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2016.07.29

痩せるのに運動は必要ないとしたら

<目次>

 プロローグ
  1. 健康のためには良くても、痩せるためにはどうなの?
  2. 運動の減量効果を疑ういくつかの理由
  3. エネルギー消費と摂取はリンクしている
  4. 「運動が減量に効果がない」というエビデンスは無視された
 まとめ

プロローグ

「人はなぜ太るのか?」 【ゲーリー・トーベス著】より引用

"あなたが晩餐会に招待されたと想像してください。
あなたは夜の特別なメニューの為に、お腹をすかして行こうとします。その為に昼食を抜いたり、お腹をすかせる為にスポーツジムへ行ったり、マラソンしたり、歩いて会場まで行こうとするかもしれない。

私達が体重を減らそうとするときに行うこと、つまり『食べる量(カロリー)を減らす・もっと運動する』ことは、私たちの目的が、お腹をすかせること、食欲を増すこと、もっと食べたい時にとる方法と全く同じである。

今や、「もっと食べる量を減らし、もっと運動をしなさい」という半世紀にわたり繰り返されてきたアドバイスと同時に起きている肥満流行の存在は、それほどの矛盾ではないように思えてくる。" [1]

1.健康のためには良くても、痩せるためにはどうなの?

(再び「人はなぜ太るのか?」ゲーリー・トーベス著より引用)

“座りっぱなしの行動が、食べる量と同じぐらいに体重の問題の原因になっていることは、今や一般的に信じられている。そして、私たちが太るにつれて心臓病、糖尿病、がんになる可能性は高まるため、一般に座りがちであると信じられている私たちの生活も、今やこれらの病気の原因と考えられている。
定期的な運動は、今日のすべての慢性疾患の予防に欠かせない手段と考えられている。

軽い運動

(略)身体活動が健康のためにはよいという考えは、今や私たちの意識のなかに非常に深く浸透し、健康とライフスタイルに関する異論の多い科学において、決して疑われるべきではない1つの事実だとしばしば考えられるほどである。

しかし、私がここで調査したい問題は、「運動が私たちにとって楽しいものか、健康なライフスタイルに必要なものであるか」ではなく、「運動は私たちが痩せている場合には体重の維持を、痩せていなければ減量を助けるものなのか」である。

その答えはノーのように思われる。

マラソンランナー

(略)カロリーを消費するほど私たちの体重は軽くなるという一般的な考えは、 究極的には1つの観察と1つの仮定に基づいている。その観察とは、「痩せた人はそうでない人よりも肉体的により活発な傾向にある」ということである。

これには異論がない。一般にマラソンランナーは過体重や肥満ではない。

しかしこの観察は、ランナーが走っていなければもっと太っていたかどうかや、太った男女が趣味として長距離のランニングを終日行うことで、痩せたマラソンランナーに変化するかどうかについては何も語らない。"[2]

2.運動の減量効果を疑ういくつかの理由

従来のカロリー制限ダイエットに運動を加えても、あまり減量効果に差異がなかったという研究結果があるのですが、その理由を探ってみましょう。次の5点を挙げたいと思います。

【関連記事】「ダイエットは長期的にはほぼ効果なし」
   

(1)貧困層での肥満(再び「人はなぜ太るのか」より引用)

"米国、欧州、その 他の先進諸国において、人々は貧しいほど肥満である可能性が高くなる。 貧しいほど、頭脳よりもからだを使って生活費を稼ぐために、肉体的にきつい仕事に就く可能性がより高いことも事実である。

彼らがフィットネスクラブに通ったり、余暇の時間を次のマラソン大会のためのトレーニングに費やしたりすることはないかもしれないが、より裕福な人たちに比べて、彼らは畑や工場で使用人や庭師として、あるいは鉱山や工事現場で働く可能性がはるかに高い。

工事現場

貧しいほど太っている可能性が高いということは、「日常生活で消費するエネルギーの量が太るかどうかになんらかの関係がある」とする主張を疑う非常によい理由の1つである。

前述したように、もし工場労働者たちや油田の労働者たちが肥満になるのならば、日常生活のエネルギー消費がそれほど大きな違いを生むと想像することは難しい。"[3]

