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栄養素

2025.02.25

肥満の増加は、超加工食品の消費量と密接に関係している

要   約

1.2009年、サンパウロ大学の研究グループは、食品加工度に基づく「NOVA分類」を提唱した。
NOVAでは、食品を以下の4つに分類している。

・未加工または最小限の加工食品
・ 加工食品原料
・ 加工食品(PF)
・ 超加工食品(UPF)

   
2.超加工食品(UPF)は、多数の工業的プロセスを経て作られる調合物であり、精製炭水化物、添加糖、塩分、脂肪を多く含み、エネルギー密度が高い。一方で、食物繊維や微量栄養素は少ない傾向がある。

   
3.アメリカやイギリスでは、一日の総エネルギー摂取量の 50%以上をUPFが占めている。多くの研究では、エネルギー摂取量に占めるUPFの割合が高いほど、肥満リスクが高いことが示されている。一方で、野菜などの未加工食品の摂取量は、肥満と逆相関していた

   
4.UPF摂取量が多い人ほど、果物、野菜、ナッツ類、魚などの摂取量が少なく、食事全体の質(栄養価)が低下する傾向がみられた

   
5.加工食品の食事では、ホールフードの食事に比べて食事誘発性熱産生(DIT)が低下し、実質的なエネルギー獲得量が増加する可能性がある。また、UPFの食事では、自由摂取下でのエネルギー摂取量が増加しやすいことも示された。

   
<私の考え>
6.世界的な肥満の増加は、単なる摂取カロリーの増加だけでは説明しきれない可能性がある。
私は、「食品加工」そのものが人体に与える影響に着目している。

超加工食品は、食物繊維の減少や食品構造の単純化によって、極めて効率的に消化・吸収されやすくなっている。その結果、食事全体の質が低下すると、腸内に未消化物が残りにくい状態が形成されやすくなり、私が「腸内飢餓」と呼ぶ生理的状態につながる可能性がある

【全 文】

目次

  1. NOVAシステムによる食品分類
  2. 超加工食品の問題点
  3. 超加工食品の消費と肥満との関連
  4. 超加工食品が食事全体へ与える影響
  5. 超加工食品と腸内飢餓との関連

低炭水化物、ケトジェニック、パレオ、低脂肪、ビーガンなど、さまざまなダイエット法をめぐる論争は、国民に大きな混乱と栄養科学への不信をもたらしている。しかし、ほとんどのダイエット法に共通する推奨事項があることは、あまり知られていない。それは、「超加工食品を避ける」ことです[1]

実際、多くの国では、肥満率の上昇が超加工食品の消費量の増加とほぼ並行して進んでいることが報告されています。今回は、その背景にある要因について考えてみたい。最後に、私の「腸内飢餓」理論との関連についても触れます。

1. NOVAシステムによる食品分類

NOVA (頭文字ではない)とは、食品を栄養素ではなく、加工の程度や目的によって分類するシステムである。ブラジルのサンパウロ大学の研究グループによって、2009年に考案された[2]

従来の食品分類では、食品や材料は、植物や動物の種類、あるいは含まれる栄養素に基づいて分類されてきた。

そのため、全粒穀物が「朝食用シリアル」やクッキーと同じカテゴリーに分類されたり、新鮮な鶏肉や豚肉がチキンナゲットやソーセージと一緒に分類されることもある。しかし、健康への影響を評価するうえで、従来の分類には限界があった[3]

      
NOVA分類法では,食品を加工の性質、程度、目的に応じて、以下の4つのグループに分類しています。

生肉と加工肉

1. 未加工または最小限の加工食品

新鮮な果物や野菜、穀物、牛乳、魚、肉などの自然由来の食品。またはそれらに、食べられない部分の除去、乾燥、粉砕、殺菌、冷蔵、冷凍、真空包装などの最小限の加工を施した食品。

2. 加工食品原料

圧搾・精製・製粉・乾燥などの行程を経てグループ1の食品または自然から得られる物質で、油・バター・砂糖・塩などの加工食品原料。通常、これのみで食べることはない。

3. 加工食品
(PF)

基本的に、グループ1の食品にグループ2の物質を加えて作られる。瓶詰の野菜、シロップ漬けの果物、缶詰の魚、チーズ、手作りのパンなどが含まれる。

4. 超加工食品
  
(UPF)

多くの材料を組合わせ、複数の工業的プロセスを経て作られる調合物
例としては、朝食用シリアル、ソフトドリンクやフルーツジュース、甘味又は塩味のスナック菓子、チョコレート菓子、インスタント食品、ソーセージやナゲットなどの再構成肉製品、そして多くのファーストフードが挙げられる[3, 4]

(1)未加工または最小限の加工食品 

新鮮な果物や野菜、穀物、牛乳、魚、肉などの自然由来の食品。またはそれらに、食べられない部分の除去、乾燥、粉砕、殺菌、冷蔵、冷凍、真空包装などの最小限の加工を施した食品。

(2)加工食品原料 

圧搾・精製・製粉・乾燥などの行程を経てグループ1の食品または自然から得られる物質で、油・バター・砂糖・塩などの加工食品原料。通常、これのみで食べることはない。

(3)加工食品 (PF: Processed food)

基本的に、グループ1の食品にグループ2の物質を加えて作られる。瓶詰の野菜、シロップ漬けの果物、缶詰の魚、チーズ、手作りのパンなどが含まれる。

(4)超加工食品(UPF:Ultra-processed food)

多くの材料を組合わせ、複数の工業的プロセスを経て作られる調合物
例としては、朝食用シリアル、ソフトドリンクやフルーツジュース、甘味又は塩味のスナック菓子、チョコレート菓子、インスタント食品、ソーセージやナゲットなどの再構成肉製品、そして多くのファーストフードが挙げられる[3, 4]

2.超加工食品の問題点

そもそも食品加工とは、「生の食材を、消費・調理・保存に適した状態にするための操作」であり、ほとんどの食品は食べる前に何らかの加工を受けている。つまり、「加工」そのものが悪いわけではない。

しかし超加工食品 (UPF) は、グループ1の自然食品をほとんど、あるいは全く含まない場合がある。さらに、食品由来の物質や添加物を組合わせ、複数の工業的プロセスを経て作られる調合物であるため、部分的に食品の性質を変更した食品とは異なる特徴を持つ[3]

これらの食品は、精製穀物、添加糖、塩分、脂肪を多く含み、エネルギー密度が高い。一方で、食物繊維、タンパク質、微量栄養素の供給源としては貧弱である。

さらに、最終製品の望ましくない品質を補うために、香料、着色料、乳化剤、甘味料などの添加物が加えられることも多い[5]

      
それにもかかわらず、1980年代以降、超加工食品 (UPF) 消費量は、先進国だけでなく途上国においても急速に増加しており、それは主に多国籍企業によって牽引されている。

UPFは、強い嗜好性を持ち、安価で保存性が高く、いつでも手軽に食べられるため、多くの人々の支持を得ていると言えるであろう[3]

(超) 加工食品

これまでのNOVAに基づく研究では、最小限に加工された食品や家庭での調理が減少し、食生活が超加工食品中心へ移行することは、不健康な栄養プロファイルや、いくつかの食事関連疾患の増加と関連していることが示されている[3]

3.超加工食品の消費と肥満との関連

「総エネルギー摂取量に占める超加工食品 (UPF) 由来のエネルギーの割合」を報告した成人を対象とした研究では、アメリカやイギリスで 50%を超えており、カナダでも約 45~52%に達している。一方、フランス、スペイン、ブラジル、マレーシアなどでは比較的低いものの、それでも 20~36% 程度を占めていた[6]

  
♦アメリカの成人を対象とした横断研究(2005~2014年)では、参加者は平均して総エネルギー摂取量の 56.1% をUPFの形で摂取していた。UPF摂取量が最も多い五分位(注1)のグループでは、UPFが総エネルギー摂取量の 84.5%を占めていたのに対し、最も少ない五分位のグループでは 25.4%であった[7]

注1)五分位とは、データを低い順に並べて5等分した各グループを指す。

UPF摂取量の増加は、多くの国で肥満率の上昇と関連していることが報告されている。

   
♦ブラジルの 2008~2009 年の家計調査に基づく横断研究では、UPFの家庭内消費量は、平均BMIおよび肥満の有病率の両方と正の相関を示した。UPF消費量が最も多いグループでは、最も少ないグループに比べて、肥満となる確率が 37% 高かった[9]

  
♦イギリスの国民食事栄養調査(2008~2016年)を用いた横断研究では、UPFから摂取されるエネルギーの割合は、総摂取カロリーの約 35%(第1四分位)から約 74%(第4四分位)の範囲であった。

UPFの摂取量が多いほど、BMI、腹囲、肥満率は高く、総摂取カロリーに占めるUPFの割合が 10% 高くなるごとに、肥満リスクは 18%増加していた。また、UPFの摂取量は、男性、喫煙者、より若い人、社会階級の低いグループで高い傾向がみられた[10]

  
♦スペインのナバラ大学卒業生を対象にした前向きコホート研究では、8,451人を約9年間追跡した。

UPF摂取量が最も多いグループの参加者は、最も少ないグループの参加者に比べて過体重または肥満を発症するリスクが 26% 高かった。このグループでは、UPF摂取量とは対照的に、平均して野菜の摂取量が最も低かった。
全体的にみて、UPFの摂取量が多いほど、地中海式ダイエットへの遵守度は低くなる傾向がみられた[11]

   
同様の関連は、ラテンアメリカ15カ国を対象とした研究や、アメリカ・カナダを含む他国の研究でも報告されている[4,7,8]

4. 超加工食品が食事全体へ与える影響


(1)食事全体の質の低下

♦アメリカの研究グループは、国民健康栄養調査(2015~2018年)のデータを用いて、UPF摂取量と「食事全体の質」との関連を調査した。対象は、5,919人の子供と 10,064人の成人であり、食事の質は、米国心臓協会(AHA)食事スコアおよび健康的な食事指数(HEI)-2015を用いて評価された[12]

その結果、UPFの摂取量が多いほど、食事全体の質は大きく低下していた。
不健康な食生活を送っていると推定された子供の割合は、UPF摂取量が最も少ないグループでは 31.3%だったが、最も多いグループでは 71.6%に達していた。成人でも同様の傾向がみられた。

バランスの悪い食事

また、UPF摂取量の増加に伴い、精製穀物・加糖飲料・添加糖などの摂取量は増加したが、逆に、果物・野菜・ナッツ類・魚などの健康的な食品の摂取量は減少した。

     
研究グループは、UPFの摂取量が多いほど、子供と成人の食事全体の質(栄養価)が大きく低下すると結論づけている。この結果は、これまでの数カ国で実施された先行研究と一致しているという[12]

♦イタリアの研究グループは、「食事のタイミング」と食品加工度との関連について調査した。イタリア栄養健康調査(2010~2013年)の 8,688人のデータを分析した結果、朝食・昼食・夕食の時間が遅い人ほど、未加工または加工度の低い食品の摂取量が少なく、加工食品やUPFの摂取量が多い傾向がみられた[13]

    
さらに、遅い時間の食事は、地中海式ダイエットの遵守とも逆相関していた[13]
。地中海式ダイエットは、主に果物・野菜・豆類・ナッツ・オリーブオイル・魚を中心とする食事パターンであり、体重増加の抑制との関連が報告されている[14]


