、減った体重よりもリバウンドする体重が多いことが示されており[2]、ダイエットが逆説的に、達成しようとしていることと全く逆の結果をもたらしているのではないかと懸念されている[2, 3]


(2) 1983年に出版された本「ダイエットは太る」では、ダイエットで体重を減らすことは体重管理には逆効果であり、体重が増減を繰り返すたびに、減った脂肪より多くの脂肪が戻ってしまうという考え方が体現された[4]。それ以来、ダイエットで太るかどうかは、科学者の間では物議を醸し、頻繁に議論されている[5, 6, 7]

(3) 米国人はダイエットに関連する製品やサービスに年間 330 億ドル以上 (1998年時点)を費やしているにもかかわらず[8]、肥満 (BMI≧30) の有病率は 30.5%(2000年)から35.7% (2010年)、42.4% (2018年)と着実に増加している[9]

ダイエットの普及率も、過体重や肥満の有病率の増加と並行して、過去数十年間、継続的に増加している[10] (表-1 参照)

ダイエット普及率の推移

[表-1] ダイエットの普及率の推移(アメリカ)

また、イギリス国民における年齢で調整後の減量試み(ダイエット)の普及率は、1997年の 39% から 2013 年には 47% に増加しました。

すべての BMI カテゴリーにおいて、減量を試みる人は毎年増えています[15](表-2 参照)

BMI別の減量の試み普及率

[表-2] BMI別の減量の試み普及率(2013年 イギリス )

(4) 一部の研究者は、ダイエットと体重増加の関連性は少なくとも部分的には因果関係にあると示唆しているが[16,17]、他の研究者は、ダイエットは食べ過ぎ傾向の代理マーカーであり、ダイエットをしなければ人はさらに体重が増えるだろうと主張している[ 18]


(5) いくつかの前向き研究では、青年期のダイエットや[17, 19, 20]、中年女性のダイエットをする人[21]、当初正常体重の範囲内の人が減量のためにダイエットをすることが[5, 21, 22]、将来の体重増加を最も強力に一貫して予測することが示唆されています。

(6) ミネソタ州で行われた10年間に及ぶ前向き研究(1998~2009)では、青少年(中学~高校生)のダイエット経験とBMIの変化が5年ごとに追跡調査され、1,902名(男性819, 女性1,083)が調査を完了した。

調査開始時(Time 1) と5年後 (Time 2) の両方でダイエットや不健康な体重管理(食事を抜く、極少量しか食べない、代替食品やダイエット薬の使用)を継続的に行った男女は、ダイエットをしていない人と比較して、開始時点でのBMI値が高く、10年後 (Time 3) のBMIの増加が大きかった。

(※) 女性の43.7%、男性の18.7%が、継続的に不健康な体重管理行動を行っていると報告した。

思春期の女学生

出典:Freepik (photo by Prostooleh)

特に、「非常に少量しか食べないこと」「食事を抜くこと」は、圧倒的に最も一般的に報告された行動であり、両方の行動は女性と男性で統計的に有意な大きな BMI の増加を予測した

特に懸念されるのは、Time 1で過体重 (25≦BMI<30)であり、ダイエットや不健康な体重コントロール行動を継続した男女でBMIが大きく上昇したことである。例えば、Time 1Time 2の両方で不健康な体重管理行動をとっていた過体重の女子は、10 年間の調査期間中に BMI が 5.19 単位増加したのに対し、不健康な体重管理行動を全くとらなかった過体重の女子のBMI増加はわずか 0.15 単位であった[17]

(7) 1998 年の全国健康インタビュー調査では、米国成人における減量戦略の普及状況が調査された。

減量を試みる人のうち、「摂取カロリーを減らして運動量を増やした」と回答したのは3分の1だけでした [23](表-3 参照)

米国成人における減量戦略

[表-3] 米国成人の減量戦略の普及率

2.観察研究における問題と注意すべき点

数年に及ぶ観察集団研究の大半では、自己申告のダイエットをした人の間で、その後の体重増加が示されているが、いくつかの調査結果は、ダイエットによって体重減少と体重増加の両方が予測されており[24, 25]、結果は必ずしも一貫していない。その原因とその他の注意すべき点について考えてみたいと思います。
           

(1) どの様なダイエットか?

多くの研究では、開始時点での「ダイエットの実施状況」や「過去のダイエット歴」が調査されたが、どのようなダイエットをしたのかはあまり調査されていない[20, 21, 26]

もちろん痩せるための正しく継続できるダイエット(例えば、野菜を多く摂り、[超]加工 食品を減らす、朝食を摂る、運動するなど)を実践した人は減量を維持できるかもしれないが、一時的な効果をもたらすだけの間違ったダイエットをした人は、最終的に失敗に終わる可能性がある。

(2) 調査期間とダイエットのタイミング

いくつかの研究では、開始時点でのみ、「ダイエットの実施状況」が調査され、その数年後(例えば、2年、5年、10年後)のBMIの変化が調査されているが[20, 21,  26]開始時にダイエットをしている人は恒常性の観点から、その人の元々の体重(設定体重)より低い可能性がある

また、調査期間の途中でダイエットを開始(又は中止)したり、調査終了間際からダイエットを開始した場合、ダイエットと体重変化の因果関係を正しく読み取れない可能性がある。
        

(3)思春期はBMIも増える

BMIの増加は必ずしも体脂肪の増加を意味するものではない。思春期(中学~高校)は特に筋肉量も増えるので、ある程度 BMIが増加するのは不思議ではない。この年齢層の観察研究においては注意すべき事の1つである。
       


(4)交絡因子

交絡因子とは、ある要因と結果の関連性を調べようとする際に、その関係に影響を与えてしまう、別の要因のことです。

例えば、「飲酒」と「がん」の関連性を調べる際に、喫煙もがんのリスクを高めることが知られていますが、喫煙者は飲酒をしていることが多いため、「喫煙」が交絡因子となります。

ダイエットと肥満の因果を調査する場合、その他の交絡となりうる要因(*1)を考慮する必要がある。

(*1) 例えば、アルコール摂取、禁煙、身体活動の不足、カルシウムや微量栄養素の摂取不足、社会経済的地位、出産、睡眠不足などは、体重増加と関連付けられている。[21, 27]

交絡因子

<①~③を満たせば 交絡因子となる>

3.ダイエットと肥満増加の因果関係は?

