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2025.08.07
ダイエットの普及が肥満の増加に拍車をかけている可能性
要 約
(1) 過体重や肥満の有病率の増加と並行して、ダイエットの普及率も過去数十年間にわたり増加している。ダイエットが逆説的に肥満を助長しているのではないかと懸念されている。
(2) いくつかの観察研究は、ダイエットと体重増加の間に少なくとも部分的な因果関係がある可能性を示唆している。一方、一部の研究者は、ダイエットは食べ過ぎ傾向を反映する代理マーカーにすぎないと主張している。
(3) いくつかの前向き研究では、青少年や中年女性、さらには正常体重の人が行う減量ダイエットが、将来の体重増加を予測する強力な因子であることが示唆されている。
(4) 青少年を対象とした研究では、不健康な体重管理行動(断食、食事を抜く、極少量しか食べない、食事代替品の使用など)を継続した男女で、10年後のBMI増加が最も大きかった。
<考 察>
(5) 観察研究だけで、ダイエットと体重増加との因果関係を証明することは難しい。
しかし、長期追跡研究や双子研究では、ダイエット自体が体重増加に関与している可能性が示されている。特に、不健康な体重管理行動を行った人では、その後の体重増加が有意に大きいことが繰り返し報告されている。
<結 論>
(6) すべてのダイエットが体重増加につながるわけではない。しかし、一部の人が行う不健康な体重管理行動は、体重増加に関与している可能性がある。
(7)近年の研究では、大幅な減量を伴う厳格な食事制限は、生物学的な飢餓反応を引き起こし、減量後の体重回復や、場合によっては減量前を上回る体重増加につながる可能性があることが明らかになってきた。
また、不健康な体重管理行動は、「腸内飢餓」を助長することで、体重の設定値を上昇させる方向に働く可能性がある。
【全 文】
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<目 次>
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- ダイエットと肥満に関する近年の背景
- 観察研究における問題と注意すべき点
- ダイエットは体重増加につながるのか?
- 結 論
<はじめに>
近年、世界中で減量の為にダイエットをする人は増加傾向にありますが、ダイエットが肥満の増加に拍車をかけているのではないかと一部で懸念されています。
例えば、テレビに出演する女性の俳優やアナウンサーの中には、以前より体重が増えたように見える人もいる。しかし、彼女たちが日常的に過食をしているとは考えにくく、むしろ体重管理のために食事制限を行っている可能性もある。
今回は、ダイエットの普及と肥満の増加に関連性があるのかについて、観察並びに介入研究の結果を基に考えてみたいと思います。
1.ダイエットと肥満に関する近年の背景
(1) 1992年、アメリカ国立衛生研究所が招集した専門家委員会は、次のように結論づけた:「管理された環境下での減量プログラムを継続すれば、参加者は通常、体重の約 10%を減らすことができる。しかし、体重減少後1年以内に体重の1/3から2/3が戻り、5年以内にほぼ全部が戻る」のだと[1]。
また、長期的な結果に関する研究では、ダイエットをした人の少なくとも1/3は、減った体重よりもリバウンドする体重が多いことが示されており[2]、ダイエットが逆説的に、本来の目的とは正反対の結果を招いている可能性があるのではないかと懸念されている[2, 3]。
(2) 1983年に出版された本「ダイエットは太る」では、ダイエットで体重を減らすことは体重管理には逆効果であり、体重が増減を繰り返すたびに、減った脂肪より多くの脂肪が戻ってしまうという考え方が提唱された[4]。それ以来、ダイエットが長期的な体重増加を引き起こすかどうかは、科学者の間では物議を醸し、活発な議論が続いている[5, 6, 7]。
(3) 1998年時点で、米国人はダイエットに関連する製品やサービスに年間 330 億ドル以上 を費やしているにもかかわらず[8]、肥満 (BMI≧30) の有病率は 30.5%(2000年)から 35.7% (2010年)、42.4% (2018年)と着実に増加してきた[9]。
ダイエットの普及率も、過体重や肥満の有病率の増加と並行するように、過去数十年間、継続的に増加している[10] 。(表-1 参照)

表-1:ダイエットの普及率の推移(アメリカ)
・イングランドで行われた横断調査 (1997-2013) では、減量を試みる人の割合は 1997年の 39%から、2013年には 47%へ増加した。
すべてのBMIカテゴリーにおいて、減量を試みる人の割合は調査期間を通じて増加傾向を示していた[15]。
(2013年の、BMIカテゴリー別の減量を試みる人の割合は [表-2] の通り)

