— トピックス —
遺伝子 Vs 生活環境
2025.02.25
肥満の増加は、超加工食品の消費量と密接に関係している
要 約
1.2009年、サンパウロ大学の研究グループは、食品加工度に基づく「NOVA分類」を提唱した。
NOVAでは、食品を以下の4つに分類している。
・未加工または最小限の加工食品
・ 加工食品原料
・ 加工食品(PF)
・ 超加工食品(UPF)
2.超加工食品(UPF)は、多数の工業的プロセスを経て作られる食品であり、精製炭水化物、添加糖、塩分、脂肪を多く含み、エネルギー密度が高い。一方で、食物繊維や微量栄養素は少ない傾向がある。
3.アメリカやイギリスでは、一日の総エネルギー摂取量の 50%以上をUPFが占めている。多くの研究では、総エネルギーに占めるUPFの割合が高いほど、肥満リスクが高いことが示されている。一方で、野菜などの未加工食品の摂取量は、肥満と逆相関していた。
4.UPF摂取量が多い人ほど、果物、野菜、ナッツ類、魚などの摂取量が少なく、食事全体の質(栄養価)が低下する傾向がみられた。
5.(超)加工食品の食事では、ホールフードの食事に比べて食事誘発性熱産生(DIT)が低下し、実質的なエネルギー獲得量が増加する可能性がある。また、UPFの食事では、自由摂取下でのエネルギー摂取量が増加しやすいことも示された。
<私の考え>
6.世界的な肥満の増加は、単なる摂取カロリーの増加だけでは説明しきれない可能性がある。私は、「食品加工」そのものが人体に与える影響に着目している。
(超)加工食品は、食物繊維の減少や食品構造の単純化によって、極めて効率的に消化・吸収されやすくなっている。その結果、食事全体の質が低下すると、腸内に未消化物が残りにくい状態が形成されやすくなり、私が「腸内飢餓」と呼ぶ生理的状態につながる可能性がある。
【全 文】
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目次
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- NOVAシステムによる食品分類
- 超加工食品の問題点
- 超加工食品の消費と肥満との関連
- 超加工食品が食事全体へ与える影響
- 超加工食品と腸内飢餓との関連
低炭水化物、ケトジェニック、パレオ、低脂肪、ビーガンなど、さまざまなダイエット法をめぐる論争は、国民に大きな混乱と栄養科学への不信をもたらしている。しかし、ほとんどのダイエット法に共通する推奨事項があることは、あまり知られていない。それは、「超加工食品を避ける」ことです[1]。
実際、多くの国では、肥満率の上昇が超加工食品の消費量の増加とほぼ並行して進んでいることが報告されています。今回は、その背景にある要因について考えてみたい。最後に、私の「腸内飢餓」理論との関連についても触れます。
1. NOVAシステムによる食品分類
NOVA (頭文字ではない)とは、食品を栄養素ではなく、加工の程度や目的によって分類するシステムである。ブラジルのサンパウロ大学の研究グループによって、2009年に考案された[2]。
従来の食品分類では、食品や材料は、植物や動物の種類、あるいは含まれる栄養素に基づいて分類されてきた。
そのため、全粒穀物が「朝食用シリアル」やクッキーと同じカテゴリーに分類されたり、新鮮な鶏肉や豚肉がチキンナゲットやソーセージと一緒に分類されることもある。しかし、健康への影響を評価するうえで、従来の分類には限界があった[3]。
NOVA分類法では,食品を加工の性質、程度、目的に応じて、以下の4つのグループに分類しています。

2.超加工食品の問題点
そもそも食品加工とは、「生の食材を、消費・調理・保存に適した状態にするための操作」であり、ほとんどの食品は食べる前に何らかの加工を受けている。つまり、「加工」そのものが悪いわけではない。
しかし超加工食品 (UPF) は、グループ1の自然食品をほとんど、あるいは全く含まない場合がある。さらに、食品由来の物質や添加物を組合わせ、複数の工業的プロセスを経て作られる調合物であるため、部分的に食品の性質を変更した食品とは異なる特徴を持つ[3]。
これらの食品は、精製穀物、添加糖、塩分、脂肪を多く含み、エネルギー密度が高い。一方で、食物繊維、タンパク質、微量栄養素の供給源としては貧弱である。
さらに、最終製品の望ましくない品質を補うために、香料、着色料、乳化剤、甘味料などの添加物が加えられることも多い[5]。
それにもかかわらず、1980年代以降、超加工食品 (UPF) 消費量は、先進国だけでなく途上国においても急速に増加しており、それは主に多国籍企業によって牽引されている。
UPFは、強い嗜好性を持ち、安価で保存性が高く、いつでも手軽に食べられるため、多くの人々の支持を得ていると言えるであろう[3]。

これまでのNOVAに基づく研究では、最小限に加工された食品や家庭での調理が減少し、食生活が超加工食品中心へ移行することは、不健康な栄養プロファイルや、いくつかの食事関連疾患の増加と関連していることが示されている[3]。
3.超加工食品の消費と肥満との関連
「総エネルギー摂取量に占める超加工食品 (UPF) 由来のエネルギーの割合」を報告した成人を対象とした研究では、アメリカやイギリスで 50%を超えており、カナダでも約 45~52%に達している。一方、フランス、スペイン、ブラジル、マレーシアなどでは比較的低いものの、それでも 20~36% 程度を占めていた[6]。
♦アメリカの成人を対象とした横断研究(2005~2014年)では、参加者は平均して総エネルギー摂取量の 56.1% をUPFの形で摂取していた。UPF摂取量が最も多い五分位(注1)のグループでは、UPFが総エネルギー摂取量の 84.5%を占めていたのに対し、最も少ない五分位のグループでは 25.4%であった[7]。
(注1)五分位とは、データを低い順に並べて5等分した各グループを指す。
UPF摂取量の増加は、多くの国で肥満率の上昇と関連していることが報告されている。
♦ブラジルの 2008~2009 年の家計調査に基づく横断研究では、UPFの家庭内消費量は、平均BMIおよび肥満の有病率の両方と正の相関を示した。UPF消費量が最も多いグループでは、最も少ないグループに比べて、肥満となる確率が 37% 高かった[9]。
♦イギリスの国民食事栄養調査(2008~2016年)を用いた横断研究では、UPFから摂取されるエネルギーの割合は、総摂取カロリーの約 35%(第1四分位)から約 74%(第4四分位)の範囲であった。
UPFの摂取量が多いほど、BMI、腹囲、肥満率は高く、総摂取カロリーに占めるUPFの割合が 10% 高くなるごとに、肥満リスクは 18%増加していた。また、UPFの摂取量は、男性、喫煙者、より若い人、社会階級の低いグループで高い傾向がみられた[10]。
♦スペインのナバラ大学卒業生を対象にした前向きコホート研究では、8,451人を約9年間追跡した。
UPF摂取量が最も多いグループの参加者は、最も少ないグループの参加者に比べて過体重または肥満を発症するリスクが 26% 高かった。このグループでは、UPF摂取量とは対照的に、平均して野菜の摂取量が最も低かった。
全体的にみて、UPFの摂取量が多いほど、地中海式ダイエットへの遵守度は低くなる傾向がみられた[11]。
同様の関連は、ラテンアメリカ15カ国を対象とした研究や、アメリカ・カナダを含む他国の研究でも報告されている[4,7,8]。
4. 超加工食品が食事全体へ与える影響
(1)食事全体の質の低下
♦アメリカの研究グループは、国民健康栄養調査(2015~2018年)のデータを用いて、UPF摂取量と「食事全体の質」との関連を調査した。対象は、5,919人の子供と 10,064人の成人であり、食事の質は、米国心臓協会(AHA)食事スコアおよび健康的な食事指数(HEI)-2015を用いて評価された[12]。
その結果、UPFの摂取量が多いほど、食事全体の質は大きく低下していた。
不健康な食生活を送っていると推定された子供の割合は、UPF摂取量が最も少ないグループでは 31.3%だったが、最も多いグループでは 71.6%に達していた。成人でも同様の傾向がみられた。

