— トピックス —
糖質(砂糖、炭水化物)

2024.01.28

減少する炭水化物摂取量、増える糖尿病(血糖異常)

<目次>

  1. 炭水化物・脂質・エネルギーの摂取量の推移(1955~2019)
  2. 私の考える血糖異常の増加の背景
    <まとめ>

以下の記事をまだお読みでない場合は、併せて、そちらもお読みください。

【元の記事はこちら】
低炭水化物(ロカボ)ダイエット:糖質を減らすことだけが重要ではない


この記事では、炭水化物(糖質)摂取と血糖異常などの発症リスクとの関係について、私なりにその原因・背景を考察してみたいと思います(肥満の問題については、この記事では言及しません。)

1.炭水化物・脂質・エネルギーの摂取量の推移(1955~2019)

まず、厚生労働省が実施している「国民健康・栄養調査」を基に、一人一日あたりの炭水化物・脂質・カロリー摂取量の推移を見てみると以下のようになります。
      

3大栄養素、カロリー摂取量推移

(国民健康・栄養調査より)

■炭水化物の摂取量は、戦後間もない1955年には 411 gで総摂取エネルギーの 78.1 %を占めていたが、それ以降減少し続け1995年には 228 g、2019年には 248 g(総摂取エネルギーの 52.1 %)になっています。

■戦後、経済が発展するにつれ、脂質摂取量は1972年の 50.1 gまで急激に増加したが、1975年頃からほぼ 55 g前後で推移し、2000年前後からは一旦減少傾向にあった。1975年以降の年次変動は余り大きいものではない

■一日の摂取エネルギーも1955年の 2,104 kcal から1971年の 2,287 kcal までは増加していますが、それ以降減少傾向にあり、2019年では、1,903 kcalとなっています。

   

それにもかかわらず、糖尿病患者、血糖異常者は増え続けているのです。

糖尿病患者[*1]は推計を始めた1997年の 690 万人から右肩上がりで推移し、2016年には1千万人に上った。
血糖異常などの糖尿病予備軍[*2]も含めると2016年で2千万人を超える(約6人に1人)。
(参考:「糖尿病ネットワーク」

[*1] HbA1c値が6.5%以上の「糖尿病が強く疑われる人」を含む。
[*2] HbA1c値が6.0%以上、6.5%未満で「糖尿病の可能性を否定できない」と判定される人。

2.私の考える血糖異常の増加の背景

以上のデータでお分かりの様に、日本における糖尿病患者・血糖異常者の増加は糖質摂取量やカロリー摂取量だけでは説明がつかない

ロカボダイエットの主導者である山田先生によると、日本人は欧米人に比べインスリンを分泌する能力が弱く、太っていなくても血糖異常になる人が多いとのことだが、私が考えるその他の要因は以下です。

(1)運動量の低下

多くの専門家も指摘されているように、PCやスマホ、ゲームなどの普及に伴い運動量が低下していることが一因として考えられる。(肥満に関しては、私の理論上では、運動量の低下は本質的な肥満の原因ではない。)


(2)統計上の問題

■国民健康栄養調査では、設定された単位区から層化無作為抽出によって(300の単位区内に在住する)約 6,000 世帯が選ばれるのだが、2019年の調査では協力世帯は 2,836 世帯の 5,900 人であったという。強制ではないため、男性・若者・独身者の集団で協力が少ない傾向にあると言われる[1]


■平均値に隠された上限・下限の大きな開き(ブレ)があるのかもしれま
せん。理想的なバランスの良い食事をする人々もいる一方で、食生活の乱れが目立つ人々もいます。糖質の摂取量においても、ダイエットで少なく食べている人がいる一方で、個別でみれば生活習慣病リスクが高い人は糖質を過剰に摂取していたり、又はインスタント食品・ファーストフード等に偏ったバランスの悪い食生活をしているのかも知れない。  


(3)食事の頻度、時間帯など

朝食

食事の量・質だけでなく、回数、時間帯、食べ順によっても吸収が左右される。

特に朝食抜きで1日2食の場合、昼食の糖質量が同じであっても吸収率が高まり、血糖値が急速に上がると言われている。
それに対
し、朝食(ファーストミール)で食物繊維が豊富な食品などをしっかり食べておけば、昼食後やそれ以降の食事(セカンドミール)の血糖値上昇にも影響を与え、低く抑えられるということが、「セカンドミール効果」として知られている(1982年にトロント大学のジェンキンス博士によって発表された)。


(4)食事バランス

■食事バランスが大事である。糖質以外の肉・魚類、油脂、乳製品、野菜(繊維質)を組合わせて食べることで、胃の滞留時間も長くなり、糖の吸収も穏やかになるので、同じ糖質量でも血糖値の急激な上昇を抑えることができるであろう。
多くの人が太りたくないがために、脂質を減らす傾向は、肥満だけでなく血糖値異常者の増加につながる可能性があるのです。


■1970年代以降、外食産業におけるチェーン店などの増加に伴い、すばやく食べれる食事(牛丼、カレー、ラーメン、うどん、ファーストフードなど)の摂取機会が増えた。そういう食事は野菜も少なく、大部分は炭水化物であり、血糖値を上げやすいのではないだろうか? 健康的に見えるザル蕎麦であっても、単品では血糖値が上がりやすいと山田先生も指摘されている(山田悟, 第5章, 「糖質制限の真実」,幻冬舎, 2015, P144)

おにぎり、パン

また、多くの日本人は炭水化物が好きである。「ラーメンと炒飯」の様に異なる炭水化物(米と小麦製品)をダブルを食べるセットメニューが多い。

量は少なくても、おにぎり1個とスナックパン(又はカップ麺)、の様な組合せでは血糖値が上がりやすい。

(5)炭水化物(糖質)の質

■農水省統計によると、米の1人当たりの年間消費量は、昭和37年度(1962)の 118 kgをピークに減少傾向となっており、令和2年度(2020)の消費量は半分以下の 50.8 kgにまで減少しています。また、1世帯当たりの年間支出金額の推移を見ると、平成26年(2014)以降はパンの支出金額が米の支出金額を上回っています。

米の消費量が近年激減するなかで、その代わりに菓子パン、スイーツ、キャンディー、ソフトドリンクなど血糖値を上げる糖質が増えているはずで、炭水化物摂取量というデータだけでは十分とは言えない(参考:日本ローカーボ食研究会

低GI食品

(GI値が比較的低い食品:玄米、全粒粉パンなど )

■そんな中で、糖質50 gを含む食品を摂取した後の血糖値・持続時間などによって数値化されたグリセミック・インデックス(GI)という指標は有益である。また、GI値に、対象の食品に含まれる炭水化物の割合をかけて算出されるグリセミック負荷(GL)という指標もある。

食後の血糖値の急激な上昇を抑える観点で、 GI・GL値の低い食品に着目することが重要です(注1)。パン、白米、麺類、スナック菓子、芋類などはGI値が高い食品と言われるが、玄米、全粒粉パン、豆類、ナッツなどはGI値が低い。

注1:砂糖のように急激に高い血糖値へ上昇するものの、速やかに下降するような食品はGI値では表現しきれないと言われている。)

食品に含まれるデンプンの中には、消化されずに大腸まで届くレジスタントスターチ(難消化性デンプン)と呼ばれるものがあることが分かっている。

例えば、米・芋類・パスタに含まれるデンプンは加熱されて糊化したあと、冷ますとその構造が変化し、一部がレジスタントスターチとなることがあります。(レジスタントスターチには腸内環境を整えるなど、その他の多くのメリットが発見されている。)

現在より保温ジャーが一般的でなかった 1970~80年頃までは、お米の消費量は今より多かったかもしれないが、お弁当などで「冷めたご飯」をたくさん食べていたのではないでしょうか?