表-2:減量の試み普及率 (2013年 イングランド )
(4)このように、肥満の有病率の増加と並行して、減量を試みる人の割合も増加している。しかし、このことだけで両者に因果関係があるとは言えない。
一部の研究者は、ダイエットと体重増加との関連性は、少なくとも部分的には因果関係によるものだと示唆している[16,17]。一方で他の研究者は、ダイエットは体重増加傾向の強い人々を反映する代理マーカーに過ぎず、ダイエットをしなければ体重はさらに増加していた可能性が高いと主張している[18]。
(5) いくつかの前向き研究では、青少年 [17,19,20]や中年女性 [21]、さらには当初正常体重であった人[5,21,22] が減量目的でダイエットを行うことが、将来の体重増加を予測する強力な因子であることが示唆されている。
・ミネソタ州で行われた 10年間の前向き研究(1998~2009年)では、青少年 1,902名(男性 819名、女性 1,083名)を対象に、ダイエットの実施状況とBMIの変化が5年ごとに追跡された。
その結果、調査開始時と5年後の両方でダイエットや不健康な体重管理行動(注1)を報告した男女は、ダイエットをしていなかった人に比べて、10年後のBMI増加が大きかった[17]。
(注1) 不健康な体重管理行動には、断食、食事を抜く、極少量しか食べない、代替食品やダイエット薬の使用、嘔吐など、通常は推奨されない減量行動が含まれる。

出典:Freepik (photo by Prostooleh)
特に、「食事を抜くこと」や「極少量しか食べないこと」は最も多く報告された不健康な体重管理行動であり、男女ともに有意な BMI 増加と関連していた。さらに、男性では食事代替品(粉末や特別な飲料)の使用が、女性ではダイエットピルの使用が、その後の BMI の大きな増加と関連していた。
興味深いことに、調査開始時に過体重(25≦BMI<30)であった女子では、不健康な体重管理行動を継続した群で10年間の BMI 増加が最も大きく(5単位以上)、そのような行動を全くとらなかった群では BMI の増加はごくわずかであった[17]。
結論として、この調査結果は、青少年期のダイエットや不健康な体重管理行動が、長期的な体重増加につながる可能性を示唆している[17]。
(6) 2003年には、1998年の国民健康面接調査のデータが分析され、米国成人における具体的な減量方法の実態が報告された (表-3参照)。
減量に取り組んでいた人のうち、「摂取カロリーを減らし、運動量を増やす」と回答したのはわずか3分の1であった [23]。