また、UPF摂取量の増加に伴い、精製穀物・加糖飲料・添加糖などの摂取量は増加したが、逆に、果物・野菜・ナッツ類・魚などの健康的な食品の摂取量は減少した。
研究グループは、UPFの摂取量が多いほど、子供と成人の食事全体の質(栄養価)が大きく低下すると結論づけている。この結果は、これまでの数カ国で実施された先行研究と一致しているという[12]。
♦イタリアの研究グループは、「食事のタイミング」と食品加工度との関連について調査した。イタリア栄養健康調査(2010~2013年)の 8,688人のデータを分析した結果、朝食・昼食・夕食の時間が遅い人ほど、未加工または「最小限の加工食品」の摂取量が少なく、加工食品やUPFの摂取量が多い傾向がみられた[13]。
さらに、遅い時間の食事は、地中海式ダイエットの遵守とも逆相関していた[13]。地中海式ダイエットは、主に果物・野菜・豆類・ナッツ・オリーブオイル・魚を中心とする食事パターンであり、体重増加の抑制との関連が報告されている[14]。
(2)実質的な摂取エネルギーの増加
アメリカの研究グループは、加工食品(PF)とホールフード(WF)が身体のエネルギー消費に与える影響を比較するため、クロスオーバー試験を実施した。18名の被験者は、加工度のみが異なる等カロリーの2種類のサンドイッチを摂取した。
WF食は、マルチグレインパン(全粒穀物やヒマワリの種を含む)とチェダーチーズで構成され、一方 PF食は、白パンとプロセスチーズ製品で構成されていた。
その結果、PF食を摂取した後の食事誘発性熱産生(DIT)(注2) は、WF食と比べて 46.8%低下していた。研究グループは、このDITの差によって、PF食では実質的なエネルギー獲得量が約 9.7%増加すると結論づけている[15]。
(注2)食事誘発性熱産生(DIT)とは、食後に消化・吸収・代謝のため、数時間にわたってエネルギー消費が増加する現象を指す。
研究グループは、その理由として、加工食品は自然食品よりも構造的・化学的に単純で、消化しやすいことを挙げている。
例えば穀物の精製では、ふすまや胚芽が除去されることで、微量栄養素、食物繊維、フェノール類なども失われる。
その結果、消化管の活動や代謝に必要なエネルギー消費が減少し、DITの低下につながる可能性がある[15,17]。
さらに、食物繊維の減少は食事量の「かさ」を減らし、満腹感を遅らせるため、結果として総摂取カロリーの増加につながる可能性も指摘されている[15,18]。

(3)自由エネルギー摂取量に与える影響
2019年、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究グループは、超加工食品(UPF)が自由摂取下でのエネルギー摂取量に与える影響を調べるため、体重が安定している成人20名を対象とした無作為化比較試験を実施した[19]。
被験者はNIH臨床センターで、UPFの食事と未加工食品の食事を、それぞれ2週間ずつ摂取した。両食事は、総カロリー、エネルギー密度、主要栄養素などが可能な限り一致するよう設計され、被験者には「好きなだけ食べてよい」と指示された。
その結果、UPFの食事期間中には、未加工食品の期間中と比べて、一日あたりのエネルギー摂取量が平均 459 kcal増加し、体重はベースラインから平均 0.9 kg増加した。一方、未加工食品の期間中には、平均 0.9 kgの体重減少がみられた[19,20]。
特筆すべきは、超加工食品を摂取した際の摂取速度が、未加工食品摂取時に比べて有意に高かったことである。
さらに、未加工食品の摂取中には、食欲抑制ホルモンであるPYYが増加し、空腹ホルモンであるグレリンが低下していた。
研究グループは、超加工食品の口腔感覚特性(例えば、噛みやすさ、飲み込みやすさ)が、摂食速度の増加と満腹シグナルの遅延につながり、結果として、エネルギー摂取量の増加につながった可能性があると分析している[19,20]。
5. 超加工食品と腸内飢餓との関連
これまで、世界的な肥満の増加は、摂取カロリーの相対的な増加によって説明されることが多かった。実際、超加工食品(UPF)には、その考えを支持する特徴が多くみられる。
・エネルギー密度が高いこと
・高い嗜好性と食べやすさ
・食事誘発性熱産生(DIT)の低下によって、実質的な獲得エネルギーが増加すること
・満腹感が遅れやすく、結果として自由摂取下でのエネルギー摂取量が増加しやすいこと
しかし同時に、NOVA研究によって、カロリー以外の側面も明らかになりつつある。
多くの国で実施された研究では、摂取カロリーに占めるUPFの割合が増えるほど、肥満リスクは大きく上昇することが示されている。しかし、この変化は単なる「摂取カロリーの増加」だけでは十分に説明できない。
特に注目すべき点は、野菜などの未加工食品の摂取不足や、食事全体の質の低下、食事タイミングの乱れが、いずれもUPF摂取量の増加と関連していたことである。
つまり、問題はUPFの摂取そのものだけではなく、それによって未加工食品の摂取が減少し、食事全体のバランスが崩れることにある可能性がある。

効率性が重視される現代の食環境では、精製穀物や超加工食品(UPF)など、調理済みで食べやすい食品を摂取する機会が増えている。これらの食品は、柔らかく、咀嚼が少なくて済み、素早く食べれるという特徴を持つ。一方で、野菜などの未加工食品の摂取機会は減少している。
これらの食品に共通する特徴は、食物繊維の減少と食品構造の単純化によって、極めて効率的に消化・吸収されやすくなっていることである。その結果、腸内に未消化物が残りにくい状態が形成されている可能性がある。
「腸内飢餓」理論では、摂取した食物が腸管内で完全に消化されたとき、身体が「食物が存在しない状態」と認識する可能性を想定している。1970年代以降の食品加工技術の発展と、超加工食品の増加は、このような状態の発生に関与している可能性があると、私は考えている。
そして、NOVAの食品分類システムは、これまで十分に注目されてこなかった「食品加工度そのもの」の人体への影響を考えるうえで、今後ますます重要になると考えられる。
<参考文献>
[1] Katz DL, Meller S. 「どのような食事が健康に最も良いか言えるでしょうか?」.Annu Rev Public Health. 2014;35:83-103.
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[3] Monteiro CA et al. 「国連栄養の10年、NOVA食品分類、そして超加工食品の問題点」. Public Health Nutr. 2018 Jan;21(1):5-17.
[4] Nardocci M et al. 「カナダにおける超加工食品の消費と肥満」. Can J Public Health. 2019 Feb;110(1):4-14.
[5] Fiolet T et al. 「超加工食品の摂取とがんリスク」. BMJ. 2018 Feb 14;360:k322.
[6] Elizabeth L et al. 「超加工食品と健康への影響:物語的レビュー」. 2020 Jun 30;12(7):1955.
[7] Juul F et al. 「米国の成人における超加工食品の摂取と過剰体重」. Br J Nutr. 2018 Jul;120(1):90-100.
[8] 「ラテンアメリカにおける超加工食品と飲料製品:傾向、肥満への影響、政策的意味合い」. Pan American Health Organization, Washington (DC) (2013)
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[10] Rauber F et al. 「英国人口における超加工食品の消費と肥満指標」. PLoS One. 2020 May 1;15(5):e0232676.
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[13] Bonaccio M et al. 「イタリアの成人における遅い食事パターンと超加工食品の高消費との関連性」. Nutrients. 2023 Mar 20;15(6):1497.
[14] Beunza JJ et al. 「地中海ダイエットの遵守、長期的な体重変化、および過体重または肥満の発生」. Am J Clin Nutr. 2010 Dec;92(6):1484-93.
[15] Barr SB, Wright JC. 「自然食品と加工食品の食後エネルギー消費量」. Food Nutr Res. 2010 Jul 2;54.
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[20] de Graaf C, Kok FJ. 「スローフード、ファストフード、そして食事摂取量の管理」. Nat Rev Endocrinol. 2010 May;6(5):290-3.
2024.10.04
重要性を増す体重の「設定値」理論:近年の肥満増加はどう説明できるのか?
要 約
(1) 体重の設定値モデル
1953年、ケネディは、体脂肪の蓄積が生理学的に調節されている可能性を提案した。その後1982年に、栄養学者のウィリアム・ベネットとジョエル・グリンがこの概念を発展させ「設定値理論」を開発した。
(2) 体重恒常性
個人が体重を減らすと、身体はエネルギー消費量を予測以上に低下させるだけでなく、ホルモン調節を通じて食欲を増加させ、食べ物の好みにも変化を生じさせる。その結果、体重がリバウンドしやすい状態が形成される。
一方、一時的な過食による体重増加でも、体重を設定値の範囲に戻そうとする代償機構が働くと考えられている。しかし、これらの機構は、体重減少に抵抗する機構ほど強力ではない可能性が指摘されている。
人の体重設定値は幼少期から青年期にかけて形成され、その後は比較的安定していると考えられているが、結婚・出産・移住などの環境変化によって変動する可能性も示唆されている。
現在、設定値理論は、体重が単純な意志やカロリー計算だけでは調節されないことを説明する重要な枠組みとなっている。
(3) 設定値モデルの限界
体重を一定範囲に保つはずの設定値モデルでは、1970年代以降に西洋諸国を中心として肥満が急増してきた背景を十分に説明できない。これに対し一部の研究者は、減量の維持に対する代謝的抵抗は強力である一方、持続的な脂肪の増加に対する代謝抵抗は生理学的に長続きしない可能性があると指摘する。
(4) 高エネルギー食仮説への疑問
動物実験では、高エネルギー食の長期摂取により不可逆的な体重増加が報告されている。しかし人間では、同じ高カロリー食を摂取していても肥満にならない人が存在し、社会階層・環境変化に関連する体重増加などの現象とも単純には一致しない。
(5) 腸内飢餓という新たな視点
近年の肥満増加は、単なるエネルギー過剰では十分に説明できない。体重の設定値上昇を反映する不可逆的な体重増加は、むしろ身体が「食べ物が不足している」と認識することを契機として引き起こされる可能性がある。
1970年代以降、食品の(超)加工が進み、食環境が大きく変化する中で、摂取した食物が腸管内で完全に消化されたと身体が認識する生理的状態、つまり「腸内飢餓」が生じやすくなっている。
【全 文】
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目次
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- 「設定値」理論への理解の進展
- 設定値モデルにおける問題点
- 体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因
私は、人には体重を一定の範囲内に保とうとする恒常性システムが存在すると考えており、その観点から、体重の「設定値」理論は重要な意味を持つと思っています。
本稿では、近年あらためて注目されている設定値理論の背景と課題について述べます。設定値の上昇に関与しうる環境的・行動的要因を理解することが、肥満問題に対処する上で重要だと考えています。
1.「設定値」理論への理解の進展
<肥満と減量の試み>
♦肥満者が、「痩せている友人の方が、太っている人よりも常に多く食べている」と主張するのは、真実かもしれないということである。(略)
肥満患者の中で私たちの理解を大いに必要としているのは、1日 1,000 kcal 程度のカロリー摂取を守っているにもかかわらず、減量が1週間に1kg にも満たない人たちである。このような人々が存在することは疑いなく、メタボリック病棟で、「ごまかし」が事実上不可能な条件下で、気付かれずに研究することができる。
通常、このような人は、おそらく 40 kg 太っていて、すでに 20 kg ほど減量している中年女性である。彼らはしばしば抑うつ状態で、低体温であり、代謝率が低い。低カロリー食に対するこの代謝適応の性質はわかっていない(1973年当時)が、1920 年代以前から知られている現象である (J S Garrow, 1973) [1]。
♦肥満者にとって、さまざまな治療法で一定の減量は可能ですが、減量した体重を長期的に維持することははるかに困難であり、ほとんどのケースで体重が元に戻ってしまうと言われる[2]。29の長期減量研究のメタ分析では、減量した体重の半分以上が2年以内に元に戻り、5年後には減量した体重の 80 % 以上が元に戻りました[3,4]。
さらに、持続的な減量に成功した人の研究では、体脂肪を減らした状態を維持するには、おそらく生涯にわたってエネルギーの摂取と消費に細心の注意を払う必要があることが示されています[5]。
<肥満者のエネルギー消費量>
♦1930年までに、体表面積のより正確な計算により、肥満者の代謝率が正常であることが示され、代謝低下説は好まれなくなった[6]。
♦1日のエネルギー消費 (TEE) には、食物の熱効果 (DIT)、身体活動消費 (PAEE)、安静時エネルギー消費 (REE)の3つの要素があるが、平均体重 100 kgと 70 kgの男性のエネルギー消費を比較したモデルケースでは、100 kg の男性の方が一日のエネルギー消費量 (TEE) は高くなる[7]。