(2)運動によって、より空腹になる

運動や力仕事をしたとき、デスクワークなどの座った生活よりも「空腹」を感じ食欲が増すというのは、多くの人が実感していることと思います。痩せたいがために運動をしたのに、その後に疲れてチョコレートなどの甘いものを食べてしまい、自らの意思の弱さや「自制心の無さ」を後悔した人もいるかもしれない。

しかし、それらは人間・生き物にとって正しいメカニズムであると考えるのです。この問題については、次のセクション「3」でより詳しく探っていきます。

(3)吸収率がアップする 

有酸素運動か無酸素運動かにより、体脂肪減少などの効果は違うと言われていますが、いずれにせよ、運動で一旦消費されたエネルギーは、基本的に戻ってくるはずです。

私達が運動すれば、筋肉はエネルギーを必要とします。運動の強度によって異なりますが、主に血中のグルコース、筋肉に蓄えられているグリコーゲンや脂肪細胞からの脂肪酸などから、エネルギーは生み出されます。

もちろん、エネルギー消費量は一旦は増えますが、その後体は、消費されたものを補うために、より多くの栄養素を食べ物から吸収しようとするため吸収率がアップすると私は考えています。

エネルギー循環

吸収率がアップする」というのは分かりにくいかもしれませんが、ひどい空腹の時や運動の後にお酒を飲むと、顔が赤くなったり、普段より酔いが早く回る経験をした人がいるかも知れません。
またお酒の飲めない人であれば、運動後に甘いものを摂取すると、血糖値がいつもより急激に高くなるかもしれません。

(4)その他の時間に動かなくなる

人は運動を増やすと、自然にそれ以外の生活で運動しないようになる傾向があると言われています。

例えば、30分のジョギングを終えた後、その疲れから結局ソファーで数時間くつろいでしまったり、普段よりも活動的でなくなる可能性もあります。[4]

ソファーくつろぐ
(5)消費される体脂肪は僅か

体脂肪というのは備蓄型のエネルギーですから、すぐには使わないようにできています。ですから、筋肉に負荷をかける強度の高い無酸素運動の場合、開始から15秒程度は筋肉内に貯蔵されたATPやクレアチンリン酸がエネルギー源として使われます。その後、消費しているのは血液中のグルコースや、筋肉に蓄えられている即効型エネルギー源であるグリコーゲンです。

体脂肪が燃えやすいと言われるジョギングなどの有酸素運動でおいて、脂肪燃焼ゾーン(心拍数が最大心拍数の60-69%に保たれる低強度の運動)という概念がありますが、その場合でさえ、消費カロリーのうち脂肪由来は約50%と言われています。30分のジョギングで消費されるカロリーは200kcalだとしても、それがすべて体脂肪の減少につながる訳ではないです。[5]

3.エネルギー消費と摂取はリンクしている

上記「2」で、運動後に吸収率がアップしたり食欲が湧くこと、運動以外の生活で動かなくなること、について説明しましたが、より科学的な説明を「人はなぜ太るのか」より再び引用します。
  

(「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著より引用)

“摂取するよりも多くのエネルギーを消費することが、体重の問題を解決し、より体重を軽くすることができるという考えは、まさに熱力学の法則に関する、別の間違った仮説に基づいている。

それは「摂取するエネルギーと消費するエネルギーは互いに影響を及ぼさない」という仮説です。

私達は直感的に、これが真実ではないことを知っているし、動物や人間での研究で1世紀も前にこれは確認されている。

たとえば、自分自身を半飢餓状態におく人たちや、戦争、飢饉または科学実験で半飢餓状態におかれた人たちは、いつも空腹を感じる(不機嫌でうつ状態になることも)だけでなく、無気力でありエネルギー消費量も少ない。体温が低下するため、彼らは常に寒さを感じる傾向にある。それに対し身体活動を増やすと空腹感が増す。運動は食欲を増進させる。

