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腸内飢餓
2019.07.27
肥満の多因子性を整理する:腸内飢餓という交絡的視点
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目次
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- 「過食するから肥満になる」は単純すぎる
- ほとんどのダイエット法は「部分的には正しい」?
- 環境的・行動的要因を整理することは可能か?
- 交絡因子的に機能する腸内飢餓
<まとめ>
1.「過食するから肥満になる」は単純すぎる
米国で2012年に1,143人の成人を対象に行われたオンライン調査(ロイターと市場調査会社イプソスによる)では、米国成人の61%が「食事や運動に関する個人の選択」が肥満の蔓延の原因だと考えていることが示されました[1,2]。多くの米国人はいまだに、肥満になる人は「意思が弱く、食べ過ぎて運動不足だ」と信じているということです[2]。
日本でも状況は似ています。ニュース番組のアナウンサーや専門家でさえ、「食べ過ぎて運動しなければ太るのは当たり前ですが…」といった発言を繰り返しており、多くの日本人も同様の考えを持っている可能性が高いでしょう。
しかし、科学的研究は、「個人の選択」だけでは肥満のすべてを説明できるわけではないことを示唆しています[2]。
養子縁組研究、家族研究、双子研究などに基づく古典的な遺伝学研究によると、BMIの分散(遺伝率の推定値)の約50~70%は遺伝によるものであると言われている(その推定値は、研究デザインや評価方法で異なる)[3]。
現代でも肥満の遺伝率は40~70%と推定されている[4]。
一部の研究者は指摘する;多くの異なる遺伝子が、食物の選択、食物摂取、吸収、代謝、身体活動を含むエネルギー消費に関与していることが判明しており、さらに遺伝子同士または遺伝子と環境の相互作用も考慮すると、体重調整の根底にあるメカニズムの複雑さはさらに増すのだと[3]。

<肥満を慢性疾患と位置づける国際的な声明>
・1948年にWHO(世界保健機関)が国際疾病分類(ICD)を策定し、肥満を「疾病」として分類した。これは、肥満を「病気」として扱った最も早い公式の枠組みの一つとされている。しかし当時の医療界では、この位置づけはほとんど注目されず、その後数十年にわたり一般医療では重要視されなかった[5]。
・1997年、WHOは、国際肥満対策タスクフォース(IOTF、現在は世界肥満機構の一部)との協議を経て、肥満を複雑で深刻な慢性疾患であると公式報告書の中で明確に位置づけた[6]。
・2012年、米国臨床内分泌学会(AACE)は、肥満を慢性疾患として位置づけた。その根拠として、肥満の病態生理が遺伝的、生物学的、環境的、行動的要因の相互作用から成る複雑なものであること、さらに肥満が米国医師会(AMA)が示す疾患の定義に合致することが挙げられている[7]。
・これをうけ、2013年には米国医師会 (AMA)も肥満を慢性疾患として公式に認定した[8]。
2.ほとんどのダイエット法は「部分的には正しい」?
人類全体の遺伝子が、50年や100年といった短期間で大きく変化するとは考えにくいとすれば、1970年以降に見られる世界的な肥満の増加は、環境的・行動的要因の影響を強く受けていると考えるのが妥当でしょう。
そこでこれらの要因について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。
流行のダイエットに関する興味深い指摘があったので、以下に引用します。
(「The Obesity Code」より引用)
体重が増える原因は何だろう?
これまで実に様々な説が提唱されてきた。
カロリー / 褒美としての食 / 糖分 / 精製された炭水化物 / 睡眠不足 / 小麦 / ストレス / 食物繊維不足 / 脂肪分 / 遺伝的性質/ 赤身肉/ 貧困 / 裕福さ / 乳製品 / 腸内細菌 / スナック / 子供の頃の肥満

