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太ること(ブログ全体の基本事項)
2024.10.04
重要性を増す体重の「設定値」理論:環境と行動要因とは何か?
目次
- 「設定値」理論への理解の進展
- 設定値モデルにおける問題点
- 体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因
- なぜ腸内飢餓で設定体重がアップするのか?
これまでのブログ記事で説明してきた通り、私は人にはそれぞれ個別の体重の「設定値」があり、それがどの様に上昇するのかを理解することが、肥満問題の解決の糸口だと思っています。
今回は、近年の体重「設定値」理論に関する研究の進展と、設定値に影響を及ぼす環境的、行動的要因ついて私の意見を述べたいと思います。
1.「設定値」理論への理解の進展
<肥満と減量の試み>
♦太っている人が、「痩せている友人の方が太っている人よりも常に多く食べている」と主張するのは、真実かもしれないということである。(略)
肥満患者の中で私たちの理解を大いに必要としているのは、1日1,000kcal 程度のカロリー摂取を守っているにもかかわらず、減量が1週間に1kgにも満たない人たちである。このような人々が存在することは疑いなく、メタボリック病棟で、「ごまかし」が事実上不可能な条件下で、気付かれずに研究することができる。通常、このような人は、おそらく40kg太っていて、すでに20kgほど減量している中年女性である。彼らはしばしば抑うつ状態で、低体温であり、代謝率が低い。低カロリー食に対するこの代謝適応の性質はわかっていない(1973年当時)が、1920年以前から知られている現象である。(J S Garrow, 1973) [1]
♦肥満者にとって、さまざまな治療法で一定の減量は可能ですが、減量した体重を長期的に維持することははるかに困難であり、ほとんどのケースで体重が元に戻ってしまうと言われる[2]。29の長期減量研究のメタ分析では、減量した体重の半分以上が2年以内に元に戻り、5年後には減量した体重の80%以上が元に戻りました[3,4]。
さらに、持続的な減量に成功した人の研究では、体脂肪を減らした状態を維持するには、おそらく生涯にわたってエネルギーの摂取と消費に細心の注意を払う必要があることが示されています[5]。
<肥満者の代謝値>
♦1930年までに、体表面積のより正確な計算により、肥満者の代謝率が正常であることが示され、代謝低下説は好まれなくなった[6]。
♦1日のエネルギー消費(TEE)には、食物の熱効果(DIT)、身体活動消費(PAEE)、安静時エネルギー消費(REE)の3つの要素があるが、平均体重100kgと70kgの男性のエネルギー消費を比較したモデルケースについて見ると、100kgの男性の方が一日のエネルギー消費量 (TEE) は高くなる[7]。
一般に信じられていることとは逆に、肥満の人は一般的に、痩せた被験者と比較して絶対的な安静時エネルギー消費(REE)が高いです。それは、肥満では体脂肪とともに代謝が活発な除脂肪質量が増加するためです[7,8]。
身体活動消費(PAEE)は、「自発的な運動」と「日常生活の活動」に分けられる。PAEEは体重に比例するため、肥満の人は一般的に身体活動が少ないにもかかわらず、身体活動にかかる毎日のエネルギーコストは肥満でない人と同程度であることが多い[7,9]。また、肥満の人は食物摂取量が多くなる傾向があり、食べ物の熱効果(DIT)も高くなります[7]。
<エネルギー消費の動的変化>
♦肥満の予防は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスを取らなければならないという単純な帳簿管理の問題であると誤って説明されることが多い[10]。
このモデルでは、エネルギーの摂取量と消費量は行動によってのみ決まる独立したパラメータと考えられており、肥満者は単に、食べる量を減らして運動量を増やすだけで、累積食事カロリーの不足 7,200kcalごとに1kg(3500 kcal ごとに1 ポンド)の割合で着実に体重を減らすことができると考えられている[7,11]。これは減量の静的モデル(static model)と呼ばれるが、生理学的に不可能であることが分かっています[7,12]。
(3500 kcalルールは、単純すぎると認識されているにもかかわらず、科学文献に登場し続けており、2013年時点で 35,000 を超える減量教育ウェブサイトで引用されています。)[12,13]
♦現在では、エネルギー摂取量と消費量は相互に依存する変数であり、お互いに、また増減する体重によって恒常性シグナルの影響を受けることがわかっています[7,14]。
食事や運動によってエネルギーバランスを変えようとする試みは、体重減少に抵抗する生理学的適応によって阻止されるのです[7]。
<体重の設定値理論>
♦近年では、恒常性制御の影響が認識され、体はエネルギーバランスを操作する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持するという証拠が増えつつある[12]。
1953年、ケネディーは体脂肪の蓄積が規制されることを提案しました[15]。1982 年、栄養学者のウィリアム ベネットとジョエル グリンは、ケネディの概念を拡張して設定値理論を開発しました[16]。このモデルは広く採用され、1990年代のレプチンの発見以降強化された[7,12]。
個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を減らし、ホルモンの調節を通じて食欲の増加を引き起こし、行動の変化を通じて食べ物の好みを変え、体重を設定値の範囲に戻します[7,16]。
♦減量研究では、体内の脂肪蓄積量は中枢神経系を介したメカニズムによって保護されており、脂肪組織、消化管、内分泌組織からの信号を介してエネルギー摂取量(EI)と消費量(EE)を調整し、恒常性を維持し、体重の変化に抵抗することが示されています(設定値モデル)[12,17]。
♦エネルギー危機の際にエネルギー貯蔵量を維持しようとする身体の保護代謝メカニズムは、適応性熱産生 (AT)または代謝適応 として知られています[7,12]。
ATは、体組成の変化とは無関係に、摂食不足に関連する安静時エネルギー消費量(REE)の低下として定義されます[12]。
♦痩せ型または肥満型の個人が体重を 10% 以上減らし続けると、24 時間エネルギー消費量が約 20%~25% 減少します。この体重維持カロリーの減少は、脂肪と除脂肪量の変化のみに基づいて予測される量より 10~15% 低い値です[17,18]。
肥満の個人も、食事療法による減食に対するしてこのような代償的な代謝的調整を示すことから、肥満は一部の人にとって自然な生理学的状態であると考えられる可能性があります。肥満動物の実験研究でも同様に、肥満を、高い設定値での体内エネルギー調節の状態と見なす見方を示唆しています[19]。
♦体重を減らした元肥満の被験者と、BMI が一致する肥満ではなかった被験者を比較して 適応性熱産生(AT) を調査した横断研究のメタ分析では、肥満経験のある被験者は肥満経験のない対照群と比較して安静時エネルギー消費量(REE)が3~5%低いことが報告されている[20]。
つまり、肥満の女性が 100kg から 70kg に体重を落とした場合、体重がずっと一定だった 70kgの女性よりも、70kgを維持するために必要なエネルギーが少なくて済むことを意味する[6]。肥満のラットと正常体重のラットによる動物実験においても同様の結果が示されている。
このことから、肥満の人が、「痩せた仲間と同じかそれ以下しか食べていないのに体重は減らない」という頻繁な主張には、通常認められている以上の信憑性が与えられるべきです[19]。
♦一方、1960年代にバーモント州でイーサン・シムズ教授が囚人に対して行った過食実験で示されたように、一時的な過食による体重増加も、体重を設定値の範囲に戻すような代償機構を誘発します。
しかし、一部の研究者はこれらは体重減少を保護する機構よりも弱い可能性があると指摘する。この非対称性は、長期間の飢えなどのカロリー制限期間中に生き残るために脂肪を蓄えるという進化上の利点によるものである可能性があります[16,17]。
♦また、実験的な半飢餓および短期的な摂食不足の後に過食症が実証されており、これはおそらく体脂肪と除脂肪組織の両方の喪失から生じる恒常性シグナルの結果です[7,21]。
♦この理論はまた、人の体重設定値は人生の早い段階で確立され、特定の条件によって変更されない限り比較的安定したままであることを示唆しています。ただし、結婚、出産、閉経、加齢、病気などの要因により、生涯を通じて設定値が変化する可能性があります[16]。
その一方、設定点理論は、設定点制御に関与するすべての分子メカニズムが解明されていないため、理論のままであり、一部の研究者はこの理論が単純すぎると考える可能性があります[16]。
2.設定値モデルにおける問題点
しかし、設定値モデルには問題があると指摘する研究者もおられます。
体脂肪を制御するそのような強力な生物学的フィードバックシステムが存在するのであれば、なぜ西洋諸国の多くの人が人生の大半で体重が増えるのか?特に、このモデルでは、1970年頃から世界の多くの社会で観察された肥満の増加傾向を説明できないことだという[22]。
これに対し一部の研究者は、減量の持続に対する代謝的抵抗は強力である一方、持続的な脂肪増加に対する抵抗は生理的に長続きしない可能性があると指摘する。肥満の有病率が着実に増えていることからも、体が太ることの方が痩せることよりも促進されることが示唆されている[17,23]。
マウスにおける動物実験では、高脂肪食を与える食事で最初の3~4週間はエネルギー消費量の増大と交感神経系緊張(SNS)の増加を示す一方、高脂肪食を数カ月摂取すると、これらの変化はもはや明らかではなくなるという[17,24]。
また別のマウスによる動物実験では、ポテトチップス、チーズクラッカーなどの嗜好品を主とする高エネルギー食の長期摂取によって、設定値の上昇を示唆する、不可逆的な体重増加が生じたとの報告もある[19,25]。
脂肪細胞数の増加がその原因と考えられている[19,26]。
▽これらの説明は初めは、理にかなっているようにも聞こえるが、私の意見としては、これだともはや「設定値」ではないし、なぜ体がより高い設定体重でも頑なに減量の維持に代謝的な抵抗を示すのかは説明できないと考える。
また人間に置き換えた場合、高カロリーな食品を頻繁に食べている人が肥満になっている訳ではない。
以下のような矛盾が浮上する。
(1) なぜ肥満が西洋社会の低所得層で頻繁に発生する傾向があるのか[22,27]、また発展途上社会の比較的裕福な層で頻繁に発生するのか?[28]
(2) 1950年代から世界で確認される、貧しい集団における低栄養と肥満の混在[29]。
(3)なぜ大学入学後、結婚後、出産後、アジアから欧米に移住した後、などの環境変化で体重が増える人がいるのか[22]?
