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2019.02.01

なぜ、腸の飢餓状態で太るのか?

目 次

  1. アフリカの飢餓と「現代的飢餓」
  2. 腸内飢餓によって起こりうる適応反応
  3. 設定体重が高くなると何が起こるのか?
    (1) 一度太ると、痩せにくくなる
    (2) 筋肉も同時につく
    (3) 原因と結果が逆転する

<はじめに>

今回の記事では、本ブログの核心となるテーマ、すなわち、なぜ「腸内飢餓」によって体重が増加しうるのかについて述べます。これは、私自身の実体験をもとに、それを生理学的な視点から整理し、仮説としてまとめたものです。

私は大学入学当時、体重が30kg台にまで低下していました。食事量を増やしても体重はほとんど増えませんでしたが、ある時、むしろ食事量が少ない状況にもかかわらず、4~5日のうちに体重(体脂肪だけでなく筋肉量も含む)が5kg程度急増したことがありました。当時、極端に痩せていたからこそ、この急激な体重増加が偶然ではなく、何らかの明確な生理的変化によるものだと強く感じました。

この記事で述べる考え方は、多くの人にとって直感に反するかもしれません。しかし、体重増加を単なるカロリー収支だけでは説明できないと感じている方にとって、一つの視点になれば幸いです。

(「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著 より引用)

”科学の歴史は別の解釈を示している。人々がこの仮説について1世紀以上考え、何十年も真偽を確認しようと試み、それでもなおそれが真実であると納得させるエビデンス(科学的根拠)が生み出せないとすれば、おそらくそれは真実ではない。(~略~)これは科学の歴史において、一見、理屈に合っていると思われる多くの考えのうち、一度も成功しなかったものの1つである。そしてすべてを再考し、どうすれば体重を減らすことができるのかを見つけ出さなくてはならない。”
        
(ゲーリー・トーベス, 「人はなぜ太るのか」,メディカルトリビューン:2013, Page 66.)

1. アフリカの飢餓と「現代的飢餓」

「一時的な食糧不足や飢餓に備えて、身体が脂肪をより効率的に蓄えるように人類は進化してきた」という発想は、肥満を研究する者であれば一度は思い浮かべる考え方でしょう。しかし、この単純な仮説は、歴史的には研究者の間で慎重、あるいは否定的に扱われてきました[1]

その背景には、一般的に肥満者は沢山食べる傾向があり、一方でアフリカの難民のような深刻な飢餓状態にある人々は栄養失調によって著しく痩せている、という観察があります。そのため、次のように反論する人もいるかもしれません。

「もし飢餓状態で太るのであれば、アフリカの難民は太っているはずだ!」

飢餓、食料支援

(著作者:macrovector/出典:Freepik)

しかし、これは「食べたくても食べられない」本当の飢餓状態です。

このような状況では、体脂肪を蓄える以前に、筋肉量の減少や基礎的な生理機能の低下が生じます。消化吸収能そのものが低下することもあり、体がエネルギーを蓄える余地はほとんどありません。

   
▽これに対し、
私がここで述べる「腸内飢餓」とは、腸管内に存在する食物がほぼ完全に消化されたときに、身体が「食物が存在しない」と認識する生理的状態を指します。

これは1970年代以降を境に、主に先進国で顕在化し、現在では世界各地に広がりつつある、いわば「現代的飢餓」の一形態とも言えるものです。

先進国では、高カロリーで、かつ高度に加工された食品を日常的に摂取する傾向が強まっています。特に、消化の速い精製炭水化物や(超)加工食品に偏った食事が続けば、腸管内に消化されない成分が長くとどまらず、結果として腸内飢餓が生じやすい状態が形成される可能性があります。

   
実際、世界の一部の低所得層においても肥満は深刻な問題となっています[2]。そこに共通して見られるのは、単なるカロリー過多や砂糖の過剰摂取ではなく、安価な精製炭水化物や高度に加工された食品に偏ったバランスの悪い食事形態です。

2. 腸内飢餓によって起こりうる適応反応

私は、肥満の根源的な問題の一つは、体重の設定値そのものが高い状態にあることだと考えています。そして、この設定値の上昇には、身体が何らかの形で「飢餓状態にある」と認識した際に生じる適応反応が関与している可能性があると考えています。

本節では、認識される飢餓の一つである「腸内飢餓」という概念と、それによって引き起こされうる体重増加の過程について、植物の例を用いて説明します。(なお、ここでは腸内飢餓に焦点を当てており、体重増加に関わるその他の既知・未知のメカニズムを説明するものではありません。)

植物の根っこ

(著作者:brgfx/出典:Freepik)

▽植物は栄養の乏しい環境に置かれると、より多くの栄養を得るために地中深くへ根を伸ばします。

同様に、人間においても、腸全体(主に小腸)で食物がほぼ完全に消化され「食べ物がない」と知覚される状態、すなわち腸内飢餓が生じた場合、これに類似した適応反応が起こる可能性があると私は考えています。

もっとも、実際に腸のヒダにある突起物(絨毛:じゅうもう)が物理的に伸長するわけではありません。私が想定しているのは、腸の構造や機能そのものの変化ではなく、吸収効率に影響する表面的な変化です。

   
小腸の内部は、ヒダ状の構造と無数の絨毛、さらにその絨毛の表面に発達する微絨毛によって、極めて大きな吸収表面積を持っています(図1)。

これらをすべて広げると、小腸の表面積はテニスコート1面分にも相当すると言われています。

小腸の絨毛

図1:腸の絨毛(微絨毛)