■国立がん研究センターは、1990年代後半に「糖質の摂取量と2型糖尿病罹患との関連」を調べるため5年間の追跡調査(糖尿病や循環器疾患、がんの既往などのない45~75歳の約6万5千人の男女を対象)を行った。これによると、女性においては、単純糖質(砂糖、果糖など)やスターチの摂取量の多い人に糖尿病の罹患率が高かったことが判明した[2]


(6)調理の進化、加工食品など

■近年の調理技術の向上や加工食品が増えたことにより、肉・魚、野菜など含むすべての食品はソフトになり口の中でとろけるようになった。そのような食品はすばやく消化され、胃の滞留時間が短くなるため、糖質の吸収が早まる可能性があると私は考える。


■また多くの加工食品・お菓子などには人工甘味料が使用されている。人工甘味料自体は血糖値を上昇させないものの、習慣的な使用は、味覚や腸内細菌叢(フローラ)の変化を介し、糖代謝に悪影響を及ぼしている可能性を指摘する専門家もいる[3][4]。(参考:農畜産業振興機構「人工甘味料と糖代謝」

まとめ

(1)日本では、1955年の統計以降、炭水化物(糖質)摂取量は一貫して減少している。摂取カロリーも過去50年に渡り減少傾向にある。少なくとも日本では、近年の糖尿病患者・血糖異常者の増加は糖質やカロリーの摂取量だけでは説明できない。


(2)炭水化物(糖質)と一概に言っても、血糖値の上がり方は異なる。1970年前後からの急速な食の欧米化と共に、日本国内におけるお米の摂取量はピーク時(1962年)の半分以下に落ち込んでいる。その代わり、血糖値を上げやすい粉物(パン類・麺類・スナック菓子)、砂糖(スイーツやソフトドリンク)の摂取が増えていると考えられる。お米は粒であり、粉物などに比べ比較的消化の過程は緩やかであるはずだが、同じお米であっても、精米度合い、炊き方(水分)、冷まし方によって血糖値の上がり方が異なる。


(3)
食事のバランス(食材の組合せ)、食事の頻度、摂取の時間帯、食べ順などによっても血糖値の上がり方に違いがでる。
例えば、消化の良い炭水化物(高GI) に偏る食事、スイーツやソフトドリンクの頻繁な摂取、朝食抜き、早食いなどの食習慣は、一日の糖質摂取量は多くなくても、インスリン分泌の頻度をあげ、血糖値の上下動を激しくし、膵臓に負担をかけるのではないかと考えます。


(4)
血糖異常のリスクを低下させるためには、食品の糖質含有量だけでなく、GI値やGL値のように、血糖値の上がり方を意識した食事が大切ではないでしょうか?高GI食品や砂糖類の摂取量を減らし、低GI食品 (全粒穀物、「肉・魚などのタンパク質」、ナッツ、乳製品)、オイル、非でんぷん質の野菜など の摂取を増やし、食事全体としての血糖値上昇を抑えることが重要です。
一日3回規則正しく食べる、野菜などから先に食べる、冷めたご飯を食べる―ことでも血糖値の上がり方が緩やかになるということが知られています。


(5)個人的な意見としては、日本の伝統的なお米を主食とするバランスのとれた食事は、肥満・血糖異常のリスクを増加させるものではないと思っている。日本では四季折々の野菜や魚介、伝統的な発酵食品に恵まれているにも関わらず、近年は高GIな炭水化物や肉製品、インスタント食品などを好んで食べる人が増えていると感じる。

(肥満原因も含めた、包括的な低炭水化物ダイエットの効果については、以下の記事をご覧ください。)

【関連記事】低炭水化物(ロカボ)ダイエット:糖質を減らすことだけが重要ではない

     

[1] 日本肥満学会, 第4章「肥満症診療ガイドライン2022」,ライフサイエンス出版, 2022-12, P28.
[2] 金原理恵子、後藤淳 他,「前向きコホート研究における中年成人における砂糖およびデンプンの摂取量と2型糖尿病リスクとの関連性」
   
[3] Pepino MY, Bourne C. 
Non-nutritive sweeteners, energy balance, and glucose homeostasis. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2011 Jul;14(4):391-5. doi: 10.1097/MCO.0b013e3283468e7e. PMID: 21505330; PMCID: PMC3319034.
    
[4] Suez J, Korem T, et al., Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature 514, 181–186 (2014). https://doi.org/10.1038/nature13793

2024.01.28

低炭水化物 (ロカボ)ダイエット: 糖質を減らすことだけが重要ではない

目次

  1. ロカボって何?
  2. ロカボの効果(まとめ)
  3. 増加する糖尿病・血糖異常
  4. ダイエットの鍵はインスリンの制御なのか?
  5. 日本で広がる食事の偏り、質の低下
   <まとめ>

アメリカでは1990年代後半から、低炭水化物食のブームがあったと言われていますが、日本では、2015年前後から糖質制限(ロカボ)ダイエットが多くの人に受け入れられブームとなっています。日本では伝統的にお米の文化ですが、戦後は米食よりもパンや麺類を好む人が増え、西洋化の食事と共に肥満が増えてきていると、多くの人が感じているようです。

今回は、痩せるだけでなく、血糖値異常、その他の生活習慣病にも有効とされる、話題のロカボ・ダイエットについて説明したいと思います。


【 私のスタンス:肥満と血糖異常症の問題を分けて考えます。】

一般的に、糖質制限を推奨する専門家は、肥満の原因はカロリーの過剰摂取ではなく、血糖値を上昇させインスリン(注1)の分泌を促す炭水化物(糖質)であると考えているようだ(炭水化物-インスリンモデル

加えて、肥満が一因とされるインスリン抵抗又はインスリンの分泌能力低下などによって糖代謝異常となり、最終的に糖尿病などの生活習慣病が発症すると考えられている。

つまり、肥満の問題も血糖異常などの症状も同じインスリンを中心とした一連の流れとして考えられているのですが、私は肥満は炭水化物の異なるメカニズムが原因だと考えているので、分けて説明したいと思っています。

注1:食後に血糖値が上昇すると、それに反応して膵臓から分泌されるホルモンで、唯一、血糖値を下げる作用があります。余ったブドウ糖はグリコーゲンや中性脂肪に合成され蓄えられるが、その合成を促進するのもインスリンの働き。)

1.『ロカボ』って何?

『糖質制限の真実』(2015)より

日本では、「糖質制限ダイエット」という言葉が一般的には使われていましたが、「制限する」という言葉はどうしてもネガティブな印象を与えてしまいます。そういう訳で、これまでにない別の言葉を使う必要がありました。英語の Low carb から『ロカボ』という言葉をつくり、日本でも普及させたいと考えているのです。

ロカボとは、厳格ではなく "緩い” 糖質制限を意味します。糖質を1食あたり20~40グラムで3食、それとは別に1日10グラムまでのスイーツを食べて、1日の糖質摂取量をトータル70~130グラムにしましょう、というのが定義です。

少しづつ、多種のおかず

厳格な糖質制限と違うのは、最低でも70gの糖質を摂取することで、ケトン体が出てくるような極端な低糖質状態になることを避けていることです。

また厳格な糖質制限は食事の幅が狭まりますが、ロカボでは食べられるものの幅はぐんと広がるのです。炭水化物の摂取量(を減らすこと)さえ守れば、肉料理、魚料理、チーズや野菜など様々な料理を食べることができるのです。

(参考文献:山田悟,「糖質制限の真実 :日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて」, 幻冬舎, 2015, P.114)

2.ロカボの効果(まとめ)

日本での低炭水化物ダイエット推進の第一人者である、山田先生の考えをまとめると以下のようになります。

(1)食事によって血糖値が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌されるが、インスリンの分泌が過剰だと体重増加につながる可能性がある。日本人は欧米人に比べインスリンを分泌する能力が弱く、太っていなくても血糖異常になる人が多い。2型糖尿病を発症する人の半分以上は肥満 (BMI≧25)ではない。(P.33, 70)


(2)インスリン分泌の頻度が高いほど、また血糖値の上限値が高いほど、膵臓に負担がかかり、やがてインスリンの分泌に支障をきたし糖尿病の発症につながる可能性がある。また血糖の激しい上下動は、老化や細胞の癌化 、認知症(アルツハイマー)、心臓病発症リスクの増加などにつながる可能性がある。(P.35, 63, 68, 70)

(3)血糖値を上げるのは糖質だけである。低糖質の食事にすることで、血糖値の上昇を穏やかにすることができる。
糖質以外の蛋白質、脂質などの栄養素、繊維質には血糖値の急激な上昇を抑える働きがある。つまり白米よりチャーハンの方が血糖値の急激な上昇を抑えれるのである。(P.42, 47)

炒飯

(4)健康の為に油脂を控えるべきという考えは、日本では疑われることなく長く一般に信じられてきたが、21世紀になってからの様々なデータは、たとえ食べる油脂を控えても、血液中の脂質の指数の改善、心臓病や肥満の予防につながらないと言うことを、明らかにしてきました。

トランス脂肪酸については避けるべきだが、その他の脂質については無理に控える必要はない。肉などの動物性脂肪(飽和脂肪)の摂取についても、日本人だけに限定すると、心筋梗塞や脳卒中の発症率との関連性はみうけられない(2013年データ)。(P.53)


(5)糖質を減らしても、脳はケトン体(脂肪酸から作られる)をエネルギーとして使うことができる。極端な糖質制限では、体にケトン体がたまってくることで血液が酸性に傾き、ケトアシドーシスという状態を引き起こす可能性がある。このようなリスクがある以上、極端な糖質制限はするべきではない。(P.75)


(6)厳格なカロリー制限や低脂肪食を長期に渡り続けられる人はまずいない。緩い糖質制限はカロリーも気にしなくていいので取り組みやすく、他の食事療法と比べても結果が出やすい。その人にはどんな食事療法があっているのかというオプションを広げていくことが大切である。(P.92)

(参考文献:山田悟,「糖質制限の真実 :日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて」, 幻冬舎, 2015)

3.増加する糖尿病・血糖異常

国民健康・栄養調査によると、炭水化物の摂取量は過去60年以上に渡り減少し続けている。一日の摂取エネルギーも、1970年代初頭までは増加しているが、それ以降減少傾向にあります。

それにもかかわらず、近年、糖尿病患者や血糖異常などの糖尿病予備軍は増え続けているのです。

これについてのより詳細なデータ (1955~2019) と、私の考える摂取量以外の原因については、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】減少する糖質摂取量、増える糖尿病(血糖異常)

   

4.ダイエットの鍵はインスリンの制御なのか?