私はこのブログ全体を通して、食事を抜いたりするようなカロリー制限ダイエットでは腸内飢餓が誘発され、体重が増加する(設定体重がアップする意味で)可能性があるということを説明してきました。ゆえに、ダイエットの増加と肥満の増加に関連があることは全く不思議ではない。

しかし今回は、私の考えは一旦脇に置いておいて、観察研究や臨床研究から読み取れる範囲でこの因果について考えてみたいと思います。

(1)まずは、「ダイエットは食べ過ぎ傾向の代理マーカーであり、ダイエットをしなければ人はさらに体重が増えるだろう」という主張についてである。
        

1節-(6) の思春期の青少年を対象とした10年の調査では、開始時 (Time 1) でダイエットを行っていたものの、5年後(Time 2)の時点でダイエットを中止した人と、継続した人の軌跡を調べることができた。研究者らは、ダイエットを中止した人の体重増加は、ダイエットを継続した人に比べはるかに少ないことから、「ダイエットをしなければ人はさらに体重が増える」という主張は支持していない[17]
      

(2)ダイエットと肥満に関するもう一つの考えは、「ダイエットをすると太るのではなく、遺伝的に肥満傾向にある人がダイエットをする可能性が高くなる」というものだ[6]。つまり、ダイエットは成功しないかもしれないが、太っていくのは遺伝的要因であるという考えだ。
          

これについても、思春期の青少年を対象とした10年の調査で、その主張とは異なる結果が出た。
開始時 (Time 1) で過体重 (25≦BMI<30) であったものの、Time 1Time 2の両方でダイエットや不健康な体重管理行動(食事を抜く、極少量しか食べない)を継続した女子は、10 年間の調査期間中にBMIが 5.19 単位増加したのに対し、ダイエットを全く行わなかった過体重の女子ではBMIの増加は 0.15 単位であった。つまり、ダイエットそれ自体が、体重増加に大きく影響している可能性がある[17]


また、フィンランドにおける双子研究では、5kg以上の意図的減量回数の異なる双子(一卵性、二卵性)の体重の変化が縦断的に調査された。意図的な減量(ダイエット)を頻繁に行うと、遺伝的要因とは無関係に、時間の経過とともに体重が増加する可能性があることが示唆された[16]
       

(3)なぜ思春期の青少年や正常体重の人で、ダイエットが体重増加のより強力な予測因子になっているか?についてです。

これまでの研究によると、多くの若者は、理想的な痩せ体型を求める社会的なプレッシャーのために、自分の体型やサイズを気にしています[28] 。また、正常体重(BMI<25)でありながらも、最近少しづつ体重が増えている人にとっては、ダイエットが「やせたいという願望ではなく、太ることへの恐怖」によって動機づけられていることを示している[29]

いくつかの研究で、思春期の青少年(特に女子)における不健康な体重管理行動(食事を抜く、極少量だけ食べる、食欲抑制剤/下剤の使用、嘔吐、無茶食い、偶発的な運動)が指摘されている[17, 30]


思春期の青少年における5年間の縦断的研究では、ダイエットは、無茶食いの増加(男女)、朝食摂取量の減少(男女)、果物・野菜摂取の減少(女性)、身体活動の減少(男性)と関連していた。つまり、青少年にとってダイエットは、不健康な食生活や活動行動のリスクをむしろ高め、長期的に体重管理に逆効果となる行動パターンを促す可能性が指摘されている[19]
           

(4)臨床研究、飢餓実験
    

実験的半飢餓と回復期を通して、正常体重の被験者の体重が過剰増加(オーバーシュート)することは、古典的なミネソタ飢餓実験(1945-46)や米国陸軍レンジャーの多重ストレス実験でも確認されている[31]

ミネソタ実験では、平均体重69.3キロの健康的な男性が6カ月の半飢餓食で体重の25%以上失ったが、制限付きリハビリ期間後の自由摂食期間には過食(食欲亢進)反応が続き、結果的に、彼らの体重は実験前よりも重くなった[32, 33]

近年では、米国陸軍レンジャー学校の若い男性においても、体重と体脂肪のオーバーシュートが報告されている。彼らは、8-9週間に及ぶ多重ストレス環境(エネルギー不足、睡眠不足など)での訓練で、体重の約12%を失ったが、回復期5週目には体重が開始前より5キロ増えた。これは主に脂肪量の大幅な増加による[34]
             

<この節のまとめ>

観察研究の結果は、「ダイエットは食べ過ぎ傾向の代理マーカーである」という主張を支持していない。

●いくつかの観察研究は、遺伝的要因とは無関係に、ダイエット自体がBMIの増加を予測することを示唆している。

●特に体重増加が懸念されるのは、青少年や正常体重の人における不健康なダイエット(過激なカロリー制限)である。一部の研究者は、不健康なダイエットは、長期的に体重管理に逆効果となる行動パターンを促す可能性が高いと指摘する。

●過酷なカロリー制限を課した長期的な臨床研究においても、制限解除後の体重のオーバーシュートが確認されている。

4.結 論 (私の考え)

すべてのダイエットが太る訳ではない。

自分にあった健康的な食事パターン(例:朝食で一日を始める、バランス良く食べる、精製炭水化物や超加工食品を減らす、野菜を増やす、運動する etc)を採用すれば、減量に成功し、減った体重を維持できる人もいる。

例えば、地中海式ダイエットに関する6件の前向きコホート研究を分析した系統的レビューでは、地中海式ダイエットの遵守は、過体重および肥満のリスク、並びに5年間の体重増加と逆相関していた[35]

野菜を調理する男女

出典:Freepik (Photo by Katemangostar)

しかし依然として、肥満予防または治療には「摂取カロリーを減らし、消費を増やす」という観点からのみ論じられることが多いため、多くの人が未だに低脂肪食を選択したり、朝食又は昼食を抜いたり、少しのファーストフードだけで長時間の空腹に耐えている。特に一部の若者は、太ることへの社会的プレッシャーや恐怖によって、過激なカロリー制限(食事を抜く、極少量しか食べない)に至るケースがあり、健康面や長期的な体重増加が懸念されている[17]。 


観察研究では因果関係を証明するのは難しいのですが、一部の人の実践する行動(食事制限)が、社会全体として体重増加に拍車をかけている可能性が高いと私は考えます。

        
進化論的観点から見ると「飢餓などのエネルギーが制限される期間には身体のエネルギー貯蔵量を守り、食料が過剰にある時には、エネルギー貯蔵量(体脂肪)を素早く補充する」のは理にかなっており[36]、美味しく消化の良い食品(精製炭水化物、[超]加工食品など)が豊富にある社会における極端な食事制限は逆効果になる場合があるのです。

  
これまでの研究によると、食事制限による減量は、最終的には、代謝・ホルモン・神経学的変化を伴う生物学的飢餓反応を引き起こすことが判明しており[37]、体重が減量前より増加する可能性を説明できるかも知れない。

    

次回は、私の腸内飢餓理論も含めて、減量後に体重増加を促す様々なメカニズムについてお伝えしたいと思います。
      

<参考文献>

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[5] Jacquet P et al. 「ダイエットによって太る人がいる理由:体組成の自己調節の観点から体重増加をモデル化する」. Int J Obes (Lond). 2020 Jun;44(6):1243-1253. 

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[12]Serdula MK et al. 「減量を試みる頻度と体重管理戦略」. JAMA. 1999 Oct 13;282(14):1353-8.

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[20]Viner RM, Cole TJ. 「思春期から成人期にかけて体重が変化する人は誰でしょうか?1970年英国出生コホート」. Int J Obes (Lond). 2006 Sep;30(9):1368-74. 

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[32] Keys A et al. (1950) The Biology of Human Starvation. Minnesota: University of Minnesota Press.

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[34]Nindl BC et al. 「長期間のエネルギー不足後の痩せた健康な男性の身体能力と代謝回復」 Int J Sports Med. 1997 Jul;18(5):317-24. 

[35]Lotfi K et al. 「地中海式ダイエットの遵守、5年間の体重変化、および過体重と肥満のリスク」 Adv Nutr. 2022 Feb 1;13(1):152-166. 