(略)要するに、私達が摂取するエネルギーと消費するエネルギーは相互に依存している。

一方を変えると、他方がそれを補正して変わる。数学者たちは、お互いが独立した変数ではなく、従属変数であると言うだろう。(略)これと違うことを主張する人はみな、複雑な生命体をあたかも単純な器械装置のように扱っている。

2007年、ハーバード大学 医学部長である、ジェフリー・フライアー(とその妻)は、雑誌Scientific American に「脂肪に燃料を注ぐもの」という論文を発表した。彼らは、食欲とエネルギー消費の密接な関係を述べ、この2つは人間が意識的に変えることができるようなものではないこと、またこの2つの補正の結果が脂肪細胞の増減を示すような単純な変数ではないことを明らかにした。" [6]

4.「運動が減量に効果がない」というエビデンスは無視された

(引き続き「人はなぜ太るのか」より引用)

"結局のところ、私たちが消費するカロリーの量が私たちの肥満度に影響を与えるという考えを支持するエビデンスはごくわずかである。

2007年8月、米国心臓病協会(AHA)と米国スポーツ医学会(ACSM)が身体活動と健康に関する合同ガイドラインを発表した際、このエビデンスをきわめてまずい方法で示した。(略) 彼らは、週5日、1日30分のほどよい精力的な身体活動が「健康を保ち、促進する」ために必要であると述べ た。

しかし、肥満になることや痩せたままでいることに対し、運動がどのような影響を与えるのかという質問となると、専門家たちは「1日あたりの エネルギー消費量が比較的多い人たちは、エネルギー消費が少ない人たち に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低いと仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持するデータは、特に説得力があるものではない」としかいえなかった。(略)

研究者

1970年代後半以後、運動によって体重を維持あるいは減少できるという信念に駆り立てたのは、それが真実であると信じたい研究者たちの欲求と、公にそうではないと認めることに対する彼らのためらいが原因であっ た。

実際のエビデンスを見て「がっかりする」ことは避けられないが、運動に効果がなかったということは「短絡的」 であり、なぜなら肥満の予防と食事制限により減らした体重を維持することに運動が貢献している可能性を無視することを意味するからである。

研究者たち自身は、実際にエビデンスが何を示していようとも、運動と身体活動の推進を続けられる文書や論説の書き方を見つけていた。

一般的な方法の1つは、身体活動とエネルギー消費が肥満の程度を決めるという考えを後押しすると思われる結果だけを論議し、一方でこの見解を反証するエビデンスは、たとえその数がはるかに多かったとしても無視するというものである(現在においてもそうである)。"[7]

<参考文献>
[1]ゲーリ・トーベス,「人はなぜ太るのか」, 2013, Page 48.
[2]Pages 49-50, 55.
[3]Page 50.
[4]ジョン・ブリッファ,「瘦せたければ脂肪を沢山とりなさい」,2014, Page 225.
[5]University of Hawai‘i at Mānoa Food Science and Human Nutrition Program,「Fuel Sources for Exercise」, 2018.
[6]ゲーリ・トーベス,「人はなぜ太るのか」, 2013, Pages 88-9.
[7]Pages 52, 63-4.

まとめ

(1)カロリーを消費するほど私達の体重は軽くなるという考えは、「痩せた人は太っている人よりも肉体的により活発な傾向にある」という観察に基づいている。しかし、それを支持するエビデンスは極わずかである。

(2) 「痩せている人は、肉体的に活発な傾向にある」という事実は誰もが認めるところだが、「運動により消費カロリーを増やせば痩せれる」というような単純な問題ではない。その関係性はもっと複雑である。

【詳しく見る「食事・運動・体重の関係性を間違えている」

(3) 消費するカロリーと摂取するカロリーは相互に連動しており、運動をすれば空腹感や疲労感が増し、食欲は増大する。また摂取カロリーを同じに保ったとしても、運動後に吸収率がアップし、体は消費したエネルギー源、その他の栄養素を取り戻そうとする。

(4) 過体重の問題は、基本体重(BW)が高くなっていることであり、運動によるエネルギー消費は一時的な体重減少につながっても、長い目でみると効果的とは言えない。運動と組み合わせて、食事のバランスや摂取方法を改善することのほうが重要である。

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