血糖値をコントロールするという意味では、緩めの低炭水化物ダイエットは効果的と思うのですが、肥満の問題についてはどうでしょうか?

「人はなぜ太るのか?」の著者であるゲーリー・トーベス氏によると、「カロリーの摂り過ぎが太る原因なのか?それとも炭水化物か?」は1800年代から議論されており、その理由として、低炭水化物ダイエットではその他のカロリー源(肉・脂質など)の量を気にすることなく食べても痩せることができたからです。

これが、カロリー理論を絶対的に信じ、脂質が心臓に悪いと考える専門家の猛反対を受けた訳ですが[1]、今では介入試験などによって低炭水化物ダイエットの高い減量効果が示され[2]、一定の地位を獲得していると言われています。

【関連記事】炭水化物が太るのか、カロリーが太るのか?論争


低炭水化物を推奨する専門家は、炭水化物が血糖値を上げ、インスリンの分泌を促すから太る原因だと考えているようであり、炭水化物さえ減らせば、インスリン分泌を促さない蛋白質・脂質はカロリーを補うためにも食べても良いとされていますが、私はその説明では不十分だと思っています。

私が付け加えたいのは以下です。

消化の良い精製された炭水化物や蛋白質(加工食品)に偏る食事はすばやく消化され、そういう食事が続くと空腹感が増し、いくつかの条件が重なると腸内飢餓が引き起こされやすくなるのです。

炭水化物のもつ特殊性(希薄効果、プッシュアウト効果)が腸の飢餓状態をさらに加速します。(つまり、腸内飢餓と関係するのはデンプンなどの多糖類であり、砂糖などの単純糖質ではない。

【関連記事】
炭水化物が人を太らせる:希薄効果、プッシュアウト効果

ですからその対処法として、痩せるためには逆の事、つまり炭水化物をある程度減らすだけでなく、その他の消化に時間のかかる食品(蛋白質、油脂、乳製品など)や繊維質を多く含む食品などを相対的に増やすことによって、未消化の食べ物が常に腸内に多く残るようにしないといけないのです。(この点において、グリセミックインデックス[GI]、グリセミック負荷[GL]の考え方はとても重要である。)

健康的なおかず

もちろん、肉や動物性脂肪(飽和脂肪酸)をいくらでも食べていいというアドバイは個人的に正しいとは思えないが、GI値の低い炭水化物、豆類・ナッツ類などの植物性タンパク質、魚・植物油などの不飽和脂肪酸、乳製品、繊維質の野菜などを組合せ、満腹感を高めることが大切だと考えます


結果的に緩い糖質制限と似たような食事法になるのですが、炭水化物は肥満の直接的な原因ではなく、腸内飢餓を引き起こしやすくするという間接的な原因であるというのが私のスタンスなので、ケトジェニックの様な厳格な糖質制限には疑問を感じる。

また、私はインスリンが脂肪蓄積を促すとしても、それが根本的な肥満の原因ではないと思っています。
糖質制限を推奨する人の中には、「インスリンの分泌さえ下げれば、カロリーを気にせずに、ステーキ・魚のグリル・チーズ・オイルなど何でも食べてしかも痩せれるのだから、カロリー摂取量ではなく炭水化物が肥満の原因であったんだ。」と説明する方もいますが、その説明は間違っていると考えます。

5.日本で広がる食事の偏り、質の低下

近年、世界中で肥満の増加が深刻な問題となるなかで、太る人にとってはその原因の中心にあるのは間違いなく消化の良い精製された炭水化物であると考えます。
しかし、炭水化物を食べたから全員が太る訳ではなく、炭水化物のタイプ(GI値の高いもの)、食事の偏り、不規則な食生活(朝食抜き、夜遅い食事など)などの要因も関連しているのです。


例えば、カロリーや糖質の「摂取量」だけに着目すると、朝食を抜いたり、昼食をカップ麺・「スナックパンとおにぎり」又はファーストフードなどの簡単な食事で済ませてしまったりすることも悪くない選択に思えるかも知れません。さらに、野菜を食べないことも多少の糖質又はカロリーを減らすことに役立つと思われるかも知れません。

カップ麺

しかし、このような繊維質・栄養に乏しく炭水化物の多い「質の低い食事」と「空腹」を繰り返すことは、肥満や糖尿病・血糖異常症などの発症リスクを増大させる可能性があるのではないでしょうか?

データとしては示すことはできないが、私の知る限り、日本においても工場や作業所における派遣労働者や低所得層における「食事の質」の低下が近年著しいと感じる。

食費を抑えようとする時、一番安くすんで量が多い(一時的な満足感を得られる)のが炭水化物なのである。

参考文献:
[1] 
ゲーリ・トーベス, 16章「太る炭水化物に関するよもやま話 」,人はなぜ太るのか, 2013, P.177-8
[2] ジェイソン・ファン, 9章「低炭水化物 ダイエットの真相」,The Obesity Code, サンマーク出版, 2019, P.178-9

まとめ

(1)(2)は「減少する糖質摂取量、増える糖尿病(血糖異常)」の記事からの要約


(1)日本での糖尿病患者は、推計を始めた1997年の690万人から右肩上がりで推移し、2016年には1,000万人に達している。血糖異常などの糖尿病予備軍も含めると2016年で2000万人を超える(約6人に1人)。日本人は欧米人に比べインスリンを分泌する能力が弱く、2型糖尿病を発症する人の半分以上は肥満(BMI≧25)ではない。


(2)
日本では、糖質摂取量やカロリー摂取量が50年以上前から減少傾向にあり、少なくとも日本において、肥満・糖尿病・血糖異常者の増加は、糖質やカロリーの摂取量だけでは説明できないグリセミック・インデックス(GI値)の高い食品、砂糖類、バランスの悪い食事、朝食抜きなど不規則な生活などの要因が関係している可能性がある。


(3)カロリーや糖質の「量」だけに着目すると、朝食を抜いたり、昼食をカップ麺・ファーストフードなどの簡単な食事で済ませたり、野菜を抜くことさえも合理的に思えるかも知れませんが、消化の良い炭水化物に偏る「質の低い食事」と空腹の繰り返しは、血糖異常などの病気発症リスク、肥満リスクを増大させる可能性があるのです。


(4)近年の、(A) 肥満リスクの増大と、(B) 血糖異常者の増加は、炭水化物の異なる性質によるものであるというのが私のスタンスです。

(B) に関しては、炭水化物を含む食事が血糖値をどの様に上げるのかということと、インスリンとの関係が大きく影響するそれに対し(A) は、消化の良い炭水化物が食べた物(栄養)を希薄にし、いくつかの条件が重なれば、腸内飢餓が引き起こされることと関連している。

つまり私の理論上では、肥満の根本的な問題は、腸内飢餓により基本体重そのものがアップすることであり、炭水化物は間接的にそれに影響しているのです。


(5)肥満や血糖異常のリスクを低下させるためには、炭水化物の量を減らすことだけが重要ではない。
低GIの穀類の摂取、他の食材(肉・魚・野菜・ナッツ類、乳製品、海藻など)を食事に組合わせること、規則正しく食べる(例えば、一日3回)ことなども重要である。

これらはすべて消化を遅らせ、吸収の速度を緩やかにし、血糖値を安定的に保つことに役立つ。「セカンドミール効果」や「レジスタントスターチ」の概念もこの点において重要である。


特に痩せるためには、消化に時間のかかる食品(蛋白質、脂質など)や繊維質を多く含む食品を増やす
ことによって未消化の食べ物が常に腸内に多く残るようにすることがむしろ重要なのです
。これによって空腹感が抑えられ、順に吸収率は低下するので、空腹感をコントロールすることが減量達成の鍵となる。


(6)砂糖などの単純糖質は血糖異常などとは大いに関係があると考えるが、腸内飢餓を引き起こす原因となるのはデンプン、小麦などの多糖類である。

2022.07.15

アトキンス(糖質制限):体重減少の長期的な効果はいかに?

<目次>

  1. アトキンスダイエットとは?
  2. 様々なダイエット法の比較試験
  3. アトキンス法の長期的な結果は?
  4. お米を食べるアジア人が痩せているのは?
  5. 私の考え
    <まとめ>

1.アトキンス・ダイエットとは?

