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2022.07.15
アトキンス(糖質制限):体重減少の長期的な効果はいかに?
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<目次>
- アトキンスダイエットとは?
- 様々なダイエット法の比較試験
- アトキンス法の長期的な結果は?
- お米を食べるアジア人が痩せているのは?
- 私の考え
<まとめ>
1.アトキンス・ダイエットとは?
アトキンス・ダイエットとは、心臓病専門医であるロバート・アトキンス( Robert Atkins )が提唱した低炭水化物ダイエットの一種で、エネルギーとなる「糖質」を制限し、その代わりに「脂肪」をエネルギー源とするものです。初めの2週間は糖質を1日20~25グラムまでに制限し、その後、徐々に増やすことを特徴としています。
[The Obesity Code] の著者であるジェイソン・ファン氏によると、アトキンス博士は1963年当時100キロ近くあり、ニューヨークで心臓病専門医として働き始めたことをきっかけに彼自身が痩せる必要があった。しかし従来のカロリー制限ダイエットではうまく体重を減らすことができず、昔からある低炭水化物ダイエットを試したところ上手く行き、そこで患者にも勧めたそうです。
1972年には『アトキンス博士のダイエット革命』を出版し、この本は瞬く間にベストセラーとなった。
当時、米国医師会では依然として、食事中の高脂肪は心臓病や脳卒中を引き起こす原因と考えられており、高たんぱく・高脂質を許す「低炭水化物ダイエット」は受け入れられなかったそうだ。しかしそれをものともせず、1990年代から再燃した低炭水化物ダイエットの人気を背景に、アトキンスダイエットは一大ブームとなった。
2004年には、2600万人のアメリカ人が何らかの低炭水化物ダイエットをしていると答えている。[1]
2005年前後から、アトキンスダイエットと、かつて標準とされたダイエット法を比較する新しい研究が始まったそうですが、その結果はどうだったのでしょうか?詳しく見てみましょう。
この記事の最後に私の考えを述べたいと思います。
【関連記事】炭水化物が太るのか、カロリーが太るのか?論争
2.様々なダイエット食の比較試験
(【The Obesity Code 】 ジェイソン・ファン著, 2019年)より引用
"2007年には、『米国医師会雑誌』がより詳細な研究結果を掲載した。この研究では、 当時よく行われていた4つの異なるダイエット法の比較試験が行われた。その結果、ひとつのダイエット法の効果が抜きんでていた-アトキンスだ。
その他の3つ(脂質の摂取量を極めて低くする「オーニッシュ・ダイエット」、たんぱく質・炭水化物・脂質の割合を30:40:30にする「ゾーン・ダイエット」、標準的な「低脂質ダイエット」) は、体重の減少という点については似通った結果となった。
しかし、アトキンスをオーニッシュと比べると、アトキンス・ダイエットのほうは体重が減っただけでなく、全身の代謝もよくなったことが明らかになった。血圧、コレステロール値、血糖値もすべて、大幅に改善していた。
▽2008年に行われたDIRECT試験 (食事介入による無作為比較試験)で、アトキンスはごく短期間で体重を減らせることが、改めて確認された。
イスラエルで行われたこの試験では、「地中海食ダイエット」「低脂質ダイエット」「アトキンス・ダ イエット」の比較が行われた。
その結果、地中海食ダイエットには、体脂肪減少に大きな効果があるアトキンスと同じような効果が見られたが、AHA(アメリカ心臓協会)が標準とした低脂質ダイエットは、屈辱的な結果に終わった―嘆かわしい結果で、被験者は疲れ切ってしまったし、このダイエット法を好まなかった。このダイエット法を支持していたのは、医学研究者だけだった。"[2]
3.アトキンス法の長期的な結果は?
引き続き【The Obesity Code 】より
"アトキンス・ダイエットを長期にわたって研究したところ、長い目で見ると思ったほど効果が出なかったのだ(ダイエットは長い目で見なければいけない)。
テンプル大学のゲイリー・フォスター教授が2年にわたる研究の結果を公表したのだが、 その結果は、低脂質ダイエットをしたグループとアトキンス・ダイエットをしたグループ のどちらも体重は減少したが、その後、どちらもほとんど同じ割合で体重が元に戻ったというものだった。(略)すべてのダイエット法の試験に対して徹底的なレビューを行ったところ、低炭水化物ダイエットの利点のほとんどが、1 年後にはなくなっていたことがわかった。
「カロリー計算をする必要がないのでダイエットが長続きする」というのがアトキンス法の大きなウリのひとつだった。だが、食べる物を厳格に制限するアトキンス法 は、従来どおりカロリー計算をしながら食べる方法に比べても、決して簡単ではないことがわかった。
どちらのグループも、ダイエットが続いた期間は同じで、40%近くが1年以内にやめてしまっていた。
後から考えると、この結果はいくらか予想できた。アトキンス法は、ケー キ・クッキー・アイスクリーム、そのほかのデザートなど、甘いものを厳しく制限していた。(略)
どんなダイエット法を信じていようが、こうした食べ物を食べると太るのは明らかだ。 それでも私たちが食べるのをやめられないのは、甘いものを食べると気分がよくなるからだ。アトキンス・ダイエットはこのシンプルな事実を認めないがために、理論的には正しくても失敗してしまったのだ。
何百万人もの人がアトキンス法をやめ、新しいダイエット革命は、一時期だけ流行ったダイエット法のひとつに成り下がってしまった。アトキンス博士が1989年に設立した会社は、顧客離れにより多額の負債を抱え、倒産した。減量の恩恵は続かなかった。
だが、いったいなぜだ? 低炭水化物のダイエット法のもとになった原理は、「食品に含まれる炭水化物は血糖値を最も上げる」ということだった。血糖値が高いとインスリンの分泌量も増える。インスリンが増えることが、肥満の最大原因だ。 こうした事実は、十分に合理的に見える。いったい何がいけなかったのだろう?"[3]
4.お米を食べるアジア人が痩せているのは?