(平均体重100kgと70kgの男性のエネルギー消費量)
一般に信じられていることとは逆に、肥満の人は一般的に、痩せた被験者と比較して絶対的な安静時エネルギー消費(REE)が高いです。それは、肥満では体脂肪とともに代謝が活発な除脂肪質量が増加するためです[7,8]。
身体活動消費(PAEE)は、「自発的な運動」と「日常生活の活動」に分けられる。PAEEは体重に比例するため、肥満の人は一般的に身体活動が少ないにもかかわらず、身体活動にかかる毎日のエネルギーコストは肥満でない人と同程度であることが多い[7,9]。また、肥満の人は食物摂取量が多くなる傾向があり、食べ物の熱効果(DIT)も高くなります[7]。
<エネルギー消費の動的変化>
♦肥満の予防は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスを取らなければならないという単純な帳簿管理の問題であると誤って説明されることが多い[10]。
このモデルでは、エネルギーの摂取量と消費量は行動によってのみ決まる独立したパラメータと考えられており、肥満者は単に、食べる量を減らして運動量を増やすだけで、累積食事カロリーの不足 7,200 kcalごとに1kg の割合で着実に体重を減らすことができると考えられている[7,11]。これは減量の静的モデル (static model) と呼ばれるが、生理学的に不可能であることが分かっています[7,12]。

(減量の静的モデル)
(3,500 kcalルールは、単純すぎると認識されているにもかかわらず、科学文献に登場し続けており、2013年時点で 35,000 を超える減量教育ウェブサイトで引用されています。)[12,13]
♦現在では、エネルギー摂取量と消費量は相互に依存する変数であり、お互いに、また増減する体重によって恒常性シグナルの影響を受けることがわかっています[7,14]。
食事や運動によってエネルギーバランスを変えようとする試みは、体重減少に抵抗する生理学的適応によって阻止されるのです[7]。
<体重の設定値理論>
♦近年では、恒常性制御の影響が認識され、体はエネルギーバランスを操作する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持するという証拠が増えつつある[12]。
1953年、ケネディーは体脂肪の蓄積が規制されることを提案しました[15]。1982 年、栄養学者のウィリアム ベネットとジョエル グリンは、ケネディの概念を拡張して設定値理論を開発しました[16]。このモデルは広く採用され、1990年代のレプチンの発見以降強化された[7,12]。
個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を減らし、ホルモンの調節を通じて食欲の増加を引き起こし、行動の変化を通じて食べ物の好みを変え、体重を設定値の範囲に戻します[7,16]。

(減量の設定値モデル)
♦減量研究では、体内の脂肪蓄積量は中枢神経系を介したメカニズムによって保護されており、脂肪組織、消化管、内分泌組織からの信号を介してエネルギー摂取量(EI)と消費量(EE)を調整し、恒常性を維持し、体重の変化に抵抗することが示されています(設定値モデル)[12,17]。
♦エネルギー危機の際にエネルギー貯蔵量を維持しようとする身体の保護代謝メカニズムは、適応性熱産生 (AT)または代謝適応 として知られています[7,12]。
ATは、体組成の変化とは無関係に、摂食不足に関連する安静時エネルギー消費量(REE)の低下として定義されます[12]。
♦痩せ型または肥満型の個人が体重を 10 % 以上減らし続けると、24 時間エネルギー消費量が約 20~25 % 減少します。この減少幅は、脂肪と除脂肪量の変化のみに基づいて予測される減少量より 10~15 % 大きい値です[17,18]。
肥満の個人も、食事療法による減食に対してこのような代償的な代謝的調整を示すことから、肥満は一部の人にとって自然な生理学的状態であると考えられる可能性があります。肥満動物の実験研究でも同様に、肥満を、高い設定値での体内エネルギー調節の状態と見なす見方を示唆しています[19]。
♦体重を減らした元肥満の被験者と、BMI が一致する肥満ではなかった被験者を比較して 適応性熱産生(AT) を調査した横断研究のメタ分析では、肥満経験のある被験者は肥満経験のない対照群と比較して安静時エネルギー消費量(REE)が 3~5 % 低いことが報告されている[20]。
つまり、肥満の女性が 100 kg から 70 kg に体重を落とした場合、体重がずっと一定だった 70 kgの女性よりも、70 kgを維持するために必要なエネルギーが少なくて済むことを意味する[6]。肥満のラットと正常体重のラットによる動物実験においても同様の結果が示されている。
このことから、肥満の人が、「痩せた仲間と同じかそれ以下しか食べていないのに体重は減らない」という頻繁な主張には、通常認められている以上の信憑性が与えられるべきです[19]。
♦一方、1960年代にバーモント州でイーサン・シムズ教授が囚人に対して行った過食実験で示されたように、一時的な過食による体重増加も、体重を設定値の範囲に戻すような代償機構を誘発します。
しかし一部の研究者は、これらは体重減少に抵抗する機構よりも弱い可能性があると指摘する。この非対称性は、食糧不足や飢餓の期間中に生き残るために脂肪を蓄えるという進化上の利点によるものである可能性があります[16,17]。
♦また、実験的な半飢餓および短期的な摂食不足の後に過食症が実証されており、これはおそらく体脂肪と除脂肪組織の両方の喪失から生じる恒常性シグナルの結果です[7,21]。

♦この理論はまた、人の体重設定値は人生の早い段階で確立され、特定の条件によって変更されない限り比較的安定したままであることを示唆しています。ただし、結婚、出産、閉経、加齢、病気などの要因により、生涯を通じて設定値が変化する可能性があります[16]。
その一方、設定値理論は、設定点制御に関与する分子メカニズムが完全に解明されていないため、依然として仮説のままであり、一部の研究者はこの理論が単純すぎると考える可能性があります[16]。
2.設定値モデルにおける問題点
一方で、体重の設定値モデルには限界があると指摘する研究者もいます。
体重を一定の範囲内に保つ恒常性システムが存在するのであれば、なぜ西洋諸国の多くの人が人生の大半で徐々に体重を増やし続けるのか、という疑問が生じます。 特に、このモデルでは、1970年代頃から世界の多くの社会で観察されてきた肥満の増加傾向を十分に説明できていません[22]。
これに対し一部の研究者は、減量の維持に対する代謝的抵抗は強力である一方、持続的な脂肪の増加に対する代謝抵抗は生理学的に長続きしない可能性があると指摘する。実際、肥満の有病率が着実に増えていることからも、体が「痩せること」よりも「太ること」を生理的に許容しやすいことを示唆しています[17,23]。
ラットを用いた動物実験では、高脂肪食を与えた初期(3~4週間)には、エネルギー消費量の増加や交感神経系(SNS)の活性化が認められるものの、高脂肪食を数か月間継続すると、これらの反応は次第に明らかでなくなることが報告されています[17,24]。
さらに別のラット研究では、ポテトチップスやチーズクラッカーなどの嗜好性の高い高エネルギー食を長期に摂取させた結果、設定値の上昇を示唆する不可逆的な体重増加が生じたと報告されています[19,25]。