アトキンス・ダイエットとは、心臓病専門医であるロバート・アトキンス( Robert Atkins )が提唱した低炭水化物ダイエットの一種で、エネルギーとなる「糖質」を制限し、その代わりに「脂肪」をエネルギー源とするものです。初めの2週間は糖質を1日20~25グラムまでに制限し、その後、徐々に増やすことを特徴としています。

[The Obesity Code] の著者であるジェイソン・ファン氏によると、アトキンス博士は1963年当時100キロ近くあり、ニューヨークで心臓病専門医として働き始めたことをきっかけに彼自身が痩せる必要があった。しかし従来のカロリー制限ダイエットではうまく体重を減らすことができず、昔からある低炭水化物ダイエットを試したところ上手く行き、そこで患者にも勧めたそうです。

医師

1972年には『アトキンス博士のダイエット革命』を出版し、この本は瞬く間にベストセラーとなった。

当時、米国医師会では依然として、食事中の高脂肪は心臓病や脳卒中を引き起こす原因と考えられており、高たんぱく・高脂質を許す「低炭水化物ダイエット」は受け入れられなかったそうだ。しかしそれをものともせず、1990年代から再燃した低炭水化物ダイエットの人気を背景に、アトキンスダイエットは一大ブームとなった。

2004年には、2600万人のアメリカ人が何らかの低炭水化物ダイエットをしていると答えている。[1]

2005年前後から、アトキンスダイエットと、かつて標準とされたダイエット法を比較する新しい研究が始まったそうですが、その結果はどうだったのでしょうか?詳しく見てみましょう。
この記事の最後に私の考えを述べたいと思います。

【関連記事】炭水化物が太るのか、カロリーが太るのか?論争

2.様々なダイエット食の比較試験

(【The Obesity Code 】 ジェイソン・ファン著, 2019年)より引用

"2007年には、『米国医師会雑誌』がより詳細な研究結果を掲載した。この研究では、 当時よく行われていた4つの異なるダイエット法の比較試験が行われた。その結果、ひとつのダイエット法の効果が抜きんでていた-アトキンスだ。

その他の3つ脂質の摂取量を極めて低くする「オーニッシュ・ダイエット」、たんぱく質・炭水化物・脂質の割合を30:40:30にする「ゾーン・ダイエット」、標準的な「低脂質ダイエット」) は、体重の減少という点については似通った結果となった。

医師と患者

しかし、アトキンスをオーニッシュと比べると、アトキンス・ダイエットのほうは体重が減っただけでなく、全身の代謝もよくなったことが明らかになった。血圧、コレステロール値、血糖値もすべて、大幅に改善していた。

▽2008年に行われたDIRECT試験 (食事介入による無作為比較試験)で、アトキンスはごく短期間で体重を減らせることが、改めて確認された。
イスラエルで行われたこの試験では、
「地中海食ダイエット」「低脂質ダイエット」「アトキンス・ダ イエット」の比較が行われた。

その結果、地中海食ダイエットには、体脂肪減少に大きな効果があるアトキンスと同じような効果が見られたが、AHA(アメリカ心臓協会)が標準とした低脂質ダイエットは、屈辱的な結果に終わった―嘆かわしい結果で、被験者は疲れ切ってしまったし、このダイエット法を好まなかった。このダイエット法を支持していたのは、医学研究者だけだった。"[2]
   

3.アトキンス法の長期的な結果は?

引き続き【The Obesity Code 】より

"アトキンス・ダイエットを長期にわたって研究したところ、長い目で見ると思ったほど効果が出なかったのだ(ダイエットは長い目で見なければいけない)。

テンプル大学のゲイリー・フォスター教授が2年にわたる研究の結果を公表したのだが、 その結果は、低脂質ダイエットをしたグループとアトキンス・ダイエットをしたグループ のどちらも体重は減少したが、その後、どちらもほとんど同じ割合で体重が元に戻ったというものだった。(略)すべてのダイエット法の試験に対して徹底的なレビューを行ったところ、低炭水化物ダイエットの利点のほとんどが、1 年後にはなくなっていたことがわかった。

スイーツ、お菓子

「カロリー計算をする必要がないのでダイエットが長続きする」というのがアトキンス法の大きなウリのひとつだった。だが、食べる物を厳格に制限するアトキンス法 は、従来どおりカロリー計算をしながら食べる方法に比べても、決して簡単ではないことがわかった。

どちらのグループも、ダイエットが続いた期間は同じで、40%近くが1年以内にやめてしまっていた。

後から考えると、この結果はいくらか予想できた。アトキンス法は、ケー キ・クッキー・アイスクリーム、そのほかのデザートなど、甘いものを厳しく制限していた。(略)

どんなダイエット法を信じていようが、こうした食べ物を食べると太るのは明らかだ。 それでも私たちが食べるのをやめられないのは、甘いものを食べると気分がよくなるからだ。アトキンス・ダイエットはこのシンプルな事実を認めないがために、理論的には正しくても失敗してしまったのだ。

何百万人もの人がアトキンス法をやめ、新しいダイエット革命は、一時期だけ流行ったダイエット法のひとつに成り下がってしまった。アトキンス博士が1989年に設立した会社は、顧客離れにより多額の負債を抱え、倒産した。減量の恩恵は続かなかった。

だが、いったいなぜだ? 低炭水化物のダイエット法のもとになった原理は、「食品に含まれる炭水化物は血糖値を最も上げる」ということだった。血糖値が高いとインスリンの分泌量も増える。インスリンが増えることが、肥満の最大原因だ。 こうした事実は、十分に合理的に見える。いったい何がいけなかったのだろう?"[3]

4.お米を食べるアジア人が痩せているのは?

引き続き【The Obesity Code 】より

"炭水化物・インスリン仮説は「炭水化物が太るもとだ、なぜならインスリンが分泌されてしまうから」というもので、この説自体は間違ってはいない。だが、この説は不完全だ。様々な問題点が挙げられるが、「米を主食とするアジア人のパラドックス」が最も顕著な例だ。

お米文化

ほとんどのアジア人は、少なくともここ50年、精白した米、つまり精製された炭水化物を主食とした食事をしている。それでも最近まで、 アジアの人々が肥満になるのは極めて稀なケースだった。

1990年代末に行われた調査では、日本の炭水化物摂取量 はイギリスやアメリカと類似しているが、糖分の摂取量ははるかに少ない。炭水化物の摂取量が多いにもかかわらず、中国と日本の肥満率は、つい最近まで非常に低い値だった。(略)

よって「炭水化物・インスリン仮説」は正しくないことになるが、ここには明らかに何か他の要因がある。炭水化物の摂取量だけが問題ではなかったのだ。

精製された炭水化物そのものよりも、「糖分」のほうがはるかに肥満の原因になっているのかもしれない。「食べるのが米か小麦かによって大きな違いが出る」という説も考えられなくもない。アジア人は米を食べることが多いが、西洋社会で食べる炭水化物は精製された小麦粉やトウモロコシ製品だ。(略)

これでは、パズルの肝心な1ピースが欠けたままだ。"[4](引用以上)

5.私の考え

お米か小麦かという話が出たので、まずこれについて少しお話したいと思います。

Dr. Fung氏が指摘されるように、炭水化物の量だけが問題ではない。お米か小麦かと言えば、お米の方が一般的に消化が悪いため、私の理論上は、小麦より太りにくいと言えるかも知れない。

近年の日本における肥満率の増加は、小麦製品も含む消化の良い炭水化物、バランスの悪い食事、不規則な生活リズムが大きな要因だと思っている。

そしてそれらは、私の腸内飢餓理論の「3要素+1」によって説明できると私は信じています。

不規則な生活リズム

(不規則な生活リズム)

<なぜアトキンスもリバウンドしたのか?>

これまでのどんなダイエット法でもリバウンドはつきものですが、リバウンドしないためには、私の言う基本体重(Base weight) そのものを低くしないといけないと考えています。その方法については、以下の記事をご覧ください。

正しく痩せるためには2段階のプロセスが必要


今回のリバウンドについて言うと、
必ずしもアトキンスを含め「糖質制限ダイエットに効果がない」ということにはならないと思っています。正しく痩せるための方法としては一番近いと思っています。しかし、「血糖値・インスリン」にフォーカスしすぎると、もう一つの大事なポイントを見失ってしまうのです。


どういうことかと言うと、(この研究の詳細は分かりませんが)いくら糖質を厳しく制限しても、肉や脂質・野菜などの増やし方が足りないと、人によっては、結局カロリー制限ダイエットと似たように空腹を我慢することになり、その場合はこれまでのダイエット同様リバウンドする可能性があると考えています。

糖質制限ダイエットでは糖質を減らすことがポイントと言われますが、私は糖質を減らすと同時に、「肉・脂質・繊維質の野菜、乳製品など含めて消化の悪い食べ物をいかに増やすか」がむしろポイントだと思っています。そしてそれによって、空腹感が減り、吸収率を下げることが必要だと思っています(カロリーを気にして、油脂を減らさないこと)。

糖質を厳しく制限すれば、痩せるスピードは早まるでしょうが、スイーツなど含め糖質をそこまで厳格に禁止する必要もなかったのではないでしょうか?大切なのは無理せず、持続できることです。

<参考文献>
[1]ジェイソン・ファン.「The Obesity Code」, 2019, Pages 171-6.
[2]Pages 178-9.
[3]Pages 182-4.
[4]Pages 184-8.