(2)実質的な摂取エネルギーの増加

アメリカの研究グループは、加工食品(PF)とホールフード(WF)が身体のエネルギー消費に与える影響を比較するため、クロスオーバー試験を実施した。18名の被験者は、加工度のみが異なる等カロリーの2種類のサンドイッチを摂取した。

WF食は、マルチグレインパン(全粒穀物やヒマワリの種を含む)とチェダーチーズで構成され、一方 PF食は、白パンとプロセスチーズ製品で構成されていた。

その結果、PF食を摂取した後の食事誘発性熱産生(DIT)(注2) は、WF食と比べて 46.8%低下していた。研究グループは、このDITの差によって、PF食では実質的なエネルギー獲得量が約 9.7%増加すると結論づけている[15]

注2)食事誘発性熱産生(DIT)とは、食後に消化・吸収・代謝のため、数時間にわたってエネルギー消費が増加する現象を指す。

研究グループは、その理由として、加工食品は自然食品よりも構造的・化学的に単純で、消化しやすいことを挙げている。

例えば穀物の精製では、ふすまや胚芽が除去されることで、微量栄養素、食物繊維、フェノール類なども失われる。

その結果、消化管の活動や代謝に必要なエネルギー消費が減少し、DITの低下につながる可能性がある[15,17]

さらに、食物繊維の減少は食事量の「かさ」を減らし、満腹感を遅らせるため、結果として総摂取カロリーの増加につながる可能性も指摘されている[15,18]

玄米とぬか層


(3)自由エネルギー摂取量に与える影響

2019年、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究グループは、超加工食品(UPF)が自由摂取下でのエネルギー摂取量に与える影響を調べるため、体重が安定している成人20名を対象とした無作為化比較試験を実施した[19]

被験者はNIH臨床センターで、UPFの食事と未加工食品の食事を、それぞれ2週間ずつ摂取した。両食事は、カロリー、エネルギー密度、主要栄養素などが可能な限り一致するよう設計され、被験者には「好きなだけ食べてよい」と指示された。 

    
その結果、UPFの食事期間中には、未加工食品の期間中と比べて、一日あたりのエネルギー摂取量が平均 459 kcal増加し、体重はベースラインから平均 0.9 kg増加した。一方、未加工食品の期間中には、平均 0.9 kgの体重減少がみられた[19,20]

特筆すべきは、UPFを摂取した際の摂取速度が、未加工食品の場合と比べて有意に高かったことである。

さらに、未加工食品の摂取中には、食欲抑制ホルモンであるPYYが増加し、空腹ホルモンであるグレリンが低下していた。

研究グループは、超加工食品の口腔感覚特性(例えば、噛みやすさ、飲み込みやすさ)が、摂食速度の増加と満腹シグナルの遅延につながり、結果として、エネルギー摂取量の増加につながった可能性があると分析している[19,20]

5. 超加工食品と腸内飢餓との関連

これまで、世界的な肥満の増加は、摂取カロリーの相対的な増加によって説明されることが多かった。実際、超加工食品(UPF)には、その考えを支持する特徴が多くみられる。

・エネルギー密度が高いこと
・高い嗜好性と食べやすさ
・食事誘発性熱産生(DIT)の低下によって、実質的な獲得エネルギーが増加すること
・満腹感が遅れやすく、結果として自由摂取下でのエネルギー摂取量が増加しやすいこと

しかし同時に、NOVA研究によって、カロリー以外の側面も明らかになりつつある。

多くの国で実施された研究では、摂取カロリーに占めるUPFの割合が増えるほど、肥満リスクは大きく上昇することが示されている。しかし、この変化は単なる「摂取カロリーの増加」だけでは十分に説明できない

   
特に注目すべき点は、野菜などの未加工食品の摂取不足や、食事全体の質の低下、食事タイミングの乱れが、いずれもUPF摂取量の増加と関連していたことである。

つまり、問題はUPFの摂取そのものだけではなく、それによって未加工食品の摂取が減少し、食事全体のバランスが崩れることにある可能性がある

Fast foods

効率性が重視される現代の食環境では、精製炭水化物や超加工食品(UPF)など、調理済みで食べやすい食品を摂取する機会が増えている。これらの食品は、柔らかく、咀嚼が少なくて済み、素早く食べれるという特徴を持つ。一方で、未加工食品または最小限の加工食品の摂取機会は減少している

その結果、食物繊維や消化されにくい成分が減少し、腸内に未消化物が残りにくい状態が形成されている可能性がある

「腸内飢餓」理論では、摂取した食物が腸管内で完全に消化されたときに、身体が「食物が存在しない状態」と認識する可能性を想定している。私は、1970年代以降の食品加工技術の発展と超加工食品の増加が、このような状態の発生に関与している可能性があると考えている。

<参考文献>

[1] Katz DL, Meller S. 「どのような食事が健康に最も良いか言えるでしょうか?」.Annu Rev Public Health. 2014;35:83-103. 

[2] Monteiro CA et al. 「NOVA。星が明るく輝いています」. Food classification. Public Health. World Nutr. J. 2016, 7, 28–38.

[3] Monteiro CA et al. 「国連栄養の10年、NOVA食品分類、そして超加工食品の問題点」. Public Health Nutr. 2018 Jan;21(1):5-17. 

[4] Nardocci M et al. 「カナダにおける超加工食品の消費と肥満」. Can J Public Health. 2019 Feb;110(1):4-14. 

[5] Fiolet T et al. 「超加工食品の摂取とがんリスク」. BMJ. 2018 Feb 14;360:k322. 

[6] Elizabeth L et al. 「超加工食品と健康への影響:物語的レビュー」. 2020 Jun 30;12(7):1955. 

[7] Juul F et al. 「米国の成人における超加工食品の摂取と過剰体重」. Br J Nutr. 2018 Jul;120(1):90-100. 

[8] 「ラテンアメリカにおける超加工食品と飲料製品:傾向、肥満への影響、政策的意味合い」. Pan American Health Organization, Washington (DC) (2013)

[9] Canella DS et al. 「ブラジルの家庭における超加工食品と肥満」. PLoS One. 2014 Mar 25;9(3):e92752. 

[10] Rauber F et al. 「英国人口における超加工食品の消費と肥満指標」. PLoS One. 2020 May 1;15(5):e0232676. 

[11] Mendonça RD et al. 「超加工食品の摂取と過体重および肥満のリスク:ナバラ大学フォローアップ」. Am J Clin Nutr. 2016 Nov;104(5):1433-1440. 

[12] Liu J et al. 「米国の子供と成人の超加工食品の消費と食事の質」.Am J Prev Med. 2022 Feb;62(2):252-264. 

[13] Bonaccio M et al. 「イタリアの成人における遅い食事パターンと超加工食品の高消費との関連性」. Nutrients. 2023 Mar 20;15(6):1497. 

[14] Beunza JJ et al. 「地中海ダイエットの遵守、長期的な体重変化、および過体重または肥満の発生」. Am J Clin Nutr. 2010 Dec;92(6):1484-93. 

[15] Barr SB, Wright JC. 「自然食品と加工食品の食後エネルギー消費量」. Food Nutr Res. 2010 Jul 2;54. 

[16] Fereidoon Shahidi. 「栄養補助食品と機能性食品:自然食品と加工食品」. Trends in Food Science & Technology, Volume 20, Issue 9, 2009, Pages 376-387. 

[17] Secor SM. 「特異的動的作用:食後代謝反応のレビュー」. J Comp Physiol B. 2009 Jan;179(1):1-56. 

[18] Roberts SB. 「高血糖指数食品、空腹、肥満:関係はあるのでしょうか?」. Nutr Rev. 2000 Jun;58(6):163-9. 

[19] Hall KD et al. 「超加工食品の食事は過剰なカロリー摂取と体重増加を引き起こす」. Cell Metab. 2019 Jul 2;30(1):67-77.e3. 

[20] de Graaf C, Kok FJ. 「スローフード、ファストフード、そして食事摂取量の管理」. Nat Rev Endocrinol. 2010 May;6(5):290-3.

     

2024.01.28

減少する炭水化物摂取量、増える糖尿病(血糖異常)

目次

  1. 炭水化物・脂質・エネルギーの摂取量の推移(1955~2019)
  2. 私の考える血糖異常の増加の背景
    <まとめ>

以下の記事をまだお読みでない場合は、併せて、そちらもお読みください。

【元の記事はこちら】
低炭水化物(ロカボ)ダイエット:糖質を減らすことだけが重要ではない


この記事では、炭水化物(糖質)摂取と血糖異常などの発症リスクとの関係について、私なりにその原因・背景を考察してみたいと思います(肥満の問題については、この記事では言及しません。)

1.炭水化物・脂質・エネルギーの摂取量の推移(1955~2019)

まず、厚生労働省が実施している「国民健康・栄養調査」を基に、一人一日あたりの炭水化物・脂質・カロリー摂取量の推移を見てみると以下のようになります。
      

3大栄養素、カロリー摂取量推移

(国民健康・栄養調査より)

■炭水化物の摂取量は、戦後間もない1955年には 411 gで総摂取エネルギーの 78.1 %を占めていたが、それ以降減少し続け1995年には 228 g、2019年には 248 g(総摂取エネルギーの 52.1 %)になっています。

■戦後、経済が発展するにつれ、脂質摂取量は1972年の 50.1 gまで急激に増加したが、1975年頃からほぼ 55 g前後で推移し、2000年前後からは一旦減少傾向にあった。1975年以降の年次変動は余り大きいものではない

■一日の摂取エネルギーも1955年の 2,104 kcal から1971年の 2,287 kcal までは増加していますが、それ以降減少傾向にあり、2019年では、1,903 kcalとなっています。

   

れにもかかわらず、糖尿病患者、血糖異常者は増え続けているのです。

糖尿病患者[*1]は推計を始めた1997年の 690 万人から右肩上がりで推移し、2016年には1千万人に上った。
血糖異常などの糖尿病予備軍[*2]も含めると2016年で2千万人を超える(約6人に1人)。
(参考:「糖尿病ネットワーク」

[*1] HbA1c値が6.5%以上の「糖尿病が強く疑われる人」を含む。
[*2] HbA1c値が6.0%以上、6.5%未満で「糖尿病の可能性を否定できない」と判定される人。

2.私の考える血糖異常の増加の背景

以上のデータでお分かりの様に、日本における糖尿病患者・血糖異常者の増加は糖質摂取量やカロリー摂取量だけでは説明がつかない

ロカボダイエットの主導者である山田先生によると、日本人は欧米人に比べインスリンを分泌する能力が弱く、太っていなくても血糖異常になる人が多いとのことだが、私が考えるその他の要因は以下です。

(1)運動量の低下

多くの専門家も指摘されているように、PCやスマホ、ゲームなどの普及に伴い運動量が低下していることが一因として考えられる。(肥満に関しては、私の理論上では、運動量の低下は本質的な肥満の原因ではない。)


(2)統計上の問題

■国民健康栄養調査では、設定された単位区から層化無作為抽出によって(300の単位区内に在住する)約 6,000 世帯が選ばれるのだが、2019年の調査では協力世帯は 2,836 世帯の 5,900 人であったという。強制ではないため、男性・若者・独身者の集団で協力が少ない傾向にあると言われる[1]