このような「高カロリー食品の継続的な摂取によって、体重の設定値が上昇する」という説明は、初めは妥当のようにも思われます。しかし、一つの外的要因によって体重が一方向に変化していくのであれば、これはもはや「設定値」と呼ぶべきものではない。
さらに、この仮説を人間に当てはめると、同じように高カロリーな食品を頻繁に摂取しているにもかかわらず、肥満にならない人が存在するという事実とも整合しません。実際、以下のような矛盾が指摘できます。
(1) 西洋諸国の低所得層や、発展途上国における比較的裕福な層で、肥満が頻繁に認められること[22,27,28]。
(2) 1950年代以降、貧困層において低栄養と肥満が同時に存在する現象が世界各地で観察されていること[29]。
(3) 大学進学、結婚、出産、あるいはアジアから欧米への移住など、環境の変化を契機として体重が増加する人が少なくないこと[22]。
私は、体重の設定値が上昇する背景には、腸内飢餓による適応反応が関与していると考えています。
次のセクションでは、この点についてより具体的に説明します。
3.体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因
現在、多くの国際機関は肥満を慢性疾患として位置づけている。
体重の設定値理論に関心を持つ一部の研究者は、慢性疾患としての肥満が治癒可能かどうかは、遺伝要因と環境要因がどの様に組み合わさって設定値が調整されるのかを理解することが不可欠であると指摘しています。一方で、多くの重要な環境的・社会的影響を十分に説明できていないのも事実です[22]。
本稿では、こうした課題を補完する視点として、「腸内飢餓」の概念を提示します。
以下では、その要点を4つに分けて述べます。
(1)プラスのエネルギーバランス仮説の限界
一般的に、体重増加にはプラスのエネルギーバランスが必要であると考えられているため、高カロリー食品の増加や身体活動量の低下が近年の肥満の蔓延を招いたと説明される。しかし逆説的に、肥満の増加が減量を目的としたダイエットの増加と並行して起こっているという事実は[30]、私たちのエネルギーバランスに対する考え方に再考の余地があることを示唆しています[12]。
私が強調したいのは、過食による一時的な体重増加は「エネルギー過剰」で説明できる一方、長期的かつ不可逆的な体重増加は、むしろ、エネルギーの枯渇や「食べ物が不足している」という身体の認識を契機として引き起こされる可能性があるという点です。これは、実験的飢餓や減量ダイエットの後に体重が以前より増加する現象とも共通しています。
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(2)食品加工がもたらした消化・吸収の変化
1970年代以降、高カロリー食品が増えたことは確かですが、それ以上に身体に大きな影響を及ぼしている可能性があるのが、食品の(超)加工です。食品加工の進展により、固く消化されにくい部分は取り除かれ、柔らかく消化の良い部分が中心となりました。その結果、消化・吸収速度や腸内環境に大きな変化が生じていると考えられます。
腸内飢餓は、精製炭水化物や(超)加工食品の頻繁な摂取と関係しており、肥満が1970年代以降に増加してきた背景や、先進国に限らず発展途上の一部地域でも頻繁に生じうる理由を説明しうる。
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(3)腸内飢餓という多因子モデル
腸内飢餓は、4つの要因が同時に重なったときに生じやすくなる生理状態である。この概念は、肥満を遺伝要因と環境要因の相互作用によって生じる慢性疾患として理解するための枠組みを提供します。
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(4)肥満状態で、なぜ身体が減量に抵抗するのか?
腸内飢餓を通じて起こりうる、設定値上昇を示唆する体重増加では、栄養全体の吸収効率が高まると考えられます。つまり、エネルギー恒常性の観点から、摂取と消費が釣り合うポイントそのものが高い水準へ移行することを示唆します。これは、十分な体脂肪を有する肥満者であっても、カロリー制限に対して代謝的な代償反応を示すことを説明できる可能性がある。
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▽前節で紹介したラットの動物実験では、90日間にわたる高エネルギー食の摂取によって、設定値の上昇を示唆する不可逆的な体重増加が生じたと報告されています(Rollsら,1980)。しかし、この実験で用いられた「太らせる餌」は、ポテトチップス、チーズクラッカー、クッキーなど、市販の嗜好性の高い食品が中心でした[25]。これらは同時に、高度に精製された炭水化物や(超)加工食品でもあります。
一方、対照群に与えられた固形飼料は、挽き割り穀物・大豆ミール・魚粉などで構成されており、食物繊維や植物の硬い細胞壁といった消化されにくい成分が多く含まれていた可能性があります。これは、50年以上前の人間の食事構成とも類似しています。
したがって、この結果をもって「継続的な高エネルギー食の摂取が、設定値の上昇を示唆する体重増加を引き起こした」と結論づけるには、慎重な解釈が必要であると私は考えています。
<参考文献>
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2021.09.30
貧困層における、低栄養(痩せ)と肥満の共存は矛盾していない
目次
- 栄養不良と肥満の事例
- 私達はどうすればいいのか?
- 低栄養(低体重)と肥満の共存はありうる
大部分は本からの引用になりますが、最後に私の経験との関連について述べます。
【関連記事】→ 豊かだから太るのか、貧困が太るのか?
1. 栄養不良と肥満の事例
(「人はなぜ太るのか?」より引用)
同じ集団に存在する肥満と栄養不良、または低栄養(カロリー不足)の組み合わせは、今日の専門家たちが何か新しい現象であるかのように語るも のであるが、実はそうではない。80年前にはすでに1つの集団に栄養不足(低栄養)が肥満と共存している状態があったのである。
(ゲーリ・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Page 32)
(1930年代:ニューヨーク,マンハッタン)
1934年、ヒルデ・ブルッフという若いドイツ人の小児科医が米国、ニューヨークに移住した。彼女はそこで肥満の子供の数に驚愕し、後に「肥満の子供たちが、診療所だけではなく、街頭、地下鉄、そして学校にあふれていた」と記している。

しかし、これは1930年代中頃のニューヨークでのこと。
今日私たち がファストフードと考えているケンタッキーマクドナルドの1号店が生まれる20年も前のことであり、 スーパーサイズ や高果糖のコーンシロップが登場する半世紀前だった。
さらに重要なことは、1934年は大恐慌のどん底であり、炊き出し、パンの 配給、そして空前の失業の時代であったことである。
米国の労働人口の4人に1人が失業者で、米国人の10人に6人が貧困状態にあった。ブルッフや仲間の移住者たちが、地域の子供たちの肥満の多さに驚かされたニューヨークでは、子どもの4人に1人が栄養不良といわれていた。こんなことがありうるだろうか?
ブルッフによれば、これらの子供たちが食べる量を減らして体重をコ ントロールしたり、少なくとも今までより食べる量を減らすことを考えながら人生を過ごしたにもかかわらず、結局、太ったままであったということはまぎれもない事実だった。(Pages 10-11)
(1930年代、スー族)
シカゴ大学の2 人の研究者が米国先住民の南ダコタに住むスー族を研究した。彼らは「住むのにふさわしくない」掘っ立て小屋に、しばしば1部屋に4~8人の家族が住む状況にあった。子ども32人を含む15家族は「おもにパンとコーヒー」で生活していた。これは私たちの想像を絶するほどの貧困である。
それにもかかわらず、現在、肥満の流行のまっただ中にある私たちの肥満率と彼らには大きな差がなかった。シカゴ大学の報告には、居留地の成人女性の40%、男性の25%、子どもたちの10%が「もれなく肥満と定義されるだろう」と記されている。