まとめ

・1990年代の低炭水化物ブームの再燃をうけて、アメリカでは2000年代の初めに、アトキンスダイエットは一大ブームとなった。短期的に見れば、アトキンス法は体重が減っただけでなく、血圧、コレステロール値、血糖値などすべての数値が、大幅に改善していた。

・しかし、長期的な研究では、低脂質ダイエットなどと同様にリバウンドし、1年後には低炭水化物のすべての利点は失われていた。「炭水化物・インスリン仮説」は不完全な理論であり、多くの研究者がこの理論を捨て去る。炭水化物の量そのものが肥満を決定しているのではなかった。

・(私の考え)炭水化物の摂取量や、血糖値・インスリンだけが問題ではない。このアトキンス法のもう一つのポイントは、炭水化物以外の「消化の悪い食べ物をいかに増やすか」であると考える。私の言う、基本体重(Base weight) に変化がない場合、基本的に元の食事に戻せばリバウンドは起こりうる。

2017.12.22

炭水化物が太るのか、カロリーが太るのか?論争

<目次>

  1. 知ってもらいたい「炭水化物抜き」の歴史
  2. 糖質制限が医師達に受け入れられなかった理由
  3. 炭水化物と脂質は逆の性質をもつ(私の考え)
<まとめ>

まず、お断りですが、炭水化物だってkcal/gです。
ネット上では、「だから結局カロリー、食べ過ぎが原因なんじゃないの?」という意見もありますが、"カロリーが原因” と考える場合、9kcal/gの脂質を中心に全体量を減らします。一方、"炭水化物(デンプン)が太る原因" とする主張では、炭水化物以外の肉や脂質(油脂)はいくら食べても良いとされていました。

今回は、『炭水化物』と『カロリー』のどちらが太る原因なのか?という歴史的な経緯を振り返ると共に、最後に私の考えを述べたいと思います。

1.知ってもらいたい「炭水化物抜き」の歴史

日本では2015年前後から、 低炭水化物(ロカボ)ダイエットがブームとなっていたのですが、世界に目を向けると、1800年代から何度となく繰り返されていた方法でありました。引用部分が多くなってしまうのですが、ご了承ください。私の理論を説明するうえでも是非ご紹介したい内容です。
   

(「人はなぜ太るのか?」【ゲーリー・トーベス著】より引用)

"1825年12月、ブリヤーサバラン(フランスの政治家、美食家)は『味の生理学(The Physiology of Taste)』という本を出版した(30章のうち、肥満に関しては2章[原因、予防])。彼は30年の間に、肥満に苦しんでいる人達と500回以上も夕食を共にし、会話の中で、太った男達は次から次にパン・米・パスタ・ジャガイモへの情熱を語った、という。

炭水化物

これによりブリヤーサバランは確実な肥満の原因を見つけた。

1番目は生まれながらの性質であった。彼は「多くの脂肪を消化できる能力をもつ人は、いわば肥満になるように運命づけられている」と書いた。

2番目は「デンプンと小麦粉であり、砂糖と一緒に使用すれば確実にこの効果を示す」と付け加えた。ブリヤーサバランは「肥満防止食は(略)・・・デンプン質または小麦由来のすべての物を多少厳しく節制する事が減量につながると推量される」と書いた。

ブリヤーサバランの書いた内容は、以来際限なく繰り返され、再発見されてきた。1960年代に至るまで、それは世間の常識で、私達の両親や祖父母が本能的に真実である、と信じたものであった。"
(ゲーリ-・トーベス,「人はなぜ太るのか」、メディカルトリビューン:2013, Page 164-5.)

<1844年>
"ジャン・フランソア・ダンセル(フランス人、医師)は、肥満に関する彼の考えをフランス科学アカデミーで発表した。彼の書いた『肥満や過剰な脂肪蓄積』という本は1864年に英訳された。彼は「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は脂肪をつくる傾向があるに違いない」と書いた。

肉食動物

彼は、肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物はしばしば太っているとも述べ、患者が ”主に肉のみを食べ” その他の食べ物を少量食べれば、一人の例外もなく肥満を治癒できると主張した。


ダンセルは、彼の時代の医師達が『肥満は治らない』と信じた理由を、「医師達が肥満を治そうとして処方した食事(食べる量を減らすことetc)が、まさに肥満の原因になるものだったためである」とした。"(※これはゲーリー・トーベス氏や私のブログのポイントとも通じます)

(ゲーリ・トーベス, 「人はなぜ太るのか」, Page 168.)

▽"20世紀の初めまでは、一般的に医師は肥満を治らない病気と見なしており、何でも試してみることが妥当であるとされた。患者の食事の量を減らし、もっと運動させることは数ある治療法の1つにすぎなかった。

     
<1950年代>

ミシガン州立大学の栄養学部の主任マーガレット・オールソンは、過体重の学生に従来型の反飢餓食を与えた場合、彼らの体重はほとんど減らず、彼らは「すっかり活気がなくなり、空腹であることを常に意識していたため、やる気がなくなった」と報告した。

一方、1日数百カロリーの炭水化物と多量の蛋白質・脂肪を含む食事を摂った場合、平均週3ポンド(約1.4kg)減量し、「食間の空腹感はなく、気分の良さと満足感があった」と報告した。

     
このような報告は1970年代まで続いた。この食事療法を行った人達は、ほとんど努力せずに体重を減らすことができ、その間ほとんど空腹を感じなかった。"

(ゲーリ・トーベス, 「人はなぜ太るのか」, Page 167,175.)

2.糖質制限が医師達に受け入れられなかった理由

上記の流れから行くと、炭水化物や糖を控え、その他の肉や脂質を含む食べ物を多く摂ることで、肥満の問題は解決に向かうかに思われますが・・・ここに「カロリーの原則」が出てきます。

(再び「人はなぜ太るのか?」より引用)

"1960年代までに、前述した脂肪調整の科学は生理学、内分泌学、生化学の学術誌で議論されたが、医学雑誌や肥満そのものを扱った文献で見られることはほとんどなかった。1960年代から1970年代後期にかけて、医師がこれを信じなくなったとき、それはたまたま現在の肥満と糖尿病の流行の始まりと一致した。

<1963年>
米国医師会誌において、脂肪調整の科学は無視された。太っている人達が、(炭水化物や糖以外の)どんな食べ物でも大量に食べることができるという考えを基礎においた治療法を受け入れる医師はいなかった。

そもそも、人がなぜ太るのかについての明確な理由として、現在も受けいれられている『太っている人達は食べ過ぎているからだ』という理由に反するものであったからである。

そこには別の問題もあった。
アメリカの保健局の専門家は、食事に含まれる脂質が心臓病の原因であり、炭水化物は「心臓によい」と信じるようになっていた。(~略~)炭水化物が「心臓によい」という考えは1960年代に始まり、炭水化物が私達を太らせるという考えと相容れることはなかった。

脂

食事に含まれる脂質が心臓発作を引き起こすとすれば、炭水化物をもっと多くの脂質に置き換える食事法は、たとえ私達を細身にするとしても命を脅かす。その結果、医師と栄養士は炭水化物を制限する食事法を攻撃し始めた。

医師2

<1965年:ニューヨークタイムズ>
「栄養学者に非難された新しい食事法:炭水化物の低摂取は危険である」は、炭水化物を制限した食事は高脂質の性質をもっているため、それを処方することは「大量殺人に等しい」というハーバード大学のジャン・マイヤー(Jean Mayer)の主張を引用した。

まずタイムズは「ダイエットをする人達は、カロリーの摂取量を減らすか、それを燃やすかのどちらかによって過剰なカロリーを削減しない限り、体重を減らせないことは医学的な事実である」と説明した。

今や、それが医学的な事実でないことはわかっているが、1965年の段階では栄養学者たちはそれを知らず、今もなお、彼らの多くはそれを知らない。(~略~)

次に、この食事法は炭水化物を制限するため、より多くの脂肪を摂取することで埋め合わせをする。マイヤーが大量殺人という非難をしたのは、その食事が高脂質の性質をもっていたためとタイムズは説明した。"(引用以上)
(ゲーリ・トーベス,「人はなぜ太るのか」, Pages 177-79.)
      