私たちに必要なのは、様々な因子がどのように絡み合っているのかを理解するための枠組みであり、仕組みであり、筋の通った理論である。現在の肥満理論では、「真の原因は ただひとつで、そのほかのものは偽りの原因である」とされることがほとんどだ。結果として、議論が果てしなく続く。
「カロリーを摂り過ぎると肥満になる」
「いや、炭水化物を摂り過ぎるからだ」
「いやいや、原因は飽和脂肪酸の摂り過ぎだ」
「 赤肉の食べ過ぎだろう」
「いいや、加工食品の食べ過ぎだ」
「いや、小麦の摂り過ぎだ」
「いや、外食がいけないんじゃないか」
・・・こうして、議論は尽きない。どの主張も、部分的には正しいのだから。
それぞれのダイエット(カロリー制限、低脂質、パレオ、ビーガンなど)は、別々の側面から肥満の解消に取り組んでいるだけで、どのダイエットにも効果はある。だが、どれも「肥満全体」に対する対処法ではないために長くは効果が続かないことに注意しよう。
肥満が ”多因子性” のものであることを理解しないままでは、互いに非難しているだけで終わってしまう。
(ジェイソン・ファン. 2019.「The Obesity Code 」. Pages 130-131, 360-361)
肥満の多因子性についての著者の指摘は非常に鋭いと思います。肥満は過食が原因で生じる単純な現象ではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じるものであることを、私たちはまず理解する必要があります。
しかし同時に、これほど多くの要因が列挙される背景には、体重が増える仕組みと要因が十分に整理されていない、という問題があるのではないでしょうか。
私は「腸内飢餓」という視点を導入することで、複雑に見える環境的・行動的要因の一部は、ある程度、整理して捉えることができるのではないかと考えています。表面に現れる生活習慣や食行動ではなく、「腸の中で何が起きているか」に注目することで、肥満の背景がより明確になるからです。
3.環境的・行動的要因を整理することは可能か?
ここで再度確認しておきたいのは、一般に「太る」と表現される現象には、異なる二つのプロセスが存在するという点です。この概念を取り入れることで、様々な要因を整理して捉えやすくなります。
【関連記事】体重増加:2つの異なるプロセスとは?
(1) 体重が本来の設定値水準へ回帰する場合
一つは、意図的に低く保たれている体重が、元の設定値水準に戻ろうとする過程で生じる体重増加であり、図1-A に示されるプロセスです。一般に「食べ過ぎ」「運動不足」として説明される体重増加だけでなく、多くのカロリー制限ダイエットや、従来の減量介入研究も、この範疇に含まれます。

図1:2つの異なる体重増加プロセス
確かに、脂質・炭水化物・超加工食品のいずれを制限する場合でも、摂取エネルギーが消費を下回れば、一時的に体重は減少する傾向にあります。しかし、この方法では体重の設定値そのものは変化しないため、長期の減量の維持は難しく、元の食事に戻ればリバウンドが起こりやすくなります。
ブリファ氏が指摘するように、カロリー制限は一時的な解消法にはなり得ますが、肥満全体に対する根本的な解決策ではありません。
(2) 体重の「設定値」そのものが上昇するプロセス
一方で、図1-B に示される体重増加は、体重の設定値そのものが上昇する場合であり、これは身体が「飢餓」を認識したことに対する適応反応の結果であると考えています。
そして、その「認識される飢餓」の一つが、腸内飢餓です。
腸内飢餓は単一の原因によって起こるものではなく、その発生には複数の要因が同時に関与することから、肥満の多因子性、特に環境的・行動的要因との関わりを説明しやすくなる可能性があります。
【関連】腸内飢餓を加速する3要素(+1)
4.交絡因子的に機能する腸内飢餓
朝食欠食、遅い夕食、食事回数の少なさ、精製炭水化物や(超)加工食品の多い食事、食物繊維の不足、バランスの悪い食事などは、体重増加や肥満との関連性が指摘されることがあります。
重要なのは、これらの要因がそれぞれ独立して肥満を引き起こしているのではなく、むしろ腸内飢餓の発生に影響を与える因子である可能性です。
つまり、肥満との因果関係の中心にあるのは個々の生活習慣ではなく、それらが共通して影響を及ぼす腸内飢餓ではないか、というのが私の考えです。
この意味で、腸内飢餓は、肥満研究において交絡因子的(注1)に機能する生体反応として捉えることができるかもしれません。