私は、繰り返し言うように、体重の設定値がアップするのは腸内飢餓が原因だと考えており、これらの矛盾もすべて説明できると思っている。以下のセクションで、それをより具体的に説明したいと思います。
3.体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因
2012 年、米国臨床内分泌学会(AACE) は肥満を慢性疾患として指定しました。他の慢性疾患と同様に、肥満の病態生理は複雑で、遺伝子、生物学的要因、環境、行動の相互作用が関係していることが、その根拠の1つとされています[30]。
体重の設定値理論に興味を示す一部の研究者は、慢性疾患としての肥満が治癒可能かどうかは、遺伝子と環境要因がどの様に組み合わさって体重の設定値が調整されるのかを理解することが必須であると指摘する一方で、多くの重要な環境的・社会的影響を説明するのに苦労しています[22]。
■私も、①遺伝的、生物学的要因と、②環境・行動要因の相互作用によって、体重の設定値が変化すると考えていますが、今回は主に②について説明します。
1970年代からの生活環境の変化を考える時、ほとんどの研究者は、社会が豊かになった結果、高カロリーな食品が増え、体を動かす機会が減ったことが肥満の蔓延を助長したと非難します。つまり、彼らは太るためにはプラスのエネルギーバランスが必要だと考えるからです。
しかし逆説的に、肥満の増加は減量の試み(ダイエット)の増加と一致しているという事実[31]は、私たちのエネルギーバランスに対する考えが間違っていることを示唆します[12]。
過食実験でも示唆されたように、「一時的な過食による体重の増加」と、「長期的に起こる不可逆的な体重の増加」は異なります。慢性疾患としての肥満は、むしろ飢餓・ダイエット後に体重がより増加する事例のように、マイナスのエネルギーバランスや「食べ物が不足している」という体のシグナルから生じると私は考えるのです。
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1970年代から、生活環境の変化に伴って私達の体に影響を及ぼしているにもかかわらず、まだ認識されていないのは、何度も言うように「腸内飢餓」です。
腸内飢餓は「腸全体(又は小腸)で、食べた物がすべて消化された状態」を言い、現代の豊かな先進国、発展途上国、あるいは貧困層でも起こりうる腸内部の飢餓です。繊維質がほとんど無く、すべての物質が消化された時に、私たちの体が「食べ物がない」と認識するのです。
おそらく、1970年以前の世界の多くの地域では、次の食事まで丸一日食べれなかったとしても、腸の中には繊維や固い細胞壁などの未消化の物質が残ったに違いありませんが、現代のような消化の良い、精製炭水化物、[超]加工食品、ファーストフードが多くあふれる社会では、食べ方によっては、8~10時間程度でも腸内飢餓は起こりうるのです。
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腸内飢餓は、消化の良い精製炭水化物(パン、麺類、米など)、工業的に食べやすく加工された肉・魚製品、ファーストフード、スナック菓子などの頻繁な摂取と、野菜などの不足、そして空腹を長時間我慢している状況下(朝食抜き、夜遅くの食事、不規則な食習慣)で引き起こされやすくなります。
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■上述2節のラットの動物実験では、90日にわたる「高エネルギー食」の摂取が、設定値の上昇を示唆する不可逆的な体重増加をもたらしたとありますが、この実験(Rolls他、1980年)での『太らせる餌』はスーパーマーケットで売られる嗜好性の強いポテトチップス、チーズクラッカー、クッキーなどが主であり、エネルギーベースで、いわゆる工業的に加工精製された炭水化物を47.5%(脂肪:42%、蛋白質:10.5%)含んでいます[25]。しかもラットは空腹にならないと食べないし、同じものばかり食べ続けることができる。
それに対し、対照ラットに与えられたのは固形飼料ですが、それは挽き割の小麦・大豆・トウモロコシや魚粉などから作られた可能性があります。つまり、50年以上前の私達の食事と同様に、繊維や植物の固い細胞壁などの消化されにくい成分が多く含まれていたと考えることもできます。よって、嗜好性の強い「高エネルギー食」が不可逆的な体重の増加をもたらしたとする結論には、私は疑問を投げかけます。
4.なぜ腸内飢餓で設定体重がアップするのか?
以下で、腸内飢餓の誘発により体重の設定値がアップするメカニズムを説明します。
一部想像も含みますが、私に何度か起こった事実を元にしており、信じてもらえないかも知れませんが、少なくとも私においては100%正しいです。
■いま仮に長年に渡って70kgの体重を維持している人がいるとしましょう。忙しい時や、食べ過ぎた時などに多少の体重の変動があるとしても、その男性の体重は70kgを中心として動いており、設定体重は70kgとします。
腸内飢餓が引き起こされると、腸(又は小腸)をインターフェイス(接点)として、脳に「食べ物がない」というシグナルが伝達されます。
すると、体はより多くの栄養を吸収しようとし、小腸の絨毛(ジュウモウ)又は微絨毛に付着する微細な物質が剥がれ(図1)、それによって、吸収する面積が広がり絶対的な吸収率がアップします。
つまり、体重の増加には、少なくともある程度までは、体脂肪だけでなく、筋肉など徐脂肪組織の増加も伴うと考えています。
(通常は未消化な繊維質や脂質などが多少残るかも知れませんが、完璧にすべての食べ物が消化された状態では、短期間に激太りする可能性があります。)
その結果、体重の釣り合うポイント(設定値)はわずか3~4日でアップし平衡状態に達すると考えます(図2)。
体重の増加は「過剰なカロリーが毎日少しづつ蓄積されることによって起こる」のではなく、300gかもしれないし、500gかも知れませんが、ある時一機に上昇します。
ダイエットなどをしていると、知らないうちに設定値はアップし、ダイエット終了後に以前より数キロ体重が増加してしまう場合が想定されます。
一度、体重のバランスポイントがアップすると痩せにくいのは、絶対的な吸収率がアップしている為であり、「1」の引用でも示したとおり、肥満は「高い設定値での体内エネルギー調節の状態」であり、肥満者にとっては「自然な生理学的状態である」という考えには、私も同感です。
より詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】 腸の飢餓でなぜ太るのか?