■平均値に隠された上限・下限の大きな開き(ブレ)があるのかもしれません。理想的なバランスの良い食事をする人々もいる一方で、食生活の乱れが目立つ人々もいます。糖質の摂取量においても、ダイエットで少なく食べている人がいる一方で、個別でみれば生活習慣病リスクが高い人は糖質を過剰に摂取していたり、又はインスタント食品・ファーストフード等に偏ったバランスの悪い食生活をしているのかも知れない。  


(3)食事の頻度、時間帯など

朝食

食事の量・質だけでなく、回数、時間帯、食べ順によっても吸収が左右される。

特に朝食抜きで1日2食の場合、昼食の糖質量が同じであっても吸収率が高まり、血糖値が急速に上がると言われている。
それに対し、朝食(ファーストミール)で食物繊維が豊富な食品などをしっかり食べておけば、昼食後やそれ以降の食事(セカンドミール)の血糖値上昇にも影響を与え、低く抑えられるということが、「セカンドミール効果」として知られている
(1982年にトロント大学のジェンキンス博士によって発表された)。


(4)食事バランス

■食事バランスが大事である。糖質以外の肉・魚類、油脂、乳製品、野菜(繊維質)を組合わせて食べることで、胃の滞留時間も長くなり、糖の吸収も穏やかになるので、同じ糖質量でも血糖値の急激な上昇を抑えることができるであろう。
多くの人が太りたくないがために、脂質を減らす傾向は、肥満だけでなく血糖値異常者の増加につながる可能性があるのです。


■1970年代以降、外食産業におけるチェーン店などの増加に伴い、すばやく食べれる食事(牛丼、カレー、ラーメン、うどん、ファーストフードなど)の摂取機会が増えた。そういう食事は野菜も少なく、大部分は炭水化物であり、血糖値を上げやすいのではないだろうか? 健康的に見えるザル蕎麦であっても、単品では血糖値が上がりやすいと山田先生も指摘されている。
(山田悟, 第5章, 「糖質制限の真実」,幻冬舎, 2015, P144)

おにぎり、パン

また、多くの日本人は炭水化物が好きである。「ラーメンと炒飯」の様に異なる炭水化物(米と小麦製品)をダブルを食べるセットメニューが多い。

量は少なくても、おにぎり1個とスナックパン(又はカップ麺)、の様な組合せでは血糖値が上がりやすい。

(5)炭水化物(糖質)の質

■農水省統計によると、米の1人当たりの年間消費量は、昭和37年度(1962)の 118 kgをピークに減少傾向となっており、令和2年度(2020)の消費量は半分以下の 50.8 kgにまで減少しています。また、1世帯当たりの年間支出金額の推移を見ると、平成26年(2014)以降はパンの支出金額が米の支出金額を上回っています。

米の消費量が近年激減するなかで、その代わりに菓子パン、スイーツ、キャンディー、ソフトドリンクなど血糖値を上げる糖質が増えているはずで、炭水化物摂取量というデータだけでは十分とは言えない(参考:日本ローカーボ食研究会

低GI食品

(GI値が比較的低い食品:玄米、全粒粉パンなど )

■そんな中で、糖質50 gを含む食品を摂取した後の血糖値・持続時間などによって数値化されたグリセミック・インデックス(GI)という指標は有益である。また、GI値に、対象の食品に含まれる炭水化物の割合をかけて算出されるグリセミック負荷(GL)という指標もある。

食後の血糖値の急激な上昇を抑える観点で、 GI・GL値の低い食品に着目することが重要です(注1)。パン、白米、麺類、スナック菓子、芋類などはGI値が高い食品と言われるが、玄米、全粒粉パン、豆類、ナッツなどはGI値が低い。

注1:砂糖のように急激に高い血糖値へ上昇するものの、速やかに下降するような食品はGI値では表現しきれないと言われている。)

■食品に含まれるデンプンの中には、消化されずに大腸まで届くレジスタントスターチ(難消化性デンプン)と呼ばれるものがあることが分かっている。

例えば、米・芋類・パスタに含まれるデンプンは加熱されて糊化したあと、冷ますとその構造が変化し、一部がレジスタントスターチとなることがあります。(レジスタントスターチには腸内環境を整えるなど、その他の多くのメリットが発見されている。)

現在より保温ジャーが一般的でなかった 1970~80年頃までは、お米の消費量は今より多かったかもしれないが、お弁当などで「冷めたご飯」をたくさん食べていたのではないでしょうか?


■国立がん研究センターは、1990年代後半に「糖質の摂取量と2型糖尿病罹患との関連」を調べるため5年間の追跡調査(糖尿病や循環器疾患、がんの既往などのない45~75歳の約6万5千人の男女を対象)を行った。これによると、女性においては、単純糖質(砂糖、果糖など)やスターチの摂取量の多い人に糖尿病の罹患率が高かったことが判明した[2]


(6)調理の進化、加工食品など

■近年の調理技術の向上や加工食品が増えたことにより、肉・魚、野菜など含むすべての食品はソフトになり口の中でとろけるようになった。そのような食品はすばやく消化され、胃の滞留時間が短くなるため、糖質の吸収が早まる可能性があると私は考える。


■また多くの加工食品・お菓子などには人工甘味料が使用されている。人工甘味料自体は血糖値を上昇させないものの、習慣的な使用は、味覚や腸内細菌叢(フローラ)の変化を介し、糖代謝に悪影響を及ぼしている可能性を指摘する専門家もいる[3][4]
(参考:農畜産業振興機構「人工甘味料と糖代謝」

まとめ

(1)日本では、1955年の統計以降、炭水化物(糖質)摂取量は一貫して減少している。摂取カロリーも過去50年に渡り減少傾向にある。少なくとも日本では、近年の糖尿病患者・血糖異常者の増加は糖質やカロリーの摂取量だけでは説明できない。


(2)炭水化物(糖質)と一概に言っても、血糖値の上がり方は異なる。1970年前後からの急速な食の欧米化と共に、日本国内におけるお米の摂取量はピーク時(1962年)の半分以下に落ち込んでいる。その代わり、血糖値を上げやすい粉物(パン類・麺類・スナック菓子)、砂糖(スイーツやソフトドリンク)の摂取が増えていると考えられる。お米は粒であり、粉物などに比べ比較的消化の過程は緩やかであるはずだが、同じお米であっても、精米度合い、炊き方(水分)、冷まし方によって血糖値の上がり方が異なる。


(3)食事のバランス(食材の組合せ)、食事の頻度、摂取の時間帯、食べ順などによっても血糖値の上がり方に違いがでる。
例えば、消化の良い炭水化物(高GI) に偏る食事、スイーツやソフトドリンクの頻繁な摂取、朝食抜き、早食いなどの食習慣は、一日の糖質摂取量は多くなくても、インスリン分泌の頻度をあげ、血糖値の上下動を激しくし、膵臓に負担をかけるのではないかと考えます。


(4)血糖異常のリスクを低下させるためには、食品の糖質含有量だけでなく、GI値やGL値のように、血糖値の上がり方を意識した食事が大切ではないでしょうか?高GI食品や砂糖類の摂取量を減らし、低GI食品 (全粒穀物、「肉・魚などのタンパク質」、ナッツ、乳製品)、オイル、非でんぷん質の野菜など の摂取を増やし、食事全体としての血糖値上昇を抑えることが重要です。
一日3回規則正しく食べる、野菜などから先に食べる、冷めたご飯を食べる―ことでも血糖値の上がり方が緩やかになるということが知られています。


(5)個人的な意見としては、日本の伝統的なお米を主食とするバランスのとれた食事は、肥満・血糖異常のリスクを増加させるものではないと思っている。日本では四季折々の野菜や魚介、伝統的な発酵食品に恵まれているにも関わらず、近年は高GIな炭水化物や肉製品、インスタント食品などを好んで食べる人が増えていると感じる。


(肥満原因も含めた、包括的な低炭水化物ダイエットの効果については、以下の記事をご覧ください。)

【関連記事】低炭水化物(ロカボ)ダイエット:糖質を減らすことだけが重要ではない

     

[1] 日本肥満学会, 第4章「肥満症診療ガイドライン2022」,ライフサイエンス出版, 2022-12, P28.
[2] 金原理恵子、後藤淳 他,「前向きコホート研究における中年成人における砂糖およびデンプンの摂取量と2型糖尿病リスクとの関連性」
   
[3] Pepino MY, Bourne C. 
Non-nutritive sweeteners, energy balance, and glucose homeostasis. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2011 Jul;14(4):391-5. doi: 10.1097/MCO.0b013e3283468e7e. PMID: 21505330; PMCID: PMC3319034.
    
[4] Suez J, Korem T, et al., Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature 514, 181–186 (2014). https://doi.org/10.1038/nature13793

2022.12.20

カロリー計算:アトウォーター係数が完全ではない理由

目次

  1. そもそも Atwater係数 とは?
  2. 消化は試験管の中で燃やすのとは違う
  3. 腸内飢餓のメカニズムからの視点
     <結論>

<はじめに>

「1カロリーは1カロリーだ」という言い回しがある。
これは、「ブロッコリーでも、ごはん・肉・オリーブオイルでも、摂取源に関係なく、食べた1カロリーは、体内でも1カロリーである」という一部の有識者の考えであり、その考えを体重管理に当てはめると、食べる物は何でもいいから、トータルの1日の摂取カロリーだけを気にすることになる。

  
もちろん人間の体はそんなに単純ではないし、多くの研究者がこれに警鐘をならしている。

私はこれを説明する上で、体の「内部」で起こる反応(吸収された後)と「外部」で起こる反応(吸収される前)を分けて説明すべきと考えました(注1)。今回は体の外部での問題として、食品ラベルのカロリー表示のベースとなっている、アトウォーター(Atwater) のエネルギー換算係数について考えてみたいと思います。

胃腸は体の外部

多くの腸内細菌の学者などが認識するように、胃や腸などの消化器官は体の「外部」であり(腸内悪玉菌が直接体に悪さをしないのも体の外部だから)、私がこのブログで説明してきたこと、つまり「吸収率が重要である」という考えと完全に一致するのである。

(注1:「食事誘発性熱産生」は吸収された後に使われるエネルギーだが、消化に関することなので「外部」の反応としても考えたい。)

1. そもそも Atwater係数とは?