図2:交絡因子的に機能する「腸内飢餓」の概念図
注1:交絡因子とは、原因(暴露)と結果(アウトカム)の両方に影響を与え、両者の関係を見えにくくする第三の要因のことです。たとえば、「食物繊維の不足」と「肥満」が関連しているように見えても、その両方に影響している腸内飢餓が存在する可能性があります。
まとめ
(1)肥満は現在、遺伝的・生物学的・環境的・行動的要因の相互作用によって引き起こされる慢性かつ多因子性の疾患として広く認識されている。多くの流行ダイエットは肥満の特定の側面に対処するが、その疾患全体を適切に標的としているものは無く、これが長期的な効果の限界を説明している可能性がある。
(2)現在求められているのは、肥満に関与する諸因子がどのように絡み合うのかを整理する枠組みである。以下の二つの視点を採用することで、肥満に関連する環境的・行動的要因を体系的に理解できると考える。
(a) 体重増加には二つの異なるプロセスがあり、そのうち体重の「設定値」そのものの上昇が肥満の増加と深く関係している。
(b) 体重の設定値上昇には腸内飢餓が関与しており、これは遺伝的要因と現代の食環境・生活習慣が交差する地点で生じる生理学的な適応反応である。
(3)肥満との因果関係の中心にあるのは、個々の生活習慣そのものではなく、それらに共通して影響を受ける腸内飢餓である可能性がある。この意味で、腸内飢餓は肥満研究において、複数の要因を媒介する生体反応(交絡因子的要素)として位置づけることができる。
<参考文献>
[1]Begley S. America's hatred of fat hurts obesity fight. Reuters. May 11, 2012.
[2]Jou C. 「肥満の生物学と遺伝学 — 1世紀にわたる研究」. N Engl J Med. 2014 May 15;370(20):1874-7.
[3]Speakman JR et al. 「セットポイント、安定点、およびいくつかの代替モデル」. Dis Model Mech. 2011 Nov;4(6):733-45.
[4]McPherson R. 「肥満の遺伝的要因」. Can J Cardiol. 2007 Aug;23 Suppl A(Suppl A):23A-27A.
[5]James, W. 「WHOによる世界的な肥満流行の認識」. Int J Obes 32 (Suppl 7), S120–S126 (2008).
[6]Obesity as a Disease.The World Obesity Federation
[7] Garvey WT.「肥満や脂肪に蓄積による慢性疾患は治療可能か?;セットポイント理論、環境、医薬品」. Endocr Pract. 2022 Feb;28(2):214-222.
[8] Garvey WT et al. 「米国臨床内分泌学会および米国内分泌学会の肥満患者医療総合臨床実践ガイドライン」. Endocr Pract. 2016 Jul;22 Suppl 3:1-203.
2019.02.01
なぜ、腸の飢餓状態で太るのか?
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目 次
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- アフリカの飢餓と「現代的飢餓」
- 腸内飢餓によって起こりうる適応反応
- 設定体重が高くなると何が起こるのか?
(1) 一度太ると、痩せにくくなる
(2) 筋肉も同時につく
(3) 原因と結果が逆転する
<はじめに>
今回の記事では、本ブログの核心となるテーマ、すなわち、なぜ「腸内飢餓」によって体重が増加しうるのかについて述べます。これは、私自身の実体験をもとに、それを生理学的な視点から整理し、仮説としてまとめたものです。
私は大学入学当時、体重が30kg台にまで低下していました。食事量を増やしても体重はほとんど増えませんでしたが、ある時、むしろ食事量が少ない状況にもかかわらず、4~5日のうちに体重(体脂肪だけでなく筋肉量も含む)が5kg程度急増したことがありました。当時、極端に痩せていたからこそ、この急激な体重増加が偶然ではなく、何らかの明確な生理的変化によるものだと強く感じました。
この記事で述べる考え方は、多くの人にとって直感に反するかもしれません。しかし、体重増加を単なるカロリー収支だけでは説明できないと感じている方にとって、一つの視点になれば幸いです。
(「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著 より引用)
”科学の歴史は別の解釈を示している。人々がこの仮説について1世紀以上考え、何十年も真偽を確認しようと試み、それでもなおそれが真実であると納得させるエビデンス(科学的根拠)が生み出せないとすれば、おそらくそれは真実ではない。(~略~)これは科学の歴史において、一見、理屈に合っていると思われる多くの考えのうち、一度も成功しなかったものの1つである。そしてすべてを再考し、どうすれば体重を減らすことができるのかを見つけ出さなくてはならない。”
(ゲーリー・トーベス, 「人はなぜ太るのか」,メディカルトリビューン:2013, Page 66.)
1. アフリカの飢餓と「現代的飢餓」
「一時的な食糧不足や飢餓に備えて、身体が脂肪をより効率的に蓄えるように人類は進化してきた」という発想は、肥満を研究する者であれば一度は思い浮かべる考え方でしょう。しかし、この単純な仮説は、歴史的には研究者の間で慎重、あるいは否定的に扱われてきました[1]。
その背景には、一般的に肥満者は沢山食べる傾向があり、一方でアフリカの難民のような深刻な飢餓状態にある人々は栄養失調によって著しく痩せている、という観察があります。そのため、次のように反論する人もいるかもしれません。
「もし飢餓状態で太るのであれば、アフリカの難民は太っているはずだ!」