3. 炭水化物と脂質は逆の性質をもつ(私の考え)

この論争について、少しお話したいと思います。
これまでいくつかの研究で、3大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)を食事にどう組み合わせるかにより、体脂肪のつき方に違う結果をもたらすとことが明らかになってきています。同じ1カロリーであっても、消化吸収に使われるエネルギーに差異があり、刺激するホルモンが異なり、どのように体内で代謝されるという経路が異なるーことなどが要因と考えられています。

もちろん、これらの研究も素晴らしいと思うのですが、私の理論上で付け加えると、「炭水化物と脂質は消化の過程で、に近い性質を持つ」ということがポイントとなります。

まず、精製された炭水化物はタンパク質・脂質に比べ消化が早く、それのもつ「希薄効果」「プッシュアウト効果」によって消化はさらに早まり、私達はより空腹になります。野菜・タンパク質・脂質・乳製品などが不足するバランスの悪い食事では、最終的には腸内飢餓を引き起こしやすくします。

【関連記事】炭水化物が人を太らせる、血糖値・カロリー以外の特性

meat,fat,oil

それに対し、肉や脂肪(油脂)は消化に時間がかかります。消化にかかる時間は、食べる量や調理法、個人の消化力の差異にもよりますが、一般的にタンパク質は3~4時間、脂質は6~8時間とも言われています。特に脂肪が腸に辿り着くと、胃の働きを鈍くするホルモン(コレシストキニン)を刺激すると言われており、胃もたれなどの原因にもなりえます。

さらに、炭水化物が少なくタンパク質・脂質の多い食事では、濃密な栄養を腸に送ることになるので、消化が全体的に遅くなり、空腹感が押さえられ、順に吸収率も低下すると考えます。

つまり3大栄養素を食事にどの様に組合せるかによっては、カロリー摂取量が増えても体重減少効果があると言ってもいいでしょう(肉や脂肪を早く消化できる人にとっては、体重減少効果が薄いことがありうる)。

まとめ

・1800年代初期から1960年代に至るまで、いくつかの研究では、太った人たちが食事中の炭水化物を肉や脂肪の多い食事に置き換えることで、無理なく痩せれるということが証明されていた。しかしその頃までに、肥満は摂食障害として理解されるようになり、このダイエット法は生理学、内分泌学などでのみ議論された。

・1960年代から1970年代後期にかけて、ほとんどの医師は、太った人が肉や脂肪をたくさん食べて痩せれるというダイエット法を受け入れなかった。なぜならそれは「カロリーの原則」に反していたからである。

・また、保健局の専門家は食事に含まれる脂質が心臓病の原因であり、炭水化物は「心臓によい」と信じるようになっていた。その結果、医師・栄養士は炭水化物制限ダイエットを攻撃し始めた。

・(私の考え)両者の言い分には一理あるが、カロリーの数値がすべてを決める訳ではない。同じカロリーであっても、食材の組み合わせによって体重管理において異なる影響を及ぼす。特に、炭水化物と脂質は消化の過程でに近い性質をもつ。

2017.07.10

炭水化物が人を太らせる:希薄効果、プッシュアウト効果

目次

  1. もし炭水化物がなかったら
  2. 消化の悪い食べ物は "太りにくい" と言える
  3. 炭水化物が人を太りやすくする効果
(1)希薄効果
(2)プッシュアウト効果
まとめ
ご飯

私達が 「たくさん食べると太る・・・」と考える時、パンやご飯・麺のような炭水化物のイメージだと思います。

今回は、カロリーが増えるからでもなく、血糖値が上がりインスリン分泌を促すからでもなく、炭水化物(注1)が人を太りやすくする、もう一つの間接的な意義について説明します。
注1)厳密には砂糖なども炭水化物の仲間ですが、ここではデンプン、穀類など「多糖類」のことを指して使っています

1.もし炭水化物がなかったら(私にとって)

私の体重が30kg代に落ちた時、炭水化物の力がなければ全く太ることは出来なかったと思います。私の場合、それは油脂でも砂糖でもできない・・・。つまり私が生クリームたっぷりのケーキや、脂っこいトンカツや中華を食べて太ることはなかったはずです。今回は、その理由を説明します。

正確には、「炭水化物」なら何でもいい訳ではなくて、精製されたもので消化の良い、パン・白ご飯・ポテト・澱粉などの多糖類のことです。

ですから、玄米や五穀米、麦飯、アルデンテのパスタ、冷やご飯、チャーハンなどは除外して考えて下さい。これらは、血糖値をあげにくい食品(低GI食品、レジスタントスターチ)としても知られていますが、簡単に言うと、”消化が悪い” ということです。

2.消化の悪い食べ物は  "太りにくい" と言える

先程述べたような血糖値をあげにくい炭水化物、油脂、食物繊維たっぷりの野菜、海藻、乳製品を含めて、消化の悪いものを常に食べていると、腸内飢餓は起こりにくくなり、太りにくいと言えます(私の言う、 基本体重がアップしずらいという意味)。

あくまで、痩せている人が毎日きちっと食べれば 「太りにくい」 ということです。既に太ってしまった(太っている)人が少しくらい食べたからと言って、痩せれる訳ではありませんが、これらは常にダイエットで話題にされる食品であり、摂取の仕方によっては痩せることも可能です。

3.炭水化物が人を太りやすくする効果

それとは逆に、精製された消化の良い炭水化物(白ご飯、粥、パン、ポテト、澱粉など)と水分を一緒に摂ると消化を早めます。よって、消化の良いおかず(タンパク質)などの組合せでは、「腸内飢餓状態」ができやすくなるのです。

私が今の時点で考えるのは、次の2つの効果です。
    

(1)希薄効果

消化の良い炭水化物を相対的に多くすると、食事中の肉や魚、野菜などのおかずの占める割合は相対的に低くなります。

大さじ1杯の油もごはんを2倍にすれば、相対的に油の濃度は低下します。生卵は消化が悪いですが、卵かけ御飯にし、味噌汁・お茶などを一緒に飲めば卵の濃度は低下します。

たまご飯
mixed food

つまり、消化の良いデンプンと水分を加えて攪拌(ミキシング)し、希薄された栄養を腸に送っているということになります。

例えば、ハンバーガ(ドリンク付き)とおにぎりを一緒に食べたとします。これを、ミキサーにかけ攪拌すると、肉をデンプンで伸ばしたようなものになる。

ごぼうサラダ

一方、おにぎりをやめて、牛蒡のマヨサラダを加えると・・・炭水化物の希薄効果は薄れ、食物繊維や脂質がプラスされます。
※牛蒡のマヨサラダのカロリーは(158kcal /100g)で、おにぎり(1個、215kcal)とはさほど変わらないけど、その意味あいは大きく違うわけです。だからカロリーベースで考えると間違いが起きるのです!!

健康な食事

また、糖質制限ダイエットに見られるように、炭水化物を減らし、おかずを増やせばどうなるのか?

この場合は、密度の濃い栄養素を腸内に送り込むことで、消化が遅くなり空腹になりにくく、常に未消化物が腸内に残るという、逆の効果が発生する訳です。

(2)プッシュ・アウト効果

炭水化物を水分などと一緒に摂取すると、胃が膨らみます(胃の「風船効果」)。そして、消化が良い副菜(おかず)と組み合わせれば胃の滞留時間は短くなり、勢いよく押し出されます。そして腸が活発に動き出します。

親子丼そばセット

例えば、親子丼セット(そば付き)を考えて下さい。

食べて胃は膨れますが、消化が良いために胃が活発にスムーズに動き出します。私は胃腸の調子が悪く、便秘や下痢で苦しむことがよくありましたが、何度かこれで解消されたことがありました。

それに対し、揚げ物や中華料理などを食べると 「スタミナがつく」 と思うかも知れませんが、それは 「腹もちがいい、エネルギーが持続する」 ということです。言い換えれば、胃の滞留時間が長くなり消化が遅れるため、腸内飢餓状態をつくりにくくします。

まとめ

(1)端的に言うと、消化の悪い食べ物は太りにくいと言える。それに対し、精製された穀類、デンプンなどの消化の良い炭水化物は人を太りやすくする。これらの多糖類には消化の過程において、「希薄効果」「プッシュアウト効果」が考えられる。


(2)砂糖などの糖類(単糖、二糖)と、多糖類(穀類などのデンプン)は明確に分けて考えるべきである。これらは私の理論上、性質の異なるものです。今話題の糖質制限ダイエットは、主に糖質の血糖値を上げる性質に着目しているので、それだけではなぜ、肉や脂肪、野菜などの副菜を増やす必要があるのかの説明としては不十分です。


(3)世界的に起きている貧困層での肥満も、安価な炭水化物(穀類、デンプン)やバランスの悪い食事(野菜不足など)が影響していると考えます。彼らの場合、カロリーの摂り過ぎでも、砂糖の摂り過ぎでもないことは容易に想像できるのではないでしょうか?


