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2023.10.07

夜遅くの食事は本当に太るのか?

目次

  1. 夜遅くの食事と体重増加の関連性についての背景
  2. 遅い食事が本当に太りやすいのか?(私の考え)
  3. BMAL1で説明するのには無理がある
  4. 結 論

日本では、多くの人(特に女性)が 「太りたくない」という理由から、夜遅く(9時以降)に夕食やスイーツを摂るのを避ける傾向があります。しかし、それは本当に意味があるのでしょうか?事実、「夜遅くに夕食を摂るようになって以前より太った」という人もいますが、私はそこには間違った認識があると考えています。

1. 夜遅くの食事と体重増加の関連性についての背景

(1) 1946年のイギリス出生コホートを対象に、食事機会ごとのエネルギー摂取量の17年間の変化を調査した横断研究では、1日の後半により多くのエネルギーが摂取されていることが報告されており、集団として、私たちが食事をするタイミングに変化が生じている [1]

非肥満、非糖尿病の中年成人 1,245 人のコホート研究では、一日のエネルギー摂取量の48%以上を夕食で摂取する参加者は、登録時のエネルギー摂取量、身体活動、BMIのばらつきで調整した後でも、6年後の追跡調査で肥満である可能性が2倍高かった[2]

夜勤

(2) 夜勤者や交代勤務者のように、通常身体が休息に入る夜間にまで及ぶ食事パターンをとる人に体重増加傾向の増大がみられる[3]

2018年に発表されたメタ分析では、28件の研究がレビューの対象となり、交替制勤務者は他の肥満タイプよりも腹部肥満を発症する頻度が高かった。常勤の夜勤者は、交替勤務者よりも肥満リスクが 29% 高いことが実証された[4]

(3) これまでの人における観察研究では、遅い時間帯の食事は、報告されたカロリー摂取量や身体活動の違いでは説明できない高い肥満リスク、食事療法や外科的減量の成功率の低下と関連している。食事摂取のタイミング自体が、エネルギー摂取量や活動に伴うエネルギー消費量の変化とは関係なしに体重に影響を及ぼす可能性が示唆されている[5]

(4) 2017年に発表されたレビュー(過去の研究の検証)では、夜のエネルギー摂取量と体重増加 (BMI)との関係が調査された。関連する121の論文のうち、10件の観察研究と8件の臨床試験が系統的(システマティック)レビュー(注1)に含まれた(102 件のテキストがレビュー適格基準を満たさなかった)。

観察研究のうち 4 件は BMI との正の関連を示しましたが、5 件は関連を示さず、1 件は弱い逆相関を示しました。観察研究のメタ分析(注2)では、BMI の増加と夜間のエネルギー摂取量の増加の間にはわずかな傾向 しか示されませんでした。
また大多数の臨床試験では、夕食の量を減らした方が体重減少が大きかったと報告してるが、メタ分析ではグループ間で有意な差は示されませんでした。

(注意すべき点として、食事のタイミングの定義、エネルギー摂取量の定量化、食事の評価方法などにはかなりの不一致があり、含まれた研究の不均一性が研究結果の信頼性に影響を与えている可能性が指摘されている。)
[6]
(注1:過去の研究論文を系統的に検索・収集し、類似した研究を一定の基準で選択・評価したうえで、科学的な手法を用いてまとめること。
注2:過去に独立して実施された複数の研究結果を集めて統合し、それらを用いて解析を行う方法)

  

(5) 2022年に発表された無作為比較クロスオーバー試験では、過体重又は肥満の16人の被験者が2つの実験プロトコルを完了しました。一つは厳密に管理された早い時間帯の食事スケジュールで、もう一つは全く同じ食事内容で、すべて4時間後にスケジュールされたものでした。

その結果、遅い食事は空腹感を増加させ、エネルギー消費量を減少させ、脂肪組織の分子経路に影響を与えることが判明した。この研究では、直接的な食事タイミングを調査することが目的であったため、カロリー摂取量、身体活動、睡眠、光の曝露などの交絡変数を制御することで他の影響は分離されたが、実際の生活ではこれら多くの要因は食事のタイミングによって影響を受ける可能性がある[7]