(著作者:macrovector/出典:Freepik)
しかし、これは「食べたくても食べられない」本当の飢餓状態です。
このような状況では、体脂肪を蓄える以前に、筋肉量の減少や基礎的な生理機能の低下が生じます。消化吸収能そのものが低下することもあり、体がエネルギーを蓄える余地はほとんどありません。
▽これに対し、私がここで述べる「腸内飢餓」とは、腸管内に存在する食物がほぼ完全に消化されたときに、身体が「食物が存在しない」と認識する生理的状態を指します。
これは1970年代以降を境に、主に先進国で顕在化し、現在では世界各地に広がりつつある、いわば「現代的飢餓」の一形態とも言えるものです。
先進国では、高カロリーで、かつ高度に加工された食品を日常的に摂取する傾向が強まっています。特に、消化の速い精製炭水化物や(超)加工食品に偏った食事が続けば、腸管内に消化されない成分が長くとどまらず、結果として腸内飢餓が生じやすい状態が形成される可能性があります。
実際、世界の一部の低所得層においても肥満は深刻な問題となっています[2]。そこに共通して見られるのは、単なるカロリー過多や砂糖の過剰摂取ではなく、安価な精製炭水化物や高度に加工された食品に偏ったバランスの悪い食事形態です。
2. 腸内飢餓によって起こりうる適応反応
私は、肥満の根源的な問題の一つは、体重の設定値そのものが高い状態にあることだと考えています。そして、この設定値の上昇には、身体が何らかの形で「飢餓状態にある」と認識した際に生じる適応反応が関与している可能性があると考えています。
本節では、認識される飢餓の一つである「腸内飢餓」という概念と、それによって引き起こされうる体重増加の過程について、植物の例を用いて説明します。(なお、ここでは腸内飢餓に焦点を当てており、体重増加に関わるその他の既知・未知のメカニズムを説明するものではありません。)

(著作者:brgfx/出典:Freepik)
▽植物は栄養の乏しい環境に置かれると、より多くの栄養を得るために地中深くへ根を伸ばします。
同様に、人間においても、腸全体(主に小腸)で食物がほぼ完全に消化され「食べ物がない」と知覚される状態、すなわち腸内飢餓が生じた場合、これに類似した適応反応が起こる可能性があると私は考えています。
もっとも、実際に腸のヒダにある突起物(絨毛:じゅうもう)が物理的に伸長するわけではありません。私が想定しているのは、腸の構造や機能そのものの変化ではなく、吸収効率に影響する表面的な変化です。
小腸の内部は、ヒダ状の構造と無数の絨毛、さらにその絨毛の表面に発達する微絨毛によって、極めて大きな吸収表面積を持っています(図1)。
これらをすべて広げると、小腸の表面積はテニスコート1面分にも相当すると言われています。

図1:腸の絨毛(微絨毛)
私の仮説では、「食べ物がない」というシグナルが腸(特に小腸)から中枢へ伝えられると、身体はより多くの栄養を確保しようとする方向へ調節され、その過程で、適応反応として絨毛や微絨毛の表面に付着している微細な物質が剥離する可能性があります(図2)。
その結果、栄養素と接触可能な表面積が増加し、実質的な吸収効率の上昇が一過性ではなく、その後も持続する可能性があると考えています。

図2:腸内飢餓の発生と適応反応
このような吸収効率の変化が生じた場合、体重増加の幅が 0.3 kgであれ3kgであれ、比較的短期間のうちに、より高い体重でエネルギー恒常性が保たれた状態へ移行する可能性があります。これは過食による体重増加とは異なり、体重の「設定値」そのものが上昇することを意味すると考えられます。
この仮説は、体脂肪として十分なエネルギー貯蔵がある肥満者であっても、カロリー制限に対して代謝的な抵抗を示す[3]ことがある理由の一端を説明できる可能性があります。
【関連記事】重要性を増す体重の「設定値」理論
以上を踏まえると、肥満者と痩せている人の根源的な違いの一つとして、摂取した食べ物をどの程度効率的に消化吸収できるのか、すなわち吸収効率の違いが関与している可能性がある、というのが私の考えです。
日本では、肥満者自身が「水を飲んでも太る体質だ」と表現することがあります。もちろん、水を飲むだけで体脂肪が増えるわけではありませんが、この表現は、肥満者では栄養の吸収効率が高い状態にある可能性を直感的に言い表しているとも解釈できるでしょう。
3. 設定体重が高くなると何が起こるのか?
(1)一度太ると、痩せにくくなる
体重の設定値の上昇を反映する体重増加は、エネルギー恒常性の観点では、摂取と消費が釣り合うポイントそのものが高い水準へ移行したことを意味します。つまり、よりポジティブなエネルギーバランスが維持されやすくなり、減量はさらに困難になる可能性があります。
カロリー制限によって一時的に体重が減少しても、元の食事に戻ればリバウンドする可能性が高いでしょう。さらに、食事制限を繰り返すことで、長期的には体重が徐々に増加することも懸念されます。極端な食事制限では空腹状態が長時間続くため、その過程で腸内飢餓が生じやすくなり、結果として設定体重がさらに上昇する可能性があります。
(2)筋肉も同時につく
設定体重の上昇を示す体重増加では、タンパク質を含む栄養全体の吸収効率が高まると考えられます。つまり、体脂肪だけでなく、筋肉や臓器などの除脂肪組織も一定程度、並行して増加する可能性があります。
実際、多くの研究で、肥満者は非肥満者に比べて除脂肪量(筋量)も多い傾向が報告されています[4,5,6,7]。
ただし、これらは単なる観察結果を示すにとどまり、体脂肪の増加(体重負荷)そのものが筋肉への刺激となり、筋量増加を直接引き起こすことを示すものではありません。