(4)また、力士(お相撲さん)が体を大きくするためにあっさりした 「ちゃんこ鍋」と白ご飯を食べるのも理にかなっている訳です。

【関連記事】

「お相撲さん(力士)が太るのも、飢餓メカニズムと言える」

2017.02.11

糖質制限(炭水化物抜き)賛成派 VS 反対派の言い分

<目次>

  1. 糖質制限、反対派の意見(まとめ)
  2. 賛成派の意見(まとめ)
  3. 糖質制限の欠点を補う『ロカボ』
  4. 極端を避ける(私の意見)

【関連記事】いま話題のロカボ。炭水化物を減らす意義

古くから糖質制限食(炭水化物抜き)をめぐっては、意見が対立してきました。それは、カロリーが太る原因なのか、それとも糖質(炭水化物)が太る原因なのか?ということだと思います。

そこで、糖質制限食の賛成派と反対派の意見をまとめました。その理論は、今となっては少し古いものも含まれますが、過去の経緯としてまとめましたのでご覧ください。

1.糖質制限、反対派の意見(まとめ)

高たんぱく食
(参考文献:「本当は怖い糖質制限」 岡本卓 著)

<2001年>
アメリカ心臓協会が、国際的に評価の高い医学誌の中で、「今日あまりにポピュラーとなった低糖質・高たんぱく質食について反対を表明し、強い警告を発する」と公表した。

その理由は、「肉や脂肪などに偏った糖質制限食ではビタミンなどのミネラルが不足し、結果として心臓、腎臓、骨、肝臓に由々しき問題を抱えることになる」と強調している。

■反対派の主な意見

)糖質制限に対するオフィシャルな定義(糖質をどこまで抑えれば良いか)、ガイドラインが示されていないうえ、長期的に糖質制限を行った場合の体への影響に対する科学的データはほとんどない。

)糖質以外なら、肉や脂肪をたくさん食べて良いという糖質制限食は、カロリーの原則に反する。

)糖質制限食は高脂質食でもあるため、コレステロール値を上げて、心筋梗塞や脳卒中などの心血管病を引き起こすだろう。(2012年、アテネ大学etc)

)ミネラル・微量元素不足を引き起こす。タンパク質を多く摂ると、腎臓からのカルシウム排泄が増え、骨粗しょう症になりやすい。

)厳格な血糖コントロールは低血糖のリスクを高め、死亡率を上昇させる。血糖コントロールはほどほどが良い。(2008年、アメリカ国立衛生研究所)

)低血糖がうつ病・認知症のリスクを高める。

日本では、2012年に第55回糖尿病会で糖質制限食を食事療法の一つのオプションとして認めるという画期的なものだったが(糖質1日最低130gは摂る)、2013年には従来のカロリー制限食優先に戻り、糖質制限食については安全性などの確保の面から勧められないとのスタンスに変わった。(「本当は怖い糖質制限」(2013年)より)(引用以上)

2.賛成派の意見(まとめ)

■賛成派の主な意見

(参考文献:「人はなぜ太るのか?」 ゲーリー・トーベス著)

)人類の歴史上、炭水化物(穀物)を食べているのは僅かで、それまでは主に肉や脂身、野菜で生活していた

(2)カロリー制限食では均等にカロリーを減らすか、脂肪からのカロリーを優先的に減らすことになる。これは太ることのない脂肪やタンパク質を減らし、太りやすい炭水化物を相対的に多く食べることとなる。この食事法はあまり効果がなく、常に空腹がつきまとう

)食事に炭水化物がなくても、肉や脂肪をとっているから脳の栄養源として「ケトン体」を燃料とすることができる。

摂取する脂肪(脂質)=『体脂肪』ではない。低脂肪・高炭水化物食が公式に承認されたことで、心臓病の発症は減るどころか、肥満や糖尿病はむしろ増えている。

)野菜やチーズ・魚・肉などは制限していないので、ミネラルなどが不足することはない。カロリー制限食の方が均等にカロリーを減らすとすれば、すべての必須栄養素も減ることとなる。

)カロリー制限食も、体重減少に関する明確なエビデンス(科学的根拠)がないのに、なぜ糖質制限食のみに厳格なエビデンスを求めるのか?

3.糖質制限の欠点を補う『ロカボ』

白米2
(「糖質制限の真実-日本人を救う革命的食事法 ロカボのすべて-」山田悟著より引用)

ロカボは、1日あたりの糖質量を70~130gに抑えて食べる食事法です。(1食あたりの糖質量を20~40gにし、それを3食、間食で10g )

【食事の幅が広がった・続けられる】
現在の日本人は平均的に、1日では270~300gの糖質を食べていますので、ロカボではその半分弱に抑えるという感覚になります。
つまり、緩やかな糖質制限であるということです。これにより、食べられるものの幅はぐんと広まり、美味しく楽しく食べて健康になれる食事法と言えます。
また、糖質を食べるのをやめるのではなく、いかに上手に食べるかという考え方がベースにあります。低糖質な素材でつくったパンやパスタ、うどんなどのロカボメニューもあります。基本的に食べてはいけないものがないうえに、満腹になってもいいので続けやすいのです。

ダイエット

【ダイエットのみなら緩く】
例えば糖尿病の患者が治療としてやる場合は、やはり糖質の制限値にはある程度こだわった方が有効性は高くなります。
その一方、健康増進やダイエット、美容として取り入れたいという健常者に関しては、制限値に厳密にこだわらなくてもいいと思います。たまに高糖質なものを食べる日があっても、それまでの努力が全く無になることは起こりません。

【ケトン体が出るのを防ぐ】
普通の糖質制限と違うのは、最低でも1食あたり20g以上の糖質を摂ることで、ケトン体が出るような極端な低糖質状態を防いでいます。極端な糖質制限のリスクが示唆されている以上、まだ積極的にやるべきではないというのが私(山田医師)のスタンスです。

<ケトン体>

人間を含め、動物はブドウ糖と脂肪酸を主なエネルギー源にしています。しかし人間の脳は脂肪酸が入っていけないため、ブドウ糖を好みます。また赤血球はエネルギー源としてブドウ糖しか使うことができません。長期間ブドウ糖が摂れない状態が続くと、脳はブドウ糖を赤血球にゆずります。

その時、脳がエネルギー源として使うのが脂肪酸を分解してつくられる『ケトン体』という物質です。確かに脳はケトン体で生きていけますが、一方で血中にケトン体が溜まってくると、体が酸性に傾きケトアシドーシスという意識障害が起こることがあります。

【エビデンスレベル1での証明】
歴史の中で、糖質制限はエビデンスレベル4(症例報告)だけで世の中に広まってしまったので、糖質制限食事法は叩かれ、信頼を築くことができず、民間療法の扱いに留まっていました。

しかし、2007年~2008年にかけてのエビデンスレベル1(無作為比較試験)の論文により、「カロリーは気にせず、糖質のみを控える(1日あたり120g以下に設定)」という食事法が「カロリーや油を控える」食事法よりも肥満、血糖管理、血液中の脂質の改善に有効であるということが証明されたのです。
つまり、民間療法扱いから確固たる根拠のある食事法とかわったのです。(引用以上)

4.極端を避ける(私の考え)

肥満や糖尿病等の治療において、『カロリー制限』による食事療法には効果がないことが実証されつつあります。

だからと言って、『炭水化物が悪者だ』と言うような厳格な糖質制限にも賛成はできません。糖質(炭水化物)は私達の貴重なエネルギー源であることには変わりはないし、そこは医者などが言うようにバランスに一理あると思います。


私のスタンスとしては、糖質をある程度減らすことはダイエットに有効だと思いますが、極端な方法は良くないと考えます(ロカボに近い)。「炭水化物が私たちを太らすのか、それともカロリーか?」ではなく、もう少し考え方を変える必要があるのです。

私の理論上、太る原因は糖質そのものではなく、精製された炭水化物(多糖類)と偏食、野菜不足などにより引き起こされる、腸の『飢餓状態』です。つまり炭水化物(多糖類)が直接的ではなく、間接的に飢餓状態を作りやすくし、肥満に寄与しているということです。ですから対処法としては、腸の中に未消化の食べ物を多く残すと言う意味で、「炭水化物をある程度減らし、おかず(副食)を増やす」ことが必要と考えています。

2016.06.03

豊かだから太るのか、貧困が太るのか?

目次

  1. 豊かさが肥満の原因と言われるが・・・
  2. 貧困なのに肥満が多かった事例
  3. なぜ彼らは太っていたのか?
  4. 豊かになったと言っても、『食べ物の質』はどうだろう?

