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2021.09.30

貧困層における、低栄養(痩せ)と肥満の共存は矛盾していない

<目次>

  1. 栄養不良と肥満の事例
  2. 私達はどうすればいいのか?
  3. 低栄養(低体重)と肥満の共存はありうる

大部分は本からの引用になりますが、最後に私の経験との関連について述べます。

【関連記事】→ 豊かだから太るのか、貧困が太るのか?

1. 栄養不良と肥満の事例

(「人はなぜ太るのか?」【ゲーリー・トーベス著】より引用)

同じ集団に存在する肥満と栄養不良、または低栄養(カロリー不足)の組み合わせは、今日の専門家たちが何か新しい現象であるかのように語るも のであるが、実はそうではない。80年前にはすでに1つの集団に栄養不足(低栄養)が肥満と共存している状態があったのである。[1]

  

(1930年代:ニューヨーク,マンハッタン)

1934年、ヒルデ・ブルッフという若いドイツ人の小児科医が米国、ニューヨークに移住した。彼女はそこで肥満の子供の数に驚愕し、後に「肥満の子供たちが、診療所だけではなく、街頭、地下鉄、そして学校にあふれていた」と記している。

ニューヨーク

しかし、これは1930年代中頃のニューヨークでのこと。
今日私たち がファストフードと考えているケンタッキーマクドナルドの1号店が生まれる20年も前のことであり、 スーパーサイズ や高果糖のコーンシロップが登場する半世紀前だった。
さらに重要なことは、1934年は大恐慌のどん底であり、炊き出し、パンの 配給、そして空前の失業の時代であったことである。

米国の労働人口の4人に1人が失業者で、米国人の10人に6人が貧困状態にあった。ブルッフや仲間の移住者たちが、地域の子供たちの肥満の多さに驚かされたニューヨークでは、子どもの4人に1人が栄養不良といわれていた。こんなことがありうるだろうか?

ブルッフによれば、これらの子供たちが食べる量を減らして体重をコ ントロールしたり、少なくとも今までより食べる量を減らすことを考えながら人生を過ごしたにもかかわらず、結局、太ったままであったということはまぎれもない事実だった。[2]
  

(1930年代、スー族)

シカゴ大学の2 人の研究者が米国先住民の南ダコタに住むスー族を研究した。彼らは「住むのにふさわしくない」掘っ立て小屋に、しばしば1部屋に4~8人の家族が住む状況にあった。子ども32人を含む15家族は「おもにパンとコーヒー」で生活していた。これは私たちの想像を絶するほどの貧困である。

それにもかかわらず、現在、肥満の流行のまっただ中にある私たちの肥満率と彼らには大きな差がなかった。シカゴ大学の報告には、居留地の成人女性の40%、男性の25%、子どもたちの10%が「もれなく肥満と定義されるだろう」と記されている。

スラム

研究者の一人(フルデリカ)が「少なからぬ怠惰」 と呼んだ居留地での生活が彼らの肥満の原因であった可能性もあるが、研究者たちはスー族において別の関連する事実に注目した。
それは成人女性の5分の1 、男性の4分の1、 子供たちの4分の1が「極端に痩せていた」ことである。

居留地の食事の多くは政府の配給に頼っており、カ ロリーと蛋白質、必須ビタミン類とミネラルが不足していた。これらの食事の栄養不足の影響を見逃すわけにはいかない。研究者らは「統計をとったわけではないが、何気なく観察しただけでも、これらの家族の間で虫歯・O脚・ただれ眼・失明が高い頻度で存在することに気付かないわけがなかった」と報告している。[3] 
  

(ブラジル、サンパウロにて)

これは2005 年に医学雑誌に掲載されたジョンズホプキンス大学、栄養センター長である、ベンジャミン・カバレロの論文「栄養の矛盾-発展途上国における低体重と肥満」からの抜粋である。

カバレロはブラジル・サンパウロの スラム街にある診療所を訪問した経験を述べている。
彼は、待合室の様子について「慢性低栄養の典型的な症状を示す、痩せて発育を阻害された幼い子供を連れた母親たちであふれていた。発展途上国の貧しい都市部を訪れてこの光景に驚く人たちは、残念ながらほとんどいないだろう。しかし驚くなかれ、これら栄養不良の幼児を抱く母親たちの多くが肥満なのである」と記した。

母と子

もし私達が、母親たちの肥満は食べ過ぎが原因であると信じ、子供達がやせて成長が止まっているのは十分な食物を与えられていないからだと理解するなら、子供達の成長に必要なカロリー(栄養)を母親が余分に食べていたと仮定することになる。

言い換えれば、母親たちは、彼女たち自身が過食するために、子供たちを意識的に飢えさせようとしていたことになる。これは私たちが知る母性行動の すべてに反する。

カバレロは次にこの現象が示唆する問題点について、
「低体重(低栄養)と肥満の共存は公衆衛生上の計画に対する挑戦を突きつけており、それは低栄養を減らす計画の目的が、明らかに肥満予防の計画と相反するからである」と説明した。

簡単にいえば、肥満を防ごうと思えば、人々が食べる量を減らさなくてはならないが、低栄養を防ごうと考えれば、食物の供給を増やさなくてはならないということだ。私達はどうすればよいのか?[4]

2. 私達はどうすればいいのか?