(著作者:pikisuperstar/出典:Freepik)
本仮説では、筋量の増加は、体重の増加による機械的負荷に起因するものではなく、栄養状態や代謝環境の変化に伴って、ある程度は体脂肪とともに生じる変化として起こる可能性を想定しています。
(3)原因と結果が逆転する
栄養全体の取り込みが増加すると、体はよりポジティブなエネルギーバランスに移行し、同時に次の現象が起こりえます。
消化酵素や多くのホルモンはタンパク質(アミノ酸)から構成されているため、栄養状態の改善に伴って、消化機能や食欲調節機構にも変化が生じる可能性があります。
その結果、体の大きい人や消化機能の高い人が、より多くの食事を摂取することは自然な現象といえます。
つまり、「多く食べるから太る」のではなく、「体が大きくなることで必要量が増え、結果として多く食べる」傾向が現れます。この点から、原因と結果の逆転が生じていると捉えることができます。

(出典:Freepik)
一方、痩せ過ぎの状態では、吸収効率の低下に伴い、摂取した栄養(たんぱく質など)を十分に活用できない可能性があります。その結果、内臓を支える筋量の減少や消化酵素分泌の低下が生じると、食べ物を効率的に消化吸収する能力がさらに低下します。
このような悪循環が形成されるため、ネガティブなエネルギーバランスが維持されやすくなると考えられます。そのため、摂取カロリーを増やしたとしても、体重は増えにくい場合があります。
【関連記事】太った後に、過食し運動しなくなった
<参考文献>
[1]Speakman JR, Elmquist JK. 「肥満:進化論的背景」. Life Metab. 2022 Apr 29;1(1):10-24.
[2](ゲーリ-・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Pages 22-40)
[3]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen, 「体重設定値:決定と調整」, The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.
[4]Kyle UG et al. 「15歳から98歳までの健康な被験者5225人における除脂肪量および体脂肪量のパーセンタイル値」. Nutrition. 2001 Jul-Aug;17(7-8):534-41.
[5]Heymsfield SB et al. 「人体組成:モデルと方法の進歩」. Annu Rev Nutr. 1997;17:527-58.
[6] Janssen I et al. 「18歳から88歳までの男女468人における骨格筋量と分布」. J Appl Physiol (1985). 2000 Jul;89(1):81-8.
[7]Fornari R et al. 「肥満成人における除脂肪体重は、ビタミンD濃度の上昇、インスリン感受性の低下、および炎症の軽減と相関関係にある」. J Endocrinol Invest. 2015 Mar;38(3):367-72.
2017.09.09
お相撲さん(力士)が太るのも、飢餓メカニズムと言える
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目次
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<プロローグ>
- ダイエット後に、以前より体重が増える人と同じメカニズム
- 飢餓メカニズムと言える6つの根拠
<まとめ>
プロローグ

あなたは目の前でお相撲さん(力士)を見たことがありますか?私は数年前にホテルで配膳の仕事をしていた時に、奄美出身力士の壮行会があり、間近に見ることができました。また2017年の春巡業(大阪場所)で藤島部屋が高槻市にきた時に、朝稽古を見学し、『ちゃんこ』の試食をさせてもらいました。
力士を間近で見ると、骨そのものがごつく(骨太で)、その上に鋼のような筋肉が鎧(よろい)のようについていて、さらにその上に体脂肪があるという感じです。