1800年代には、食品を燃やして周囲との温度変化を測定することで食品中の熱量(カロリー)を測定する方法が化学者によって開発されていった。食品を燃やすことは、私たちの体が食品を分解しエネルギーを得る過程と似ていたのである。


食品のカロリーについて私たちが知っていることの多くは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、コネチカット州ウェズリアン大学のウィルバー・アトウォーターの研究からきていると言われる。彼は、人間の代謝とさまざまな食品のエネルギー含有量を理解することを目的としたさまざまな実験を行った。

研究者

彼は、ボランティアの人にいろいろな食べ物を食べさせ、食べ物と排泄物の燃焼熱の差を計算することで、彼はボランティアが吸収したカロリーを概算したのだ。また、アトウォーターは体内では消化されない食物繊維や(注2)、タンパク質が吸収された後にその一部が尿素として尿中に排泄されることを考慮に入れていたとされる。

アトウォーターの実験から120年以上たった今でも、このアトウォーター係数は、すべての食品のカロリー計算の基礎となっている[1]

(注2:現在は食物繊維なども大腸で腸内細菌による発酵分解を受けて短鎖脂肪酸となり、多少のエネルギーを生むことが分かっている[2]。)

主要栄養素

現在、食品メーカーなどで広く使用されている一般的なアトウォーター係数は、1グラムあたり、タンパク質と炭水化物が4kcal、脂肪が9kcal、アルコールは7kcalで、これは食品の種類にかかわらず、すべての食品に適用される

特定のアトウォーター係数の使用も認められているが、それは食品群ごとに異なる係数が使われている[3]

また、この係数はその当時のアメリカ人の平均的な日常食を元に作成された数値なので、日本では、穀類・大豆製品・油脂類・動物性食品など主要な食品については、日本人を対象とする研究によって求められた係数が使われているという[4]

2. 消化は試験管の中で燃やすのとは違う

私達は食べ物を摂取し、それを様々な消化酵素によって、複雑な食物分子を単糖やアミノ酸などの単純な構造に分解し、それを吸収することでエネルギー源を体の中に取り込みます。当たり前ですが、これは実験室内で食品を燃やすのとは全く違うプロセスである。

  
ロブ・ダン
氏(ノースカロライナ州立大学)によると、食品ラベルに記載されるカロリー値は推定値か近似値に基づくもので、正確に反映されたものではないという。

最近の研究では、ある食品から得られる総カロリーを正確に計算するためには、その食品の細胞壁の構造の違い、調理法の違い、異なる食べ物を消化するために使うエネルギー(食事誘発性熱産生)の差、腸内の何億というバクテリアが人間の消化をどの程度助け、逆にカロリーの一部を自分用に盗んでいくのか、といった目まぐるしい要因を考慮しなければならないことが分かっている[5]


(1) 野菜の中でも消化性に違いがある

野菜と一概に言っても、葉や茎の固さは同じではありません。ある種の野菜の茎や葉の細胞壁は丈夫なのに対し、ホウレン草、キュウリ、レタスなどの野菜は柔らかで90%以上は水分です。
また、同じ種類の野菜であっても、成長するほど細胞壁が固く丈夫になり、消化が困難になる傾向があります。

特にトウモロコシ、木の実のような種子は細胞壁がしっかりしており、食品は貴重なカロリーを細胞壁の内に残したまま、一部が消化されずに体内を通過することができるのです[5]

米国農務省のジャネット・A・ノボトニーらの研究(2012年)によると、人々がアーモンドを食べるとき、ラベルに記載されている170 kcalではなく、1食あたりわずか129 kcalを摂取することが判明しました。

細胞壁固い野菜

ピーナッツ、アーモンド、クルミなどナッツ類は、タンパク質、炭水化物、脂肪が同程度の他の食品よりも細胞構造がしっかりしており、その細胞壁が消化を制限していることが証明され始めているのであるアトウォーター係数ではナッツ類の消化率が過大評価されている可能性があるのです[6]
   


(2) 調理方法によってカロリーは変化する

またロブ・ダン氏によると、現代のカロリー表示の最大の問題点は、食べ物から得られるエネルギー量を劇的に変化させた食品の調理・加工する方法を考慮していないことだと言われている。

私たち人類は、生の食べ物に火を入れることを覚えた。煮たり、焼いたり、炒めたり、発酵させたり、さまざまな加工を行い、食べやすく柔らかくすることを覚えた。それによって、食品から抽出するカロリーを劇的に増加させたはずである[5]

さらに工業的な食品加工は、食べ物を高温・高圧の中にさらすだけでなく、空気を加えソフトに仕上げることで、さらにカロリーを吸収しやすくしているとの指摘もある。

例えば、消化の良くないとされるコーンはポタージュに、生のピーナツは焙煎しピーナツバターに加工される。このようにすることで、摂取できる栄養やエネルギーは飛躍的に増加したと考えれるであろう。つまり同じ豚肉でも、すべて同じでない。ブロックで焼くのと、パテにするのとでは消化で使われるエネルギーも、栄養の吸収のスピードも変わってくるのである。


(3) 消化・免疫の為に必要なエネルギー

消化に要するエネルギーも同じでないことが研究で明らかになっている。これは食事誘発性熱産生と呼ばれ、タンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸に、炭水化物はグルコースに変換され吸収されるのだが、その際に大きなエネルギーを必要とすることが分かっている。タンパク質が分解される際に、酵素がその緊密な結合を解きほぐす必要があるため、脂肪の数倍ものエネルギーを消化に必要とするそうです[7]


また全粒粉と精白された小麦でも異なる。2010年に行われた研究では、ひまわりの種、穀粒、チェダーチーズが入った600または800カロリーの全粒粉パンを食べた人は、同じ量の白パンとプロセスチーズ製品を食べた人に比べて、その食べ物を消化するために2倍のエネルギーを消費したことが分かった。その結果、全粒粉パンを食べた人は、摂取カロリーを10%少なくすることができたとい言う[8]

肉ユッケ、生レバー

また日本人や韓国人は文化的に生魚や生肉を食べるのが好きだ。しかし生の肉などは危険な微生物がたくさん潜んでおり、私たちの免疫システムが病原体を攻撃したり、菌を特定したりするためにエネルギーを使うことが判明していると言われる[5]

生のタルタルステーキよりも、同じ量の火を通した肉の方が消化にかかるエネルギーも少なく、有効となるカロリーが多い可能性があると言われている。


(4) 消化酵素・腸内細菌の違い

牛乳に含まれる乳糖を分解するのに必要なラクターゼという酵素は、ほとんどの赤ちゃんは持っているが、成人になるにつれ分泌が減ると言われている。

またお米やスパゲティーなどのデンプンは調理した後に放置され冷めると、一部のデンプンが再結晶してヒトの小腸では消化されない難消化性に変化することが分かっている(レジスタントスターチ)。

 
さらに、特定の民族にしか存在しない微生物もいる。例えば、多くの日本人の腸内には、海藻を分解するのに適した腸内細菌がいると言われている。この腸内細菌は、生の海藻に付着していた海洋細菌から、海藻を分解する遺伝子を盗んだものであることが判明している[5]

   


(5) 計算方法によって違いがでる

一般的なアトウォーター係数は、当時のアメリカ人の平均的な日常食を考慮して、炭水化物・脂質・タンパク質の消化吸収率を97, 95, 92 %とし、それを補正して、1グラムあたり、タンパク質と炭水化物が 4kcal、脂質が9kcal、アルコールが7kcalとしたものである[9]タンパク質であれば植物性か動物性かの違いがあるし、炭水化物では単糖か多糖類で代謝可能なエネルギー値が若干異なるが、それらを平均して導かれた値なのである。

その他にも、食品をいくつかのグループに分け、そのグループの代表的な食品について求めた係数をグループ全体に適用する特定のアトウォーター係数もある。

アメリカの食品医薬品局(FDA)では、これらを含め合計5つの測定方法を認めており、食品会社が選択する方法によっては表示カロリーにバラつきがでると指摘する方もいる[10]。そういう曖昧さを積み上げていくと、1日当たりの摂取カロリーは、大きく変わることがありうるだろう。
   


<この節の総括>

ロブ・ダン氏は次のように指摘される。

(1)アーモンドの例のように、すべての食品ごとに、アトウォーター・システムを修正することは可能である。しかし、その場合、すべての食品ごとに排泄物を再調査する必要があるだろう。


(2)しかしカロリー計算を全面的に見直したとしても、食品から抽出されるカロリーの量は、食品と人間の体や多くの微生物との複雑な相互作用によって決まるため、正確な数値になることはないであろう。とりわけ、消化の過程は非常に複雑であり、誰にでも合う確実なカロリー計算のための公式を導き出すことはおそらく不可能であろう。


(3)それよりも、食べ物から得られるエネルギーについて、人間の生物学的な観点からもっと慎重に考えるべきでしょう。加工食品は胃や腸で簡単に消化されるため、少ない労力で多くのエネルギーを摂取することができます。
一方、野菜やナッツ、全粒粉などは、カロリーの割に消化に労力を要し、加工食品よりもはるかに多くのビタミンや栄養素を含み、腸内細菌を幸せな状態に保ってくれるのです[5]

    

3.腸内飢餓のメカニズムからの視点

アトウォーター氏含め当時の研究者・栄養学者は、人々が十分な栄養を摂取できるように尽力されたし、その係数に基づくカロリー計算システムには大きなメリットがある。
しかしそれは一部で間違った形で認識され、今や肥満や体重増加の問題も引き起こしているのではないだろうか?肥満の問題がいつまでたっても解決されない理由は、多くの人が食品のカロリー値にこだわり過ぎているからだ。


どういうことかと言うと、例えば、加工度の低い全粒粉のパンとナッツ、チキンソテーの食事(400kcal)を食べたとしよう。消化にかかるエネルギーなどを考慮した結果、実質的に摂取カロリーを10%少なくできた(360kcal) と仮定して、「360kcal 分の白パンとチキンテリーヌを食べれば一緒ではないか」という議論は全くナンセンスである。

全粒粉のパン、ナッツは消化されない固い繊維質が最後まで残るため、腸内では「食べ物がまだある」というメッセージだが、白い食パンと消化の良いタンパク質などの組合せは、すばやく消化され、私の理論の3要素(+1)の条件を満たせば「食べ物がもう無い」という腸内飢餓のメッセージを小腸を通して脳に送るだろう。

つまり毎日の摂取カロリー合計を減らしたにも関わらず、太る原因となることがある。

▽私はこのブログ全体を通して、設定体重(set-point weight)の違いが「肥満の人と痩せている人の根本的な違いである」ということを説明しているのですが、設定体重が高いことは「腸の吸収効率が高い」ことと関連しており、それは腸内飢餓によってアップします。

そして腸内飢餓を引き起こす重要な要素の1つが「消化力」であるので、消化率も吸収効率も私の理論上は極めて重要である。にもかかわらず、被験者の平均値を元にした数値だけを「全て」と信じれば、それらを無視することになるのである。多種多様な人々の消化率や吸収率は実験に参加した被験者の平均値では語れないと思う。

  
■アトウォーター係数での吸収率の問題については、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】摂取カロリーを単純合計することに意味はない

   

結 論

アトウォーター係数はその食品がどれだけのエネルギーを含んでいるのかの尺度だが、肥満の問題を扱うには不十分である。消化に要するエネルギーや食品組成などを考慮し、アトウォーター係数をより正確にしたとしても、数値だけで判断するのであれば肥満の問題は解消しないと考えます。

一つの案として、加工度の高い食品にマーク、加工度の低いものにマークなどをつける「信号機」システムを導入し、消費者に注意喚起してはどうか、ということが一部の研究者の中で提案されているようだが[11]、それには私も賛成である。また、満腹度、噛む回数、消化のスピード(難消化性)などを組み合わせた信号機システムも可能だ。


今、私達に必要なことは、いかにも科学的に見える「カロリー計算」という見かけの正確性から少し離れ、伝統的な食事・食習慣を見直すことではないだろうか。

伝統食

ロブ・ダン氏も指摘された事と重複するが、伝統的な野菜料理・豆料理・ナッツ・小魚、加工されていない肉・魚、乳製品、発酵食品、全粒粉のパン(ごはん)などを食べることは、カロリー上のメリットだけでは説明ができない。

それらの食品は加工食品よりもはるかに多くのビタミンやミネラルを含み、繊維質は腸内細菌を良好な状態に保ち、適度な満腹感を与え、急激な血糖値の上昇を予防するなど、様々な健康上のメリットを与えてくれるのです。

食べ方によっては、摂取カロリーなど気にせず、痩せることも可能であるはずです。

参考文献

[1]Giles Yeo. 「食品パッケージのカロリー表示は間違っている」. 2021.