<私の理論の証明方法>
1年に3kg程度の最高体重更新の場合は、その原因が何であったのかを確かめるのは困難かも知れませんが、私が提供する食事メニューによって、カロリーや炭水化物の摂取量を減らしたとしても、数カ月以内に大幅に(5kg~10kg程度)人を太らせる(最高体重を更新)ことができると考えています。その前後のデータを観測することで、体の内部で何が起こったのかを調べることができるはずです。
<参考文献>
[1]Garrow JS. 「食事と肥満」. Proc R Soc Med. 1973 Jul;66(7):642-4. PMID: 4741395; PMCID: PMC1645095.
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[28] Poskitt EM. 「移行期にある国々:低体重から肥満へノンストップ」. Ann Trop Paediatr. 2009 Mar;29(1):1-11.
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2024.06.16
過食実験は、「過食」が肥満の原因でないことを示唆する
目次
- 過食実験で、人を太らすことはできるのか?
- それ以降の過食実験
- 代謝で、この体重の戻りは説明できるのか?
- 肥満と過食実験の違い(私の考え)
1.過食実験で、人を太らすことはできるのか?
ジョージ・A・ブレイ氏(2020年現在、ペニングトン生物医学研究センターの名誉教授)によると、1960年代まで、肥満は「意思力の欠如」とみなされ、多くの人もそう思った。中には「(肥満)患者がテーブルから離れさえすれば、この問題はなくなるだろう」という者もいたという。
そんな中で、肥満が真の学術的関心領域として受け入れられるようになったきっかけは、過食に関する研究であったと、ブレイ氏は振り返る。過食の研究は肥満の生物学に関する貴重な洞察を提供し始めていたのだ。当時、ボストンのニューイングランド医療センター病院で博士研究員であったブレイ氏にとって、バーモント州での過食研究が1968年に初めて発表された時の興奮は忘れがたいものとなった[1]。
■1960年代後半にイーサン・シムズ教授が行った過食実験がそれにあたる。それまで「食べ過ぎれば肥満になるのは当たり前だ」と思われていたため、このような実験が行われることはあまりなかった。
The Obesity Codeの著者、ジェイソン・ファン氏によると、シムズ教授は近くのバーモント大学の痩せた学生を集め、沢山食べて体重を増やすように指示したが、予想に反して学生達は太らなかった。
教授は「学生が運動量を増やしたのではないか?」と考え、今度は刑務所の囚人達を被験者に選んだ。受刑者らは運動を制限され、毎日 4,000 kcalの食事を残さず食べているか厳しくチェックされた。
受刑者の体重は初めこそ増えたが、その後は増えなくなった。中には、元の体重の20%以上増えた者もいたが、体重の増加の仕方は人によって大きく異なっていたのだ[2]。
この過剰摂取を200日間続けた結果、20人の囚人の体重は平均20~25ポンド(約10kg) 増えた。しかし実験が終了し摂取カロリーが通常に戻ると、ほとんどの被験者は増えた体重を維持するのが難しく、彼らの体重は比較的容易に元に戻った。例外は、体重を落とすのに苦労した2人の囚人だけだった[3]。
ブレイ教授は当時、体重増加中に脂肪組織に生じる代謝の変化を調べるために、このシムズ教授の実験に共同研究者として参加していたのである。その後、1972年には自らがモルモットとなって、過食実験を行ったという。
初めは、毎食の量を2倍にしようとしたが食べきれず、途中からアイスクリームのようなエネルギー密度の高い食品に切り替えたのだ。
開始から10週間で体重は10キロ増えたが、終了すると体重は急速に減り、6週間後には元の75kgに戻り、それ以来何の問題もなく体重を維持しているという。
自己実験終了後の1972年の夏には4人のボランティアが同様に過食を始めたが、彼らも実験終了後には元のベースラインの体重に戻ったという。
ブレイ氏は言う。
この標準体重への急速な戻りは、肥満のほとんどの人が苦労して減量し、減量した体重を維持しようとする時に経験する困難とは対照的であると。
数年かけて肥満を発症する人の多くの人は、過食によって急激に体重が増えた私達とは異なる種類の苦痛に苦しんでいます。彼らににとって、肥満は「うっかり」起こり、一度そうなると元に戻すのは困難を伴う。
過食と減食の試験の歴史やその他の証拠は、肥満の治療が単に「食べる量を減らして運動を増やす」というアドバイスに頼るだけではダメであることを明確に示しているのだ[1]。
2.それ以降の過食実験
アレックス・リーフ(ウエスタンステーツ大学) とホセ・アントニオ(ノーバー・サウスイースタン大学)は、2017年までに行われた過食実験で、体組成に与える影響を評価した研究をレビュー(再検証)した。
体重増加に加え、脂肪量 (FM) と除脂肪量 (FFM) の変化を報告した過食研究は25件あった。研究の期間は9日から100日であり、4件を除きすべて運動不足の集団で実施されたものである[4]。なお、それぞれの研究の目的は異なっており、実験終了後の体重の減少については、必ずしも言及されていない。
いくつか例をあげると、1990年に発表された一卵性双生児を対象とした研究がある。
■ブシャール (ラヴァル大学、カナダ)らは、運動習慣のない男性一卵性双生児12組(24名)を募集した。各参加者のエネルギー必要量は2週間のベースライン期間に計算され、その後 100 日間にわたり(週6日、合計で84日)、一日あたり1,000 kcal(蛋白質 15%、脂質 35%、炭水化物 50%) 過剰に摂取した。
彼らはは大学寮の閉鎖されたセクションに収容され、 スタッフによって 24 時間監視されていました。
体重は平均 8.1 kg 増加したが、そのうち67%が脂肪量 (FM) であった。また、体重の増加の仕方はバラつきが大きく、範囲は 4.3 ~ 13.3 kg であった[5]。
実験終了から4カ月後、双子の体重は平均 61.7 kg となり、開始前のベースライン体重 60.4 kg と比較してわずか 1.3 kg 高かったが、ほぼ戻っていた[1]。
【双子写真出典】:写真素材 freepik
■コンフォード(ミシガン大学)らは、健康で肥満ではない男性7人、女性2人を対象に試験を行った(2012年)。
参加者は2週間病院に入院し、その期間に1日 4,000 kcalの食事(蛋白質 15%、脂質 35%、炭水化物 50%) を摂取した。被験者のエネルギー必要量は、開始前1週間のベースライン期間中に決定された。参加者は3回の食事の他に4回の間食をした。体重は、平均 2.1 kg増加し、そのうち 67 %は脂肪(FM)であった[6]。
このレビューの要約では、炭水化物と脂質の両方を適度に多く、蛋白質を少なく(エネルギー摂取量の11~15%) した食事を運動不足の成人に摂取させると、主に体脂肪 (FM) が増加し、それは体重増加の 60~70 %を占めることが示された。また、体脂肪を除く体重 (FFM)の増加は、骨格筋組織ではなく体内の水分量の増加による可能性があるとしている。
それに対し、蛋白質を大幅に増やした食事では、摂取エネルギーが増加しても、体組成に好ましい変化が見られたとしている[4]。
3.代謝で、この体重の戻りは説明できるのか?
なぜ被験者の体重は実験終了から数週間でに急速に元に戻ったのか?
ブレイ教授によると、このバーモント州での過食研究における印象的な発見の1つは、被験者が過食後に増えた体重を維持するために、体重増加前よりも単位面積あたり多くのエネルギーが必要になったことであるという。ブレイ氏が1970年にカリフォルニア大学に移った時、新しい研究室が稼働し始め、増加した体重を維持するために余分なエネルギーが必要になる理由に関する仮説についての調査が始まった[1]。
■ライベル (ロックフェラー大学)らは、肥満 (BMI 28以上)の被験者 18 名と肥満経験のない被験者 23 名を対象に、通常の体重のときと、摂食不足で体重を10%以上減らした時、または摂食過剰で体重を 10%増やした時のエネルギー消費量の変化を調査した(1995年)。
体重を初期体重より10%以上低いレベルに維持すると、総エネルギー消費量が、体重1kg1日あたり、肥満者で8±5 kcal減少し、非肥満者では6±3 kcal減少した。
また体重を10%高いレベルに維持すると、総エネルギー消費量は、肥満者で8±4 kcal増加し、非肥満者で9±7 kcal増加した。
この研究での結論として、体重の減少又は増加の維持はエネルギー消費の代償的変化と関連しており、これが通常とは異なる体重の維持に抵抗し、元の体重に戻すように機能しているのだと言う。これが、摂取カロリーを減らすことによる肥満治療の長期的な有効性が低い原因である可能性を指摘した[7]。
4.肥満と過食実験の違い(私の考え)
ブレイ教授が言われるように、私も一時的なカロリーの過剰摂取による体重の増加は、根本的な肥満とは全く異なるメカニズムによるものだと思っています。代謝の代償的メカニズムが体重の変化に抵抗するのであれば、なぜ太る人は太っていくのでしょうか?