力士の中には体脂肪率が20%代の人もおられるそうですが、まるで筋肉の塊です(力士に限らず、実際太っている人も体脂肪を落とせば筋肉質な人が多い)。
そんな力士ですが、「たくさん食べて、よく寝るから太るんだ」 と言われていますが、上手く腸内飢餓のメカニズムを取り入れていると考えることができます。
1.ダイエット後に、以前より体重が増える人と同じメカニズム
お相撲さんのイメージが、「多く食べれば太る」というイメージに繋がっているのかも知れませんが、それは『ダイエット後にリバウンドして以前よりも太ってしまう人』や『朝食抜き又は遅い夕食で太ってしまった人』とメカニズム的には同じであるということを説明します。この地球上で、異なる2つの真理は存在しません。ただ、「太る」という言葉の2つの意味が混同されて使用されているだけです。
【関連記事】→ 「”太る”という言葉の2つの意味」
まず私なりに、両者を図解すると以下のようになります。↓↓↓
■ダイエット後に、以前よりも太ってしまう人のイメージ
図の(1)→(2)→(3)の順序で起こる
(1)カロリー制限などのダイエットで少し痩せる
(2)食べる量が少なく(特にバランスの悪い食事)長時間にわたり空腹を我慢している時、腸内飢餓状態になりやすく、体重の設定値は気が付かない内にアップしている。
(3)その後、昔のように食べだしたときに体重が以前よりもアップする。
■お相撲さん(力士)が太るイメージ
(1)→(2)の順序で起こる
毎日の食事や練習の中で、腸内飢餓が引き起こされることにより、まず体重の設定値がアップして、その後に食べて太るというイメージです。
ダイエットをしている人であれば、時間的なズレがあるのですが、力士の場合は毎日食べているので、それがほぼ同時に起こり、食べて太っていくように見えるけど、腸内飢餓状態が作られなければ、体重は思ったように増えていかないはずです。
2.飢餓メカニズムと言える6つの根拠
フードファイトに出る大食いの女性・男性に対し、「何故、あんなに食べても太らないの?」ということが言われたりしますが、彼らが特別な『太らない体質』なのではなく、朝から晩まであの様な食べ方をすれば、誰でも太らないはずです(あんなに沢山食べれるのは不思議ですが)。
力士の食事とフードファイターの食事の摂り方は根本的に違うということを理解してください。