[2]Japan Food Research Laboratories. 「食品の熱量について」. 2003 Jul.

[3]The Nutrition Coordinating Center (NCC). Primary Energy Sources.

[4]高田和子. 「摂取したエネルギーの体内での吸収と利用」. 体力科学. 2007. Pages 56, 287-290.

[5]Rob Dunn. 「カロリー計算が間違っている理由を科学が明らかに」. 2013.

[6]Novotny JA et al. 「アトウォーター係数におけるアーモンドの実測エネルギー値との相違」. Am J Clin Nutr. 2012 Aug;96(2):296-301.

[7]Westerterp KR. 「食事誘発性熱産生」. Nutr Metab (Lond). 2004 Aug 18;1(1):5. 

[8]Barr SB, Wright JC. 「自然食品と加工食品の食後エネルギー消費量」. Food Nutr Res. 2010 Jul 2;54. 

[9]高田和子. 2007.「摂取したエネルギーの体内での吸収と利用」. 体力科学. Pages 56, 288.

[10]Cynthia Graber, Nicola Twilley. Why the calorie is broken. BBC future. 2016.

[11]Richard Wrangham, Rachel Carmody. Why Most Calorie Counts Are Wrong. Harvard University. 2015.
            

2017.12.22

炭水化物が太るのか、カロリーが太るのか?論争

目次

  1. 知ってもらいたい「炭水化物抜き」の歴史
  2. 糖質制限が医師達に受け入れられなかった理由
  3. 炭水化物と脂質は逆の性質をもつ(私の考え)

    <まとめ>

まず、お断りですが、炭水化物だってkcal/gです。
ネット上では、「だから結局カロリー、食べ過ぎが原因なんじゃないの?」という意見もありますが、"カロリーが原因” と考える場合、9kcal/gの脂質を中心に全体量を減らします。一方、"炭水化物(デンプン)が太る原因" とする主張では、炭水化物以外の肉や脂質(油脂)はいくら食べても良いとされていました。

今回は、『炭水化物』と『カロリー』のどちらが太る原因なのか?という歴史的な経緯を振り返ると共に、最後に私の考えを述べたいと思います。

1.知ってもらいたい「炭水化物抜き」の歴史

日本では2015年前後から、 低炭水化物(ロカボ)ダイエットがブームとなっていたのですが、世界に目を向けると、1800年代から何度となく繰り返されていた方法でありました。引用部分が多くなってしまうのですが、ご了承ください。私の理論を説明するうえでも是非ご紹介したい内容です。
   

(「人はなぜ太るのか?」【ゲーリー・トーベス著】より引用)

"1825年12月、ブリヤーサバラン(フランスの政治家、美食家)は『味の生理学(The Physiology of Taste)』という本を出版した(30章のうち、肥満に関しては2章[原因、予防])。彼は30年の間に、肥満に苦しんでいる人達と500回以上も夕食を共にし、会話の中で、太った男達は次から次にパン・米・パスタ・ジャガイモへの情熱を語った、という。

炭水化物

これによりブリヤーサバランは確実な肥満の原因を見つけた。

1番目は生まれながらの性質であった。彼は「多くの脂肪を消化できる能力をもつ人は、いわば肥満になるように運命づけられている」と書いた。

2番目は「デンプンと小麦粉であり、砂糖と一緒に使用すれば確実にこの効果を示す」と付け加えた。ブリヤーサバランは「肥満防止食は(略)・・・デンプン質または小麦由来のすべての物を多少厳しく節制する事が減量につながると推量される」と書いた。

ブリヤーサバランの書いた内容は、以来際限なく繰り返され、再発見されてきた。1960年代に至るまで、それは世間の常識で、私達の両親や祖父母が本能的に真実である、と信じたものであった。"
(ゲーリ-・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Page 164-5.)

<1844年>
"ジャン・フランソア・ダンセル(フランス人、医師)は、肥満に関する彼の考えをフランス科学アカデミーで発表した。彼の書いた『肥満や過剰な脂肪蓄積』という本は1864年に英訳された。彼は「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は脂肪をつくる傾向があるに違いない」と書いた。

肉食動物

彼は、肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物はしばしば太っているとも述べ、患者が ”主に肉のみを食べ” その他の食べ物を少量食べれば、一人の例外もなく肥満を治癒できると主張した。


ダンセルは、彼の時代の医師達が『肥満は治らない』と信じた理由を、「医師達が肥満を治そうとして処方した食事(食べる量を減らすことetc)が、まさに肥満の原因になるものだったためである」とした。"(※これはゲーリー・トーベス氏や私のブログのポイントとも通じます)

( 「人はなぜ太るのか」. Page 168.)

▽"20世紀の初めまでは、一般的に医師は肥満を治らない病気と見なしており、何でも試してみることが妥当であるとされた。患者の食事の量を減らし、もっと運動させることは数ある治療法の1つにすぎなかった。

     
<1950年代>
ミシガン州立大学の栄養学部の主任マーガレット・オールソンは、過体重の学生に従来型の反飢餓食を与えた場合、彼らの体重はほとんど減らず、彼らは「すっかり活気がなくなり、空腹であることを常に意識していたため、やる気がなくなった」と報告した。

一方、1日数百カロリーの炭水化物と多量の蛋白質・脂肪を含む食事を摂った場合、平均週3ポンド(約1.4kg)減量し、「食間の空腹感はなく、気分の良さと満足感があった」と報告した。

     
このような報告は1970年代まで続いた。この食事療法を行った人達は、ほとんど努力せずに体重を減らすことができ、その間ほとんど空腹を感じなかった。"

(「人はなぜ太るのか」. Pages 167,175.)

2.糖質制限が医師達に受け入れられなかった理由

上記の流れから行くと、炭水化物や糖を控え、その他の肉や脂質を含む食べ物を多く摂ることで、肥満の問題は解決に向かうかに思われますが・・・ここに「カロリーの原則」が出てきます。
       

(再び「人はなぜ太るのか?」より引用)

"1960年代までに、前述した脂肪調整の科学は生理学、内分泌学、生化学の学術誌で議論されたが、医学雑誌や肥満そのものを扱った文献で見られることはほとんどなかった。1960年代から1970年代後期にかけて、医師がこれを信じなくなったとき、それはたまたま現在の肥満と糖尿病の流行の始まりと一致した。

<1963年>
米国医師会誌において、脂肪調整の科学は無視された。太っている人達が、(炭水化物や糖以外の)どんな食べ物でも大量に食べることができるという考えを基礎においた治療法を受け入れる医師はいなかった。

そもそも、人がなぜ太るのかについての明確な理由として、現在も受けいれられている『太っている人達は食べ過ぎているからだ』という理由に反するものであったからである。

そこには別の問題もあった。
アメリカの保健局の専門家は、食事に含まれる脂質が心臓病の原因であり、炭水化物は「心臓によい」と信じるようになっていた。(~略~)炭水化物が「心臓によい」という考えは1960年代に始まり、炭水化物が私達を太らせるという考えと相容れることはなかった。

脂

食事に含まれる脂質が心臓発作を引き起こすとすれば、炭水化物をもっと多くの脂質に置き換える食事法は、たとえ私達を細身にするとしても命を脅かす。その結果、医師と栄養士は炭水化物を制限する食事法を攻撃し始めた。

医師2

<1965年:ニューヨークタイムズ>
「栄養学者に非難された新しい食事法:炭水化物の低摂取は危険である」は、炭水化物を制限した食事は高脂質の性質をもっているため、それを処方することは「大量殺人に等しい」というハーバード大学のジャン・マイヤー(Jean Mayer)の主張を引用した。

まずタイムズは「ダイエットをする人達は、カロリーの摂取量を減らすか、それを燃やすかのどちらかによって過剰なカロリーを削減しない限り、体重を減らせないことは医学的な事実である」と説明した。

今や、それが医学的な事実でないことはわかっているが、1965年の段階では栄養学者たちはそれを知らず、今もなお、彼らの多くはそれを知らない。(~略~)

次に、この食事法は炭水化物を制限するため、より多くの脂肪を摂取することで埋め合わせをする。マイヤーが大量殺人という非難をしたのは、その食事が高脂質の性質をもっていたためとタイムズは説明した。"(引用以上)
(「人はなぜ太るのか」. Pages 177-79.)
      

3. 炭水化物と脂質は逆の性質をもつ(私の考え)

この論争について、少しお話したいと思います。
これまでいくつかの研究で、3大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)を食事にどう組み合わせるかにより、体脂肪のつき方に違う結果をもたらすとことが明らかになってきています。同じ1カロリーであっても、消化吸収に使われるエネルギーに差異があり、刺激するホルモンが異なり、どのように体内で代謝されるという経路が異なるーことなどが要因と考えられています。

もちろん、これらの研究も素晴らしいと思うのですが、私の理論上で付け加えると、「炭水化物と脂質は消化の過程で、に近い性質を持つ」ということがポイントとなります。

まず、精製された炭水化物はタンパク質・脂質に比べ消化が早く、それのもつ「希薄効果」「プッシュアウト効果」によって消化はさらに早まり、私達はより空腹になります。野菜・脂質・乳製品などが不足するバランスの悪い食事では、最終的には腸内飢餓を引き起こしやすくします。

【関連記事】炭水化物が人を太らせる、血糖値・カロリー以外の特性

meat,fat,oil

それに対し、肉や脂肪(油脂)は消化に時間がかかります。消化にかかる時間は、食べる量や調理法、個人の消化力の差異にもよりますが、一般的にタンパク質は3~4時間、脂質は6~8時間とも言われています。

特に脂肪が十二指腸に入ると、脂肪の消化吸収を促進するホルモン(コレシストキニン:cholecystokinin)が分泌されますが、これは同時に胃の運動を抑制し、胃内容物の排出を遅らせると言われており、胃もたれ、膨満感などの原因にもなりえます。

さらに、炭水化物が少なくタンパク質・脂質の多い食事では、濃密な栄養を腸に送ることになるので、消化が全体的に遅くなり、その結果、空腹感が押さえられ、順に吸収率も低下すると私は考えます。

つまり、3大栄養素を食事にどの様に組合せるかによっては、カロリー摂取量が増えても体重減少効果があると言ってもいいでしょう(肉や脂肪を早く消化できる人にとっては、体重減少効果が薄いことがありうる)。

まとめ

(1) 1800年代初期から1960年代に至るまで、いくつかの研究では、太った人たちが食事中の炭水化物を肉や脂肪の多い食事に置き換えることで、無理なく痩せれるということが証明されていた。しかしその頃までに、肥満は摂食障害として理解されるようになり、このダイエット法は生理学、内分泌学などでのみ議論された。

   
(2) 1960年代から1970年代後期にかけて、ほとんどの医師は、太った人が肉や脂肪をたくさん食べて痩せれるというダイエット法を受け入れなかった。なぜならそれは「カロリーの原則」に反していたからである。