研究者の一人(フルデリカ)が「少なからぬ怠惰」 と呼んだ居留地での生活が彼らの肥満の原因であった可能性もあるが、研究者たちはスー族において別の関連する事実に注目した。
それは成人女性の5分の1 、男性の4分の1、 子供たちの4分の1が「極端に痩せていた」ことである。
居留地の食事の多くは政府の配給に頼っており、カ ロリーと蛋白質、必須ビタミン類とミネラルが不足していた。これらの食事の栄養不足の影響を見逃すわけにはいかない。研究者らは「統計をとったわけではないが、何気なく観察しただけでも、これらの家族の間で虫歯・O脚・ただれ眼・失明が高い頻度で存在することに気付かないわけがなかった」と報告している。(Page 31)
(ブラジル、サンパウロにて)
これは2005 年に医学雑誌に掲載されたジョンズホプキンス大学、栄養センター長である、ベンジャミン・カバレロの論文「栄養の矛盾-発展途上国における低体重と肥満」からの抜粋である。
カバレロはブラジル・サンパウロの スラム街にある診療所を訪問した経験を述べている。
彼は、待合室の様子について「慢性低栄養の典型的な症状を示す、痩せて発育を阻害された幼い子供を連れた母親たちであふれていた。発展途上国の貧しい都市部を訪れてこの光景に驚く人たちは、残念ながらほとんどいないだろう。しかし驚くなかれ、これら栄養不良の幼児を抱く母親たちの多くが肥満なのである」と記した。

もし私達が、母親たちの肥満は食べ過ぎが原因であると信じ、子供達がやせて成長が止まっているのは十分な食物を与えられていないからだと理解するなら、子供達の成長に必要なカロリー(栄養)を母親が余分に食べていたと仮定することになる。
言い換えれば、母親たちは、彼女たち自身が過食するために、子供たちを意識的に飢えさせようとしていたことになる。これは私たちが知る母性行動の すべてに反する。
カバレロは次にこの現象が示唆する問題点について、
「低体重(低栄養)と肥満の共存は公衆衛生上の計画に対する挑戦を突きつけており、それは低栄養を減らす計画の目的が、明らかに肥満予防の計画と相反するからである」と説明した。
簡単にいえば、肥満を防ごうと思えば、人々が食べる量を減らさなくてはならないが、低栄養を防ごうと考えれば、食物の供給を増やさなくてはならないということだ。私達はどうすればよいのか?(Pages 38-9)
2. 私達はどうすればいいのか?
(引き続き「人はなぜ太るのか?」より引用)
1970年代の初期、栄養学者と研究熱心な医師たちは、これらの貧しい集団における重度の肥満に関する観察を議論し、時にその原因について偏見なく論じた。

英国からジャマイカの糖尿病専門家へと転身したロルフ・リチャーズは1974年に(肥満と貧困に関し)「先進国での高い生活水準と比べて、西インド諸島に存在するような比較的貧しい社会に見られる高い肥満率を説明することは難しい。
これらの地域において栄養不良と低栄養 は生後2年間によくある異常で、ジャマイカの小児科病棟への入院のほぼ 25%を占める。低栄養は小児期初期から10代はじめまで続く。女性の集団では、肥満は25歳からはっきりと現れ、30歳以上では肥満率が非常に高くなる」と論じている。
リチャーズのいう「低栄養」は十分な食物がなかったことを意味する。生まれてから10代はじめまで、西インド諸島の子どもたちは極端にやせていて、成長は足踏みした。彼らにはより栄養のある食物ではなく、より沢山の食物が必要であった。
それから肥満が現れ、これは特に女性に顕著で、彼らが成年に達するにつれ急加速した。これは1928年にスー族で、またその後チリで観察された組み合わせで、同じ集団や同じ家族内で栄養不良と肥満が共存していた。
肥満を「一種の栄養失調」と呼ぶことに、道徳的判断、信条、過食と怠惰への遠回しな皮肉は込められていない。
それは単に食料供給に何か問題があるといっているだけで、私達にはそれが何なのかを突き止める義務があるのかもしれない。
同じ集団や家族の中でさえも起きる低体重と肥満の共存は、公衆衛生上の計画に対する挑戦を促すのではない。私達の肥満および過体重の原因に関する信念に対して挑戦状を突き付けているのである。
(Pages 38, 40)
3. 低栄養(低体重)と肥満の共存はありうる
<低栄養と肥満について>
まず、「低栄養と肥満は矛盾したメッセージではない」ということを私の経験に基づいて説明したいと思います。
繰り返しになりますが、私が30キロ台に激ヤセした中で、初めは高カロリーの食べ物をたくさん食べていたけど全く太ることができず、ある時、腸全体を飢餓状態にすれば太れるということに気が付いたんです。
一番飢餓状態を作りやすくするのが、消化の良い精製された炭水化物(ごはん、食パン、うどん、デンプンなど)と良質のタンパク質を少しだけ食べること(そして、その他の物を食べないこと)でしたが、エネルギーやその他の体に必要な栄養が不足してフラフラになっていました。

逆にミネラルやタンパク質などの栄養を補うために牛乳や卵、野菜、豆、小魚などの食品を摂ると、栄養の状態は一時的に回復しましたが、それと同時に、それ以上太ることもありませんでした。私の場合は消化できなかったからです。
つまり食事に対する、消化の良い精製炭水化物の比率が高いほど(量ではない)、繊維質の野菜や脂質、その他の消化の良くない食品が少ないほど、腸内飢餓が起こりやすく、設定体重がアップする可能性があります。
ビタミンやミネラルの欠乏によって病気が引き起こされるというのは確かに考えられますが、低栄養と肥満は矛盾したメッセージではないのです。
<低体重と肥満の共存について>
またカバレロ氏の言及された『貧困層での低体重と肥満の共存』について説明すると、同じグループで同じものを食べたとしても、体の中においては異なる結果になる場合があります。
腸の中ですべて消化した人は、私の腸内飢餓 理論により設定体重が徐々にアップし、最終的に肥満になるかもしれません。
しかし、同じように食べたとしても、すべて消化できなかった人は低栄養で痩せたままです。ほんの少しの消化されない食べ物が腸内に残るだけで、腸内飢餓は起きにくくなるのです。(特に、極端な痩せの状態は消化する能力まで低下させるので、腸内飢餓を引き起こすのがさらに難しくなる。)小さな違いが時に大きな結果の違いにつながります。
▽また現代に当てはめると、それは私達の社会で起こっている現象と同じではないでしょうか?
ある人がそれほど食べないのに太っている場合、その人は運動不足か代謝が低いと考えられがちです。また、多く食べても痩せている人を見ると、その人は動いてエネルギーを消費しているか代謝がいいと考えがちです。多くの研究者は、何らかの理由をつけて「太る原因は、食べ過ぎているか身体的な不活発である」という理論に当てはめようとしているだけです。
しかし先入観を捨ててこれらを見ると、同一グループにおける「痩せと肥満の共存」と同じ現象であると言えるでしょう。肥満・過体重は必ずしも過食の結果ではないのです。
2021.05.12
親子の体型が似るのは遺伝か、それとも生活環境か?
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目次
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- 養子の体型は「生みの親」に似るのか、「育ての親」に似るのか?
- 別々に育てられた双子の体重は?
- 体重に変化を与える環境要因とは?(私の考え)
- 幼少期の体型が継続する?
<まとめ>

肥満は親から子供に遺伝するのでしょうか?
例えば、小学生の頃のクラスの同級生を思い出してみよう。
100%がそうではないにしても、両親が痩せていれば子供も痩せていることが多く、両親が太っていれば子供も太っていることが多い、というのはある程度想像できる。
ここで問題は、それが遺伝子によるものであるのか、それとも生活環境によるものなのかということである。そのような調査があったのでご紹介します。
1.養子の体型は「生みの親」に似るのか、「育ての親」に似るのか?
(「The Obesity Code」医学博士ジェイソン・ファン著)より引用
”肥満の子にはたいてい肥満の兄弟がいる。肥満の子どもは肥満の大人になり、肥満の大人は肥満の子どもをもつ。「子どもの頃に肥満だった人が、大人になっても肥満になるリスク」は高い。これらは、否定しようがない事実だ。(略)
肥満に悩む者がいる家族は、肥満に結びつく遺伝的な特性を共有している。だが、肥満が社会にまん延したのは1970年代に入ってからだ。人間の遺伝子が、これほど短期間に変化するはずはない。遺伝子が肥満の原因だとすれば、個人が肥満になるリスクについては説明がつくかもしれないが、全国的な肥満の増加の説明にはならない。
家族は同じ環境で生活する。同じようなものを、同じような頻度で、同じように食べる。 また、家族は車を共有し、肥満を誘発するような化学物質に同じようにさらされる。これらのことから「現在の生活環境が肥満の主な原因」だと考える人が多い。(略)

カロリーの摂り過ぎが肥満の原因だと考える従来の理論からすると、食べる量が増え運動量が減る、この『有毒な生活環境』こそがいけないのだと人々の暮らしを真っ向から非難することになる。実際に、私たちの生活習慣は1970年代からかなり変化している。(例:車、TV、PC、ファーストフード、砂糖、高カロリーな食べ物、など)
ゆえに、肥満に関する現代の理論では遺伝的な要素は勘案されないことが多く、主にカロリーの摂り過ぎが肥満につながると考えられている。「食べるのも運動するのも自発的な行動である。つまり遺伝的な要素はほぼ見当たらない」というわけだ。
では、本当に、人間の肥満に遺伝子はかかわっていないのだろうか?”
(ジェイソン・ファン. 2019. The Obesity Code. サンマーク出版. Pages 56-7.)
”遺伝と環境的要因が肥満にどのような影響を与えているのかを調べるには、古典的な方法としては、「養子を迎え入れた家族」を研究してみるといい。
たいてい生みの親の情報は未公開であることが多く、研究者が容易に入手することはできない。だが幸いデンマークで、養子縁組に関する情報が比較的完全な形で残されており、双方の情報も記録されていた。そこでアルバート・J・スタンカード博士は、デンマークで養子になった540人の成人をサンプルとして取り上げ、それぞれ「生みの親」と「育ての親」との比較を行った。