【朝稽古見学とチャンコ】
藤島部屋の朝稽古を見学後に11時前から、いよいよちゃんこ鍋を試食させてもらう。あっさりしていて、私でもごはん2杯くらい食べれてしまう。
■力士の食事がなぜ「飢餓メカニズムをつくりやすいと言えるのか」の説明 (1)~(6)
(1)力士の入門は体重が67kg以上あることが条件で、もともと太っている人や筋肉質の人・胃腸が丈夫な人の方が、痩せている人よりも飢餓メカニズムをつくりやすい。(胃腸が丈夫なため、消化する能力が相対的に高い)
(2)チャンコ鍋のように、野菜・鶏肉・魚・豆腐などをじっくり煮込んだ食事のほうが、低脂質で消化が早い。
(3)炭水化物(ごはん)や水分を多く摂ることで、胃は大きく膨らみ(風船効果)、希薄効果・ピストン効果が生まれる。
【関連】炭水化物が人を太らせる、カロリー以外の特性
(4)伝統的に1日2食であること(1回目は朝稽古終了後の11時前後、夕食は6時前後)。
(朝食前の稽古)
※朝食は食べないで朝稽古を行うので、夕食が仮にPM7時に終わるとすると、次の食事まで15~16時間前後食べないということになる。空腹時に激しい早朝トレーニングを行うことに意味がある。
もちろん太りたいがために、栄養補給として個人的に夜食を摂る力士もいるようだが、私の理論上は食べない方が太りやすいということ。
(5)筋力運動は力を強くし、最終的には太る方向への推進力となる。1日2食にして運動をすることで、太りやすくなる。
【関連】→ 「食事と運動、体重の関係性を間違えている」
(6)食事は、親方や上位の関取から順に鍋をつつき、幕下以下(食事当番)は食べるのは後である。最後の方は、具も少ししか残っていなくて、スープが殆どのこともあるそうです。しかしその方が実は太りやすいとも言われています。(この情報源は数年前の「相撲の特集番組」ですが、番組名等の記憶は不確かで申し訳ありません。)
まとめ
(1) お相撲さんは、体が大きく太っていることで有名だが、彼らの毎日の摂取カロリーが消費を上回るから太っていくのではない。彼らの伝統的な食事法と運動は、腸内飢餓をつくりやすくするという点において、体重を増加させるのに理にかなっている。
(2) 元々体の大きな人が、相対的に消化の良い食べ物(おかず)を沢山の炭水化物(ご飯)で食べ、1日2食にすることで、腸内飢餓は引き起こされやすくなる。
(3) メカニズム的には、「ダイエット後のリバウンドによって以前よりも体重が増えてしまう人」と同じである。力士の場合は、毎日たくさん食べているので、それがほぼ同時に起こり、食べて太っていくように見える。
2014.09.11
「腸内飢餓」の定義:肥満の多因子モデルへの適用
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<目次>
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<はじめに>
1. 腸内飢餓の定義
2. 「多因子性肥満」と腸内飢餓との関連
<はじめに>
進化生物学の観点から見ると、人類や多くの動物は、長い進化の過程で断続的な食糧不足に備える仕組みを発達させてきたと考えられている。食物が豊富に得られる時期は限られていたため、肝臓、骨格筋、脂肪組織などにエネルギーを蓄える能力が選択されてきたと推測される。
この視点から見ると、肥満は単なる「食べ過ぎ」の結果ではなく、身体が飢餓リスクを認識した際に生じる、エネルギーを蓄えようとする適応的反応の結果として生じる状態と捉えることもできる。
「腸内飢餓」という概念は、私たちの身体がどのように「食物の不足」を感知するのかについて、従来の "エネルギー摂取量" に焦点を当てた議論とは異なる、新しい視点を加えるものです。
【関連記事】
なぜ現代人の方が飢餓状態であると体は認識するのか?
1.”腸内飢餓” の定義
このブログでは、仮説的に、摂取した食物が腸管内(注1)で完全に消化されたと身体が認識する生理的状態を「腸内飢餓」と呼んでいる。この状態では、実際に摂取した食物量やカロリーにかかわらず、食物由来の未消化物が腸管内に残っていないことを「食べ物がない」というシグナルとして身体が解釈する。
この状態は、深刻なエネルギー不足や真の食糧不足とは区別しなければならない。これらの極端な状況とは異なり、腸内飢餓は、比較的豊かな社会において、特に食事が消化の良い食べ物(精製炭水化物、消化の早い蛋白質、超加工食品など)(注2)に偏る場合に、通常の生活環境下で生じる可能性がある。
この意味において、腸内飢餓は「現代的な飢餓」の一形態として理解でき、環境中の食糧不足というよりも、腸-脳軸によって媒介される知覚された飢餓(シグナル伝達状態)を表す。
(注1)腸内飢餓は腸全体で認識されるのか、それとも小腸だけなのかは不明です(小腸は「第二の脳」とも呼ばれることがあります)。
(注2)脂質は一般に消化・胃排出に時間を要するため、個人によっては、腸内飢餓の発生を抑制する方向に働く可能性があります。ただし、脂質を消化する能力には個人差が大きく、特に精製炭水化物と一緒に摂取した場合には、その効果が十分に得られないこともあります。
【関連記事】脂肪における3つの視点:腸内飢餓の抑制効果
■「食べる量」についての詳細な説明
食べる量が多くても、食事が大部分の精製炭水化物とその他の消化の良い食品(特定の蛋白質、少量の脂質)で構成される場合、1日2食などで空腹が続けば腸内飢餓状態又はそれに極めて近い状態になりえます。
炭水化物は水分と一緒に摂取することで、胃の中で膨らみ(風船効果)、栄養を希薄にし(希薄効果)、その後、胃から腸に勢いよく排出されます(プッシュアウト効果)。
それらの効果が組み合わさって、腸管内で多少の未消化物が残る場合も「完全に消化された状態」と認識される可能性があります。
【関連記事】
炭水化物の特徴:希薄効果、プッシュアウト効果