        
(3) また、保健局の専門家は食事に含まれる脂質が心臓病の原因であり、炭水化物は「心臓によい」と信じるようになっていた。その結果、医師・栄養士は炭水化物制限ダイエットを攻撃し始めた。

         
(4)(私の考え)両者の言い分には一理あるが、カロリーの数値がすべてを決める訳ではない。同じカロリーであっても、食材の組み合わせによっては体重管理において異なる影響を及ぼす。特に、炭水化物と脂質は消化の過程でに近い性質をもつ。

2017.07.10

炭水化物が人を太らせる:希薄効果、プッシュアウト効果

目次

  1. もし炭水化物がなかったら
  2. 消化の悪い食べ物は "太りにくい" と言える
  3. 炭水化物が人を太りやすくする効果

(1)希薄効果
(2)プッシュアウト効果
<まとめ>

ご飯

私達が 「たくさん食べると太る・・・」と考える時、パンやご飯・麺のような炭水化物のイメージだと思います。

今回は、カロリーが増えるからでもなく、血糖値が上がりインスリン分泌を促すからでもなく、炭水化物(注1)が人を太りやすくする、いくつかの間接的な意義について説明します。

注1)厳密には砂糖なども炭水化物の仲間ですが、ここではデンプン、穀類など「多糖類」のことを指して使っています

1.もし炭水化物がなかったら(私にとって)

私の体重が30kg代に落ちた時、炭水化物の力がなければ全く太ることは出来なかったと思います。私の場合、それは油脂でも砂糖でもできない・・・。つまり私が生クリームたっぷりのケーキや、脂っこいトンカツや中華を食べて太ることはなかったはずです。今回は、その理由を説明します。

   
まず、炭水化物と一概に言っても、すべて同じではありません。
炭水化物は、主にその化学構造によって、単糖類、二糖類、オリゴ糖、多糖類などに分類されますが、食物繊維として扱われるセルロース(多糖類)や難消化性のオリゴ糖、レジスタントスターチなどは健康増進のためにむしろ摂取すべきでしょう。

また、砂糖などの単純炭水化物(糖類)も、一時的な体重増加や血糖値関連の疾患に繋がるとしても、体重の設定値をアップさせるという意味では、太る原因ではないと考えます。

体重の設定値をアップさせるという意味において、私が太る原因と考えるのは、澱粉(多糖類)を多く含み、食物繊維が少ない消化の良い炭水化物(米・麦のような精製された穀物、ジャガイモなど)です。

ですから、玄米や全粒粉パン、チャーハン、冷やご飯などは、同じタイプの炭水化物ですが異なる結果をもたらすかもしれません。
これらは、血糖値をあげにくい低GI 食品、又はレジスタントスターチとして知られていますが、換言すると、これらの食品は消化できない成分を多く含んでいたり、消化吸収に時間がかかるのです。

2.消化の悪い食べ物は  "太りにくい" と言える

先程述べたような血糖値をあげにくい炭水化物、固い肉、油脂、食物繊維たっぷりの野菜や海藻、乳製品を含めて、消化の良くないものを常に食べていると、腸内飢餓は起こりにくくなり、設定体重がアップしずらいという意味において、太りにくいと言えます

あくまで、痩せている人が毎日きちっと食べれば 「太りにくい」 ということです。既に太ってしまった(太っている)人が少しくらい食べたからと言って、痩せれる訳ではありませんが、これらは常にダイエットで話題にされる食品であり、摂取の仕方によっては痩せることも可能です。
        

3.炭水化物が人を太りやすくする効果

それとは逆に、デンプンを多く含む消化の良い炭水化物(白米、粥、白パン、ポテトなど)や植物から抽出されたコーンスターチのような加工デンプンなどは、消化を全体的に早めます。よって、消化の良いタンパク質、超加工食品などと組み合わされば、「腸内飢餓状態」ができやすくなるのです。

私が今の時点で考えるのは、次の2つの効果です。
      

(1)希薄効果

消化の良い炭水化物(ご飯、パン、麺など)を相対的に多くすると、食事中の肉や魚、野菜などのおかずの占める割合は相対的に低くなります。

大さじ1杯の油もごはんを2倍にすれば、相対的に油の濃度は低下します。生卵は消化が悪いですが、卵かけ御飯にし、味噌汁・お茶などを一緒に飲めば卵の濃度は低下します。

たまご飯
mixed food

つまり、消化の良いデンプンと水分を加えて攪拌(ミキシング)し、希薄された栄養を腸に送っているということになります。

例えば、ハンバーガ(ドリンク付き)とおにぎりを一緒に食べたとします。これを、ミキサーにかけ攪拌すると、肉をデンプンで伸ばしたようなものになる。

ごぼうサラダ

一方、おにぎりをやめて、牛蒡のマヨサラダを加えると・・・炭水化物の希薄効果は薄れ、食物繊維や脂質がプラスされます。

※牛蒡のマヨサラダのカロリーは(158kcal /100g)で、おにぎり(1個、215kcal)とはさほど変わらないけど、その意味あいは大きく違うわけです。だからカロリーベースで考えると間違いが起きるのです!!

健康な食事

また、糖質制限ダイエットに見られるように、炭水化物を減らし、肉や魚などのタンパク質や油脂、野菜を増やせばどうなるのか?

この場合は、密度の濃い栄養素を腸内に送り込むことで、消化が遅くなり空腹になりにくく、常に未消化物が腸内に残るという、逆の効果が発生する訳です。

(2)プッシュ・アウト効果

でんぷんを多く含む炭水化物を水分などと一緒に摂取すると、胃が膨らみます(胃の「風船効果」)。そして、消化が良い副菜(おかず)と組み合わせれば胃の滞留時間は短くなり、勢いよく押し出されます。そして腸が活発に動き出します。

親子丼そばセット

例えば、親子丼セット(そば付き)を考えて下さい。

食べて胃は膨れますが、消化が良いために胃が活発にスムーズに動き出します。私は胃腸の調子が悪く、便秘や下痢で苦しむことがよくありましたが、何度かこれで解消されたことがありました。

それに対し、揚げ物や中華料理などを食べると 「スタミナがつく」 と思うかも知れませんが、それは 「腹もちがいい、エネルギーが持続する」 ということです。言い換えれば、胃の滞留時間が長くなり消化が遅れるため、腸内飢餓状態をつくりにくくします。

まとめ

(1)端的に言うと、人が消化できない食物繊維や、消化吸収が遅い食べ物をたっぷり食事に組入れると、同じカロリー値の他の食事よりも太りにくいと言える。それに対し、食事の中で、消化の良い食べ物(精製炭水化物・蛋白質・超加工食品など)を組合わせると、太りやすくなる。

   
(2)炭水化物と一概に言っても、化学構造の違いにより、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖類などに分類される。

人が消化できない食物繊維とみなされるセルロース(多糖類)や難消化性オリゴ糖、レジスタントスターチなどは、太る原因とはならないし、むしろ健康上の観点から摂取したほうが望ましいと言える。

また、砂糖のような単純炭水化物(単糖、二糖)は一時的な体重増加や血糖値上昇を引き起こすかもしれないが、設定体重をアップさせるという意味では太る原因ではないと考えます。

  
(3)設定体重をアップさせる意味において、肥満の原因となる食べ物は、白ご飯・白パン、麺、ジャガイモなどのデンプンを多く含む消化の良い精製炭水化物(多糖類)であると考えます。これらは胃の中で水分とともに膨らむため(風船効果)、消化の過程において、腸内飢餓を引き起こしやすくする「希薄効果」「プッシュアウト効果」が考えられる。

  
(4)世界的に起きている貧困層での肥満も、安価な精製炭水化物(穀類、デンプン)やバランスの悪い食事(野菜不足など)が影響していると考えます。彼らの場合、カロリーの摂り過ぎでも、砂糖の摂り過ぎでもないことは容易に想像できるのではないでしょうか?

また、力士(お相撲さん)が体を大きくするためにあっさりした 「ちゃんこ鍋」と白ご飯を食べるのも理にかなっているのです。

【関連記事】

 お相撲さんが太るのも、飢餓メカニズムと言える

2017.06.11

1日あたり20キロカロリーの重要性とは?

目次

  1. 1日あたり20kカロリーで何が変わるのか?
  2. 足し算、引き算では出来ないこと

私は、「人の体には現状を維持しようとする機能がある」と言いましたが、それと関連する面白い記事があったので紹介します。今回は全て引用になりますが、ご了承下さい。

【関連記事】 「一番優先されているのは現状維持」

1.1日あたり20kカロリーで何が変わるのか?

(「人はなぜ太るのか?」 【ゲーリー・トーベス著】より引用)

"体脂肪を毎年新たに2ポンド(約1kg)ずつ、25年間に50ポンド(約23kg)増やすためには、私達は毎日、何キロカロリー多く食べなければならないのか?

答えは1日当たり、20キロカロリーである。

【1日当たり、20kcalの超過 ×365日】とすれば、毎年7千kカロリーをやや上回る量のエネルギーを脂肪として蓄積し、結果として2ポンド(約1kg)の体脂肪が増加する。

脂肪の蓄積が「入るカロリー/出るカロリー」によって決まるということが真実であれば、「25年間に50ポンド(約23kg)増やすためには、毎日、平均でたったの20kカロリーを余分に摂取するだけでよい」ということである。それを元に戻すためには、毎日の摂取エネルギーを20kカロリー少なくするだけでよい。

20kカロリーは、ハンバーガーやクロワッサンの一口よりも少なく、ポテトチップス枚よりも少なく、ビールの60ml以下である。

米国国立衛生研究所(NIH)が言うように、体重を維持するために必要なことが、「摂取するエネルギーと消費するエネルギーを均衡させること」であるとすれば、1日あたり平均20kカロリーを過剰に摂取した場合には、最終的には肥満になるだろう。

自問してほしい。毎日、エネルギーの均衡点を20kカロリー超えることで、徐々に肥満となるのであれば、どうすれば痩せたままでいることが可能なのだろうか?

ビジネスマン

▽実際に、痩せた状態を維持している人たちはかなり多い。
肥満や過体重の人達でさえも、重いなりに、彼らの体重を維持している。さらに太り続けていないのであれば、摂取するカロリーと消費するカロリーを、平均で1日あたり20kカロリー以下に均衡させている。

ほとんど正確に知ることのできない『エネルギー消費量』と釣り合うようにするとしたら、いったい誰がそんなに正確に食べることができるのだろうか?これが、20世紀の前半の「入るカロリー/出るカロリー」が世の中の常識になる前に、この算数に関して研究者達が抱いた疑問である。"

(ゲーリ-・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Page 68-9.)

2.足し算、引き算では出来ないこと

<1936年>
"当時の米国における栄養と代謝の第1人者とされた、コーネル大学のユージン・デュボア (Eugene Du Bois)は、20年間にわたり体重を1kg以上増やさないように管理している75kgの男性は、「入るカロリーと出るカロリー」の誤差を0.05%以内に調節していると計算し、「その正確さに匹敵する機械はほとんどない」と書いた。

デュボアは「私達はいまだに、なぜ太る人がいるのかを理解していない」と書いた。

運動と食事

また彼は「この栄養が過剰な社会において、なぜすべての人が太らないのか?」とも述べ、「身体の活動量と食物の摂取量が激しく変動するなかで、一定の体重を維持することほど不思議な現象はない」と付け加えた。

多くの人たちが何十年も痩せたままでいる事実(現在ではデュボアの時代よりは少ないが)、そして肥満の人達でさえいつまでも太り続けることはないという事実は、その体重調整において、カロリー理論で説明される以上の 『何か』 が働いていることを示唆する。"(引用以上)

( ゲーリ・トーベス. 「人はなぜ太るのか」. Page 70.)