このブログを通して何度も言うように、太っている人と痩せている人、両者の違いは体重の設定値の違いによって説明できると思っています。(体重の設定値を上昇させるのは腸内飢餓です。)
■例えば、普段から体重が60kgで安定している人が、一時的な過食を強いられ63kgになったとします。
それはグラスに例えると、グラスに97%ぐらい入っていた水が 100 %となり、さらに表面張力が働いてグラスの上端から水が盛り上がっているようなものだと思っています。
逆に、食事量を減らし体重を57kgに保つというのは、グラスの水が一時的に減り、水面がくぼむような状態であると思っています。つまり、どちらも設定体重は変化していません。
■それに対し、60kgの人が数年かけて徐々に太り、安定的に90kgを維持しているとすると、それは設定体重そのものが上昇したこと、つまりグラス自体が大きくなったことを意味します(エネルギーがより高いレベルで釣り合っている状態)。
現在、私達は肥満を助長する「肥満誘発環境」に生きていると言われることもあるが、それは必ずしも高カロリーな食品や座りがちな生活を意味するものではない。一部の研究者も既に言及されている通り、カロリー計算にあまり意味がないことは明白です。摂取カロリーの増減は一時的な体重増加又は減少をもたらすだけです。
私の考える「肥満誘発環境」はむしろ、消化の良すぎる食べ物(精製炭水化物、ファーストフード、加工食品)や食事のバランス(野菜不足)などと関連しています。それらが、朝食抜き・遅い夕食などのいくつかの条件と重なれば「腸内飢餓」が引き起こされる可能性があるのです。
もちろん、研究者なら「太る為には、以前よりもより多くのエネルギーが体内に取り込まれないといけない」と言うでしょう。なぜ腸内飢餓によって、エネルギーがより多く体内に摂り込まれ、人は太るのか?については、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】 腸の飢餓状態でなぜ太るのか?
<参考文献>
[1] Bray GA.「体重増加の苦痛:食べ過ぎの自己実験」. Am J Clin Nutr. 2020 Jan 1;111(1):17-20.
[2]Fung J. The Obesity Code. Greystone books, 2016, P114-116.
[3] Chin Jou. 「肥満の生物学と遺伝学-1世紀にわたる研究」. N Engl J Med. 2014 May 15;370(20):1874-7.
[4] Leaf A, Antonio J. 「過剰摂取が体組成に与える影響:主要栄養素組成の役割」. Int J Exerc Sci. 2017 Dec 1;10(8):1275-1296.
[5] Bouchard C et al.「一卵性双生児の長期にわたる過食に対する反応」. N Engl J Med. 1990 May 24;322(21):1477-82.
[6] Cornford AS et al. 「過食による全身インスリン抵抗性の急速な発達は、骨格筋のグルコースおよび脂質代謝の大きな変化を伴わない」. Appl Physiol Nutr Metab. 2013 May;38(5):512-9.
[7] Leibel RL et al. 「体重の変化によるエネルギー消費量の変化」. N Engl J Med. 1995 Mar 9;332(10):621-8.
2019.07.27
肥満は ”多因子疾患” だろうか?
目次
- 肥満は ”多因子性” だという見解
- 肥満はいろんな条件が重なって起こる
<まとめ>
1.肥満は ”多因子性” だという見解
肥満にはいろんな事が関係すると言われていますが、なぜでしょうか? 私がこのブログで言い続けている「相関性」とも関連する興味深い記述があったので引用します。
(「The Obesity Code」医学博士:ジェイソン・ファン著より引用)
体重が増える原因は何だろう?
これまで実に様々な説が提唱されてきた。
カロリー / 褒美としての食 / 糖分 / 精製された炭水化物 / 睡眠不足 / 小麦 / ストレス / 食物繊維不足 / 脂肪分 / 遺伝的性質/ 赤身肉/ 貧困 / 裕福さ / 乳製品 / 腸内細菌 / スナック / 子供の頃の肥満
こうした様々な説が飛び交い、あたかもが互いに両立することなく、肥満の真の原因はたった一つであるかのように争っている。例えば、最近、巷をにぎわせている「低カロリーダイエット」と「糖質制限ダイエット」をめぐる論争では、どちらかが正しければ、もう一方は間違っているだろうと考えられている。肥満に関する調査のほとんどは、こうした考えに基づいている。だが、この考え方は間違っている。なぜなら、どの説もいくらかの真実味を含んでいるからだ。[1]
(~略~)
おさらいだが、肥満は ”多因子的な疾患” である、ということを理解しないことが、決定的な間違いである。肥満の原因はただひとつではない。
カロリーが肥満を招く? 部分的にはそうだ。
炭水化物が肥満を招く? 部分的にはそうだ。
食物繊維は肥満を予防してくれる? 部分的にはそうだ。
インスリン抵抗性が肥満を招く? 部分的にはそうだ。
糖分が肥満を招く? 部分的にはそうだ。
これらすべての要因が、いくつかのホルモンの経路に作用することによって体重が増えるのであり、そうしたホルモンのなかで最も重要なのが「インスリン」だ。(注:この本の著者の考えであり、私の考えと異なる部分です。)(~略~)
私たちに必要なのは、様々な因子がどのように絡み合っているのかを理解するための枠組みであり、仕組みであり、筋の通った理論である。現在の肥満理論では、「真の原因は ただひとつで、そのほかのものは偽りの原因である」とされることがほとんどだ。結果として、議論が果てしなく続く。
「カロリーを摂り過ぎると肥満になる」
「いや、炭水化物を摂り過ぎるから肥満になるのだ」
「いやいや、原因は飽和脂肪酸の摂り過ぎだ」
「 赤肉の食べ過ぎだろう」
「いいや、加工食品の食べ過ぎだ」
「違うね、高脂肪の乳製品が原因だ」
「いや、小麦の摂り過ぎだ」
「いやいや、糖分の摂り過ぎだ」
「いや、外食がいけないんじゃないか」
・・・こうして、議論は尽きない。どの主張も、部分的には正しいのだから。
それぞれのダイエットは、別々の側面から肥満の解消に取り組んでいるだけで、どのダイエットにも効果はある。だが、どれも「肥満全体」に対する対処法ではないために長くは効果が続かないことに注意しよう。肥満が ”多因子性” のものであることを理解しないままでは、互いに非難しているだけで終わってしまう。[2](引用以上)
<参考文献>
[1]ジェイソン・ファン.「The Obesity Code (太らない体)」, サンマーク出版: 2019, Pages 130-1.
[2]Pages 360-1.