引き続き【The Obesity Code 】より
"炭水化物・インスリン仮説は「炭水化物が太るもとだ、なぜならインスリンが分泌されてしまうから」というもので、この説自体は間違ってはいない。だが、この説は不完全だ。様々な問題点が挙げられるが、「米を主食とするアジア人のパラドックス」が最も顕著な例だ。
ほとんどのアジア人は、少なくともここ50年、精白した米、つまり精製された炭水化物を主食とした食事をしている。それでも最近まで、 アジアの人々が肥満になるのは極めて稀なケースだった。
1990年代末に行われた調査では、日本の炭水化物摂取量 はイギリスやアメリカと類似しているが、糖分の摂取量ははるかに少ない。炭水化物の摂取量が多いにもかかわらず、中国と日本の肥満率は、つい最近まで非常に低い値だった。(略)
よって「炭水化物・インスリン仮説」は正しくないことになるが、ここには明らかに何か他の要因がある。炭水化物の摂取量だけが問題ではなかったのだ。
精製された炭水化物そのものよりも、「糖分」のほうがはるかに肥満の原因になっているのかもしれない。「食べるのが米か小麦かによって大きな違いが出る」という説も考えられなくもない。アジア人は米を食べることが多いが、西洋社会で食べる炭水化物は精製された小麦粉やトウモロコシ製品だ。(略)
これでは、パズルの肝心な1ピースが欠けたままだ。"[4](引用以上)
5.私の考え
お米か小麦かという話が出たので、まずこれについて少しお話したいと思います。
Dr. Fung氏が指摘されるように、炭水化物の量だけが問題ではない。お米か小麦かと言えば、お米の方が一般的に消化が悪いため、私の理論上は、小麦より太りにくいと言えるかも知れない。
近年の日本における肥満率の増加は、小麦製品も含む消化の良い炭水化物、バランスの悪い食事、不規則な生活リズムが大きな要因だと思っている。
そしてそれらは、私の腸内飢餓理論の「3要素+1」によって説明できると私は信じています。
(不規則な生活リズム)
<なぜアトキンスもリバウンドしたのか?>
これまでのどんなダイエット法でもリバウンドはつきものですが、リバウンドしないためには、設定体重(set-point weight) そのものを低くしないといけないと考えています。その方法については、以下の記事をご覧ください。
今回のリバウンドについて言うと、必ずしもアトキンスを含め「糖質制限ダイエットに効果がない」ということにはならないと思っています。正しく痩せるための方法としては一番近いと思っています。しかし、「血糖値・インスリン」にフォーカスしすぎると、もう一つの大事なポイントを見失ってしまうのです。
どういうことかと言うと、(この研究の詳細は分かりませんが)いくら糖質を厳しく制限しても、肉や脂質・野菜などの増やし方が足りないと、人によっては、結局カロリー制限ダイエットと似たように空腹を我慢することになり、その場合はこれまでのダイエット同様リバウンドする可能性があると考えています。
糖質制限ダイエットでは糖質を減らすことがポイントと言われますが、私は糖質を減らすと同時に、「肉・脂質・繊維質の野菜、乳製品など含めて消化の悪い食べ物をいかに増やすか」がむしろポイントだと思っています。そしてそれによって、空腹感が減り、吸収率を下げることが必要だと思っています(カロリーを気にして、油脂を減らさないこと)。
糖質を厳しく制限すれば、痩せるスピードは早まるでしょうが、スイーツなどの甘い物をそこまで厳格に禁止する必要もなかったのではないでしょうか?大切なのは無理せず、持続できることです。
<参考文献>
[1]ジェイソン・ファン.「The Obesity Code」, 2019, Pages 171-6.
[2]Pages 178-9.
[3]Pages 182-4.
[4]Pages 184-8.
まとめ
・1990年代の低炭水化物ブームの再燃をうけて、アメリカでは2000年代の初めに、アトキンスダイエットは一大ブームとなった。短期的に見れば、アトキンス法は体重が減っただけでなく、血圧、コレステロール値、血糖値などすべての数値が、大幅に改善していた。
・しかし、長期的な研究では、低脂質ダイエットなどと同様にリバウンドし、1年後には低炭水化物のすべての利点は失われていた。「炭水化物・インスリン仮説」は不完全な理論であり、多くの研究者がこの理論を捨て去る。炭水化物の量そのものが肥満を決定しているのではなかった。
・(私の考え)炭水化物の摂取量や、血糖値・インスリンだけが問題ではない。このアトキンス法のもう一つのポイントは、炭水化物以外の「消化の悪い食べ物をいかに増やすか」であると考える。私の言う、体重の設定値 に変化がない場合、基本的に元の食事に戻せばリバウンドは起こりうる。