もし肥満に最も影響を与えているのが環境的な要因だとすれば、養子は養父母に似るはずで、逆に、もし遺伝的要素が最も影響を与えるのであれば、彼らは「生みの親」に似るはずである。
その結果、養父母と養子の体重に、相関関係は全く見られなかった。養父母が痩せていても太っていても、養子が大人になったときの体重に違いは出なかったのだ。とても太っている養子がとても痩せている養父母に育てられている事例もあった。(略)
一方、養子を生みの親と比べたところ、全く異なる結果がでた。こちらは双方の体重に一貫した相関関係が見られたのだ。生みの親は育児にほとんど、あるいはまったく関与しておらず、食事の大切さや運動の習慣を教えていない。それにもかかわらず、太っている両親の子供を、痩せている親のもとでで育てたケースでも、子供はやはり肥満になった。(略)
この発見は、研究者にとってかなり衝撃的だった。
カロリーに主眼をおいたそれまでの一般的な理論では、食習慣、ファーストフード、甘いお菓子、運動不足、車の普及、遊び場の不足などの「環境的要因と個人の行動」が肥満を助長する重大事項とされていた。だが、スタンカード博士は、「実際には、肥満と環境的要因は関係がない」という研究結果を打ち出した。"
(The Obesity Code. Pages 57-9.)
2.別々に育てられた双子の体重は?
"環境的な要因を見分けるのに有効な手法として、「別々の環境で育てられた一卵性の双子研究」もある。スタンカード博士は1991年、別々に育てられた一卵性・二卵性の双子と、一緒に育てられた一卵性・二卵性の双子について調査した。

またしてもその調査結果は、肥満研究者たちに衝撃を与えるものだった。
「肥満を決定づける要素のおよそ70%が遺伝によるもの」という結果が出たのだ。
(~略~)だが同時に、これだけ肥満が蔓延しているのは遺伝だけが要因ではないとも言える。肥満の発生率はこの数十年、比較的一定に推移してきた。それが1970年代から急激に広がっている。人間の遺伝子がそんな短期間に変化するはずがない。この矛盾はどう説明すればいいのだろうか?"
(The Obesity Code. Pages 59-60.)
3.体重に変化を与える環境要因 とは(私の考え)
この調査では、生みの親と養父母のデータを比較できたということで、非常に興味深い調査であると思う。しかし、その結果だけで「遺伝子の影響が環境要因よりも大きい」と断言できるだろうか?
著者が言われるように、近年(1970年頃~)の肥満の増加は間違いなく、私達の生活環境の変化(私達が食べている物、不規則な生活)が影響しているといえるだろう。

若い頃スリムであった人でさえ、ある年代から何か(一人暮らし、出産、子育て、仕事のストレスなど)をきっかけに10キロ、20キロと短期間に体重を増加させることがある。ダイエットに挑戦するたびに、体重が増加していく人もいる。
つまり食べ物や生活環境が変われば、体型も変わることがある、ということを私達は知っている。
▽ここで、体重に変化をもたらす『環境の変化』とは何だろうか?
この調査では、別の家庭で子供を育てること、又は双子が別々で暮らすことで、生活環境に変化があったと考えているのだが、この調査には問題がある。
養父母として子供を引き取るくらいの家であれば、ある程度は収入に余裕があり、ある程度バランスの良い食事を1日3回、子供に食べさすのではないだろうか?家庭によって献立や摂取カロリーは違うだろうが、多少食べるものが変化したくらいでは、それは、体重に変化をもたらす「環境の変化」とは言えない。
養父母が痩せているからと言って、同じ食事を摂れば痩せる訳ではないのである。

それとは逆に、体重・体型が大きくプラスに変化するのは、設定体重そのものがアップする時 (図-B) だと私は考えており、それは腸内飢餓によって引き起こされるのである。
そして、腸内飢餓の誘発には最低4つの条件が必要であるため、養父母と一緒に暮らしたからといって、設定体重を変化させる訳ではない。
【関連記事】腸内飢餓をつくる3要素+1
日本では過去数十年で、私たちの伝統的な食習慣が失われ、食事の西洋化や働き方の多様性が進んでいる。
その変化の中で、バランスの悪い食事(消化の良い炭水化物、加工食品、野菜不足など)と不規則な生活(朝食抜き、夜遅い食事など)が重なる時に腸内飢餓が引き起こされる可能性が高くなる。
これが私の言いたい、近年の肥満流行をもたらしている「環境的な要因と個人の行動」と言うべきものであって、遺伝的要因ももちろん否定できないが、環境的要因はかなり大きいと考える。
今や同じ家で生活する血のつながった家族であっても、同じ食べ物を、同じ時間に、同じ頻度で食べている訳ではない。
母親があえて別々のものを食べさすことはないだろうが、朝食を食べない子供、夜の遅いお父さん、好き嫌いで野菜などを食べない子供、昼を簡単に済ます主婦など、家族の中でも食べ方が多様化してきているのではないだろうか?
家族の中で一人だけ極端に肥満の子供なども数人見たことがあるが、それは私から言えば、同じ家族であっても体重に変化を与える『環境の変化』の結果と言えるだろう。
4.幼少期の体型が継続する?
ここで1つ注目すべきことは、幼少期(例えば3才~5才頃)の体型(痩せてたり、太っていたり)が大人になっても継続しやすいということだと思っている。小学1、2年の頃の同級生を思い出しても、太っていた女子・男子が(彼らは決して大食いではなかったが)、数十年経っても似たような体型であることが多い。

私の理論から言えば、設定体重が変化していないということであり、この調査においても、設定体重に大きな変化をもたらす環境変化がないのであれば、子供の頃の体型などが基本的に優先されるのではないだろうか?
ただ、幼少期の体型(肥満・痩せ)が何によるものなのか?遺伝なのか、それとも離乳食を含めて、幼少期の食事の与え方なのかは疑問の残るところであった。
まとめ
(1) 遺伝と環境的要因が肥満にどのような影響を与えているのかを調べる「養子を迎え入れた家族」の研究では、養父母と養子の体重に、相関関係は全く見られなかった。一方、養子を生みの親と比べたところ、双方の体重に一貫した相関関係が見られた。また別々に育てられた双子における調査でも、「遺伝による影響がはるかに大きい」という結論に達した。
(2) 多くの研究者はそれまで「環境的な要因と個人の行動が近年の肥満の流行を招いた」として非難していたが、この調査では環境要因よりも遺伝がはるかに影響していると結論づけた。
しかし、私はこの調査には問題があると考える。子供が養父母の元で暮らすこと、又は双子が別々で育てられることは、必ずしも設定体重に変化を与える環境要因とは言えない。
(3)もちろん遺伝の影響は無視できないと思うが、近年の肥満の流行は、私達の食べている物や生活習慣の変化などが組み合わさって起こっていると考えます。体重や体型が大きくプラスに変化するのは、設定体重がアップする時であって、それは腸内飢餓によって起こる。
(4)設定体重に大きな変化がなければ、幼少期の体型が続くのではないかと私は考える。しかし幼少期の体型が何によって決まるのか?遺伝か、それとも離乳食を含めて幼少期の食事の与え方なのか、については疑問に思うところである。
2020.01.16
昔に比べ、なぜ現代人の方が飢餓状態であると体は認識するのか?
目次
- この50年で、私達の食事はどの様に変わったのか?
- 豊かな農耕時代に太らず、配給制下で太ったピマ族
- 歴史上で新しい食べ物ほど、体には適さない
1.この50年で、私達の食事はどのように変わったのか?
50年前と言えば、万博のあった1970年(昭和45年)、ちょうど私が生まれた頃である。高度成長の真っただ中だったと思うけど、食卓の風景は今(2020)とかなり違った気がする。
私の家は大阪高槻の山間部で農家(シイタケ栽培、米)だった。ニワトリも20羽ほど飼っていた。
朝の食卓には必ずと言っていいほど、ご飯に味噌汁、漬物があり、野菜の煮物や魚の干物などがあった。家族がそろってしっかり食事をしていた記憶がある。パンももちろん食べたけど、うちは父が力仕事だったから、ご飯は毎朝あったな~。

■食事風景が大きく変化した1970年代
私達の食事が徐々に変化していったのは、1970年以降だと思うんだ。
私は子供の頃、あまり連れて行ってもらった記憶はないけど、
マクドナルド(1971年~)、ケンタッキー(1970年~)などのファーストフード店
ファミリーレストラン(すかいらーく1号店:1970年)、牛丼チェーンなどが次々と出店。
セブンイレブン1号店(1974年)、その後コンビニエンスストアが全国に増えた。
カップ麺などのインスタント食品や冷凍食品が増加していった。