2017.05.24

カロリーの祖、ノールデン氏の文書(日本語訳)

まだの方は、こちらの記事を先にお読み下さい。
「カロリー意味あるの?カロリーの歴史はやはり神話なのか?」

▽ゲーリー・トーベス氏によると、
1900 年代の初頭に「私達は、消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太るんだ」(カロリーの原則)ということを初めて言ったとされるのがカールフォン・ノールデン氏(ドイツ人医師、1858~1944)です。
今回はそのノールデン氏の本を翻訳しました(一部のみ)。

■インターネットのアーカイブはこちらからご覧になれます。("Obesity"=「肥満」p.693~)

■英文はこちらから(p.693~695)

■日本語訳はこちらから(p.693~695)


ウェキペディア(Wikipedia)によると、この本は論文等ではなく出版本(1907年)と考えられますが、その当時、ノールデン氏がどれほどの影響力をもっていたかというのは、1905年10月の New York Times の記事を見てもお分かり頂けると思います(この記事も私が独自に入手いたしました)。
ノールデン氏が、アメリカで6回の講演を行うという内容です。

  

この中で、ノールデン氏のことが書かれています ↓↓↓

(日本語訳)
ノールデン教授は、腎炎や肥満、その他の代謝障害による慢性疾患の研究者として最も著名な人物である。
彼は、この医学分野の多くの研究の著者(創始者)であり、世界の基準として認められている。

(日本語訳)
教授はCothamホテルに滞在し、多くの来訪者を受けている。彼のニューヨークでの知人は医療専門家だけではない。彼の個人病院では数多くの著名なニューヨーカーが治療を受けているためだ。彼がいつドイツに戻るのかは未定だが、おそらく帰国までの間に複数の主要な医療センターを訪問するであろう。(以上)

▽この著書のその後については、まだ調べているところですが、ノールデン氏が、肥満や糖尿病の権威であったからこそ、あっという間にカロリーの原則「入るカロリー、出るカロリー」が世界中に広まってしまった可能性はあります。

2017.03.27

カロリーと肥満の関係は熱力学で説明できるのか?

目次

  1. 「入るカロリー / 出るカロリー」と熱力学の法則
  2. 人体は化学反応の塊である
  3. 食べたカロリー量と体に吸収された量は同じではない
    (1)何をもって「摂取カロリー」とするのか?
    (2)エネルギー摂取量が増えるとき

   <まとめ>

まず、こちらの記事を先にお読みください。

 カロリーの歴史はやはり神話なのか?

1900年代初期にカール・フォン・ノールデン(ドイツ人の糖尿病専門家)が「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから肥満になる」と初めて主張されました。

つまりこの主張が現代まで脈々と続いて、多くの専門家は「カロリーの摂り過ぎや運動不足が太る原因である」と言う主張に強い確信をもつようになったようです[1]。今回は、その理論の根拠とされた「熱力学の法則」(エネルギー保存の法則)について説明したいと思います。

1.「入るカロリー / 出るカロリー」と熱力学の法則

「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著 より引用)

熱力学には3つの法則があるが、専門家たちが「人はなぜ太るのか?」を決めているとするのは第一法則である。

この法則は『エネルギー保存の法則』としても知られ、「エネルギーはつくられることも壊されることもなく、単に1つの形から別の形へと変わる」ということを示しているだけである。

たとえば、ダイナマイトを1本爆発させると、化学的に結合したニトログリセリンの潜在エネルギーが熱と爆発の運動エネルギーへと変換される。
すべての質量はエネルギーからできているため、別のいい方をすれば、私たちはゼロから何かを、または何かからゼロをつくることはできない。

花火

これ(熱力学の第一法則)はとても単純なため、専門家たちがどのように法則を解釈するかが問題となる。

この法則は「何かが大きくなったり小さくなったりするには、より多くのエネルギー又はより少ないエネルギーが、そこから出るよりもそれに入らなければならない」としているのである。この法則はなぜそれが起きるのかについては何も示していないし、その原因と影響については何も言っていない。

(略)論理学者はこの法則には、原因についての情報が全く含まれていないと言うだろう。
      

▽ここで「人はなぜ太るのか」について話す代わりに「部屋がなぜこんでいるのか?」という話を考えてほしい。

ここまで私たちが論議してきたエネルギーは、脂肪組織だけではなく、人間のからだ全体に存在する。つまり10人の人間はそれ相当のエネルギーをもち、11人はより多くもち....という具合である。(略)

もしあなたが私に「部屋がなぜこんでいるのか?」という質問をしたとして、私が「そうだね、それは部屋を出た人よりも入った人のほうが多いからだよ」と答えたとすれば、おそらくあなたは私が賢いか、あるいはバカであると思うであろう。

あなたは「もちろん、それは明白だ。しかし、何故か?」と聞くであろう。

実際、「出るよりも入る人が多いから混んでいる」というのは、同じことを2つの違う言い方で表すことであり、意味がないのである。

▽さて、肥満に関する社会通念の論理を借りて、この点を明らかにしたい。

私が「あのね、出るよりも入る人が多い部屋は、混んでいるだろう。熱力学の法則を避ける方法はない」と言ったとする。するとあなたは、「それはそうだが、それがどうした?」と答えるか、私は少なくとも、あなたがそう言うことを期待する。なぜなら、私はまだ原因についての情報を与えていないからである。

「過食が私達の肥満の原因である」と結論づけるために熱力学を利用すると、このようなことが起きる。

eating snack

▽米国国立衛生研究所(NIH)は、インターネット上で「肥満は、人間が消費する以上のカロリーを食物から摂取すると起きる」といってい る。

NIHの専門家たちは実際のところ、起きる」という言葉を使うことにより、過食が肥満の原因であるとはいわず、単に必要条件であるといっているのである。

専門的にいうと彼らは正しいが、そのとき「わかったよ、だからどうした? 肥満が起きたとき、次に何が起きるかということは話してくれるけど、なぜ肥満が起きるかについては話してくれないんだね?」というかどうかは、私たち次第である。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス . 2013.「人はなぜ太るのか」.  Page 83-6.)

2.人体は化学反応の塊である

(「やせたければ脂肪を摂りなさい」ジョン・ブリファ著より引用)

第1法則は、「エネルギーはつくり出すことも消滅させることもできない」というものです。言い換えると、エネルギーをひとつの形態から別の形態に変換することはできても、宇宙のなかのエネルギーの総量は一定のままなのです。

この法則が体重管理にどう当てはまるのでしょう?
ある人の体重が長年安定しているとしましょう。第1法則によると理論上は、この人が食べ物のかたちで摂取するカロリーは、その人が代謝と活動で消費するカロリーと等しいことになります。つまり 「入るカロリー = 出るカロリー」です。


ところが、熱力学の第1法則は実は「閉鎖系」についての法則です。
この系は、周囲の環境と熱やエネルギーのやり取りはできても、物質のやり取りはできません。これは人間に当てはまるのでしょうか? 

化学反応

当てはまりません。
人間の体は実際、おもに食物や糞尿などの老廃物というかたちで、物質を周囲の環境とやり取りしています。

さらに厳密に言うと、第1法則は化学反応が起こらない系についての話です。しかし人体は基本的に化学反応の塊です。

したがって、やはり熱力学の第1法則は、体重管理に関することには当てはまりません。 (引用以上)
(ジョン・ブリファ. 2014.「やせたければ脂肪を摂りなさい」. Page 58-9.)

3.食べたカロリー量と、体に吸収された量は同じではない

2人の著者が熱力学と体重管理に関する素晴らしい指摘をしてくださいました。これらの考えを踏まえて、私も熱力学と私の理論の関係について2点言及したいと思います。


(1)何をもって「摂取カロリー」とするのか?

私も基本的に、ある人の体重が長年安定しているなら 『体に入るエネルギーと、体内で基礎代謝や活動に使われるエネルギー』は釣り合わないといけないと思っています。しかし問題はどの時点で私たちが「摂取」したと考えるかである。

食べる瞬間

私たちが食べ物を口に入れた時点でカロリーを計算し、それを『摂取カロリー』 と考えるなら、何割かの人にとって、それは消費されたエネルギーとは釣り合わなくても不思議でない。

なぜなら、ブリファ氏が指摘されたように、私たちの体は「閉鎖系」ではないからだ。

腸内細菌学者が「胃腸は体の外部」と考えるように、腸から実際に吸収されたエネルギーを摂取カロリーと考えるのであれば、より「閉鎖系」に近づくはずだ。

          

もちろん、1人1人の吸収効率の違いを計算するのは不可能であるため、現在のところ、私たちはアトウォーター係数を元に個別の食品のカロリー値を決め、それらを合計することによって一日の総摂取カロリーを決定するのだが、あくまでそれらは推定値か近似値である[2]ということを知っておくべきである。

実際に吸収される栄養やエネルギー量は、調理の仕方、食品の消化性(加工度)、食品の組合せ、運動の強度、空腹度合などによっても変化すると私は考えている。

ノールデン氏の主張「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから肥満になる」はある意味で正しいが、どの時点で「私達がエネルギーを摂取したのか」については曖昧であるのです。

(2)エネルギー摂取量が増えるとき

私の腸内飢餓メカニズムを元に説明すると、長年同じ体重を維持している人が、普段食べているカロリー摂取量(例えば、毎日約2,000kcal) や糖質の摂取量を大幅に減らしても、腸内飢餓を引き起こす「3要素+1」の基準を満たせば、体重がアップすることがある (これは絶対的な吸収率がアップし、設定体重が上昇したことを意味する)。

【関連記事】 

 偏食と不規則な生活が腸内飢餓をつくる(3要素+1)


もちろん太るのは、その後に元の食事に戻したときであるが、この場合、吸収率そのものが以前よりアップしているので、体重の増加には体脂肪だけでなく、徐脂肪組織の増加も含まれる。つまり、食べる量や摂取カロリーは以前と同じであっても、以前よりも多くのエネルギーや栄養素を体内に取り込んでいるので、体が大きくなったといえるだろう。

トーベス氏の言葉を借りれば、「10人で混んでいた部屋が11人になった」と言えるが、この場合、それを引き起こした原因は腸内飢餓であると言える。

まとめ

(1)専門家たちが、「消費するより多くのカロリーを摂取するから太る」と考える根拠は『エネルギー保存の法則』(熱力学の第一法則)である。

  
(2)人の体は化学反応の塊で、「閉鎖系」ではないため、実際に食べた(口に入れた)カロリー合計と消費カロリーを比較することは意味がない。この場合、「熱力学の法則」は成り立たない。

  
(3) 実際に腸で吸収されたカロリーをベースに考えると、より「閉鎖系」に近づき、代謝や活動によって消費されたカロリーと釣り合うはずである。

  
(4) 腸内飢餓が引き起こされれば、以前と同じ量を食べていたとしても、設定体重そのものの上昇を示唆する体重増加が発生することがある。
この場合、吸収率そのものがアップし、体により多くのエネルギーや栄養素が取り込まれることを意味するので、体重の増加は体脂肪だけでなく、徐脂肪組織の増加も関係する。

<参考文献>

[1]Gary Taubes. 2010. 「人はなぜ太るのか」. メディカルトリビューン. Page 82. 