(様々な炭水化物)
また食べる量が少なくても、食事が同じ様に、消化の良い精製炭水化物や特定の蛋白源で構成されていれば(例:シンプルなハンバーガーやサンドウィッチ、即席麺などの超加工食品)腸内飢餓は引き起こされる可能性があります。
近年のダイエットブームで、減量の為に朝食や昼食を軽く済ましている人もいると思いますが、その様な食事法は長期的に逆効果になる可能性があります。
逆に、繊維質の多い野菜や加工度の低い食品を含むバランスの良い食事を1日3回食べていると、消化されない物質が24時間絶えることなく腸内に残るので、腸内飢餓が引き起こされる可能性は低くなります。
2.「多因子性肥満」と腸内飢餓との関連
近年の肥満の流行は「食べ過ぎや運動不足」によって説明されがちである。
しかし、同じ様な食糧が豊かな環境にいながらも、減量に取り組むことなくスリムな体型を長年維持している人がいる一方、先進国の低所得層や、経済的に豊かとは言えない太平洋の島国でも深刻な肥満が見られる。
このような状況から、肥満は単一の要因では説明できない多因子疾患として位置づけられています[1,2]。
遺伝、食環境、身体活動、腸内環境やホルモンなど、さまざまな要因が相互に関わり、体重調節に影響を与えると考えられている。

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特に、遺伝子が数十年という短いスパンで大きく変化するとは考えにくいため、1970年代以降の生活様式や食品環境の変化が、近年の世界的な肥満の増加に大きく影響している可能性がある[3]。
腸内飢餓が引き起こされるには、厳密には4つの要因(注3)が重なりあうことが必要であり、遺伝子、環境の変化、生理的要因などの複数要因が交差するところで肥満が発生しやすいことを説明できる可能性がある。
(注3)4つの要因とは、「何を食べるか」、空腹の時間、消化力、連続性である。
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(1)遺伝的要因
腸内飢餓と関係する遺伝的特性としては、「消化力」や「食欲」を左右する酵素やホルモンの分泌能力・受容体の感受性が挙げられる。特に、蛋白質や脂質をより早く消化できる遺伝的背景の違い(集団差・個人差)は、腸内飢餓の生じやすさに影響を与える可能性がある。もちろん、これらの特性は後天的な要因(肥満や、減量目的の胃切除手術など)によって変化することも考えられる。
(2)環境要因
1970年代以降の環境変化として特筆すべき点は、エネルギー密度の上昇そのものよりも、食品の工業化に伴う「消化の良い食品」の増加であると考えられる。精製炭水化物、特定の蛋白質源、超加工食品などがその代表である。
野菜や穀物では、消化されにくい部分が取り除かれ(例:精製穀物)、さらにすり潰しや裏ごし(マッシュポテト、ポタージュスープなど)が行われる。肉や魚もミンチやすり身のような消化されやすい形で摂取されることが増えている。

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これらの食品は、伝統的な低加工食品に比べてより素早く消化吸収される。その結果、体は少ない労力で効率よくエネルギーを獲得でき、さらに空腹感の増加や満腹感の低下に影響を与える可能性がある。
この傾向は先進国だけでなく新興国にも広がっており、精製炭水化物や超加工食品の摂取量の増加と肥満の増加との関連が示唆されている。
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<ライフスタイル>
腸内飢餓は「何を食べるか」だけでなく「どう食べるか」(食べ方)にも関係する。
1970年代以降、ライフスタイルの変化に伴って食習慣も劇的に変化した。日本では、伝統的なご飯中心の朝食から、西洋スタイルの朝食(トースト、コーヒー、目玉焼きなど)へと変化しつつある。
また、朝食や昼食を軽く済ませ、摂取カロリーの大半が夕食に偏る傾向も見られる。このような食習慣は、腸内飢餓を引き起こしやすくするかも知れない。その理由は、私たちの腸が約7〜8メートルと長く、摂取した食べ物すべてが腸管内を移動中に完全に消化されてしまう可能性があるためである。
(3)生理的要因
腸内飢餓は腸管処理やホルモン分泌と関連する適応的な生理反応であり、毎日バランス良く食べる人は太りにくいことを証明できる可能性がある。腸内細菌叢(フローラ)とは直接的に関係ないと思われるが、摂取する食品が腸内環境に与える影響は大きい。
バランス良く多様な食品を食べている人は腸内飢餓を誘発する可能性は低くなり、間接的に「腸内細菌叢が良好な人は太りにくい」という関係性が示唆される可能性もある。
<参考文献>
[1]Flores-Dorantes MT, Díaz-López YE, Gutiérrez-Aguilar R. 「肥満と環境および遺伝子の関連性と神経変性疾患および神経発達疾患への影響」. Front Neurosci. 2020 Aug 28;14:863.
[2]Khan MJ et al. 「肥満の病因における腸内細菌叢の役割:提案されたメカニズムと文献のレビュー」. J Obes. 2016;2016:7353642.
[3] ジェイソン・ファン. 2019. The Obesity Code. サンマーク出版. Pages 56-7.