(引き続き「人はなぜ太るのか?」より引用)

1970年代の初期、栄養学者と研究熱心な医師たちは、これらの貧しい集団における重度の肥満に関する観察を議論し、時にその原因について偏見なく論じた。

小児科

英国からジャマイカの糖尿病専門家へと転身したロルフ・リチャーズは1974年に(肥満と貧困に関し)「先進国での高い生活水準と比べて、西インド諸島に存在するような比較的貧しい社会に見られる高い肥満率を説明することは難しい。これらの地域において栄養不良低栄養 は生後2年間によくある異常で、ジャマイカの小児科病棟への入院のほぼ 25%を占める。低栄養は小児期初期から10代はじめまで続く。女性の集団では、肥満は25歳からはっきりと現れ、30歳以上では肥満率が非常に高くなる」と論じている。

リチャーズのいう「低栄養」は十分な食物がなかったことを意味する。生まれてから10代はじめまで、西インド諸島の子どもたちは極端にやせていて、成長は足踏みした。彼らにはより栄養のある食物ではなく、より沢山の食物が必要であった。

それから肥満が現れ、これは特に女性に顕著で、彼らが成年に達するにつれ急加速した。これは1928年にスー族で、またその後チリで観察された組み合わせで、同じ集団や同じ家族内で栄養不良と肥満が共存していた。

  

肥満を「一種の栄養失調」と呼ぶことに、道徳的判断、信条、過食と怠惰への遠回しな皮肉は込められていない。
それは単に食料供給に何か問題があるといっているだけで、私達にはそれが何なのかを突き止める義務があるのかもしれない。

同じ集団や家族の中でさえも起きる低体重と肥満の共存は、公衆衛生上の計画に対する挑戦を促すのではない。私達の肥満および過体重の原因に関する信念に対して挑戦状を突き付けているのである。[5]

<参考文献>
[1]ゲーリ・トーベス,「人はなぜ太るのか」, 2013, Page 32
[2]P. 10-11
[3]P. 31
[4]P. 38-39
[5]P. 38, 40

3. 低栄養(低体重)と肥満の共存はありうる

<低栄養と肥満について>

まず、「低栄養と肥満は矛盾したメッセージではない」ということを私の経験に基づいて説明したいと思います。

繰り返しになりますが、私が30キロ台に激ヤセした中で、初めは高カロリーの食べ物をたくさん食べていたけど全く太ることができず、ある時、腸全体を飢餓状態にすれば太れるということに気が付いたんです。

一番飢餓状態を作りやすくするのが、消化の良い炭水化物(デンプン)と良質のタンパク質を少しだけ食べること(そして、その他の物を食べないこと)でしたが、エネルギーやその他の体に必要な栄養が不足してフラフラになっていました。

バランス

逆にミネラルやタンパク質などの栄養を補うために牛乳や卵、野菜、豆、小魚などの食品を摂ると、栄養の状態は一時的に回復しましたが、それと同時に、それ以上太ることもありませんでした。私の場合は消化できなかったからです。

つまり食事全体に対する、炭水化物の比率が高いほど(量ではない)、繊維質の野菜やタンパク質・脂質を含む栄養価の高い食品が少ないほど、腸内飢餓が起こりやすく、基本体重がアップする可能性があります。

ビタミンやミネラルの欠乏によって病気が引き起こされるというのは確かに考えられますが、低栄養と肥満は矛盾したメッセージではないのです。

<低体重と肥満の共存について>

またカバレロ氏の言及された『貧困層での低体重と肥満の共存』について説明すると、同じグループで同じものを食べたとしても、体の中においては異なる結果になる場合があります。

腸の中ですべて消化した人は、私の腸内飢餓 理論により基本体重がアップし、最終的に肥満になるかもしれません。

しかし、すべて消化できなかった人は低栄養で痩せたままです。ほんの少しの消化されない食べ物が腸内に残るだけで、腸内飢餓は起きにくくなるのです。(特に、極端な痩せの状態は消化する能力まで低下させるので、腸内飢餓を引き起こすのが難しくなる。)小さな違いが時に大きな結果の違いにつながります。


▽また現代に当てはめると、それは私達の社会で起こっている現象と同じではないでしょうか?

ある人がそれほど食べないのに太っている場合、その人は運動不足か代謝が低いと考えられがちです。また、多く食べても痩せている人を見ると、その人は動いてエネルギーを消費しているか代謝がいいと考えがちです。多くの研究者は、何らかの理由をつけて「太る原因は、食べ過ぎているか身体的な不活発である」という理論に当てはめようとしているだけです。

しかし先入観を捨ててこれらを見ると、同一グループにおける「痩せと肥満の共存」と同じ現象であると言えるでしょう。肥満・過体重は必ずしも過食の結果ではないのです。


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