給食のパンに慣れた私達は、アメリカの思惑通り、ご飯よりもやパンなどの小麦製品を好むようになり、それに伴い、骨のある魚よりも肉や加工食品を好んで食べるようになった。
固いものよりも、柔らかい物を好むようになり、昔は定番であった、ヒジキや切干大根、金平、おからなども昔にくらべ食べなくなった。
野菜は柔らかくなるまで調理され、肉や魚もミンチやすり身などに加工され、食べやすく消化がよくなった。
(成人における肥満者(BMI25 以上)の割合は、男性では昭和 55(1980)年以降増加傾向にあり現在3割に達しており、女性では2割前後で推移してきた[厚生労働省資料より])
生活スタイルもデスクワークが増え、夜型の生活、朝食も食べない人が増えた。おそらく世間で肥満が増えていったのは、この頃からではないだろうか?(今では、100キロ級の女性を街中で見ることも珍しくなくなった。)
カロリー摂取量が増えたことが肥満・過体重の原因と思われるかもしれないが、1970年の国民の一日の平均カロリー摂取量は2210kcalであったにもかかわらず、2010年には1849kcalにまで減少しているのである。[1]
(参考文献[1]:香川靖雄, 「時計遺伝子ダイエット」, 2012, P15)
それよりも私の理論との関連で言わせてもらえば、現代の食事は、繊維質に乏しく、消化の良い精製炭水化物、加工された肉・魚製品、ファーストフードなどに偏ることが多い。組合せによれば、容易に腸内飢餓状態を作り出せるのである。
特に、一日2食(朝食又は昼食を抜く)、軽い昼食、遅い夕食などの食習慣の変化、又はダイエットによる食事制限などによって、多くの人が空腹を長時間にわたり我慢している状況下で、腸内飢餓が引き起こされやすくなるのです。
2.豊かな農耕時代に太らず、配給制下で太ったピマ族
同じような状況を説明するのに、配給制化で肥満が増えたピマ族を引き合いに出したい。引用するのは2回目であるが、この部分は非常に重要で、肥満・糖尿病すべての解決のキーとなるだろう。
(参考文献:「人はなぜ太るのか?」ゲーリートーベス著)
ピマ族というアリゾナに住む、アメリカ先住民を考えてみよう。ピマ族は1850年代を通じて極めて成功した狩猟者・農民であった。彼らは罠を仕掛けて獲物を捕まえたりすることに熟練していた。また彼らは、近くを流れるギラ川の魚や貝を食べ、畑ではトウモロコシ、豆、麦、フルーツなども育て、家畜も飼育していた。(略)

しかし1870年までにその地は他の移住者に荒らされ、ピマ族は彼らが言う「飢餓の時代」を生きるようになった。毎日の暮らしは政府の配給に頼っていた。
1901~05年に、この地を訪れた人類学者は、ピマ族が(特に女性)いかに太っていたかについて述べた。
この観察において注目すべきところは、当時、ピマ族が最も豊かな米国先住民族の一つから、最も貧しい民族の一つになったばかりだったということだ。何がピマ族を太らせたにせよ、豊かさとは何の関係もなく、むしろその逆であったように思われる。(略)
なぜ彼らは、豊かな狩猟・農耕時代に太らず、配給になってから太ったのか?
おそらく答えは、摂取した食べ物の種類、つまり量よりも質に問題がある。(略)1900年のピマ族の食事は、その1世紀後に、私達の多くが食べているものと非常に似ていたが、それは量的にでなく、質的にであった。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス, 2013,「人はなぜ太るのか」, メディカルトリビューン, Page 27-9)
【関連記事】→「豊だから太るのか、貧困が太るのか?」
食事の面について言うと、1970年当時の日本人は、現代(2022)よりもいろんなものを食べたと思う。コンビニエンスストアなどなかったし、お母さんの家庭料理が基本で、季節によって異なるいろんな野菜や魚などの食材を食べた。
それに対し現代の食事は(全員ではないが)、消化の良い炭水化物と肉製品がベースで、食べる食材の種類が劇的に減った気がする。普段は多くの人が太ることを気にして空腹を我慢し、たまに贅沢をしてご褒美的に美味しいものを食べる。状況こそ違うが、腸の内部に焦点をあてれば、ピマ族が配給制下で現代食を食べるようになって太ったのと同じであると言える。
3.歴史上で新しい食べ物ほど、体には適さない

(「人はなぜ太るのか?」ゲーリートーベス著)
(「肉を食べるべきか、それとも野菜か?」からの引用)
ある食べ物が人間の食事の一部である期間が長いほど、それはおそらく有益で害が少ない(私たちはその食べ物に適応している)ということである。
そして、もしある食べ物が人間の歴史において新しいものであるか、最近になって大量に摂取するようになった場合、適応する十分な時間がなかった可能性が高く、それは害になる。(略)
ここでの疑問は「私達がおそらく遺伝的に適応している状態とは何か?」ということである。(略)
事実上、私達の遺伝子は、農業を1万2千年前に始める以前に、私達の祖先が採取・狩猟生活者として生きていた250万年の間に作られた。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス,「人はなぜ太るのか」, Page 182)
▽著者は、「炭水化物を大量に摂取する現代の食事は遺伝的に適合しておらず、肉やその脂身を食べることの方が遺伝子レベルでは私達に適合していて害が少ないのではないか」という趣旨でこの文章を書かれたと思う。
私は、飢餓メカニズムを説明するためにこの一節を引用させてもらいます。
もし神様が、『人々が食べ物にありつけない時のために体脂肪を蓄えれる』ように遺伝子の設計図を書かれたとしよう(そう考える方が理にかなっている)。

食べ物がすべて消化された状態をもって『食べ物のない状態』(飢餓状態)とされたのなら、イノシシの肉や木の実、固い細胞壁をもつ野菜、精白されてない穀物などを食べていた狩猟時代・農耕時代は、丸一日食事にありつけなくても腸の内部は完全な飢餓状態にはなりにくかったであろう(腸が7~8mと長い為)。
それに対し、現代のような、すばやく消化される食品(精白された米・小麦、デンプン、加工された肉・魚製品、ファーストフードなど)を多く摂る食事は、わずか半日でも組合せによっては飢餓状態になる場合がある。
すべて判断しているのは腸全体(又は第2の脳と言われる「小腸」)であり、腸の中では、昔よりも現代の方が、「食べ物がない」状態と認識される場合があると私は考える。
最後に
「日本の食文化は世界的に見ても健康的だ」と言われることがあるが、私はそれは最大でも2000年頃までの過去の遺物だと思う。今や伝統的な日本の食事形態は一般家庭から消えつつある気がしている。ファーストフードを食べて育った子供が、今や50代・60代になり、そしてその子供たちが30代になる。こうして約50~60年あれば(約2世代)、いとも簡単に伝統的な料理を食べる機会が薄れていき、食文化が劇的に変化するのだ。
そして食事の移行と共に、かつては多くなかった糖尿病、腎臓病、心臓病、癌、脳卒中などの病気が欧米と同様に増えてきているように感じる。
2019.07.27
肥満の多因子性を整理する:腸内飢餓という交絡的視点
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目次
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- 「過食するから肥満になる」は単純すぎる
- ほとんどのダイエット法は「部分的には正しい」?
- 環境的・行動的要因を整理することは可能か?
- 交絡因子的に機能する腸内飢餓
<まとめ>
1.「過食するから肥満になる」は単純すぎる
米国で2012年に1,143人の成人を対象に行われたオンライン調査(ロイターと市場調査会社イプソスによる)では、米国成人の61%が「食事や運動に関する個人の選択」が肥満の蔓延の原因だと考えていることが示されました[1,2]。多くの米国人はいまだに、肥満になる人は「意思が弱く、食べ過ぎて運動不足だ」と信じているということです[2]。
日本でも状況は似ています。ニュース番組のアナウンサーや専門家でさえ、「食べ過ぎて運動しなければ太るのは当たり前ですが…」といった発言を繰り返しており、多くの日本人も同様の考えを持っている可能性が高いでしょう。
しかし、科学的研究は、「個人の選択」だけでは肥満のすべてを説明できるわけではないことを示唆しています[2]。
養子縁組研究、家族研究、双子研究などに基づく古典的な遺伝学研究によると、BMIの分散(遺伝率の推定値)の約50~70%は遺伝によるものであると言われている(その推定値は、研究デザインや評価方法で異なる)[3]。
現代でも肥満の遺伝率は40~70%と推定されている[4]。
一部の研究者は指摘する;多くの異なる遺伝子が、食物の選択、食物摂取、吸収、代謝、身体活動を含むエネルギー消費に関与していることが判明しており、さらに遺伝子同士または遺伝子と環境の相互作用も考慮すると、体重調整の根底にあるメカニズムの複雑さはさらに増すのだと[3]。

