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2024.06.16
過食実験から考える肥満:短期間の過食で増えた体重は維持されるのか?
要 約
1. 1960年代後半、シムズ教授らが行ったバーモント州での過食実験では、被験者の体重は約 200日で平均して約 9~11 kg 増加した。しかし、実験終了後に通常の食事へ戻すと、ほとんどの被験者の体重は元の水準に戻った。
2. この実験に共同研究者として参加していたブレイ教授は、1972年に自らを被験者とした過食実験を行い、10週間で約 10kg 体重を増やした。しかし、実験終了後には急速に減少し、約6週間で元の体重に戻った。
3. 1990年、双子12組を対象とした過食実験では、100日間で体重は平均 8.1 kg 増加し、そのうち約67%が体脂肪であった。一方、体重増加には大きな個人差がみられ、体重増加や体組成の変化には遺伝的要因が大きく関与することが示唆された。
4. 1995年、ライベルらは、通常の体重から10~20 %減量した場合と、過食によって10 %増量した場合のエネルギー消費量(EE)を調べた。その結果、通常より低い、あるいは高い体重を維持すると、それに抵抗するようにEEが変化し、体重を元の水準へ戻す方向に働く可能性が示された。
5. 体重や体組成の変化から予測される以上にEEが減少または増加する現象は、「代謝適応」と呼ばれる。減量時の代謝適応は比較的一貫して認められているが、過食時にも余分なエネルギーを散逸させる同様の代謝適応が存在するかについては、研究結果が一致していない。
考 察
6. 減量時にみられる代謝適応と、過食時のエネルギー消費の反応は、必ずしも対称的ではない可能性がある。
7. 数週間から数か月程度の過食実験は、数年かけて徐々に発症する肥満のメカニズムをそのまま再現したものではない。短期間の過食による体重増加と、長期的な肥満とは区別して考える必要があるのかもしれない。
8. 私は、この違いは「体重の設定値」という考え方を用いて説明できると考えている。
長期的に進行する肥満では、遺伝的・環境的要因によって体重の設定値そのものが上昇する一方、一時的な過食による体重増加では、設定値そのものは変化していないというモデルである。
【全 文】
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目次
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- 過食だけで、人は肥満になるのか?
- その後の過食研究
- 過食後の体重の戻りは代謝で説明できるのか?
- 考 察
1. 過食だけで、人は肥満になるのか?
1960年代まで、肥満は「食べ過ぎ」や「意思力の欠如」が主な原因と考えられ、肥満そのものを生物学的に研究する試みは限られていた。しかし、この考え方に大きな影響を与えたのが、1960年代後半にイーサン・シムズ教授らが行った過食実験である[1]。
シムズ教授らは、バーモント州立刑務所の受刑者を対象に、体重を約 15〜30% 増加させることを目標として、通常より多くのエネルギーを長期間摂取させた。
その結果、体重増加の程度や、目標に達するまでに必要な摂取エネルギー量には大きな個人差がみられた。
また、多くの被験者では自然に生じた肥満とよく似た内分泌・代謝変化が認められたが、これらの変化の多くは肥満の原因ではなく、その結果として生じる可能性が示唆された[2, 3]。

その後の報告では、この過食実験は約 200日間行われ、20人の被験者の体重は平均約 9〜11 kg増加した。しかし、実験終了後に摂取エネルギーを通常の水準へ戻すと、ほとんどの被験者は数週間から数か月のうちに体重が元の水準近くまで戻り、増加した体重を維持できたのはわずか2名だったと報告されている[2, 3]。
■ジョージ・ブレイ教授は、このシムズ教授の過食実験に共同研究者として参加していたが、彼自身も1972年に自らを被験者とした過食実験を行い、10週間で約10 kg体重を増やした。
しかし、実験終了後は急速に体重が減少し、約6週間で元の体重に戻った。その後に同様の過食実験を行った4名のボランティアも、最終的にはベースラインの体重へ戻ったという。
ブレイ教授は、このような増加した体重が元の水準へ戻る現象は、肥満の人が減量後の低い体重を維持することの難しさとは対照的であると述べている[1]。

これらの過食実験は、短期間の過食だけでは増えた体重を長期間維持することは容易ではないことを示した。さらに、肥満の発症や維持には単純なエネルギー摂取量だけでは説明できない生物学的要因が関与している可能性を示唆している [1]。
2. その後の過食研究
■1990年、ラヴァル大学の研究者らは、運動習慣のない男性一卵性双生児12組を対象に、過剰摂取の実験を行った。参加者の1日に必要なエネルギー量は実験開始前に測定され、その後 100日間(週6日、合計 84日)にわたり、1日あたり 1,000 kcalを余分に摂取させた。被験者は大学の寮で生活し、24時間スタッフの管理下で過ごした[4]。