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2025.02.25

肥満の増加は、超加工食品の消費量と密接に関係している

要   約

1.2009年、サンパウロ大学の研究グループは、食品加工度に基づく「NOVA分類」を提唱した。
NOVAでは、食品を以下の4つに分類している。

・未加工または最小限の加工食品
・ 加工食品原料
・ 加工食品(PF)
・ 超加工食品(UPF)

   
2.超加工食品(UPF)は、多数の工業的プロセスを経て作られる調合物であり、精製炭水化物、添加糖、塩分、脂肪を多く含み、エネルギー密度が高い。一方で、食物繊維や微量栄養素は少ない傾向がある。

   
3.アメリカやイギリスでは、一日の総エネルギー摂取量の 50%以上をUPFが占めている。多くの研究では、エネルギー摂取量に占めるUPFの割合が高いほど、肥満リスクが高いことが示されている。一方で、野菜などの未加工食品の摂取量は、肥満と逆相関していた

   
4.UPF摂取量が多い人ほど、果物、野菜、ナッツ類、魚などの摂取量が少なく、食事全体の質(栄養価)が低下する傾向がみられた

   
5.加工食品の食事では、ホールフードの食事に比べて食事誘発性熱産生(DIT)が低下し、実質的なエネルギー獲得量が増加する可能性がある。また、UPFの食事では、自由摂取下でのエネルギー摂取量が増加しやすいことも示された。

   
<私の考え>
6.世界的な肥満の増加は、単なる摂取カロリーの増加だけでは説明しきれない可能性がある。
私は、「食品加工」そのものが人体に与える影響に着目している。

超加工食品は、食物繊維の減少や食品構造の単純化によって、極めて効率的に消化・吸収されやすくなっている。その結果、食事全体の質が低下すると、腸内に未消化物が残りにくい状態が形成されやすくなり、私が「腸内飢餓」と呼ぶ生理的状態につながる可能性がある

【全 文】

目次

  1. NOVAシステムによる食品分類
  2. 超加工食品の問題点
  3. 超加工食品の消費と肥満との関連
  4. 超加工食品が食事全体へ与える影響
  5. 超加工食品と腸内飢餓との関連

低炭水化物、ケトジェニック、パレオ、低脂肪、ビーガンなど、さまざまなダイエット法をめぐる論争は、国民に大きな混乱と栄養科学への不信をもたらしている。しかし、ほとんどのダイエット法に共通する推奨事項があることは、あまり知られていない。それは、「超加工食品を避ける」ことです[1]

実際、多くの国では、肥満率の上昇が超加工食品の消費量の増加とほぼ並行して進んでいることが報告されています。今回は、その背景にある要因について考えてみたい。最後に、私の「腸内飢餓」理論との関連についても触れます。

1. NOVAシステムによる食品分類

NOVA (頭文字ではない)とは、食品を栄養素ではなく、加工の程度や目的によって分類するシステムである。ブラジルのサンパウロ大学の研究グループによって、2009年に考案された[2]

従来の食品分類では、食品や材料は、植物や動物の種類、あるいは含まれる栄養素に基づいて分類されてきた。

そのため、全粒穀物が「朝食用シリアル」やクッキーと同じカテゴリーに分類されたり、新鮮な鶏肉や豚肉がチキンナゲットやソーセージと一緒に分類されることもある。しかし、健康への影響を評価するうえで、従来の分類には限界があった[3]

      
NOVA分類法では,食品を加工の性質、程度、目的に応じて、以下の4つのグループに分類しています。

生肉と加工肉

1. 未加工または最小限の加工食品

新鮮な果物や野菜、穀物、牛乳、魚、肉などの自然由来の食品。またはそれらに、食べられない部分の除去、乾燥、粉砕、殺菌、冷蔵、冷凍、真空包装などの最小限の加工を施した食品。

2. 加工食品原料

圧搾・精製・製粉・乾燥などの行程を経てグループ1の食品または自然から得られる物質で、油・バター・砂糖・塩などの加工食品原料。通常、これのみで食べることはない。

3. 加工食品
(PF)

基本的に、グループ1の食品にグループ2の物質を加えて作られる。瓶詰の野菜、シロップ漬けの果物、缶詰の魚、チーズ、手作りのパンなどが含まれる。

4. 超加工食品
  
(UPF)

多くの材料を組合わせ、複数の工業的プロセスを経て作られる調合物
例としては、朝食用シリアル、ソフトドリンクやフルーツジュース、甘味又は塩味のスナック菓子、チョコレート菓子、インスタント食品、ソーセージやナゲットなどの再構成肉製品、そして多くのファーストフードが挙げられる[3, 4]

(1)未加工または最小限の加工食品 

新鮮な果物や野菜、穀物、牛乳、魚、肉などの自然由来の食品。またはそれらに、食べられない部分の除去、乾燥、粉砕、殺菌、冷蔵、冷凍、真空包装などの最小限の加工を施した食品。

(2)加工食品原料 

圧搾・精製・製粉・乾燥などの行程を経てグループ1の食品または自然から得られる物質で、油・バター・砂糖・塩などの加工食品原料。通常、これのみで食べることはない。

(3)加工食品 (PF: Processed food)

基本的に、グループ1の食品にグループ2の物質を加えて作られる。瓶詰の野菜、シロップ漬けの果物、缶詰の魚、チーズ、手作りのパンなどが含まれる。

(4)超加工食品(UPF:Ultra-processed food)

多くの材料を組合わせ、複数の工業的プロセスを経て作られる調合物
例としては、朝食用シリアル、ソフトドリンクやフルーツジュース、甘味又は塩味のスナック菓子、チョコレート菓子、インスタント食品、ソーセージやナゲットなどの再構成肉製品、そして多くのファーストフードが挙げられる[3, 4]

2.超加工食品の問題点

そもそも食品加工とは、「生の食材を、消費・調理・保存に適した状態にするための操作」であり、ほとんどの食品は食べる前に何らかの加工を受けている。つまり、「加工」そのものが悪いわけではない。

しかし超加工食品 (UPF) は、グループ1の自然食品をほとんど、あるいは全く含まない場合がある。さらに、食品由来の物質や添加物を組合わせ、複数の工業的プロセスを経て作られる調合物であるため、部分的に食品の性質を変更した食品とは異なる特徴を持つ[3]

これらの食品は、精製穀物、添加糖、塩分、脂肪を多く含み、エネルギー密度が高い。一方で、食物繊維、タンパク質、微量栄養素の供給源としては貧弱である。

さらに、最終製品の望ましくない品質を補うために、香料、着色料、乳化剤、甘味料などの添加物が加えられることも多い[5]

      
それにもかかわらず、1980年代以降、超加工食品 (UPF) 消費量は、先進国だけでなく途上国においても急速に増加しており、それは主に多国籍企業によって牽引されている。

UPFは、強い嗜好性を持ち、安価で保存性が高く、いつでも手軽に食べられるため、多くの人々の支持を得ていると言えるであろう[3]

(超) 加工食品

これまでのNOVAに基づく研究では、最小限に加工された食品や家庭での調理が減少し、食生活が超加工食品中心へ移行することは、不健康な栄養プロファイルや、いくつかの食事関連疾患の増加と関連していることが示されている[3]

3.超加工食品の消費と肥満との関連

「総エネルギー摂取量に占める超加工食品 (UPF) 由来のエネルギーの割合」を報告した成人を対象とした研究では、アメリカやイギリスで 50%を超えており、カナダでも約 45~52%に達している。一方、フランス、スペイン、ブラジル、マレーシアなどでは比較的低いものの、それでも 20~36% 程度を占めていた[6]

  
♦アメリカの成人を対象とした横断研究(2005~2014年)では、参加者は平均して総エネルギー摂取量の 56.1% をUPFの形で摂取していた。UPF摂取量が最も多い五分位(注1)のグループでは、UPFが総エネルギー摂取量の 84.5%を占めていたのに対し、最も少ない五分位のグループでは 25.4%であった[7]