私の仮説では、「食べ物がない」というシグナルが腸(特に小腸)から中枢へ伝えられると、身体はより多くの栄養を確保しようとする方向へ調節され、その過程で、適応反応として絨毛や微絨毛の表面に付着している微細な物質が剥離する可能性があります(図2)。

   
その結果、栄養素と接触可能な表面積が増加し、実質的な吸収効率の上昇が一過性ではなく、その後も持続する可能性があると考えています。

小腸内部と絨毛図

図2:腸内飢餓の発生と適応反応

このような吸収効率の変化が生じた場合、体重増加の幅が 0.3 kgであれ3kgであれ、比較的短期間のうちに、より高い体重でエネルギー恒常性が保たれた状態へ移行する可能性があります。これは過食による体重増加とは異なり、体重の「設定値」そのものが上昇することを意味すると考えられます。

この仮説は、体脂肪として十分なエネルギー貯蔵がある肥満者であっても、カロリー制限に対して代謝的な抵抗を示す[3]ことがある理由の一端を説明できる可能性があります。

【関連記事】重要性を増す体重の「設定値」理論


以上を踏まえると、肥満者と痩せている人の根源的な違いの一つとして、摂取した食べ物をどの程度効率的に消化吸収できるのか、すなわち吸収効率の違いが関与している可能性がある、というのが私の考えです。

日本では、肥満者自身が「水を飲んでも太る体質だ」と表現することがあります。もちろん、水を飲むだけで体脂肪が増えるわけではありませんが、この表現は、肥満者では栄養の吸収効率が高い状態にある可能性を直感的に言い表しているとも解釈できるでしょう。

3. 設定体重が高くなると何が起こるのか?

  

(1)一度太ると、痩せにくくなる

体重の設定値の上昇を反映する体重増加は、エネルギー恒常性の観点では、摂取と消費が釣り合うポイントそのものが高い水準へ移行したことを意味します。つまり、よりポジティブなエネルギーバランスが維持されやすくなり、減量はさらに困難になる可能性があります。

カロリー制限によって一時的に体重が減少しても、元の食事に戻ればリバウンドする可能性が高いでしょう。さらに、食事制限を繰り返すことで、長期的には体重が徐々に増加することも懸念されます。極端な食事制限では空腹状態が長時間続くため、その過程で腸内飢餓が生じやすくなり、結果として設定体重がさらに上昇する可能性があります。
          

(2)筋肉も同時につく

設定体重の上昇を示す体重増加では、タンパク質を含む栄養全体の吸収効率が高まると考えられます。つまり、体脂肪だけでなく、筋肉や臓器などの除脂肪組織も一定程度、並行して増加する可能性があります。

実際、多くの研究で、肥満者は非肥満者に比べて除脂肪量(筋量)も多い傾向が報告されています[4,5,6,7]

ただし、これらは単なる観察結果を示すにとどまり、体脂肪の増加(体重負荷)そのものが筋肉への刺激となり、筋量増加を直接引き起こすことを示すものではありません。

筋肉質な男性

著作者:pikisuperstar/出典:Freepik)

本仮説では、筋量の増加は、体重の増加による機械的負荷に起因するものではなく、栄養状態や代謝環境の変化に伴って、ある程度は体脂肪とともに生じる変化として起こる可能性を想定しています。
               

(3)原因と結果が逆転する

栄養全体の取り込みが増加すると、体はよりポジティブなエネルギーバランスに移行し、同時に次の現象が起こりえます。

消化酵素や多くのホルモンはタンパク質(アミノ酸)から構成されているため、栄養状態の改善に伴って、消化機能や食欲調節機構にも変化が生じる可能性があります。

その結果、体の大きい人や消化機能の高い人が、より多くの食事を摂取することは自然な現象といえます。

つまり、「多く食べるから太る」のではなく、「体が大きくなることで必要量が増え、結果として多く食べる」傾向が現れます。この点から、原因と結果の逆転が生じていると捉えることができます。

痩せと肥満者

(出典:Freepik)

一方、痩せ過ぎの状態では、吸収効率の低下に伴い、摂取した栄養(たんぱく質など)を十分に活用できない可能性があります。その結果、内臓を支える筋量の減少や消化酵素分泌の低下が生じると、食べ物を効率的に消化吸収する能力がさらに低下します。

このような悪循環が形成されるため、ネガティブなエネルギーバランスが維持されやすくなると考えられます。そのため、摂取カロリーを増やしたとしても、体重は増えにくい場合があります。

【関連記事】太った後に、過食し運動しなくなった

<参考文献>

[1]Speakman JR, Elmquist JK. 「肥満:進化論的背景」. Life Metab. 2022 Apr 29;1(1):10-24. 

[2](ゲーリ-・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Pages 22-40)

[3]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen, 「体重設定値:決定と調整」, The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.

[4]Kyle UG et al. 「15歳から98歳までの健康な被験者5225人における除脂肪量および体脂肪量のパーセンタイル値」. Nutrition. 2001 Jul-Aug;17(7-8):534-41. 

[5]Heymsfield SB et al. 「人体組成:モデルと方法の進歩」. Annu Rev Nutr. 1997;17:527-58. 

[6] Janssen I et al. 「18歳から88歳までの男女468人における骨格筋量と分布」. J Appl Physiol (1985). 2000 Jul;89(1):81-8. 

[7]Fornari R et al. 「肥満成人における除脂肪体重は、ビタミンD濃度の上昇、インスリン感受性の低下、および炎症の軽減と相関関係にある」. J Endocrinol Invest. 2015 Mar;38(3):367-72. 

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