(出典:Magnific)
その結果、体重は平均 8.1 kg増加し、そのうち約 67%は体脂肪であった。一方、体重増加には大きな個人差がみられ、その範囲は 4.3~13.3 kgであった。
この研究では、双子のペア内とペア間の違いを比較することで、同等のエネルギー過剰でも、体重や体組成の変化には遺伝的要因が大きく関与していることが示唆された[4]。
実験終了から4か月後には、双子の体重は、過食によって増加した約8kgのうち約7kgが減少し、ベースラインに近い水準まで戻っていた[5]。
■アレックス・リーフらは、2017年までに実施された過食研究のうち、体重と体組成の変化を報告した研究をレビューした。その結果、体重増加に加えて脂肪量(FM)と除脂肪量(FFM)の変化を報告した研究は25件あり、実験期間は9日から 100日であった。また、4件を除き、すべて運動習慣の少ない集団を対象としていた[6]。
なお、各研究の目的は異なるため、実験終了から数カ月後の体重変化については必ずしも報告されていない。
レビューでは、25件の過食研究を食事構成ごとに分類して要約している。
そのうち、炭水化物と脂質が多く、たんぱく質が比較的少ない(総エネルギー摂取量の11~15%)食事を用いた10件の研究では、主に体脂肪が増加し、それが体重増加の約 60~70 %を占めることが示された。また、運動をしていない状況では、除脂肪量の増加の多くは骨格筋ではなく、体内の水分量の増加による可能性があるとしている[6,7]。
一方、同程度のエネルギー余剰であっても、たんぱく質を多く含む食事では、体脂肪の増加は少なく、より好ましい体組成の変化が認められたとしている[6,8]。
3.過食後の体重の戻りは代謝で説明できるのか?
エネルギー消費量(EE)は、過食や体重増加に伴って増加します。これは、安静時エネルギー消費量、食事誘発性熱産生、活動エネルギーなどが増加するためである[9]。
さらに、体重や体組成の変化から予測される以上にEEが増加する現象は、「代謝適応」と呼ばれている[9,10]。
この概念は、古典的には、食物摂取量を増やしたにもかかわらず、体重が予想ほど増加しなかったという観察から生じたとされる。研究者らは、余分なエネルギーを散逸させるように働く、エネルギー消費の適応的な仕組みがあるのではないかと仮説を立てた[1,10]。
その後の研究では、エネルギー摂取量を厳密に管理し、エネルギー消費量(EE)のさまざまな構成要素をより詳細に調べることが可能になった[10]。ただし、過食に対する代謝適応がどの程度生じるかについては、研究結果が一致していない[11,12,13]。
■1995年、ライベルらは、肥満者18名と肥満経験のない23名を対象に、通常の体重から 10~20 %減量した場合と、過食によって 10%増量した場合のエネルギー消費量を調べた。
その結果、体重を通常より 10%以上低い水準に維持すると、1日の総エネルギー消費量は、除脂肪量1kgあたり約 6~8 kcal減少した。一方、体重を通常より 10%高い水準に維持すると、約 8~9 kcal増加した。この変化は、肥満者と肥満経験のない人の両方で同様に認められた[9]。
この研究では、通常より低い、あるいは高い体重を維持すると、それに抵抗するようにエネルギー消費量が変化し、体重を元の水準へ戻す方向に働く可能性があることが示された[9]。

■ヨハンセンらは、35名の若年成人(平均BMI 25.6 ± 2.3)を対象に、8週間にわたり基準となるエネルギー必要量より 40%多い食事を摂取させ、過食前後の睡眠時代謝率(SMR)や 24時間座位エネルギー消費量(座位 24h-EE)などを測定した。
その結果、体重は平均 7.5 kg(範囲 2.3~10.7 kg)増加し、その半分以上にあたる 4.2 kgが脂肪であった。過食によって、睡眠時代謝率(SMR)、座位 24h-EE、総エネルギー消費量はいずれも平均的に増加したが、その反応には大きな個人差がみられた[10]。