▽肥満の多因子性についての著者の指摘は鋭いと思う。
「消費するより多くのカロリーを摂取するから太る」というような単純なものではなく、いろんな要因が複雑に絡み合うということを私達はまず理解しないといけないのである。
しかし私が言いたいのは、私の腸内飢餓の理論を元にすると、いろんな要因はある程度集約できるということである。
どういう事かと言うと、肥満は目に見える部分においては多くの因子が複雑に絡み合っていて説明がつかないこともありますが、目に見えない『腸』の部分に目を向けると原因はかなり特定されると思っています。
2.肥満はいろんな条件が重なって起こる
まずおさらいですが、”太る”という言葉に2つの意味があるということを理解して下さい。多くの人が言う、「多く食べて太る」というのは、下図の(b)の部分です。
また、これまでの肥満に関する介入研究のほとんどは、摂取カロリーを減らすか、糖質・脂質の摂取量を調整したり、又は運動を増やしたりする比較研究だと思うのですが、彼らがやっている実験は、同じく(b)の部分です。
もちろん個人差はあれ、摂取カロリーを減らし、運動を取り入れれば、誰でもいくらかは痩せるであろう。
しかし、それは著者が言われるように、肥満に対する根本的な対処法ではないためにリバウンドはつきものという訳です。
▽それに対し、(a)の設定体重それ自体がアップするのは腸の飢餓のメカニズムであり、その時にいろんな要因がかかわってきます。
例えば、朝食抜き/ 遅い夕食/ 食事回数/ 精製された炭水化物/ ジャンクフード/ 食物繊維の摂取不足/ バランスの悪い食事、などは肥満の一因と言われますが、それは図の(a)の部分に関連することです。
ここで大切な事は、上記の因子1つ1つは肥満とは関連しているように見えても、両者の間に直接的に肥満を引き起こす『因果関係』がある訳ではありません。むしろ、これらは腸内飢餓に影響を与える因子であり、腸内飢餓が本来の原因(この場合、腸内飢餓が「交絡因子」と言えるかもしれない)であると考えます。
私が言いたいのは、これらいくつかの因子(条件)が組み合わさって腸内飢餓が起こるのであり、(目では見えないけども)7~8メートルもあると言われる腸全体(又は小腸)の部分においては、かなりの割合でピンポイントで決まると言えます。
【関連記事】→ 腸内飢餓をつくる(3要素+1)
まとめ
(1) 『The Obesity Code』の著者ジェイソン・ファン氏が言われるように、私達が太る原因だと信じている多くの要因は、それぞれが真の原因が1つであるかのように争っている。研究者は自分の研究分野(例えば、レジスタントスターチ、朝食を食べることの価値、糖質制限の効果、ホルモン、腸内細菌など)には精通しているかも知れないが、それは必ずしも肥満全体をとらえていないので、一つ一つの理論が一人歩きしてしまうことがある。
今私達に必要なのは、一つ一つの理論がどの様に絡み合うのかという枠組み(フレーム)であり、その点から、私の理論は役に立てると考えています。
(2) 肥満の根本原因は、「設定体重」の部分が高くなっていることであり、それは腸内飢餓によって引き起こされるのである。腸内飢餓は少なくとも4つの要素が重なって起こり、「私達が何を食べるのか」「どの様に食べるのか(生活習慣)」はそのうちの重要な要素なので、多くの事が体重の増加に関係しているように見えるのである(腸内飢餓は「交絡因子」と言える)。
つまり、私達の見ることのできない腸の内部の動きに焦点をしぼると、体重増加の原因の多くは特定されると私は信じている。
2019.02.01
腸の飢餓状態でなぜ太るのか?
目次
- アフリカの飢餓と現代の飢餓
- なぜ飢餓状態で太るのか?
- 設定体重が高くなると何が起こるのか?
このブログの核心部分についてお話します。
おそらく、ほとんどの人にとって、私の理論を信じるのは難しいと思いますが、私は自分が経験した事実をありのままに書くだけです。
これは想像で書いたのではなく、実際に起こった事を自分なりに分析して書きました。私は大学に入学した時、30キロ台まで激やせしていたので、自分がなぜ急激に(2~3日で5キロ近く)太ったのか明確に分かったのです。
(「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著 より引用)
”科学の歴史は別の解釈を示している。人々がこの仮説について1世紀以上考え、何十年も真偽を確認しようと試み、それでもなおそれが真実であると納得させるエビデンス(科学的根拠)が生み出せないとすれば、おそらくそれは真実ではない。(~略~)これは科学の歴史において、一見、理屈に合っていると思われる多くの考えのうち、一度も成功しなかったものの1つである。そしてすべてを再考し、どうすれば体重を減らすことができるのかを見つけ出さなくてはならない。”
(参考文献:ゲーリー・トーベス, 「人はなぜ太るのか」,メディカルトリビューン:2013, Page 66.)
1.アフリカの飢餓と現代の飢餓
飢餓に対する『蓄え』として体に脂肪を溜め込むという考えは、研究者なら誰でも一度は考えるのではないでしょうか?
しかし、この理論は歴史上では研究者から否定された考えだそうです。なぜなら、太っている人はよく食べる人が多いし、アフリカの難民は栄養失調で痩せているからです。
ある人は言うかもしれません。「もし飢餓状態で太るなら、アフリカの難民は太るだろ・・。」
しかし、これは食べたくても食べれないという本当の飢餓状態(栄養失調)であり、私の言う「腸の飢餓状態」とは異なることを理解してください。
アフリカの難民は消化のいい食べ物を食べれる訳ではないし、栄養失調になることで、消化する能力まで衰えてしまうのです。
それに対し、先進国の私たちの方が良質な栄養を摂り、消化の良い小麦、肉、卵などで作られた西洋化された食べ物を食べているのです。だから、腸の内面にフォーカスすると、私たちの方が腸内飢餓状態になりやすいと言えるのです。
現実問題として世界の貧困層でも肥満は問題になっており、そこに共通するのは、カロリーや砂糖の摂り過ぎではなくて、安価な炭水化物に偏った、栄養価の低くバランスの悪い食事(野菜不足など)です。
2. なぜ飢餓状態で太るのか?(植物を例に)
私のブログの中では、「腸内飢餓状態が起こることにより設定体重がアップする」 とお伝えしましたが、それが何を意味するのかを、植物を例にとって説明します。
(1)食べ物を食べて太るというのは、植物では「肥料を与える」ことによってなされます。肥料は私たちの食事に相当し、もちろん、定期的に与えなければなりません。
しかし、たくさん与えたからといって植物が大きくなるわけではないです。むしろ頻繁に与え過ぎると逆効果のときもあります。
それは人間でも同じで、多く食べたからと言って、全員が太る訳ではありません。1日1食でもバランス良く食べれば、腸の中にはまだ十分吸収できる栄養素はあります。
(2)腸内飢餓を引き起こし、設定体重がアップすることによって太るというのは、「植物の根が伸びてより多くの栄養を取り込む」ことを意味しています。(下図)
植物は栄養がない時に、栄養を求めて地中深くに根を張りますが、我々人間も7~8mあると言われる腸全体(又は小腸)ですべての食べ物を消化し腸内飢餓状態が生じれば、同じような現象が起きます。
(「小腸は第2の脳である」とか「意思がある」と言われますが、私は小腸の意思をはっきりと感じました。)
■実際、腸のヒダにある絨毛(ジュウモウ)(注1)が伸びる訳ではありませんが、以下の事象が起こると考えています。
(注1)より多くの栄養を吸収するため、小腸内部の表面はヒダ構造になっており(図1)、その表面には無数の絨毛と呼ばれる突起物が、絨毛の表面にはさらに微絨毛が発達しています。すべて広げると、腸内部の表面積はテニスコート1枚分以上ともいわれます。
まず、腸(特に小腸)は「食べ物があるかないか」を感知する最初の器官であると私は考えますが、それはエネルギー量を元にしているのではなく、食べ物がどの程度消化されたかという消化の進行具合で判断されている(そのため、食事量が多くても、消化の良い炭水化物などに偏れば腸内飢餓は誘発されうるのです)。
繊維など含め、未消化の物質が腸内にある程度残っている時は、空腹であっても「まだ食べ物がある」というように体は認識するが、すべての食べ物が消化された時(又はそれに極めて近い状態で)、「食べ物がない」というシグナルが腸(小腸)から脳に伝達される。
すると、体はより多くの栄養を吸収しようとし、小腸の絨毛(又は微絨毛)に付着する微細な物質が剥がれ(図2)、吸収する面積が広がることによって、絶対的な吸収率がアップします。
これによって、体重の設定値そのものの上昇を示唆する体重の増加が起こり、わずか3~4日でより高い設定値での平衡状態に達する。
つまり、体重の増加は過剰なカロリーが少しづつ蓄えられるのではなく、普段は一定の設定体重を保っているが、ある時に300gか 500 gかは分からないが、一気にジャンプします(図3)。
まとめると、肥満の人と痩せている人の根本的な違いの1つには、吸収能力が大きく関与しているというのが私の考えです。
【関連記事】
重要性を増す体重の「設定値」理論
日本では、肥満者自身が「私は水を飲んでも太る体質だ」というように表現することがある。もちろん水だけで太る訳ではないが、私はあながち間違った表現ではないと思う。それくらい肥満者の吸収率がいいということを表しているのだ。
3. 設定体重が高くなると何が起こるのか?
