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2016.06.03

豊かだから太るのか、貧困が太るのか?

目次

  1. 豊かさが肥満の原因と言われるが・・・
  2. 貧困なのに肥満が多かった事例
  3. なぜ彼らは太っていたのか?
  4. 豊かになったと言っても、『食べ物の質』はどうだろう?

私のブログの内容とも関連する、興味深い話があったので紹介します。大部分は本からの引用ですが、この最後に私の考えを述べたいと思います。
【関連記事】→貧困層における、低栄養(痩せ)と肥満の共存は矛盾していない

1.豊かさが肥満の原因と言われるが・・・

「人はなぜ太るのか?」(ゲーリー・トーベス著)より引用

1990年代半ば、米国疾病予防管理センター(CDC)の研究者が、米国において肥満が流行しているというニュースを発表して以来、専門家達は「過食と座りっぱなしの行為」が肥満の要因であると非難し、これら2つを比較的豊かな現代社会のせいにした。

読書

<2003年>
■ニューヨーク大学の栄養学者マリオン・ネッスルは、雑誌サイエンス(Science)において「改善された豊かさ」が食べ物と娯楽産業に支えられ、肥満の流行を引き起こしたと説明した。

彼は、「これらの産業は人々を、誇大広告で売り込まれた高エネルギーで低栄養価の食物の消費者、座りっぱなしを助長する車やテレビ・パソコンの消費者へと変えた。体重が増えることは、こうした商売に都合がよい」と述べている。

■エール大学の心理学者ケリー・ブラウネルは、バーガーやスナック菓子、子供を運動不足にするテレビやゲームなどに囲まれた生活を「毒性環境」という言葉で説明した。

彼は、「チーズバーガーやポテト、スーパーサイズの食べ物、ジュースやキャンディ、ドライブスルーなどは、昔は滅多に見かけなかったが、今や草や木、雲のようなものである」と言った。

さらに「パソコン、テレビ、ゲームは子供を家に閉じこもらせ、運動不足にする」と説明した。

現代の生活

▽世界保健機関(WHO)は、世界的な肥満の流行を説明するために全く同じ理論を使い、収入の増加や都市化、「体を動かすことの少ない仕事への移行」、「受け身な娯楽の追及」が原因であると非難した。

肥満の研究者たちは、この状態を正確に述べるために準科学的な用語を使う。彼らは、私たちが現在生きている環境を「肥満の原因となる」環境と呼び、これは、「瘦せた人を太った人へと変化させやすい環境」を意味する。[1](引用以上)

現在も基本的にこの考えが世界中で支持され、高カロリーな食べ物や運動不足が肥満の原因であると、大半の専門家は説明します。

2.貧困なのに肥満が多かった事例

しかし、ここで私達が考えなければならない問題は、貧困層においても肥満が拡大しているという事実です。
  

(再び「人はなぜ太るのか」(ゲーリ・トーベス著)より引用)

しかし、この背景のなかで考慮されるべき1つのエビデンスは、肥満が豊かさではなく貧困と関連している(特に女性において。そしてしばしば 男性においても)という十分に証明された事実である。私たちは貧しければ貧しいほど太りがちになる。(略)

1970年代の初期まで、栄養学者と研究熱心な医師達の間では、肥満は「栄養失調」の問題で、今日のような「栄養過多」の問題とは考えられていなかったのである。

1901年~1905年
2人の人類学者(ラッセル、フルドリカ)がアメリカアリゾナ州に住むピマ族を調査し、ピマ族の特に女性に肥満が多いことを述べた。ピマ族は1850年代を通じてきわめて成功した狩猟者・農民であったが、1870年までには最も貧しい民族の1つとなり、「飢餓の時代」を生きるようになった。

20世紀の初頭に2人の研究者が訪れたとき、ピマ族は育てることができる作物をまだつくってはいたが、毎日の暮らしは政府の配給に頼っていた。

この観察において非常に注目すべきところは、当時、ピマ族が最も豊かな米国先住民族の1つから、最も貧しい民族の1つになったばかりだった ということである。

なにがピマ族を太らせたにせよ、豊かさと収入の増加 はそれとは何の関係もなく、むしろその逆であったように思われる。

四半世紀(25年)後
シカゴ大学の2人の研究者が米国先住民のスー族を調査した。
スー族は「住むのにはふさわしくない」掘っ立て小屋に、しばしば1部屋に4~8人の家族が住む状況にあった。その多くには水道の設備もなく、子どもたちの40%はトイレのない家に住んでいた。子ども32人を含む15家族は「おもにパンとコーヒー」で生活していた。これは私たちの想像を絶するほどの貧困である。

それにもかかわらず、現在、肥満の流行のまっただ中にある私たちの肥満率と彼らには大きな差がなかった。シカゴ大学の報告では、成人女性の40%、男性の25%以上、子どもたちの10%「もれなく肥満と定義されるだろう」と記されている。

1950年~1980
西インド諸島、南アフリカ、チリ、ガーナなど世界各地で貧困で低栄養なのに肥満率の高い集団が見つかった。[2]
(引用以上)

3.なぜ彼らは太っていたのか?