(著作及び出典:Magnific)
また、実験開始時に予測値より低いSMRを示した人ほど、実験終了から6か月後に過食によって増加した脂肪を多く保持していた。
一方、過食後に予測値より高い座位 24h-EEを示した人ほど、その後6か月間により多くの脂肪を減らしていた[10]。
研究者らは、過食に対するエネルギー消費の反応には大きな個人差があり、「倹約型」と「浪費型」と呼べる代謝的な特徴が[14,15]、過食後の体重や体脂肪の戻り方に関係している可能性を指摘している[10]。
4. 考 察
(1)過食に対する代謝適応
減量時には、想定される以上にエネルギー消費量が低下する「代謝適応」が比較的一貫して観察されている。一方、過食時にも、余分なエネルギーを散逸させる同様の代謝適応が存在するかについては、研究結果が一致していない[10]。
実際、過食による代謝適応がみられたとする研究がある一方[4,7,16]、エネルギー消費量の増加の多くは、体重や体組成の増加に伴う通常のエネルギー需要によって説明できるとする研究もある[12,13,17,18]。ヨハンセンらの研究では、過食に対する明確な代謝適応は全体として認められなかったが、その反応には大きな個人差がみられた[10]。
このことから、減量時にみられる代謝適応と、過食時のエネルギー消費の反応は、必ずしも対称的なものではない可能性がある。
(2)一時的な体重増加と、長期的な肥満
これまで見てきたように、過食に対する体重やエネルギー消費量の反応には大きな個人差がある。しかし、ほとんどの過食実験は数週間から数か月程度であり、数年かけて徐々に発症する肥満のメカニズムをそのまま再現したものではない。
私は、この違いは「体重の設定値」という考え方を用いることで説明できるのではないかと考えている。
例えば、普段 70 kgで安定している人が、一時的な過食によって 73 kgになった場合は、エネルギー摂取量の増加による変化と捉えることができる。
これをグラスの水に例えるなら、グラスの水が一杯になり、表面張力によってグラスの上端から盛り上がっている状態である(図1)。
逆に、食事量を減らして 65 kgに維持している状態は、水面が一時的に下がっている状態と考えることができる。
いずれの場合も、グラスそのものの大きさ、つまり体重の設定値は変化していないというモデルである。

(図1:体重の設定値に変化なし)
一方、70 kgで安定していた人が、数年かけて 80 kgで安定するようになった場合には、グラスそのものが大きくなった、つまり体重の設定値が上昇したと考えることができる(図2)。
このモデルでは、遺伝的・環境的要因によって、設定値そのものが長期的に変化したと捉える。
私は、この設定値の上昇には、身体が飢餓状態を認識した際に生じる適応的な生理反応が関与している可能性があると考えている。ただし、これは過食実験から直接示されたものではなく、本ブログで提案している仮説である。

(図2:体重の設定値が上昇)
最後に
これらの過食研究から分かるのは、過食によって体重を増加させることはできても、その増加した体重が必ずしもそのまま維持されるわけではないということである。短期間の過食による体重増加と、数年かけて発症する慢性疾患としての肥満とは、区別して考える必要があるのかもしれない。
ブレイ教授が指摘するように、こうした過食・減食研究の歴史は、肥満の予防や治療は単に「食べる量を減らし、運動を増やす」という従来のアドバイスだけでは十分でないことを示唆している[1]。
<参考文献>
[1]Bray GA. 「体重増加の苦痛:過食による自己実験」. Am J Clin Nutr. 2020 Jan 1;111(1):17-20.
[2]Sims EA et al. 「ヒトにおける実験的肥満」. Trans Assoc Am Physicians. 1968;81:153-70. PMID: 5721398.
[3]Sims EA et al. 「ヒトにおける実験的肥満の内分泌および代謝への影響」. Recent Prog Horm Res. 1973;29:457-96. doi: 10.1016/b978-0-12-571129-6.50016-6. PMID: 4750591.
[4]Bouchard C et al. 「一卵性双生児における長期的な過剰栄養摂取への反応」. N Engl J Med. 1990 May 24;322(21):1477-82.
[5] Bouchard C et al. 「一卵性双生児における過剰栄養:過剰栄養後5年間の結果」. Metabolism. 1996 Aug;45(8):1042-50.
[6]Leaf A, Antonio J. 「過剰摂取が体組成に及ぼす影響:主要栄養素組成の役割 ― 概説」. Int J Exerc Sci. 2017 Dec 1;10(8):1275-1296.
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[9]Leibel RL, Rosenbaum M, Hirsch J. 「体重の変化に伴うエネルギー消費量の変化」. N Engl J Med. 1995 Mar 9;332(10):621-8.
[10]Johannsen DL et al. 「8週間の過剰摂食後には代謝適応は観察されないが、エネルギー消費量の変動は体重回復と関連している」. Am J Clin Nutr. 2019 Oct 1;110(4):805-813.
[11]Westerterp, K. 「過剰摂取と栄養不足に対する代謝適応は、依然として議論の的となっているのか?」. Eur J Clin Nutr 67, 443–445 (2013).
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[13]Diaz EO et al. 「痩せ型および肥満型の健康な被験者における実験的過剰摂取に対する代謝反応」. Am J Clin Nutr. 1992 Oct;56(4):641-55.
[14]Reinhardt M et al. 「カロリー制限中の体重減少が少ないことに関連する、ヒトの倹約型表現型」. Diabetes. 2015 Aug;64(8):2859-67.
[15]Schlögl M et al. 「断食と過食に対するエネルギー消費反応は、体重変化に関連する表現型を特定する」. Diabetes. 2015 Nov;64(11):3680-9.
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[18]Roberts SB et al. 「過食した若い男性におけるエネルギー消費量とそれに続く栄養摂取量」. Am J Physiol. 1990 Sep;259(3 Pt 2):R461-9.