<肥満を慢性疾患と位置づける国際的な声明>
・1948年にWHO(世界保健機関)が国際疾病分類(ICD)を策定し、肥満を「疾病」として分類した。これは、肥満を「病気」として扱った最も早い公式の枠組みの一つとされている。しかし当時の医療界では、この位置づけはほとんど注目されず、その後数十年にわたり一般医療では重要視されなかった[5]。
・1997年、WHOは、国際肥満対策タスクフォース(IOTF、現在は世界肥満機構の一部)との協議を経て、肥満を複雑で深刻な慢性疾患であると公式報告書の中で明確に位置づけた[6]。
・2012年、米国臨床内分泌学会(AACE)は、肥満を慢性疾患として位置づけた。その根拠として、肥満の病態生理が遺伝的、生物学的、環境的、行動的要因の相互作用から成る複雑なものであること、さらに肥満が米国医師会(AMA)が示す疾患の定義に合致することが挙げられている[7]。
・これをうけ、2013年には米国医師会 (AMA)も肥満を慢性疾患として公式に認定した[8]。
2.ほとんどのダイエット法は「部分的には正しい」?
人類全体の遺伝子が、50年や100年といった短期間で大きく変化するとは考えにくいとすれば、1970年以降に見られる世界的な肥満の増加は、環境的・行動的要因の影響を強く受けていると考えるのが妥当でしょう。
そこでこれらの要因について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。
流行のダイエットに関する興味深い指摘があったので、以下に引用します。
(「The Obesity Code」より引用)
体重が増える原因は何だろう?
これまで実に様々な説が提唱されてきた。
カロリー / 褒美としての食 / 糖分 / 精製された炭水化物 / 睡眠不足 / 小麦 / ストレス / 食物繊維不足 / 脂肪分 / 遺伝的性質/ 赤身肉/ 貧困 / 裕福さ / 乳製品 / 腸内細菌 / スナック / 子供の頃の肥満

私たちに必要なのは、様々な因子がどのように絡み合っているのかを理解するための枠組みであり、仕組みであり、筋の通った理論である。現在の肥満理論では、「真の原因は ただひとつで、そのほかのものは偽りの原因である」とされることがほとんどだ。結果として、議論が果てしなく続く。
「カロリーを摂り過ぎると肥満になる」
「いや、炭水化物を摂り過ぎるからだ」
「いやいや、原因は飽和脂肪酸の摂り過ぎだ」
「 赤肉の食べ過ぎだろう」
「いいや、加工食品の食べ過ぎだ」
「いや、小麦の摂り過ぎだ」
「いや、外食がいけないんじゃないか」
・・・こうして、議論は尽きない。どの主張も、部分的には正しいのだから。
それぞれのダイエット(カロリー制限、低脂質、パレオ、ビーガンなど)は、別々の側面から肥満の解消に取り組んでいるだけで、どのダイエットにも効果はある。だが、どれも「肥満全体」に対する対処法ではないために長くは効果が続かないことに注意しよう。
肥満が ”多因子性” のものであることを理解しないままでは、互いに非難しているだけで終わってしまう。
(ジェイソン・ファン. 2019.「The Obesity Code 」. Pages 130-131, 360-361)
肥満の多因子性についての著者の指摘は非常に鋭いと思います。肥満は過食が原因で生じる単純な現象ではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じるものであることを、私たちはまず理解する必要があります。
しかし同時に、これほど多くの要因が列挙される背景には、体重が増える仕組みと要因が十分に整理されていない、という問題があるのではないでしょうか。
私は「腸内飢餓」という視点を導入することで、複雑に見える環境的・行動的要因の一部は、ある程度、整理して捉えることができるのではないかと考えています。表面に現れる生活習慣や食行動ではなく、「腸の中で何が起きているか」に注目することで、肥満の背景がより明確になるからです。
3.環境的・行動的要因を整理することは可能か?
ここで再度確認しておきたいのは、一般に「太る」と表現される現象には、異なる二つのプロセスが存在するという点です。この概念を取り入れることで、様々な要因を整理して捉えやすくなります。
【関連記事】体重増加:2つの異なるプロセスとは?
(1) 体重が本来の設定値水準へ回帰する場合
一つは、意図的に低く保たれている体重が、元の設定値水準に戻ろうとする過程で生じる体重増加であり、図1-A に示されるプロセスです。一般に「食べ過ぎ」「運動不足」として説明される体重増加だけでなく、多くのカロリー制限ダイエットや、従来の減量介入研究も、この範疇に含まれます。

図1:2つの異なる体重増加プロセス
確かに、脂質・炭水化物・超加工食品のいずれを制限する場合でも、摂取エネルギーが消費を下回れば、一時的に体重は減少する傾向にあります。しかし、この方法では体重の設定値そのものは変化しないため、長期の減量の維持は難しく、元の食事に戻ればリバウンドが起こりやすくなります。
ブリファ氏が指摘するように、カロリー制限は一時的な解消法にはなり得ますが、肥満全体に対する根本的な解決策ではありません。
(2) 体重の「設定値」そのものが上昇するプロセス
一方で、図1-B に示される体重増加は、体重の設定値そのものが上昇する場合であり、これは身体が「飢餓」を認識したことに対する適応反応の結果であると考えています。
そして、その「認識される飢餓」の一つが、腸内飢餓です。
腸内飢餓は単一の原因によって起こるものではなく、その発生には複数の要因が同時に関与することから、肥満の多因子性、特に環境的・行動的要因との関わりを説明しやすくなる可能性があります。
【関連】腸内飢餓を加速する3要素(+1)
4.交絡因子的に機能する腸内飢餓
朝食欠食、遅い夕食、食事回数の少なさ、精製炭水化物や(超)加工食品の多い食事、食物繊維の不足、バランスの悪い食事などは、体重増加や肥満との関連性が指摘されることがあります。
重要なのは、これらの要因がそれぞれ独立して肥満を引き起こしているのではなく、むしろ腸内飢餓の発生に影響を与える因子である可能性です。
つまり、肥満との因果関係の中心にあるのは個々の生活習慣ではなく、それらが共通して影響を及ぼす腸内飢餓ではないか、というのが私の考えです。
この意味で、腸内飢餓は、肥満研究において交絡因子的(注1)に機能する生体反応として捉えることができるかもしれません。

図2:交絡因子的に機能する「腸内飢餓」の概念図
注1:交絡因子とは、原因(暴露)と結果(アウトカム)の両方に影響を与え、両者の関係を見えにくくする第三の要因のことです。たとえば、「食物繊維の不足」と「肥満」が関連しているように見えても、その両方に影響している腸内飢餓が存在する可能性があります。
まとめ
(1)肥満は現在、遺伝的・生物学的・環境的・行動的要因の相互作用によって引き起こされる慢性かつ多因子性の疾患として広く認識されている。多くの流行ダイエットは肥満の特定の側面に対処するが、その疾患全体を適切に標的としているものは無く、これが長期的な効果の限界を説明している可能性がある。
(2)現在求められているのは、肥満に関与する諸因子がどのように絡み合うのかを整理する枠組みである。以下の二つの視点を採用することで、肥満に関連する環境的・行動的要因を体系的に理解できると考える。
(a) 体重増加には二つの異なるプロセスがあり、そのうち体重の「設定値」そのものの上昇が肥満の増加と深く関係している。
(b) 体重の設定値上昇には腸内飢餓が関与しており、これは遺伝的要因と現代の食環境・生活習慣が交差する地点で生じる生理学的な適応反応である。
(3)肥満との因果関係の中心にあるのは、個々の生活習慣そのものではなく、それらに共通して影響を受ける腸内飢餓である可能性がある。この意味で、腸内飢餓は肥満研究において、複数の要因を媒介する生体反応(交絡因子的要素)として位置づけることができる。
<参考文献>
[1]Begley S. America's hatred of fat hurts obesity fight. Reuters. May 11, 2012.
[2]Jou C. 「肥満の生物学と遺伝学 — 1世紀にわたる研究」. N Engl J Med. 2014 May 15;370(20):1874-7.
[3]Speakman JR et al. 「セットポイント、安定点、およびいくつかの代替モデル」. Dis Model Mech. 2011 Nov;4(6):733-45.
[4]McPherson R. 「肥満の遺伝的要因」. Can J Cardiol. 2007 Aug;23 Suppl A(Suppl A):23A-27A.
[5]James, W. 「WHOによる世界的な肥満流行の認識」. Int J Obes 32 (Suppl 7), S120–S126 (2008).
[6]Obesity as a Disease.The World Obesity Federation
[7] Garvey WT.「肥満や脂肪に蓄積による慢性疾患は治療可能か?;セットポイント理論、環境、医薬品」. Endocr Pract. 2022 Feb;28(2):214-222.
[8] Garvey WT et al. 「米国臨床内分泌学会および米国内分泌学会の肥満患者医療総合臨床実践ガイドライン」. Endocr Pract. 2016 Jul;22 Suppl 3:1-203.