表-3:米国成人の減量方法の実態
2.観察研究における問題と注意すべき点
ダイエットとその後の体重変化に関するこれまでの観察研究では、一貫性のない結果が得られている[22]。
数年に及ぶ観察研究の多くでは、自己申告によるダイエット実施者で、その後の体重増加が報告されているが[17,20,21,22]、一方で、ダイエットが減量と体重増加の両方を予測するという結果も報告されている[24,25]。こうした結果の違いには、いくつかの要因が関係している可能性がある。
(1) どの様なダイエットか?
多くの研究では、開始時点での「ダイエットの実施状況」や「過去のダイエット歴」は調査されているが、具体的にどのような方法でダイエットを行ったのかについては、あまり調査されていないようである[21,22,26]。
また、「ダイエット」や「減量の試み」という言葉はやや曖昧であり、人によって解釈が異なる可能性がある[17]。
健康的な食事や運動習慣(例:自然由来の食品を多く摂る、超加工食品を減らす、朝食を摂る、運動を行う)を実践した人は減量を維持できるかもしれない。
一方、一時的な効果しかもたらさない不健康な体重管理行動をとった人は、最終的に減量を維持できず、体重が増加する可能性もある。
(2) 調査期間とダイエットを行った時期
また、調査期間やダイエットを行った時期によっては、長期的な体重変化を適切に評価できない可能性がある。
いくつかの研究では、調査開始時のダイエット状況を基に、その数年後(例えば、2年・5年・10年)の体重やBMIの変化が評価されている[20,21,22,26]。
しかし、ダイエットとリバウンドを繰り返している人では、体重変動が大きいことが考えられる。
体重の恒常性(体重の設定値理論)の観点からみれば、調査開始時にダイエット中であった人は、本来の体重(設定値)よりも一時的に体重が低下していることがあり、その後ダイエットを中止しただけでも体重は増加しうる。一方、調査期間の終了間際からダイエットを開始した人では、一時的な減量効果によって体重が大きく減少していることも考えられる。
さらに、調査間隔が5年や10年と長い場合、その間に開始または中止した体重管理行動が把握されていない可能性もある。
<その他の注意点>
今回は取り上げなかったが、観察研究においては、自己申告の限界や、体重増加に関与する「交絡因子の影響」などにも注意する必要がある。また、成長期には筋肉量や体重が自然に増加するため、青少年を対象とした研究では、その影響も考慮する必要がある。
3. ダイエットは体重増加につながるのか?
結論から言えば、観察研究だけでダイエットと肥満リスクの増加との因果関係を特定することは難しい。しかし、私は以下の観点から、ダイエットが体重増加を助長している可能性は高いと考えている。
(1)ダイエットは単なる代理マーカーなのか?
一つの考え方として、「ダイエットは世界的な体重増加傾向を反映する代理マーカーにすぎず、それ自体が体重増加を引き起こすわけではない」というものがある。むしろ、ダイエットをしなければ体重はさらに増えると考えられている[18]。
しかし、第1節 (5)の思春期の青少年を対象とした10年間の調査では、開始時でダイエットを行っていたものの、5年後の時点で中止した人と、継続した人の軌跡を調べることができた。研究者らは、ダイエットを中止した人の体重増加は、それらを継続した人に比べはるかに小さかったことから、「ダイエットをしなければ人はさらに体重が増える」という主張は支持していない[17]。
(2) 遺伝的に肥満傾向にある人がダイエットをしているのか?
ダイエットと肥満に関するもう一つの考えは、「ダイエットをすると太るのではなく、遺伝的に肥満傾向にある人ほどダイエットをする可能性が高くなる」というものだ[6]。
これについても、思春期の青少年を対象とした10年の調査で、その主張とは異なる結果が出た。
調査開始時に既に過体重であった女子では、不健康な体重管理行動を継続した群は、そのような行動を全くとらなかった群と比較して、BMIの増加が有意に大きかった。この研究では、ダイエットそれ自体が、体重増加に影響している可能性があると示唆された[17]。
さらに、フィンランドにおける双子研究では、5kg以上の意図的減量回数の異なる双子の体重の変化が縦断的に調査された。この研究では、体重増加に遺伝や家族的要因が関与することは否定できないものの、ダイエットそれ自体も体重増加に影響している可能性があると示された [16]。
(3) 減量後に体重増加を促すメカニズム
近年の研究により、体重を調整するエネルギー恒常性への理解が進んでいる。
大幅な減量を伴う制限食は、代謝・ホルモン・脳神経系の変化を伴う生物学的な飢餓反応を引き起こし、食欲の増進や過食につながる可能性がある。その結果、体重は元に戻ろうとし、場合によっては減量前を上回ることもある[27,28]。
また、体重管理を目的とした断食(24時間何も食べない)では、比較的軽度のダイエット行動よりも、将来的に過食症を発症するリスクが高くなる可能性が示唆されている[29]。
さらに、古典的なミネソタ飢餓実験や米国陸軍レンジャーの多重ストレス実験において、正常体重の被験者の体重が、回復期間中に一時的に過剰増加することが報告されている[30,31]。
(4) 腸内飢餓との関連
私の腸内飢餓理論では、食べた食品が腸内で完全に消化されてしまう状況を、身体が「食べ物がない」と認識する可能性を示唆している。これは、食品加工の進展や超加工食品の普及によって生じやすくなった可能性のある、豊かな社会でも起こりうる「現代的な飢餓」とも言える。
カロリー制限ダイエット、特に不健康な体重管理行動(食事を抜く、極少量しか食べない、食事代替品の使用など)は、この腸内飢餓をさらに助長している可能性がある。
4.結 論
すべてのダイエットが体重増加につながるわけではない。
健康的な食事パターンや運動習慣を取り入れることで、減量に成功し、その後も減った体重を維持できる人もいる。実際、地中海式ダイエットの遵守は、過体重や肥満のリスク、さらには長期的な体重増加と逆相関することが報告されている[32]。

出典:Freepik (Photo by Katemangostar)
一方、断食、食事を抜く、極少量しか食べない、食事代替品の使用といった不健康な減量戦略を行った人では、ダイエットをしなかった人や健康的な減量戦略を実行した人よりも、その後の体重増加が有意に大きいことが繰り返し報告されており[17,33]、本来の目的とは逆の結果を招いている可能性がある。
近年の研究により、大幅な減量を伴う厳格な食事制限は、代謝・ホルモン・脳神経系の変化を伴う生物学的な飢餓反応を引き起こすことが明らかになってきた[27, 28, 34]。これらの変化は、減量後の体重回復や、場合によっては減量前を上回る体重増加を説明できる可能性がある。
私は、こうした生物学的反応に加え、食事制限などの不健康な体重管理行動が「腸内飢餓」を助長することで、体重の設定値を上昇させる方向に働いている可能性が高いと考えている。
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