(引き続き「人はなぜ太るのか?」より引用)

(事例1:1960年代初頭、マンハッタン)

1960年代初期、ニューヨーク(マンハッタン中心部)の住民を調査した結果、肥満女性は富裕層より貧困層で6倍多く、肥満男性は2倍多かった。

肥満の流行は豊かさが原因で金持ちになるほど太り、その一方で肥満は 貧困と関係し貧しくなるほど太る可能性が高くなることがありうるだろうか?

それは不可能ではない。おそらく貧しい人たちには金持ちのように、やせたままでいなくてはという周囲からのプレッシャーがない。驚くべき ことに、これが矛盾に対する明確な説明の1つとして受け入れられてきたのである。

さらに一般的に受け入れられている別の説明は、太っている女性ほど社会の下流の男性と結婚するため下の階級に集まり、やせている女性は上流の男性と結婚するから、貧困層で肥満の女性が多いというものである。

3番目の説明は、貧しい人たちは金持ちのように運動をする暇やスポーツクラブに入会するお金がないといったものや、公園や歩道がない地域に住んでいるため、彼らの子どもたちは運動や散歩をする機会がないというものである。

これらの説明はあてはまる部分もあるかもしれないが、 無理があり、深く掘り下げて調査するほどよけいに矛盾が目立つものである。[3]

(事例2:1900年初頭、ピマ族)

それでは、なぜ彼らは太っていたのか? このピマ族に訪れたような長年の飢餓は、体重を増やしたり維持したりするのではなく、逆に減らすはずである。そして、政府の配給が飢餓をなかったものとするほど多かったのであれば、なぜピマ族は過剰な配給で太り、飢餓時代以前の豊富な食物では太らなかったのだろうか?

身体活動量から見れば、以前の活発な生活から座りがちな生活になったとはいえ、ピマ族の女性が村でほとんどの重労働(収穫、運搬)を行っていたのに、女性の方が太っていたのである。

配給

おそらく答えは、摂取した食物の種類、つまり量よりもに問題がある。

これこそが、ラッセルが「食物の中のあるものが、きわだってぜい肉の原因になっているように思われる」と書き示したことである。

また、フルドリカも同様に、ピマ族はこの時すでに「白人の食糧に含まれる」すべてを食べており、これが問題の鍵であったかもしれないと指摘している。

1900年のピマ族の食事は、その1世紀後に私たちの多くが食べているものと非常に似ていたが、それは量的にではなく、質的にであった。[4](引用以上)

4.豊かになったと言っても、『食べ物の質』はどうだろう?

▽1~3を踏まえて、私なりの考えを述べたいと思います。
まず肥満を考える上で、”豊かになったから肥満が増えた”と考えるのは安直ではないでしょうか?

busy at work

確かに私達の生活は自由で、物にあふれているという点では 豊かである。ある程度の収入があれば、自由に活動し、好きなものを買い、好きな物を食べることができます。仕事もデスクワークが増え、それほど動かなくても良い。

しかし、少ない給与の中でやり繰りしていると、食費にばかりお金をかけれる訳でもなく、もちろん忙しければ時間もなく、朝はトーストとコーヒ、昼はおにぎりやカップ麺などと炭水化物に偏ることもあります。朝食または昼食を抜くこともあります。

夕食で補完(新

特に逆三角形型の食事(図参照)では、夕食は比較的バランスのとれた食事であっても、朝~夕にかけては質素で腸の飢餓状態が生まれ易くなります。

さらに太りやすいという人(ダイエット中の人)に限って、『昨日は食べ過ぎたから、今日は少なくしよう』という様に、食事を抜いたり、簡単なもので済まそうとするのです。昨日の過剰なカロリーを今日で相殺しようとする考え方も間違っていると言えるでしょう。

つまり、食事の面だけで見ると、『豊か』と言われる我々の社会も、貧困で肥満が多かった集落と共通する部分があるのではないでしょうか?

極論すれば、貧困層での肥満は、『ダイエットをして食べるのを我慢していたにもかかわらず、最終的に体重が以前より増えてしまう』メカニズムで説明できる、と言えるでしょう。
  

(再び「人はなぜ太るのか」より引用)

炭水化物を食べたからと言って全員が太る訳ではないが、太る人にとってその原因は "炭水化物" である。

炭水化物

(~略~)これらは入手可能な食べ物のうち最も安価なカロリー源でもある。これは貧困な人ほど肥満になる可能性が高い理由をはっきりと説明している。

これらの集団の人達は、食べ過ぎや動かないことにより肥満になるのではなく、彼らが依存している食べ物(食事の大部分を構成するデンプン精製された穀物)が彼らを太らせるのである。[5](引用以上)

<参考文献>
[1]ゲーリ・トーベス,「人はなぜ太るのか」, 2013, Page 24-25
[2]P. 27-31, 37
[3]P. 25-26
[4]P. 29-30
[5]P. 149-150

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