注1)五分位とは、データを低い順に並べて5等分した各グループを指す。

UPF摂取量の増加は、多くの国で肥満率の上昇と関連していることが報告されている。

   
♦ブラジルの 2008~2009 年の家計調査に基づく横断研究では、UPFの家庭内消費量は、平均BMIおよび肥満の有病率の両方と正の相関を示した。UPF消費量が最も多いグループでは、最も少ないグループに比べて、肥満となる確率が 37% 高かった[9]

  
♦イギリスの国民食事栄養調査(2008~2016年)を用いた横断研究では、UPFから摂取されるエネルギーの割合は、総摂取カロリーの約 35%(第1四分位)から約 74%(第4四分位)の範囲であった。

UPFの摂取量が多いほど、BMI、腹囲、肥満率は高く、総摂取カロリーに占めるUPFの割合が 10% 高くなるごとに、肥満リスクは 18%増加していた。また、UPFの摂取量は、男性、喫煙者、より若い人、社会階級の低いグループで高い傾向がみられた[10]

  
♦スペインのナバラ大学卒業生を対象にした前向きコホート研究では、8,451人を約9年間追跡した。

UPF摂取量が最も多いグループの参加者は、最も少ないグループの参加者に比べて過体重または肥満を発症するリスクが 26% 高かった。このグループでは、UPF摂取量とは対照的に、平均して野菜の摂取量が最も低かった。
全体的にみて、UPFの摂取量が多いほど、地中海式ダイエットへの遵守度は低くなる傾向がみられた[11]

   
同様の関連は、ラテンアメリカ15カ国を対象とした研究や、アメリカ・カナダを含む他国の研究でも報告されている[4,7,8]

4. 超加工食品が食事全体へ与える影響


(1)食事全体の質の低下

♦アメリカの研究グループは、国民健康栄養調査(2015~2018年)のデータを用いて、UPF摂取量と「食事全体の質」との関連を調査した。対象は、5,919人の子供と 10,064人の成人であり、食事の質は、米国心臓協会(AHA)食事スコアおよび健康的な食事指数(HEI)-2015を用いて評価された[12]

その結果、UPFの摂取量が多いほど、食事全体の質は大きく低下していた。
不健康な食生活を送っていると推定された子供の割合は、UPF摂取量が最も少ないグループでは 31.3%だったが、最も多いグループでは 71.6%に達していた。成人でも同様の傾向がみられた。

バランスの悪い食事

また、UPF摂取量の増加に伴い、精製穀物・加糖飲料・添加糖などの摂取量は増加したが、逆に、果物・野菜・ナッツ類・魚などの健康的な食品の摂取量は減少した。

     
研究グループは、UPFの摂取量が多いほど、子供と成人の食事全体の質(栄養価)が大きく低下すると結論づけている。この結果は、これまでの数カ国で実施された先行研究と一致しているという[12]

♦イタリアの研究グループは、「食事のタイミング」と食品加工度との関連について調査した。イタリア栄養健康調査(2010~2013年)の 8,688人のデータを分析した結果、朝食・昼食・夕食の時間が遅い人ほど、未加工または加工度の低い食品の摂取量が少なく、加工食品やUPFの摂取量が多い傾向がみられた[13]

    
さらに、遅い時間の食事は、地中海式ダイエットの遵守とも逆相関していた[13]
。地中海式ダイエットは、主に果物・野菜・豆類・ナッツ・オリーブオイル・魚を中心とする食事パターンであり、体重増加の抑制との関連が報告されている[14]


(2)実質的な摂取エネルギーの増加

アメリカの研究グループは、加工食品(PF)とホールフード(WF)が身体のエネルギー消費に与える影響を比較するため、クロスオーバー試験を実施した。18名の被験者は、加工度のみが異なる等カロリーの2種類のサンドイッチを摂取した。

WF食は、マルチグレインパン(全粒穀物やヒマワリの種を含む)とチェダーチーズで構成され、一方 PF食は、白パンとプロセスチーズ製品で構成されていた。

その結果、PF食を摂取した後の食事誘発性熱産生(DIT)(注2) は、WF食と比べて 46.8%低下していた。研究グループは、このDITの差によって、PF食では実質的なエネルギー獲得量が約 9.7%増加すると結論づけている[15]

注2)食事誘発性熱産生(DIT)とは、食後に消化・吸収・代謝のため、数時間にわたってエネルギー消費が増加する現象を指す。

研究グループは、その理由として、加工食品は自然食品よりも構造的・化学的に単純で、消化しやすいことを挙げている。

例えば穀物の精製では、ふすまや胚芽が除去されることで、微量栄養素、食物繊維、フェノール類なども失われる。

その結果、消化管の活動や代謝に必要なエネルギー消費が減少し、DITの低下につながる可能性がある[15,17]

さらに、食物繊維の減少は食事量の「かさ」を減らし、満腹感を遅らせるため、結果として総摂取カロリーの増加につながる可能性も指摘されている[15,18]

玄米とぬか層


(3)自由エネルギー摂取量に与える影響

2019年、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究グループは、超加工食品(UPF)が自由摂取下でのエネルギー摂取量に与える影響を調べるため、体重が安定している成人20名を対象とした無作為化比較試験を実施した[19]

被験者はNIH臨床センターで、UPFの食事と未加工食品の食事を、それぞれ2週間ずつ摂取した。両食事は、カロリー、エネルギー密度、主要栄養素などが可能な限り一致するよう設計され、被験者には「好きなだけ食べてよい」と指示された。 

    
その結果、UPFの食事期間中には、未加工食品の期間中と比べて、一日あたりのエネルギー摂取量が平均 459 kcal増加し、体重はベースラインから平均 0.9 kg増加した。一方、未加工食品の期間中には、平均 0.9 kgの体重減少がみられた[19,20]

特筆すべきは、超加工食品を摂取した際の摂取速度が、未加工食品の場合と比べて有意に高かったことである。

さらに、未加工食品の摂取中には、食欲抑制ホルモンであるPYYが増加し、空腹ホルモンであるグレリンが低下していた。

研究グループは、超加工食品の口腔感覚特性(例えば、噛みやすさ、飲み込みやすさ)が、摂食速度の増加と満腹シグナルの遅延につながり、結果として、エネルギー摂取量の増加につながった可能性があると分析している[19,20]

5. 超加工食品と腸内飢餓との関連

これまで、世界的な肥満の増加は、摂取カロリーの相対的な増加によって説明されることが多かった。実際、超加工食品(UPF)には、その考えを支持する特徴が多くみられる。

・エネルギー密度が高いこと
・高い嗜好性と食べやすさ
・食事誘発性熱産生(DIT)の低下によって、実質的な獲得エネルギーが増加すること
・満腹感が遅れやすく、結果として自由摂取下でのエネルギー摂取量が増加しやすいこと

しかし同時に、NOVA研究によって、カロリー以外の側面も明らかになりつつある。

多くの国で実施された研究では、摂取カロリーに占めるUPFの割合が増えるほど、肥満リスクは大きく上昇することが示されている。しかし、この変化は単なる「摂取カロリーの増加」だけでは十分に説明できない

   
特に注目すべき点は、野菜などの未加工食品の摂取不足や、食事全体の質の低下、食事タイミングの乱れが、いずれもUPF摂取量の増加と関連していたことである。

つまり、問題はUPFの摂取そのものだけではなく、それによって未加工食品の摂取が減少し、食事全体のバランスが崩れることにある可能性がある

Fast foods

効率性が重視される現代の食環境では、精製炭水化物や超加工食品(UPF)など、調理済みで食べやすい食品を摂取する機会が増えている。これらの食品は、柔らかく、咀嚼が少なくて済み、素早く食べれるという特徴を持つ。一方で、未加工食品または最小限の加工食品の摂取機会は減少している

その結果、食物繊維や消化されにくい成分が減少し、腸内に未消化物が残りにくい状態が形成されている可能性がある

「腸内飢餓」理論では、摂取した食物が腸管内で完全に消化されたときに、身体が「食物が存在しない状態」と認識する可能性を想定している。私は、1970年代以降の食品加工技術の発展と超加工食品の増加が、このような状態の発生に関与している可能性があると考えている。

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2024.10.04

重要性を増す体重の「設定値」理論:近年の肥満増加はどう説明できるのか?