2. 遅い食事が本当に太りやすいのか?(私の考え)

私達が就寝後、ホルモンなどの働きにより脂肪の合成がより促されるとすると、ある意味、誰でも夜の食事が朝・昼より多少太りやすいとしても不思議ではない。それがこの問題をさらに複雑にしているのですが、だからと言って、夜間の食事と肥満リスクの増大を関連づけるのは正しいとは限らない。

以下の記事でも言ったように、肥満リスクの増大は「食事のタイミング」だけが重要な要素ではなく、「何を食べるのか?」を常に組み合わせて考えなければならないと考えます。夜遅くの食事」と「朝食抜き」は表裏一体であり、そういう食習慣はバランスの悪い食事と組み合わさった時に腸内飢餓を引き起こしやすく、長期的に人は太りやすくなると考えています。次の4つのパターンについて考えてみたいと思います。

【関連記事】「いつ食べるのか」は大事だが、「何を食べるか」と組合わせるべき

   

(1)食事が全体的に4時間遅くなる場合

第1節(5)で示したように、2022年に行われた、短期的な介入試験によると、早い時間帯の食事スケジュールに比べ4時間遅くスケジュールされた食事が、食欲・エネルギー消費・脂肪組織の分子経路に影響を与えるとのことであるが、それが長期的に人を肥満にするかは依然として不明である。


私は和食店で調理師として働いていたが、その時の食事のタイミングがこれにあたる。朝食は9時頃に軽く食べ、昼食はスタッフ全員で3時頃に食べていた。夕食はお店の営業が終わった11過ぎであった。
飲食店で働く一般的な社員も大体、全体の食事が3~4時間ずつ遅れることが多いのだが朝食・昼食でバランスのとれた食事をし、食事の間隔が一定の場合、(少なくとも日本では)それが肥満リスクを著しく増加させるとは考えにくい

もちろん徐々に太っていく人や、急に太る人も中にはいるが、「何を食べるのか」が一番の問題であると考えます。消化の良い炭水化物やタンパク質に偏るバランスの悪い食事と「朝食または昼食抜き」などが重なっていけば、太りやすくなると考えます。

このような食事パターンを続けることによって、実際にスリムな人が太るかどうかを調査したければ、レストランのスタッフなどに協力してもらい、すべての店のスタッフに同じ食事メニュー(朝・昼・晩)を食べてもらうことで確かめることができるのではないだろうか?
      

(2) 昼食から夕食までの間隔が長くなる場合

遅い夕食によって太りやすくなる場合の典型的なパターンが、昼食は12時頃にとって、夕食が20~21時頃に遅れるパターンだと思っています。

私の友人は、車で会社の外回りの営業活動をしているため、夜の食事が20時か21時頃になるという。かつては彼は痩せ型だったが、結婚してからは自由に使える小遣いも少なく、昼食はうどんやラーメン・丼ぶりで済ますこともあったという。

麺類、どんぶり

2年ほどの間に彼は10キロ以上太ったのだが、これは夕食が遅くなることよりも、昼食などを炭水化物中心の簡単なものにし、空腹を長時間我慢していることがむしろ問題であると私は思っています。

朝食の記事でも紹介した、「朝・昼を簡単な食事にし、夕食で不足するエネルギー・栄養を補う」という逆三角形型の食事パターンと同じである。
この場合、遅い夜の食事の前に腸内飢餓ができやすく、基本体重が気が付かないうちにアップする可能性があるのです。


(3) 夜食を食べ、朝食を抜く場合

また、夕食後、寝る前に夜食などを食べる人もいるかも知れないが、こういう人達は朝食を抜く可能性が高いのではないだろうか?第1節の引用で示したように「夜間の食事は長期的に体重増加のリスクを高める」という観察研究があるが、裏を返せば、朝食を食べないことなどがむしろ問題であると私は考えます。