(1)一度太ると痩せにくくなります
体重の設定値がアップして体重が増えるというのは、 「入るエネルギー/ 出るエネルギー」の観点から言うなら、釣り合うポイントがアップしたということであり、よりポジティブなエネルギー循環が生まれることで、痩せるのがさらに難しくなる可能性があります。
ダイエットで、一時的に食べる量やカロリーを減らすというのは、植物の例で言うなら「与える肥料を減らす」ということですが、それは一時的な減量であって、また普通の食事に戻れば元の体重まで戻る可能性が高いでしょう。
さらにダイエットする度に、リバウンドして以前より体重が増えてしまうというのは、食事を抜いたり少なく食べて、空腹を長時間も我慢するダイエットでは、腸内飢餓状態ができやすくなり、設定体重がさらにアップしていく可能性があるのです。
(2)筋肉も同時につく
体脂肪がついた後にそれを支えるために筋肉がつくのではありません。栄養全体の取り込みがアップするので、体重の増加は、少なくともある程度までは、体脂肪だけでなく、筋肉など徐脂肪組織の増加も伴うと考えています。
太っている人が体脂肪を落とすと、胸板や太ももが厚く非常に筋肉質です。体脂肪がついたのちに、その重さを支えるために胸板や首回りの筋肉が厚くなるでしょうか?(もちろん、これは人によって差異がある。)
(3)原因と結果が逆転する
タンパク質も含めて栄養全体の取り込みが増えることによって、エネルギーのポジティブな循環が生まれ、以下の現象が起こると考えます。
消化酵素、ホルモンなどもタンパク質(アミノ酸)からできるので、消化する能力がアップし、食欲などをつかさどるホルモン系統に変化をもたらす可能性があると考えています。だから体の大きい人、胃腸の丈夫な人が他の人より多く食べたからといって、不思議ではありません。
多く食べるから太るのではなく、体が大きくなればなるほどお腹がすく、だから多く食べてしまうという原因と結果の逆転現象が存在します。
【関連記事】→ 太った後に、過食し運動しなくなった
(4)太りやすい人はより太りやすく、痩せている人は太るのが難しい
もし全員が同じように食べたとしても、体の大きい人・太っている人のほうが空腹を我慢していることが多く、体の大きさを考慮すると、相対的に少なく食べていることになり、徐々に太りやすくなる傾向があります。
適度に多く食べても太るし、食事を抜いて空腹を我慢していれば、長期的にさらに太りやすくなるという悪循環におちいる場合があります。
【関連記事】 相対的に少なく食べている、とはどういうことか?
逆に痩せている人が、毎日3食ある程度のバランスをもって小まめに食べれば、腸内飢餓状態はできにくく、摂取カロリーに関係なく一生体型が変わらないことの方が多い。よってこの点に関しては、「太りやすい体質」「太らない体質」というのは、肥満遺伝子などではない。
また私のようにすごく痩せている人にとっては、痩せることにより摂り込める蛋白質・栄養素なども減り(私は今でも貧血気味である)、ネガティブなエネルギー循環が続く。胃腸を支える筋肉が減少することにより胃下垂になったり、十分な消化酵素が分泌されないことによって、消化する能力も低下してしまう。
結局、痩せた人は痩せたままでいることになり、これが痩せすぎの人にとっての悪循環である。
2015.11.21
人も植物も反発する力(逆に働く力)が大きい
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- 反発する力の例
- 人が太るのも "飢え" に対抗する力と言える
- 反発する力の例
1.反発する力の例
人も植物も順応性というよりは反発する力(逆に働く力)が大きい。
何が関係あるの?と思われるかも知れませんが、最後までお読み頂けると幸いです・・・。
”少ししかなければ、摂り込もうとする力が強く働き、豊潤にあれば、摂り込もうとする力は弱まる。”
(1)稲を栽培するときに、1週間ほど水も肥料も与えないで土がヒビ割れするくらいまでほっておくんです。「中(なか)干し」と言うんですが、これによって根が地中深くに伸びて、稲穂ができても稲が倒れにくくなるんですね。根が栄養を摂ろうとして地中深くまで伸びるんです。
(2)フランスで栽培するワイン用の葡萄、実は肥沃な土地よりも痩せた土地の方がいい葡萄ができるんです。
肥沃な土地では根が深く伸びないから、味に深みがでない。痩せた土地の葡萄は地中深くに根が伸びるために、いろんな断層を超えて味に深みがでるんです。
(3)芝生は適度に踏んだほうがいい芝生ができる。人間も適度に苦労を味わったほうが本当の有難味が分かり立派な人として成長していける。
(4)筋肉に負荷をかけると筋肉は太くなり、使わなければ筋力も低下する。(エネルギーを出せば返ってくる)
(5)「この商品は限定10個ですよ」と言われると、並んでも欲しいと思うが、いくらでも商品があれば、別に欲しいとも思わない。
(6)ありふれた情報はいらないが、誰も知らないとっておきの情報なら欲しい。
2.人が太るのも "飢え" に対抗する力と言える
太るメカニズムも実は同じで、身体についてしまった脂肪(筋肉)はたくさん食べれば⇒太る という順応タイプではなく、飢餓に対して蓄えようとする反発する力がまず必要です。
栄養やカロリーはもちろん必要ですが、植物における肥料と同じでその後の話です。
つまり、太ってしまったという人は、身体からは飢餓状態にあると判定され、栄養がきたときに蓄えれる(摂り込める)身体になっているということです。
「何をもって飢餓と判定されているのか?」というのが実は重要で、
(1)食べる量が少なくても、4~5時間おきに食べ、繊維質の野菜や乳製品・脂肪など未消化のものが残る状態=『食べ物がある』⇒(つまり飢餓ではない)
(2)たくさん食べても、炭水化物に偏って10~12時間近く食べないで、すべて消化され空腹の状態=『食べ物がない』⇒(つまり飢餓状態)
と判断される。
すべては、6~7mあると言われる腸(小腸)全体で判定されていることであり、「炭水化物を多く食べて太った」と感じる人が多いのはその為です。
詳しくは 『私の言う、”(腸内)飢餓”の定義』をお読みください。
2015.03.25
偏食と不規則な生活が腸内飢餓をつくる(3要素+1)
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目次
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- 腸内飢餓を加速する "3要素” とは?
- もう一つの重要な要素『+1』とは?
1.腸内飢餓を加速する ”3要素” とは?
設定体重(set-point weight)をアップさせるのは空腹(腸内飢餓)のメカニズムであるといいましたが、その腸内飢餓を作りやすくする『3要素+1』についてお話したいと思います。
【まず、以下のブログをお読みください】
➡「私の言う、(腸内)飢餓の定義」
日本で、カロリー以外で太る原因としてよく言われるのが・・・
■バランスを欠いた食事
・ファーストフード、ジャンクフード
・糖質(炭水化物)の摂り過ぎ
・野菜不足
■生活のリズムの乱れ(不規則な生活)
・遅い夕食
・朝食または昼食を抜く
・間食の有無
などですが、どれか1つだけでは腸内飢餓のメカニズムは起こりにくく、3つの要素(+1)が同時に重なった時に、それは起こりやすくなると考えました。
その ”3つの要素” とは、以下のものです。
(1)何を食べるのか?