要 約

(1) 体重の設定値モデル
1953年、ケネディは、体脂肪の蓄積が生理学的に調節されている可能性を提案した。その後1982年に、栄養学者のウィリアム・ベネットとジョエル・グリンがこの概念を発展させ「設定値理論」を開発した。

  
(2) 体重恒常性
個人が体重を減らすと、身体はエネルギー消費量を予測以上に低下させるだけでなく、ホルモン調節を通じて食欲を増加させ、食べ物の好みにも変化を生じさせる。その結果、体重がリバウンドしやすい状態が形成される。
一方、一時的な過食による体重増加でも、体重を設定値の範囲に戻そうとする代償機構が働くと考えられている。しかし、これらの機構は、体重減少に抵抗する機構ほど強力ではない可能性が指摘されている。

人の体重設定値は幼少期から青年期にかけて形成され、その後は比較的安定していると考えられているが、結婚・出産・移住などの環境変化によって変動する可能性も示唆されている。


現在、設定値理論は、体重が単純な意志やカロリー計算だけでは調節されないことを説明する重要な枠組みとなっている。

   
(3) 設定値モデルの限界
体重を一定範囲に保つはずの設定値モデルでは、1970年代以降に西洋諸国を中心として肥満が急増してきた背景を十分に説明できない。これに対し一部の研究者は、減量の維持に対する代謝的抵抗は強力である一方、持続的な脂肪の増加に対する代謝抵抗は生理学的に長続きしない可能性があると指摘する。

   
(4) 高エネルギー食仮説への疑問
動物実験では、高エネルギー食の長期摂取により不可逆的な体重増加が報告されている。しかし人間では、同じ高カロリー食を摂取していても肥満にならない人が存在し、社会階層・環境変化に関連する体重増加などの現象とも単純には一致しない。

   
(5) 腸内飢餓という新たな視点
近年の肥満増加は、単なるエネルギー過剰では十分に説明できない。
体重の設定値上昇を反映する不可逆的な体重増加は、むしろ身体が「食べ物が不足している」と認識することを契機として引き起こされる可能性がある。

1970年代以降、食品の(超)加工が進み、食環境が大きく変化する中で、摂取した食物が腸管内で完全に消化されたと身体が認識する生理的状態、つまり「腸内飢餓」が生じやすくなっている

【全 文】

目次

  1. 「設定値」理論への理解の進展
  2. 設定値モデルにおける問題点
  3. 体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因

私は、人には体重を一定の範囲内に保とうとする恒常性システムが存在すると考えており、その観点から、体重の「設定値」理論は重要な意味を持つと思っています。

本稿では、近年あらためて注目されている設定値理論の背景と課題について述べます。設定値の上昇に関与しうる環境的・行動的要因を理解することが、肥満問題に対処する上で重要だと考えています。

1.「設定値」理論への理解の進展

<肥満と減量の試み>

♦肥満者が、「痩せている友人の方が、太っている人よりも常に多く食べている」と主張するのは、真実かもしれないということである。(略)

肥満患者の中で私たちの理解を大いに必要としているのは、1日 1,000 kcal 程度のカロリー摂取を守っているにもかかわらず、減量が1週間に1kg にも満たない人たちである。このような人々が存在することは疑いなく、メタボリック病棟で、「ごまかし」が事実上不可能な条件下で、気付かれずに研究することができる。

通常、このような人は、おそらく 40 kg 太っていて、すでに 20 kg ほど減量している中年女性である。彼らはしばしば抑うつ状態で、低体温であり、代謝率が低い。低カロリー食に対するこの代謝適応の性質はわかっていない(1973年当時)が、1920 年代以前から知られている現象である (J S Garrow, 1973) [1]。


♦肥満者にとって、さまざまな治療法で一定の減量は可能ですが、減量した体重を長期的に維持することははるかに困難であり、ほとんどのケースで体重が元に戻ってしまうと言われる[2]。29の長期減量研究のメタ分析では、減量した体重の半分以上が2年以内に元に戻り、5年後には減量した体重の 80 % 以上が元に戻りました[3,4]

さらに、持続的な減量に成功した人の研究では、体脂肪を減らした状態を維持するには、おそらく生涯にわたってエネルギーの摂取と消費に細心の注意を払う必要があることが示されています[5]

<肥満者のエネルギー消費量>

♦1930年までに、体表面積のより正確な計算により、肥満者の代謝率が正常であることが示され、代謝低下説は好まれなくなった[6]

♦1日のエネルギー消費 (TEE) には、食物の熱効果 (DIT)、身体活動消費 (PAEE)、安静時エネルギー消費 (REE)の3つの要素があるが、平均体重 100 kgと 70 kgの男性のエネルギー消費を比較したモデルケースでは、100 kg の男性の方が一日のエネルギー消費量 (TEE) は高くなる[7]

消費エネルギー比較図

(平均体重100kgと70kgの男性のエネルギー消費量)

一般に信じられていることとは逆に、肥満の人は一般的に、痩せた被験者と比較して絶対的な安静時エネルギー消費(REE)が高いです。それは、肥満では体脂肪とともに代謝が活発な除脂肪質量が増加するためです[7,8]

身体活動消費(PAEE)は、「自発的な運動」と「日常生活の活動」に分けられる。PAEEは体重に比例するため、肥満の人は一般的に身体活動が少ないにもかかわらず、身体活動にかかる毎日のエネルギーコストは肥満でない人と同程度であることが多い[7,9]。また、肥満の人は食物摂取量が多くなる傾向があり、食べ物の熱効果(DIT)も高くなります[7]

<エネルギー消費の動的変化>

♦肥満の予防は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスを取らなければならないという単純な帳簿管理の問題であると誤って説明されることが多い[10]

このモデルでは、エネルギーの摂取量と消費量は行動によってのみ決まる独立したパラメータと考えられており、肥満者は単に、食べる量を減らして運動量を増やすだけで、累積食事カロリーの不足 7,200 kcalごとに1kg の割合で着実に体重を減らすことができると考えられている[7,11]これは減量の静的モデル (static model) と呼ばれるが、生理学的に不可能であることが分かっています[7,12]

減量の静的モデル

(減量の静的モデル)

(3,500 kcalルールは、単純すぎると認識されているにもかかわらず、科学文献に登場し続けており、2013年時点で 35,000 を超える減量教育ウェブサイトで引用されています。)[12,13]


♦現在では、エネルギー摂取量と消費量は相互に依存する変数であり、お互いに、また増減する体重によって恒常性シグナルの影響を受けることがわかっています[7,14]