朝食を食べない場合、夜食・昼食が消化の良い炭水化物や肉などに偏るバランスの悪い食事で、かつ野菜などが不足すれば、徐々に腸内飢餓を引き起こしやすくなるのである

逆に、一日の早い時間帯の食事で、繊維質の野菜や乳製品、タンパク質、脂質などバランス良く食べておけば消化されない物質が腸内に長時間残るために腸内飢餓状態を防いでくれるのである。
        

(4) 夜食は太る原因とはならない可能性

毎日、一日3回規則正しくバランスの良い食事を食べているのであれば、多くの人にとっては、寝る前の食事が太る原因にはならないと考えます。普段から摂取カロリーを控えめにしている人が、夜遅くにスイーツやラーメンを食べれば体重が数キロアップすることはあるでしょうが、それは基本体重に戻ることを意味します。

実は日本には痩せ型の人も多いのですが、その人達が太りたいが為に、3食の他に就寝前にスイーツや軽い食事をしたとしても、体重は増えない可能性のほうが高く、胃腸が弱く消化能力の強くない人はむしろ体重は減少することもあると推測します(少なくとも、私においては100%事実)。

睡眠中

本来、睡眠中は体を休め、胃腸も休めるのが良いのですが、寝る前に食べると、胃腸は睡眠中も働き続けなければいけません(食事誘発性熱産生)。
それにより胃腸に負担がかかり、傷ついた細胞の再生やタンパク質・脂質の合成が低下する可能性があるのではないかと私は推測します。

3.BMAL1 で説明するのには無理がある

日本では、BMAL1の分泌量と体重増加がいかにも関連があるかのように説明する専門家がおられます。
BMAL1 は体内時計に関与するタンパク質で、脂質代謝にも関連すると言われていますが、その分泌量は午後6時ころから増えだし、午後10時から午前2時にかけてピークに達するので、「同じ摂取カロリーでも夜遅く(例えば10時)に食べると6時の夕食より数倍も太りやすい」ということの根拠とされているようです。

しかし、私はその説明には少し無理があると考えています。何故かというと、「消化時間」が抜け落ちているからです。

例えば、午後10時に食事を摂れば消化されて吸収されるまでに、食事の組合せや人にもよりますが、4~6時間かかるでしょう。特に脂肪は消化が悪いので、7~8時間経った朝でもまだ消化されず胃がもたれているということもあるかもしれません。

つまり消化吸収のための時間が考慮されてない訳ですから、食べた時刻とBMAL1の値を関連付けるのには無理があります。

BMAL1の値が午後10時から午前2時頃にかけてピークを迎えるのは、私達人間が大昔から夕方6時前後に夕食を摂っていたとすると、ちょうど消化吸収され栄養が全身の細胞に運ばれた頃にうまく合成できるようになっているのではないかと私は推測します。

4. 結 論

ホルモンなどの分泌は概日リズムと密接に関係があり、昼と夜では大きく異なる。さらに他のいろんな要因が関わってくることは、夜遅くの食事と肥満リスクの増大の問題をさらに複雑にしている。

しかしながら、私は肥満の根本的な原因は基本体重値が高いことだと思っており、「夜遅くの食事」によって基本体重がどの様にアップするかを説明したいと思います(図-1, b)。

基本体重up

(図-1)

(1) 「太る」という言葉には2つの意味がある。

普段から痩せるために摂取カロリーを控えている人なら猶更、必要以上のカロリーを摂れば一晩で数キロ体重が増加することもあるかもしれない。

しかし、それは基本体重に戻る場合(図-1, a)であるので、これを混同してはならない。この場合、食事の時刻が夜の7時か、又は10時であるかは問題ではないはずである。

(2) 一日3回規則正しく、バランス良く食べている瘦せ型・中型体型の人であれば、寝る前の追加の軽食・おやつなどは体重増加ならびに肥満リスクを増大させる理由とはならないと考えます。
また、レストランで働く調理師・従業員などに見られるように、一日3回の食事がそのまま4時間遅くずれるような食事パターンにおいても、バランスの良い食事を食べているならば、それほど肥満リスクを増大させるものではないと考えます。