(2)次の食事までの空腹の時間
(3)その人のもつ消化力の強さ(胃酸、消化酵素など)
【何を食べるのか?】
野菜等の繊維質に乏しく、精製された炭水化物(デンプン)と消化の良いタンパク質(少量でも可)に偏った食事が一番太りやすい。食事中の脂質を少なくすると、消化が早くなるため腸内飢餓はできやすくなります。
決して食べる「量」ではなく、少なく食べていても、食べた物の「質やバランス」により太ることがある。
それに対し、野菜の食物繊維・乳製品・低G.I.食品・脂質・肉などを含むバランスの良い食事は腸内飢餓を起こりにくくする。
また、食べるスピード、噛む回数、食事中の水分摂取などもこの項目に影響を与える。
【次の食事までの時間】
朝食を抜いたり夜の食事が遅くなることを含め、不規則な生活が原因で太ったというのは、食事の間隔の問題です。
つまり空腹を長時間にわたり我慢していることです。
夜遅い食事が必ず太るわけではありません。もし食事が夜遅くになるのであれば、夕方にでも間食(チョコ、牛乳、サンドウィッチなど)して小腹に入れておくことで、腸内飢餓は防ぐことができます。
【消化力について】
胃腸が丈夫で消化する能力が高い人は、消化の遅い人に比べて、早く腸内飢餓をつくりやすくなります。腸内飢餓は、食べた量とは関係なく、腸全体での消化の進行具合で判断しているからです。
個人差があるが、胃下垂であったり、胃腸が弱い人は、腸内飢餓状態をつくることすら難しい場合があります。
もし肥満に遺伝的な要因があるとしたら、私は「消化力の違い」を、まず第一にあげるだろう。そして、それは人種間だけでなく家族間でも異なるかも知れない(もちろん消化力は後天的にも変わる)。
2.もう一つの重要な要素「+1」とは?
3要素以外にもう一つ重要な事を『プラス1』としましたが、それは「連続性」によって説明できます。どういうことかと言うと、今食べた食事の「前の食事」さらに「その前の食事」などをバランスの悪い食事や簡単な食事で済ませているか、否かです。
(朝食:和食の例)
つまり、昼食を簡単に「ハンバーガーとコーヒー」で済ませ、そして夜の9時まで一切何も食べられなかったとします。
しかし、朝食でしっかりと乳製品、サラダ、海藻、豆、バターなど食べていれば腸内飢餓メカニズムは起こりにくくなります。(注:もちろん個人差があります)
その理由は、腸全体が約7~8m(小腸は約6m)と長いために、食べ物が腸を移動するのに十数時間かかるからです(個人差があります)。
腸内飢餓は腸の全体(あるいは小腸のみ)で判断されているため、この様に、前の食事(さらにその前の食事)、間食の影響も受けます。
「3食きっちりと食べ、バランス良い食事が太りにく」と言われていますが、それは上記で説明したことの裏返しでもあると言えるでしょう。
2015.01.12
”太る” という言葉の2つの意味
目次
- 混同して使われていることが問題
- 現状維持の基点に戻る場合(A)
- 現状維持の基点がアップする場合(B)
先ず、この記事を読む前に
「一番優先されているのは現状維持」 をお読みください。
1.混同して使われていることが問題
普段、私達が何となく使っている『太る』という言葉には、2つの意味があると考えます。混同して使われているために、いろんな誤解が生じていると感じました。
例えば、
「カロリーをたくさん摂れば太る」し
「ダイエットして食事制限したにもかかわらず、リバウンドして以前より太ってしまう・・・」というようなことです。
私は激痩せした時に気付いたのですが、これが理解されていないために間違った情報が氾濫し、大半の人が間違ったダイエットをしている。そして、これが理解してもらえれば、『食べても太らない』という人の理由もわかるはずです。
2.現状維持の基点に戻る場合(A)
まず1つ目は、現状維持メカニズムによる、設定体重(set-point weight)に戻ろうとする場合の『太る』です。
太っている(太り気味)人の多くは、太りたくないという理由から日々の摂取カロリーを減らしたり、運動したりして体重を低く抑えています。その場合、体は設定体重に戻ろうするので、当たり前ですが、カロリー制限を止めて以前の様に食べると太ります。(注:一時的な過食によって、設定体重を超えて体重が多少増加する場合もあるが、その場合も設定体重それ自体は変化しておらず、体重の増加は一時的であると考えれる。)
「高カロリーな食品で太る・・・」
「お菓子やケーキを食べたら太る・・・」
と言われますが、ほとんどはこちらの意味です。
「私、食べたらすぐ太る体質なので~」という女性をたまにお見かけしますが、恒常性の機能により体重が戻ろうとするため、ミニダイエット & ミニリバウンドを繰り返しているだけです・・・。
▽俳優の渡辺徹さんは、元々は太っておられたらしいですが、”太陽に吠えろ” でデビューされた時はダイエットして70キロ台だったようです。しかし、結婚される頃(26才)には我慢しきれずガッツリ食べたら、130キロまで太られたそうです。(ダイエットをするたびに最高体重が更新したとも言われていますが、これは後で説明します)
その後、奥様の手料理で一時はマイナス40キロのダイエットに成功したものの、「90キロ➡ 120キロ➡ 85キロ➡ 95キロ➡ 83キロ➡ 101キロ」というように、ダイエットとリバウンドを繰り返されてたというのは有名です~。
(ビーカーに例えると、同じビーカーの中で水の増減を繰り返しているだけ・・・)
3.現状維持の基点がアップする場合(B)
これに対して、2つ目の『太る』というのは、現状維持の基点となる設定体重の値、それ自体が上がっていく場合です。
カロリーを気にして、食べる量を減らしているにもかかわらず、「この1年で3キロ太った・・・この3年で10キロ太った・・・」というように最高体重が更新していく場合です。
これらは食べる量や、摂取又は消費されるカロリー量に基づくのではなく、どちらかと言えば「空腹」(厳密には、私は『腸内飢餓』と定義しました)のメカニズムによると考えています。
【関連記事】➡ 私の言う、”腸内飢餓”の定義
例えば、これまで体重60キロを超えなかった人が、この1年で最高体重を更新し63キロになったとします。この場合、設定体重が60➡63キロになったということで、あなたの現状維持となる基準ライン自体が上昇したということを意味します。
ダイエットしたけど、リバウンドして元の体重まで戻るのは現状維持メカニズム(A)ですが、元の体重より増えてしまうのはこちらの(B)のメカニズムです。それはカロリー制限ダイエットをしている時に腸内飢餓状態が生まれてしまう可能性があるためです。
一般的には「代謝が低下しているときに食べるから、より体重がアップするんだ」と言われていますが、太っている人の方が、基礎代謝が高いことは証明されています。
極論すれば、お相撲さんが太るのは(B)の腸内飢餓メカニズムと(A)のミックスであり、見た目には食べて太っていくように見えますが、ダイエットしたけど、逆に以前よりも太ってしまった人とメカニズム的には同じだと考えます。
【関連記事】➡ お相撲さんが太るのも、飢餓メカニズムと言える
2015.01.08
一番優先されているのは現状維持(設定体重とは?)
目次
- 人それぞれに現状維持的な機能がある
- 「設定値」理論との出会い
1.人それぞれに現状維持的な機能がある
まず体重に関する話を進めていくうえで一番大切なことをお話しますね~。
人にはそれぞれ、その時点での現状維持的な機能が働いているという仮定です。
この現状維持こそ、体重管理において、すべての前提にあるものであると考えています。
例えば、3人の女性がいて、
(Aさん)48キロ・・・食べても太れない体質
(Bさん)58キロ・・・油断するとすぐに2キロ太ってしまう
(Cさん)85キロ・・・ 〃
1年中を通して忙しい時は少し痩せたり、また食べてゆっくりすれば少し太ったり・・・を繰り返しているけど、細かなカロリー計算しなくても、人の体型ってそれほど変わらないものです。太っている人は太っているし、痩せている人は痩せている。つまり、人ぞれぞれに恒常性の機能に基づく安定的な体重があると考え、私は当初「基本体重」を以下のように定義しました。
基本体重 (Base weight) =過度な運動や仕事はせずに3~5日ゆっくりして、一日のエネルギー必要量に基づくカロリーを摂取したときに戻ってしまう安定的体重。
しかし、公式には証明・定義されていないものの「体重の設定値」「設定体重」という概念が一部の研究者の中で既にあること、また英語に翻訳した「base weight」は研究などで使用される「baseline weight (ベースライン体重)」 と紛らわしいことから、今後は「体重の設定値」又は「設定体重」を使用することとする。
この例の場合、Aさんの設定体重は48キロですが、Bさん、Cさんは油断するとすぐに戻ってしまう体重である、それぞれ60キロ、87キロが実際の設定体重と言えます。その体重に戻るように恒常性による現状維持の機能が働いいているということになります。
ですから、3人の体重をカロリー摂取量や消費量だけで規定するのには無理があり、Aさんが毎日、必要とするカロリーの100kcalオーバーの食事を何か月~何年も繰り返せば、それが脂肪として蓄積され、やがて60➡ 70➡ 80キロとなるというのは間違いです。(なる場合もありますがまたそれは別の理由で・・・)
一般的に、太っている(太り気味の)人はカロリー制限して控えめに食べて生活していることが多いため、普段の体重は設定体重より低く、痩せている人は普段からカロリー制限などしていないので、設定体重と普段の体重が近いと言えます。
その為、痩せているAさんは食べても体重は増えないのに対し、Bさん、Cさんは食べるとすぐに太ってしまう・・・ということが考えられます。(注:一時的な過食により、設定値を超えてさらに体重が増加する場合もあるが、その場合の体重増加は一時的であり、設定値そのものに変化はないと考えています。)
【関連記事】➡「”太る”という言葉の2つの意味」
■私の好きなボクサーである長谷川穂積選手。
(第26代WBC世界バンタム級王者として10度防衛、第42代WBC世界フェザー級王者)
バンタム級は体重のリミットが53.5キロ。身体が成長するにつれ減量も過酷になり、防衛戦では1か月前後で10キロ以上の減量をしなければいけなかったそうです。しかし試合が終わり食べると、わずか数日で10キロ戻ると言われていました。
それくらい戻るスピードは早いんだなと思います。
今まで、ダイエットされてきた方なら少しは思い当たる節があるのではないでしょうか?