私のブログの内容とも関連する、興味深い話があったので紹介します。大部分は本からの引用ですが、この最後に私の考えを述べたいと思います。
【関連記事】→貧困層における、低栄養(痩せ)と肥満の共存は矛盾していない

1.豊かさが肥満の原因と言われるが・・・

「人はなぜ太るのか?」【ゲーリー・トーベス著】より引用

1990年代半ば、米国疾病予防管理センター(CDC)の研究者が、米国において肥満が流行しているというニュースを発表して以来、専門家達は過食座りっぱなしの行為が肥満の要因であると非難し、これら2つを比較的豊かな現代社会のせいにした。

<2003年>
■ニューヨーク大学の栄養学者マリオン・ネッスルは、雑誌サイエンス(Science)において「改善された豊かさ」が食べ物と娯楽産業に支えられ、肥満の流行を引き起こしたと説明した。

彼は、「これらの産業は人々を、誇大広告で売り込まれた高エネルギーで低栄養価の食物の消費者、座りっぱなしを助長する車やテレビ・パソコンの消費者へと変えた。体重が増えることは、こうした商売に都合がよい」と述べている。

■エール大学の心理学者ケリー・ブラウネルは、バーガーやスナック菓子、子供を運動不足にするテレビやゲームなどに囲まれた生活を「毒性環境」という言葉で説明した。

彼は、「チーズバーガーやポテト、スーパーサイズの食べ物、ジュースやキャンディ、ドライブスルーなどは、昔は滅多に見かけなかったが、今や草や木、雲のようなものである」と言った。

さらに「パソコン、テレビ、ゲームは子供を家に閉じこもらせ、運動不足にする」と説明した。

現代の生活

▽世界保健機関(WHO)は、世界的な肥満の流行を説明するために全く同じ理論を使い、収入の増加や都市化、「体を動かすことの少ない仕事への移行」、「受け身な娯楽の追及」が原因であると非難した。

肥満の研究者たちは、この状態を正確に述べるために準科学的な用語を使う。彼らは、私たちが現在生きている環境を「肥満の原因となる」環境と呼び、これは、「瘦せた人を太った人へと変化させやすい環境」を意味する。[1](引用以上)

現在も基本的にこの考えが世界中で支持され、高カロリーな食べ物や運動不足が肥満の原因であると、大半の専門家は説明します。

2.貧困なのに肥満が多かった事例

しかし、ここで私達が考えなければならない問題は、貧困層においても肥満が拡大しているという事実です。
  

(再び「人はなぜ太るのか」(ゲーリ・トーベス著)より引用)

しかし、この背景のなかで考慮されるべき1つのエビデンスは、肥満が豊かさではなく貧困と関連している(特に女性において。そしてしばしば 男性においても)という十分に証明された事実である。私たちは貧しければ貧しいほど太りがちになる。(略)

1970年代の初期まで、栄養学者と研究熱心な医師達の間では、肥満は「栄養失調」の問題で、今日のような「栄養過多」の問題とは考えられていなかったのである。

1901年~1905年
2人の人類学者(ラッセル、フルドリカ)がアメリカアリゾナ州に住むピマ族を調査し、ピマ族の特に女性に肥満が多いことを述べた。ピマ族は1850年代を通じてきわめて成功した狩猟者・農民であったが、1870年までには最も貧しい民族の1つとなり、「飢餓の時代」を生きるようになった。

20世紀の初頭に2人の研究者が訪れたとき、ピマ族は育てることができる作物をまだつくってはいたが、毎日の暮らしは政府の配給に頼っていた。

この観察において非常に注目すべきところは、当時、ピマ族が最も豊かな米国先住民族の1つから、最も貧しい民族の1つになったばかりだった ということである。なにがピマ族を太らせたにせよ、豊かさと収入の増加 はそれとは何の関係もなく、むしろその逆であったように思われる。

四半世紀(25年)後
シカゴ大学の2人の研究者が米国先住民のスー族を調査した。
スー族は「住むのにはふさわしくない」掘っ立て小屋に、しばしば1部屋に4~8人の家族が住む状況にあった。その多くには水道の設備もなく、子どもたちの40%はトイレのない家に住んでいた。子ども32人を含む15家族は「おもにパンとコーヒー」で生活していた。これは私たちの想像を絶するほどの貧困である。

それにもかかわらず、現在、肥満の流行のまっただ中にある私たちの肥満率と彼らには大きな差がなかった。シカゴ大学の報告では、成人女性の40%、男性の25%以上、子どもたちの10%「もれなく肥満と定義されるだろう」と記されている。

1950年~1980
西インド諸島、南アフリカ、チリ、ガーナなど世界各地で貧困で低栄養なのに肥満率の高い集団が見つかった。[2]
(引用以上)

3.なぜ彼らは太っていたのか?

(引き続き「人はなぜ太るのか?」より引用)

(事例1:1960年代初頭、マンハッタン)

1960年代初期、ニューヨーク(マンハッタン中心部)の住民を調査した結果、肥満女性は富裕層より貧困層で6倍多く、肥満男性は2倍多かった。

肥満の流行は豊かさが原因で金持ちになるほど太り、その一方で肥満は 貧困と関係し貧しくなるほど太る可能性が高くなることがありうるだろうか?

それは不可能ではない。おそらく貧しい人たちには金持ちのように、やせたままでいなくてはという周囲からのプレッシャーがない。驚くべき ことに、これが矛盾に対する明確な説明の1つとして受け入れられてきたのである。

さらに一般的に受け入れられている別の説明は、太っている女性ほど社会の下流の男性と結婚するため下の階級に集まり、やせている女性は上流の男性と結婚するから、貧困層で肥満の女性が多いというものである。

3番目の説明は、貧しい人たちは金持ちのように運動をする暇やスポーツクラブに入会するお金がないといったものや、公園や歩道がない地域に住んでいるため、彼らの子どもたちは運動や散歩をする機会がないというものである。

これらの説明はあてはまる部分もあるかもしれないが、 無理があり、深く掘り下げて調査するほどよけいに矛盾が目立つものである。[3]

(事例2:1900年初頭、ピマ族)

それでは、なぜ彼らは太っていたのか? このピマ族に訪れたような長年の飢餓は、体重を増やしたり維持したりするのではなく、逆に減らすはずである。そして、政府の配給が飢餓をなかったものとするほど多かったのであれば、なぜピマ族は過剰な配給で太り、飢餓時代以前の豊富な食物では太らなかったのだろうか?

身体活動量から見れば、以前の活発な生活から座りがちな生活になったとはいえ、ピマ族の女性が村でほとんどの重労働(収穫、運搬)を行っていたのに、女性の方が太っていたのである。

配給

おそらく答えは、摂取した食物の種類、つまり量よりもに問題がある。

これこそが、ラッセルが「食物の中のあるものが、きわだってぜい肉の原因になっているように思われる」と書き示したことである。

また、フルドリカも同様に、ピマ族はこの時すでに「白人の食糧に含まれる」すべてを食べており、これが問題の鍵であったかもしれないと指摘している。

1900年のピマ族の食事は、その1世紀後に私たちの多くが食べているものと非常に似ていたが、それは量的にではなく、質的にであった。[4](引用以上)

4.豊かになったと言っても、『食べ物の質』はどうだろう?

▽1~3を踏まえて、私なりの考えを述べたいと思います。
まず肥満を考える上で、”豊かになったから肥満が増えた”と考えるのは安直ではないでしょうか?

busy at work

確かに私達の生活は自由で、物にあふれているという点では 豊かである。ある程度の収入があれば、自由に活動し、好きなものを買い、好きな物を食べることができます。仕事もデスクワークが増え、それほど動かなくても良い。

しかし、少ない給与の中でやり繰りしていると、食費にばかりお金をかけれる訳でもなく、もちろん忙しければ時間もなく、朝はトーストとコーヒ、昼はおにぎりやカップ麺などと炭水化物に偏ることもあります。朝食または昼食を抜くこともあります。

夕食で補完(新

特に逆三角形型の食事(図参照)では、夕食は比較的バランスのとれた食事であっても、朝~夕にかけては質素で腸の飢餓状態が生まれ易くなります。

さらに太りやすいという人(ダイエット中の人)に限って、『昨日は食べ過ぎたから、今日は少なくしよう』という様に、食事を抜いたり、簡単なもので済まそうとするのです。昨日の過剰なカロリーを今日で相殺しようとする考え方も間違っていると言えるでしょう。

つまり、腸の内面(飢餓状態)という視点で見ると、『豊か』と言われる我々の社会も、貧困で肥満が多かった集落と共通する部分があるのではないでしょうか?

極論すれば、貧困層での肥満は、『ダイエットをして食べるのを我慢していたにもかかわらず、最終的に体重が以前より増えてしまう』メカニズムで説明できる、と言えるでしょう。
  

(再び「人はなぜ太るのか」より引用)

炭水化物を食べたからと言って全員が太る訳ではないが、太る人にとってその原因は "炭水化物" である。

炭水化物

(~略~)これらは入手可能な食べ物のうち最も安価なカロリー源でもある。これは貧困な人ほど肥満になる可能性が高い理由をはっきりと説明している。

これらの集団の人達は、食べ過ぎや動かないことにより肥満になるのではなく、彼らが依存している食べ物(食事の大部分を構成するデンプン精製された穀物)が彼らを太らせるのである。[5](引用以上)

<参考文献>
[1]ゲーリ・トーベス,「人はなぜ太るのか」, 2013, Page 24-25
[2]P. 27-31, 37
[3]P. 25-26
[4]P. 29-30
[5]P. 149-150

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