食事や運動によってエネルギーバランスを変えようとする試みは、体重減少に抵抗する生理学的適応によって阻止されるのです[7]

<体重の設定値理論>

♦近年では、恒常性制御の影響が認識され、体はエネルギーバランスを操作する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持するという証拠が増えつつある[12]

          
1953年、ケネディーは体脂肪の蓄積が規制されることを提案しました[15]。1982 年、栄養学者のウィリアム ベネットとジョエル グリンは、ケネディの概念を拡張して設定値理論を開発しました[16]。このモデルは広く採用され、1990年代のレプチンの発見以降強化された[7,12]

個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を減らし、ホルモンの調節を通じて食欲の増加を引き起こし、行動の変化を通じて食べ物の好みを変え、体重を設定値の範囲に戻します[7,16]

減量の設定値モデル

(減量の設定値モデル)

♦減量研究では、体内の脂肪蓄積量は中枢神経系を介したメカニズムによって保護されており、脂肪組織、消化管、内分泌組織からの信号を介してエネルギー摂取量(EI)と消費量(EE)を調整し、恒常性を維持し、体重の変化に抵抗することが示されています(設定値モデル)[12,17]


♦エネルギー危機の際にエネルギー貯蔵量を維持しようとする身体の保護代謝メカニズムは、適応性熱産生 (AT)または代謝適応 として知られています[7,12]

ATは、体組成の変化とは無関係に、摂食不足に関連する安静時エネルギー消費量(REE)の低下として定義されます[12]

♦痩せ型または肥満型の個人が体重を 10 % 以上減らし続けると、24 時間エネルギー消費量が約 20~25 % 減少します。この減少幅は、脂肪と除脂肪量の変化のみに基づいて予測される減少量より 10~15 % 大きい値です[17,18]

肥満の個人も、食事療法による減食に対してこのような代償的な代謝的調整を示すことから、肥満は一部の人にとって自然な生理学的状態であると考えられる可能性があります。肥満動物の実験研究でも同様に、肥満を、高い設定値での体内エネルギー調節の状態と見なす見方を示唆しています[19]


♦体重を減らした元肥満の被験者と、BMI が一致する肥満ではなかった被験者を比較して 適応性熱産生(AT) を調査した横断研究のメタ分析では、肥満経験のある被験者は肥満経験のない対照群と比較して安静時エネルギー消費量(REE)が 3~5 % 低いことが報告されている[20]

つまり、肥満の女性が 100 kg から 70 kg に体重を落とした場合、体重がずっと一定だった 70 kgの女性よりも、70 kgを維持するために必要なエネルギーが少なくて済むことを意味する[6]。肥満のラットと正常体重のラットによる動物実験においても同様の結果が示されている。

このことから、肥満の人が、「痩せた仲間と同じかそれ以下しか食べていないのに体重は減らない」という頻繁な主張には、通常認められている以上の信憑性が与えられるべきです[19]

♦一方、1960年代にバーモント州でイーサン・シムズ教授が囚人に対して行った過食実験で示されたように、一時的な過食による体重増加も、体重を設定値の範囲に戻すような代償機構を誘発します。

しかし一部の研究者は、これらは体重減少に抵抗する機構よりも弱い可能性があると指摘する。この非対称性は、食糧不足や飢餓の期間中に生き残るために脂肪を蓄えるという進化上の利点によるものである可能性があります[16,17]


♦また、実験的な半飢餓および短期的な摂食不足の後に過食症が実証されており、これはおそらく体脂肪と除脂肪組織の両方の喪失から生じる恒常性シグナルの結果です[7,21]

ダイエット後の過食

♦この理論はまた、人の体重設定値は人生の早い段階で確立され、特定の条件によって変更されない限り比較的安定したままであることを示唆しています。ただし、結婚、出産、閉経、加齢、病気などの要因により、生涯を通じて設定値が変化する可能性があります[16]

その一方、設定値理論は、設定点制御に関与する分子メカニズムが完全に解明されていないため、依然として仮説のままであり、一部の研究者はこの理論が単純すぎると考える可能性があります[16]

2.設定値モデルにおける問題点

一方で、体重の設定値モデルには限界があると指摘する研究者もいます。

体重を一定の範囲内に保つ恒常性システムが存在するのであれば、なぜ西洋諸国の多くの人が人生の大半で徐々に体重を増やし続けるのか、という疑問が生じます。 特に、このモデルでは、1970年代頃から世界の多くの社会で観察されてきた肥満の増加傾向を十分に説明できていません[22]

これに対し一部の研究者は、減量の維持に対する代謝的抵抗は強力である一方、持続的な脂肪の増加に対する代謝抵抗は生理学的に長続きしない可能性があると指摘する。実際、肥満の有病率が着実に増えていることからも、体が「痩せること」よりも「太ること」を生理的に許容しやすいことを示唆しています[17,23]

ラットを用いた動物実験では、高脂肪食を与えた初期(3~4週間)には、エネルギー消費量の増加や交感神経系(SNS)の活性化が認められるものの、高脂肪食を数か月間継続すると、これらの反応は次第に明らかでなくなることが報告されています[17,24]

さらに別のラット研究では、ポテトチップスやチーズクラッカーなどの嗜好性の高い高エネルギー食を長期に摂取させた結果、設定値の上昇を示唆する不可逆的な体重増加が生じたと報告されています[19,25]

ラット食事誘発性肥満

このような「高カロリー食品の継続的な摂取によって、体重の設定値が上昇する」という説明は、初めは妥当のようにも思われます。しかし、一つの外的要因によって体重が一方向に変化していくのであれば、これはもはや「設定値」と呼ぶべきものではない。

さらに、この仮説を人間に当てはめると、同じように高カロリーな食品を頻繁に摂取しているにもかかわらず、肥満にならない人が存在するという事実とも整合しません。実際、以下のような矛盾が指摘できます。

        
(1) 西洋諸国の低所得層や、発展途上国における比較的裕福な層で、肥満が頻繁に認められること[22,27,28]

(2) 1950年代以降、貧困層において低栄養と肥満が同時に存在する現象が世界各地で観察されていること[29]

(3) 大学進学、結婚、出産、あるいはアジアから欧米への移住など、環境の変化を契機として体重が増加する人が少なくないこと[22]

      

私は、体重の設定値が上昇する背景には、腸内飢餓による適応反応が関与していると考えています。
次のセクションでは、この点についてより具体的に説明します。

3.体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因

現在、多くの国際機関は肥満を慢性疾患として位置づけている。

体重の設定値理論に関心を持つ一部の研究者は、慢性疾患としての肥満が治癒可能かどうかは、遺伝要因と環境要因がどの様に組み合わさって設定値が調整されるのかを理解することが不可欠であると指摘しています。一方で、多くの重要な環境的・社会的影響を十分に説明できていないのも事実です[22]

本稿では、こうした課題を補完する視点として、「腸内飢餓」の概念を提示します。
以下では、その要点を4つに分けて述べます。

(1)プラスのエネルギーバランス仮説の限界 

一般的に、体重増加にはプラスのエネルギーバランスが必要であると考えられているため、高カロリー食品の増加や身体活動量の低下が近年の肥満の蔓延を招いたと説明される。しかし逆説的に、肥満の増加が減量を目的としたダイエットの増加と並行して起こっているという事実は[30]、私たちのエネルギーバランスに対する考え方に再考の余地があることを示唆しています[12]