2.「設定値」理論との出会い
私達のほとんどは、日々のエネルギー摂取量、消費量を意識的に調整しているわけではありません。それにもかかわらず、個人の体重は比較的安定しています。
個人の体重の変動は6~10週間で 0.5 %程度に留まります[1,2](Khosha and Billewicz 1964)。横断的データによると、長期間にわたる体重の変化は依然としてわずかで、糖尿病患者でさえも、5年間の体重変化係数は 3.7~4.6 %に留まると言われています[1,3](Goodner and Oglive 1974)。
1970年以降、世界的に肥満が増加している状況では、その体重変化係数はもはや正確ではないかも知れないが、痩せた状態を維持している人は多いし(特にアジア圏)、過体重や肥満の人でさえも、重いなりに、彼らの体重を何十年も維持しているのです[4]。つまり、日々の暮らしで多少の体重の変動はあるにしても、長期にわたり特定の範囲内に体重、体脂肪を維持しようとする体内の調整メカニズムがあるはずです。
近年では、人体の恒常性調整の役割が認識され、体はエネルギーバランスを制御する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持する[5]という証拠が増えつつあります。
個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を低下させ、さらに、食欲を増進させるホルモン変化を誘発し、行動の変化を通じて食の嗜好を修正し、体重を設定値の範囲に戻すのです[6]。
このフィードバックメカニズムは減量だけでなく、一時的な過食にも当てはまることが知られています[7]。
私はこのブログを書き始めた時は、この体重の「設定値」に関する理論の存在は全く知りませんでしたが、私がずっと思っていたこととほぼ合致しました。設定値理論を理解することは、肥満の蔓延の防止、効果的な減量法の提案という観点から非常に重要だと考えています。
特に、1970年代からの肥満の世界的な増加原因を説明するには、(I)遺伝的・生物学的要因と、(II)環境・行動要因がどの様に組み合わさって体重の設定値が上昇するのかを理解することが必要だと思っています。私の腸内飢餓理論はそれに役立てると信じています。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】
<参考文献>
[1]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen.「体重設定値:決定と調整」. The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.
[2]KHOSLA T, BILLEWICZ WZ. 「体重変化の測定」. Br J Nutr. 1964;18:227-39.
[3]Goodner CJ, Ogilvie JT. 「糖尿病クリニックの患者における体重の恒常性」. 1974 Apr;23(4):318-26.
[4] Gary Taubes.「人はなぜ太るのか」. 2010, Page 69.
[5]Egan AM, Collins AL. 「栄養不足に対するエネルギー消費の動的変化:レビュー」. Proc Nutr Soc. 2022 May;81(2):199-212. doi: 10.1017/S0029665121003669. Epub 2021 Oct 4. PMID: 35103583.
[6]Ganipisetti VM, Bollimunta P. 「肥満と設定値理論」. 2023 Apr 25. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan–. PMID: 37276312.
[7]Bray GA.「体重増加の苦痛:食べ過ぎの自己実験」. Am J Clin Nutr. 2020 Jan 1;111(1):17-20.
2014.09.11
私の言う 「腸内飢餓」 の定義
まだの方は先にこちらの記事をお読みください。
「一番優先されているのは現状維持」
「”太る”という言葉の2つの意味」
前回の記事 『 ”太る” という言葉の2つの意味』 において、設定体重(set-point weight)をアップさせるのは "空腹" のメカニズム(厳密には腸内飢餓)である・・・と言いましたが、それを簡単に説明させて頂きます。
もちろん、糖質やタンパク質・脂質を含めて、太る為に栄養素は必要ですが、それは後の話・・・。太れる体になるのと、実際に食べて太るのにはタイムラグ(時間のずれ)があるからです。
※ここで言う『腸内飢餓』とは、何日にも渡って全く食べない(食べれない)ことではありません。
私の言う ”腸内飢餓”の定義
(1)食事をして胃腸が動いている状態で起こる。
(2)食事と食事の間(朝食~夕食、昼食~遅い夕食、夕食から翌日の昼食 etc)にできる、腸内にある物質がすべて消化されてしまった状態をいう。(認識しているのは、7~8mあると言われる腸全体、あるいは小腸だけかも知れない)
つまり、栄養を摂ろうと胃腸が激しく動いているのに、すべて消化されてしまって体が『食べ物がない・・・』と認識する状態であり、単なる「空腹」と異なるのは、以下の点です。
a)タンパク質・脂質・水も含めて、基本的にすべて消化された状態
b)繊維質が全くない、又はそれに近い状態(※精製された炭水化物が太りやすいというのは、この理由による)
▽人間は進化の過程で、飢餓に備えて肝臓・骨・筋肉・脂肪組織などに栄養を貯め込むことを行ってきました。一度食べたら、次はいつ食にありつけるか分からないからです。
その観点から見ると、肥満も飢餓に際して体にエネルギーを貯め込もうとするメカニズムのはずです。
しかし、それならあまり食べれない(食べない)人のほうが、栄養を貯め込もうとするメカニズムがより強く働くはずです。それにもかかわらず、この飽食の時代に、食べている人が太っていて、食べる量が少ない人が痩せている・・・様に見えるから誤解をうけるのです。
これには訳があります。(私の実体験を元にした理論です)
身体が、「何をもって飢餓 (=食べ物がない)と認識しているのか?」という問題です。
「どれだけ摂取したのか?」という絶対量で判断されているのではなく、腸内での消化の進行具合をもって「食べ物があるか、ないか?」が判別されているからです。
つまり沢山食べても、消化の良い炭水化物とタンパク質に偏る食事で、空腹を何時間も我慢している状態は飢餓に近い状態になります。
逆に少量しか食べてなくても、繊維質の多い野菜や、乳製品・肉・脂質などをバランスよく5~7時間おきに食べていると、消化されない物質が24時間絶えることなく腸内に残ってしまうので飢餓とは判別されません。
腸の中では、消化されない物質が残っている状態を「食べ物がある」状態と認識しているのです。
大昔の私達の祖先が、ナッツや肉や根菜などを食べ、丸一日食事にありつけなくても「飢餓」とはならなかったのに対し、現代の私達は、たった7-8時間でも食べる物によっては「飢餓である」と判断されてしまう可能性があるのです。
これは、1980年頃から世界で発生する肥満の増加が 、摂取カロリーの増加に必ずしも起因するのではなく、むしろ①精製された炭水化物や消化の良い食べ物、②ライフスタイルの変化に伴う不規則な食習慣(朝食抜き、遅い夕食など)と関係しているーということを伝えるための重要なメッセージです。
【関連記事】
➡「少ししか食べてないのに太る、とはどういうことか?」