要するに、食事が遅くなることで空腹感が増せば、腸内飢餓の誘発を加速する可能性はあるが、未消化の食べ物がまだ腸内に沢山ある状態では腸内飢餓は起こりにくいのです


(3) 第1節-(4) で引用した2017年のレビューのように、「夜のエネルギー摂取量と体重増加 (BMI)との関係」は調査する集団によって異なる結果を生み出す可能性は十分にある。朝食・昼食をバランス良く食べている人(朝型のクロノタイプ)では夜遅くの食事が体重増加につながらない可能性があるからである。



(4) 夜遅くに多く食べるという人は、逆に「朝食を抜く」又は「軽い朝食」の習慣と関連しているかも知れない。

胃腸が活発に動き出す一日の最初の朝食で、穀類、繊維質の野菜、乳製品、タンパク質、脂質などバランス良く食べておけば消化されない物質が腸内に長時間残るのですが、彼らは朝食を食べていないので昼食が最初の食事です。

昼食が消化の良い炭水化物とタンパク質に偏った食事で、野菜が不足する場合、夜の食事が20~21時と遅くなることで、空腹感は増大し腸内飢餓が引き起こされやすくなるのです。こういう食事パターンでは、長期的に基本体重がアップし、太る可能性が高いのです。

つまり私の理論上では、夜遅くに食べたからと言って肥満になる訳ではない。むしろ昼夜のバランスの悪い食事や 「空腹を長時間にわたり我慢していること」 が主な問題である。
        

(5) 夜の食事が遅くなるのであれば、夕方5時頃にでも軽い食事又はおやつ(牛乳、サンドウィッチ、ナッツなど)を食べて食事を分散することで、腸の飢餓状態を防ぐことができる。朝食を食べる時間がない場合も、せめて牛乳やカフェオレだけでも飲むことが大切だと考えます。


(6) 現実世界では、夜遅くに食事をしようとすると、バランスの良い食事を摂るのが一層難しくなる。

日本では、夜の11時頃なら、チェーン店のカレーや牛丼・ラーメン、又はコンビニ弁当などになってしまう場合がある。特に夜勤労働者などはバランスの良い食事を確保するのが難しい可能性もあり、カロリー量ではなく、野菜の摂取など食品バランス面に焦点をあてた観察研究も必要ではないであろうか?

<参考文献>
[1]Almoosawi S et al. 
Daily profiles of energy and nutrient intakes: are eating profiles changing over time?. Eur J Clin Nutr 66, 678–686 (2012). https://doi.org/10.1038/ejcn.2011.210

[2]Bo S et al. Consuming more of daily caloric intake at dinner predisposes to obesity. A 6-year population-based prospective cohort study. PLoS One. 2014 Sep 24;9(9):e108467. doi: 10.1371/journal.pone.0108467. PMID: 25250617; PMCID: PMC4177396.

[3]Davis R et al. The Impact of Meal Timing on Risk of Weight Gain and Development of Obesity: a Review of the Current Evidence and Opportunities for Dietary Intervention. Curr Diab Rep. 2022 Apr;22(4):147-155. doi: 10.1007/s11892-022-01457-0. Epub 2022 Apr 11. PMID: 35403984; PMCID: PMC9010393.

[4]Sun M et al. Meta-analysis on shift work and risks of specific obesity types. Obes Rev. 2018 Jan;19(1):28-40. doi: 10.1111/obr.12621. Epub 2017 Oct 4. PMID: 28975706.

[5][7] Vujović N et al. Late isocaloric eating increases hunger, decreases energy expenditure, and modifies metabolic pathways in adults with overweight and obesity. Cell Metab. 2022 Oct 4;34(10):1486-1498.e7. doi: 10.1016/j.cmet.2022.09.007. PMID: 36198293; PMCID: PMC10184753.

[6]Fong M et al. Are large dinners associated with excess weight, and does eating a smaller dinner achieve greater weight loss? A systematic review and meta-analysis. British Journal of Nutrition. 2017;118(8):616-628. doi:10.1017/S0007114517002550

     

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