私が強調したいのは、過食による一時的な体重増加は「エネルギー過剰」で説明できる一方、長期的かつ不可逆的な体重増加は、むしろ、エネルギーの枯渇や「食べ物が不足している」という身体の認識を契機として引き起こされる可能性があるという点です。これは、実験的飢餓や減量ダイエットの後に体重が以前より増加する現象とも共通しています。

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(2)食品加工がもたらした消化・吸収の変化 

1970年代以降、高カロリー食品が増えたことは確かですが、それ以上に身体に大きな影響を及ぼしている可能性があるのが、食品の(超)加工です。食品加工の進展により、固く消化されにくい部分は取り除かれ、柔らかく消化の良い部分が中心となりました。その結果、消化・吸収速度や腸内環境に大きな変化が生じていると考えられます。

腸内飢餓は、精製炭水化物や(超)加工食品の頻繁な摂取と関係しており、肥満が1970年代以降に増加してきた背景や、先進国に限らず発展途上の一部地域でも頻繁に生じうる理由を説明しうる

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(3)腸内飢餓という多因子モデル

腸内飢餓は、4つの要因が同時に重なったときに生じやすくなる生理状態である。この概念は、肥満を遺伝要因と環境要因の相互作用によって生じる慢性疾患として理解するための枠組みを提供します。

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(4)肥満状態で、なぜ身体が減量に抵抗するのか?

腸内飢餓を通じて起こりうる、設定値上昇を示唆する体重増加では、栄養全体の吸収効率が高まると考えられます。つまり、エネルギー恒常性の観点から、摂取と消費が釣り合うポイントそのものが高い水準へ移行することを示唆します。これは、十分な体脂肪を有する肥満者であっても、カロリー制限に対して代謝的な代償反応を示すことを説明できる可能性がある。

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▽前節で紹介したラットの動物実験では、90日間にわたる高エネルギー食の摂取によって、設定値の上昇を示唆する不可逆的な体重増加が生じたと報告されています(Rollsら,1980)。しかし、この実験で用いられた「太らせる餌」は、ポテトチップス、チーズクラッカー、クッキーなど、市販の嗜好性の高い食品が中心でした[25]
これらは同時に、高度に精製された炭水化物や(超)加工食品でもあります。

一方、対照群に与えられた固形飼料は、挽き割り穀物・大豆ミール・魚粉などで構成されており、食物繊維や植物の硬い細胞壁といった消化されにくい成分が多く含まれていた可能性があります。これは、50年以上前の人間の食事構成とも類似しています。

したがって、この結果をもって「継続的な高エネルギー食の摂取が、設定値の上昇を示唆する体重増加を引き起こした」と結論づけるには、慎重な解釈が必要であると私は考えています。
           

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[25] Rolls B.J., Rowe E.A., Turner R.C. 「高エネルギー混合食摂取後のラットの持続的肥満」. J. Physiol. (London), 298 (1980), pp. 415-427

[26](削除)

[27] Dykes J et al.「女性の体格と肥満における社会経済的勾配」. International Journal of Obesity 2004 Feb,:262-68.

[28] Poskitt EM. 「移行期にある国々:低体重から肥満へノンストップ」. Ann Trop Paediatr. 2009 Mar;29(1):1-11.

[29] Gary Taubes. 「ヒトはなぜ太るのか?」.メディカルトリビューン. 2013. Pages 22-40.

[30]Montani JP, Schutz Y, Dulloo AG. 「ダイエットとウェイトサイクリングは心臓代謝疾患の危険因子である」.Obes Rev. 2015 Feb;16 Suppl 1:7-18.

  

2024.06.16

過食実験は、「過食」が肥満の原因でないことを示唆する

目次

  1. 過食実験で、人を太らすことはできるのか?
  2. それ以降の過食実験
  3. 代謝で、この体重の戻りは説明できるのか?
  4. 肥満と過食実験の違い(私の考え)

1.過食実験で、人を太らすことはできるのか?

ジョージ・A・ブレイ氏(2020年現在、ペニングトン生物医学研究センターの名誉教授)によると、1960年代まで、肥満は「意思力の欠如」とみなされ、多くの人もそう思った。中には「(肥満)患者がテーブルから離れさえすれば、この問題はなくなるだろう」という者もいたという。

そんな中で、肥満が真の学術的関心領域として受け入れられるようになったきっかけは、過食に関する研究であったと、ブレイ氏は振り返る。過食の研究は肥満の生物学に関する貴重な洞察を提供し始めていたのだ。当時、ボストンのニューイングランド医療センター病院で博士研究員であったブレイ氏にとって、バーモント州での過食研究が1968年に初めて発表された時の興奮は忘れがたいものとなった[1]


■1960年代後半にイーサン・シムズ教授が行った過食実験がそれにあたる。それまで「食べ過ぎれば肥満になるのは当たり前だ」と思われていたため、このような実験が行われることはあまりなかった。

The Obesity Codeの著者、ジェイソン・ファン氏によると、シムズ教授は近くのバーモント大学の痩せた学生を集め、沢山食べて体重を増やすように指示したが、予想に反して学生達は太らなかった。

教授は「学生が運動量を増やしたのではないか?」と考え、今度は刑務所の囚人達を被験者に選んだ。受刑者らは運動を制限され、毎日 4,000 kcalの食事を残さず食べているか厳しくチェックされた。

受刑者の体重は初めこそ増えたが、その後は増えなくなった。中には、元の体重の20%以上増えた者もいたが、体重の増加の仕方は人によって大きく異なっていたのだ[2]

集団での食事

この過剰摂取を200日間続けた結果、20人の囚人の体重は平均20~25ポンド(約10kg) 増えた。しかし実験が終了し摂取カロリーが通常に戻ると、ほとんどの被験者は増えた体重を維持するのが難しく、彼らの体重は比較的容易に元に戻った。例外は、体重を落とすのに苦労した2人の囚人だけだった[3]


ブレイ教授は当時、体重増加中に脂肪組織に生じる代謝の変化を調べるために、このシムズ教授の実験に共同研究者として参加していたのである。その後、1972年には自らがモルモットとなって、過食実験を行ったという。

初めは、毎食の量を2倍にしようとしたが食べきれず、途中からアイスクリームのようなエネルギー密度の高い食品に切り替えたのだ。

開始から10週間で体重は10キロ増えたが、終了すると体重は急速に減り、6週間後には元の75kgに戻り、それ以来何の問題もなく体重を維持しているという。

自己実験終了後の1972年の夏には4人のボランティアが同様に過食を始めたが、彼らも実験終了後には元のベースラインの体重に戻ったという。

過食実験

ブレイ氏は言う。
この標準体重への急速な戻りは、肥満のほとんどの人が苦労して減量し、減量した体重を維持しようとする時に経験する困難とは対照的であると

数年かけて肥満を発症する人の多くの人は、過食によって急激に体重が増えた私達とは異なる種類の苦痛に苦しんでいます。彼らににとって、肥満は「うっかり」起こり、一度そうなると元に戻すのは困難を伴う。

過食と減食の試験の歴史やその他の証拠は、肥満の治療が単に「食べる量を減らして運動を増やす」というアドバイスに頼るだけではダメであることを明確に示しているのだ[1]

2.それ以降の過食実験

アレックス・リーフ(ウエスタンステーツ大学) とホセ・アントニオ(ノーバー・サウスイースタン大学)は、2017年までに行われた過食実験で、体組成に与える影響を評価した研究をレビュー(再検証)した。

体重増加に加え、脂肪量 (FM) と除脂肪量 (FFM) の変化を報告した過食研究は25件あった。研究の期間は9日から100日であり、4件を除きすべて運動不足の集団で実施されたものである[4]。なお、それぞれの研究の目的は異なっており、実験終了後の体重の減少については、必ずしも言及されていない。


いくつか例をあげると、1990年に発表された一卵性双生児を対象とした研究がある。

■ブシャール (ラヴァル大学、カナダ)らは、運動習慣のない男性一卵性双生児12組(24名)を募集した。各参加者のエネルギー必要量は2週間のベースライン期間に計算され、その後 100 日間にわたり(週6日、合計で84日)、一日あたり1,000 kcal(蛋白質 15%、脂質 35%、炭水化物 50%) 過剰に摂取した。

双子男子

彼らはは大学寮の閉鎖されたセクションに収容され、 スタッフによって 24 時間監視されていました。

体重は平均 8.1 kg 増加したが、そのうち67%が脂肪量 (FM) であった。また、体重の増加の仕方はバラつきが大きく、範囲は 4.3 ~ 13.3 kg であった[5]

実験終了から4カ月後、双子の体重は平均 61.7 kg となり、開始前のベースライン体重 60.4 kg と比較してわずか 1.3 kg 高かったが、ほぼ戻っていた[1]

【双子写真出典】:写真素材 freepik

■コンフォード(ミシガン大学)らは、健康で肥満ではない男性7人、女性2人を対象に試験を行った(2012年)。
参加者は2週間病院に入院し、その期間に1日 4,000 kcalの食事(蛋白質 15%、脂質 35%、炭水化物 50%) を摂取した。被験者のエネルギー必要量は、開始前1週間のベースライン期間中に決定された。参加者は3回の食事の他に4回の間食をした。体重は、平均 2.1 kg増加し、そのうち 67 %は脂肪(FM)であった[6]


このレビューの要約では、
炭水化物と脂質の両方を適度に多く、蛋白質を少なく(エネルギー摂取量の11~15%) した食事を運動不足の成人に摂取させると、主に体脂肪 (FM) が増加し、それは体重増加の 60~70 %を占めることが示された。また、体脂肪を除く体重 (FFM)の増加は、骨格筋組織ではなく体内の水分量の増加による可能性があるとしている。

それに対し、蛋白質を大幅に増やした食事では、摂取エネルギーが増加しても、体組成に好ましい変化が見られたとしている[4]

3.代謝で、この体重の戻りは説明できるのか?

なぜ被験者の体重は実験終了から数週間でに急速に元に戻ったのか?

ブレイ教授によると、このバーモント州での過食研究における印象的な発見の1つは、被験者が過食後に増えた体重を維持するために、体重増加前よりも単位面積あたり多くのエネルギーが必要になったことであるという。ブレイ氏が1970年にカリフォルニア大学に移った時、新しい研究室が稼働し始め、増加した体重を維持するために余分なエネルギーが必要になる理由に関する仮説についての調査が始まった[1]


■ライベル (ロックフェラー大学)らは、肥満 (BMI 28以上)の被験者 18 名と肥満経験のない被験者 23 名を対象に、通常の体重のときと、摂食不足で体重を10%以上減らした時、または摂食過剰で体重を 10%増やした時のエネルギー消費量の変化を調査した(1995年)。

体重を初期体重より10%以上低いレベルに維持すると、総エネルギー消費量が、体重1kg1日あたり、肥満者で8±5 kcal減少し、非肥満者では6±3 kcal減少した。

また体重を10%高いレベルに維持すると、総エネルギー消費量は、肥満者で8±4 kcal増加し、非肥満者で9±7 kcal増加した。

過食による代謝変化

この研究での結論として、体重の減少又は増加の維持はエネルギー消費の代償的変化と関連しており、これが通常とは異なる体重の維持に抵抗し、元の体重に戻すように機能しているのだと言う。これが、摂取カロリーを減らすことによる肥満治療の長期的な有効性が低い原因である可能性を指摘した[7]

4.肥満と過食実験の違い(私の考え)

ブレイ教授が言われるように、私も一時的なカロリーの過剰摂取による体重の増加は、根本的な肥満とは全く異なるメカニズムによるものだと思っています。代謝の代償的メカニズムが体重の変化に抵抗するのであれば、なぜ太る人は太っていくのでしょうか?

     
このブログを通して何度も言うように、
太っている人と痩せている人、両者の違いは体重の設定値の違いによって説明できると思っています。(体重の設定値を上昇させるのは腸内飢餓です。)

■例えば、普段から体重が60kgで安定している人が、一時的な過食を強いられ63kgになったとします。

それはグラスに例えると、グラスに97%ぐらい入っていた水が 100 %となり、さらに表面張力が働いてグラスの上端から水が盛り上がっているようなものだと思っています。

逆に、食事量を減らし体重を57kgに保つというのは、グラスの水が一時的に減り、水面がくぼむような状態であると思っています。つまり、どちらも設定体重は変化していません。

過食による体重増加

■それに対し、60kgの人が数年かけて徐々に太り、安定的に90kgを維持しているとすると、それは設定体重そのものが上昇したこと、つまりグラス自体が大きくなったことを意味します(エネルギーがより高いレベルで釣り合っている状態)。

設定体重のアップ

現在、私達は肥満を助長する「肥満誘発環境」に生きていると言われることもあるが、それは必ずしも高カロリーな食品や座りがちな生活を意味するものではない。一部の研究者も既に言及されている通り、カロリー計算にあまり意味がないことは明白です。摂取カロリーの増減は一時的な体重増加又は減少をもたらすだけです。


私の考える「肥満誘発環境」はむしろ、消化の良すぎる食べ物(精製炭水化物、ファーストフード、加工食品)や食事のバランス(野菜不足)などと関連しています。それらが、朝食抜き・遅い夕食などのいくつかの条件と重なれば「腸内飢餓」が引き起こされる可能性があるのです。

  
もちろん、研究者
なら「太る為には、以前よりもより多くのエネルギーが体内に取り込まれないといけない」と言うでしょう。なぜ腸内飢餓によって、エネルギーがより多く体内に摂り込まれ、人は太るのか?については、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】 腸の飢餓状態でなぜ太るのか?

  

<参考文献>
[1] Bray GA.「体重増加の苦痛:食べ過ぎの自己実験」. Am J Clin Nutr. 2020 Jan 1;111(1):17-20. 

[2]Fung J. The Obesity Code. Greystone books, 2016, P114-116.

[3] Chin Jou. 「肥満の生物学と遺伝学-1世紀にわたる研究」. N Engl J Med. 2014 May 15;370(20):1874-7.  

[4] Leaf A, Antonio J. 「過剰摂取が体組成に与える影響:主要栄養素組成の役割」. Int J Exerc Sci. 2017 Dec 1;10(8):1275-1296. 

[5] Bouchard C et al.「一卵性双生児の長期にわたる過食に対する反応」. N Engl J Med. 1990 May 24;322(21):1477-82. 

[6] Cornford AS et al. 「過食による全身インスリン抵抗性の急速な発達は、骨格筋のグルコースおよび脂質代謝の大きな変化を伴わない」. Appl Physiol Nutr Metab. 2013 May;38(5):512-9. 

[7] Leibel RL et al. 「体重の変化によるエネルギー消費量の変化」. N Engl J Med. 1995 Mar 9;332(10):621-8. 

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