[2]Rob Dunn. 2013.「科学が明らかにしたカロリー計算の誤り」. Scientific American.

2017.03.07

カロリー意味あるの?カロリーの歴史はやはり神話なのか?

目次

  1. 「入るカロリー / 出るカロリー」説の誕生
  2. 今もなお、増え続ける肥満
  3. ノールデン氏の書物

私はリサーチのプロにお願いし、国立国会図書館で『カロリーの摂取量が消費量よりも多いから太る』というような関連の論文を1900年前後から探してもらいましたが、今回は探すことはできませんでした。(このブログの最後に若干の成果を報告します。)
やはり頼りになるのは、この本(「人はなぜ太るのか」)しかありません。ほとんどが引用になるのですが、ご了承ください。

1.「入るカロリー/出るカロリー」説の誕生

(「人はなぜ太るのか?」ゲーリー・トーベス著より引用)

1900年代初期にドイツ人の糖尿病専門家 カール・フォン・ノールデン(carl von Noorden)「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから肥満になる」と初めて主張して以来、専門家もそうでない人も、ともかく熱力学の法則(エネルギー保存の法則)により、これが真実だと決められていると主張してきた。

そうでないと主張すること、つまり私たちが過食と座りがちな行動と対をなす「罪」以外の原因によって肥満になるかも知れないこと、あるいは意識的に食べる量を減らさなくても、あるいは運動を増やさなくても脂肪が減るかもしれないことは、コロンビア大学の医師ジョン・タガートが1950年の肥満に関する会議の挨拶で「感情的で無根拠」と断言したように、いつも「インチキ」として扱われてきた。彼は「私達は、熱力学の第一法則 の妥当性に絶対的な確信をもっている」と付け加えた。

宇宙

そのような確信は誤りではない。しかし、それは肥満になることについて「熱力学の法則」が他の物理学の法則以上に物語ることを意味するのではない。

ニュートンの運動の法則、アインシュタインの相対性理論、量子論などが宇宙の特性を示すものであることはもはや疑問の余地はない。しかし、熱力学の法則は 「なぜ人は太るのか?」 については説明していない。

このたった1つの単純な事実(熱力学の法則)を専門家達が理解できなかったために、驚くほど間違った助言がなされ肥満問題の拡大につながった。

熱力学の法則が肥満の説明になっているという誤った解釈がなかったら、「消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太るのである」という見解そのものが存在しなかったであろう。
(ゲーリ-・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. メディカルトリビューン. Page 82-3.)

(~略~)"1934年、ヒルデ・ブルッフ(Hilde Bruch)というドイツの小児科医が米国(ニューヨーク)に移住した。彼女はそこでの肥満の子供の数に驚嘆したという。診療所だけでなく、街頭、地下鉄、そして学校に肥満の子供があふれていた。それは、マクドナルドの1号店の生まれる20年も前のことであり、さらに付け加えると、その年は大恐慌の真っ只中である。

ブルッフは肥満の子供の治療のために尽力した。多くの肥満の子供たちは、医師から指示される通り、食べる量を減らし体重をコントロールすることに多大な労力を費やしたにもかかわらず、結局は太ったままであったという。

医者

ブルッフの時代の医師も今日の医師たちも考えが足りないわけではない。彼らは単に、私達が太る理由は明白で議論の余地のないとする『欠陥のある信念体系(パラダイム)』を持っているだけである。

太る理由は、食べ過ぎているか運動が少なすぎるか、その両方であり、したがってそのをすることが治療になると医師たちは言う。(~略~)

▽世界保健機関 (WHO) は「肥満と過体重の根本的な原因は摂取したカロリーと消費したカロリーのエネルギー的不均衡である」といっている。

消費する以上のエネルギーを摂取すれば (科学用語ではプラスのエネルギーバランス)太り、摂取する以上に消費すれば (マイナスのエネルギーバランス)やせる。

食物はエネルギーであり、私たちはそれを「カロリー」として測定する。したがって「消費する以上のカロリーを摂れば太り、消費するよりも少なく摂ればやせる」のである。

運動

体重に関するこの考え方は非常に説得力があり広く普及しているため、 現在それを信じないというのは、ほとんど不可能である。たとえ私達がそれに反する証拠 (日常生活でいくら意識的に食べる量を減らし、 運動量を増やしても成功しない)をたくさん持っていたとしても、「私たちが摂取・消費するカロリーによって肥満が決まる」 という概念よりも、自分たちの判断と意志の力のほうを疑うだろう。"
(「人はなぜ太るのか」, Page 10-14.)

2.今もなお、増え続ける肥満

肥満女性
(引き続き「人はなぜ太るのか?」より引用)

"肥満の流行を考えてみよう。
50年前、表向きは米国人の8~9人に一人が肥満と考えられていたが、今日では3人に1人が肥満であり、過体重まで含めると3人に2人となる。

この数十年間の肥満の蔓延において「入るカロリー/ 出るカロリー」のエネルギーバランスの概念が幅をきかせたため、公衆衛生を担当する役人たちは、その原因を、私達が彼らの指示(運動をすること、食事を減らすこと)を守らないからだと思い込んでいる。

1998年マルコム・グラッドウェル (ジャーナリスト)は、雑誌 「The New Yorker」でこの矛盾をついた。

彼は「私達は摂取するカロリーを減らし、運動をしなければ体重が減らないことを教えられてきた」と書いた。さらに、「実際にこの勧告についていける人がほとんどいないということは、私達の力不足、あるいは勧告に欠陥があるからである。医学の通説は自然と前者の立場を、ダイエット本は後者の立場をとる傾向にある。医学の通説が過去にどれほどの間違いを犯したかを考えると、それは不合理ではない。彼らの勧告が正しいかどうかを検証する価値はある」 と述べている。"
(「人はなぜ太るのか」, Page 14-5.)

(ゲーリー・トーベス氏)
"肥満は、エネルギーバランス、あるいは「入るカロリー/ 出るカロリー」または過食による異常、熱力学とは何の関係もない。もし私達がこれを理解できなければ、「なぜ太るのか?」という問題に対し、これまでの慣習的な考え方へと後退し続けてしまう。それがまさに1世紀にわたって続く泥沼である。"(引用以上)
(「人はなぜ太るのか」, Page 83.)
    

3.ノールデン氏の書物

テレビ番組ではあいかわらず、医師や栄養士が「消費された以上に食べれば太るのは小学生でも分かることです・・」「太る原因は食べ過ぎか、運動不足です・・・」と自信満々に言っているのを見ると、私は本当に嫌な気持ちになるんです。
しかしそれって、凄く薄っぺらで、いかに根拠のない事柄であるかがお分かり頂けたかと思います。

以下の記事で「熱力学の法則」についてより詳しく説明します。

【関連記事】→『肥満とカロリーの関係は熱力学で説明できるのか』

また冒頭で、若干の成果といいましたが、カール・フォン・ノールデン氏の書(論文?)を入手することができました。これも翻訳して、皆さんに紹介いたします。
      

ノールデンの書
ノールデン書(メタボリズム)

「代謝と実践医学」(Chapter Ⅲ、”Obesity(肥満)” )

2015.06.27

摂取カロリーを単純合計することに意味はない

目次

  1. アトウォーター係数は平均値に基づく
  2. 消化吸収率は皆が同じではない
  3. 肥満は体重の「設定値」理論で説明できる
    <まとめ>

その日の摂取カロリーを正確に計算し、ダイエットでの体重管理にあてはめてもあまり意味がない、という話をしたいと思います。私達が摂取カロリーを計算する時に使う食品のカロリー値にはアトウォーターのエネルギー換算係数(炭水化物、タンパク質4kcal/gなどの係数)が使われていますが、その正確さについてはいろんな問題が指摘されています。
【関連記事】カロリー計算:アトウォーター係数が完全ではない理由


私はその中でも、消化率や吸収率が平均的な数値に基づいていることが問題であると思っており、その問題点について説明します。(今回は吸収されるまでの過程であり、吸収された後の代謝過程やホルモン分泌の違いなどについては言及しません。)

1. アトウォーター係数は平均値に基づく

一日の摂取カロリー

「あなたの体が必要とするカロリーより多く摂取すれば太り、摂取するカロリーより多くのカロリーを燃やせば痩せる」(注1)と言われています。

この理論は、非常に単純であり、ある意味で核心をついているとも言えますが、「体が必要とするカロリー」「摂取するカロリー」という表現が曖昧なため危険です。

体が実際に消費するカロリーは基礎代謝でさえ変化していると言われるし[1]、体が実際に吸収しているカロリーも常に変化するので(私の考え)、単純に食品のカロリー値を合計して比較しても、正確な数値を導き出すのは難しいと考えます。


アトウォーター係数は、単にその食品のもつ吸収可能な平均エネルギー値を示すものですが、何時に食べるか、何時間おきに食事を摂るか、どの食品をどの様に組み合わせるかによって、吸収率がどの様に変化するかについては調査されていないようです。

また、この係数は被験者の平均値なので、すべての人の消化吸収率を同じとして考えているのです[2]

(注1)1878年、ドイツの栄養学者マックス・ルブナーは「等力価法則」と呼ばれる法則を作り上げ、栄養の基本はエネルギーの等価交換であると主張し、1900年代初頭にドイツの内科医、カール・フォン・ノールデンによって肥満の研究に応用されました。

([A calorie is a calorie] From Wikipedia)

2.消化吸収率は皆が同じではない

私はすごく痩せていたので、消化力が弱く、常に消化吸収の問題を抱えていました。まるで自分が実験台のようでした。脂っこい食事や繊維質の多い食事を食べ過ぎると胃がもたれ、7-8時間たっても空腹にならず、その状態で無理して食べると、さらに痩せました。

アトウォーター係数では、脂質は物理的燃焼度が1グラムあたり9.4 kcalで消化吸収率が95%で設定されているので、9kcalの熱量と言われるのですが[3]、私を含め消化に手こずる人にとっては、その数値は意味がありません。
以下で、私の経験に基づき、一個人において吸収率がどの様に変化するかについて説明します。

(1)吸収率は一定ではなく、空腹や運動で高まる

痩せたいと思う人が、カロリー摂取量を減らし自身を半飢餓状態にすると基礎代謝量も低下するということも実験で証明されていますが[1]、私は吸収率も同じではないと考えます。

吸収率は、空腹が長時間にわたり続く時や運動後に高まります。これはエネルギー源だけでなくカルシウムや微量元素含めすべての栄養素についても言えるでしょう。

腹ペコ時又は疲れている時にお酒を飲むと悪酔いしたり、またラーメン・スイーツなどを食べると血糖値が急激に上がることがありますが、それは体が栄養を必死に摂ろうとしているからです。

血糖値上昇

もう少し具体的に言うと、700 kcalの昼食を400 kcalにして夕食まで我慢したとしても、お腹の中には朝食もまだ残っており、そこから栄養を摂ろうと体は必死に頑張っているはずです。体に蓄えられている栄養を使う場合でさえ、先に使われるエネルギー源があるので、すべてが体脂肪の減少につながる訳ではありません。また、空腹が数時間続けば夕食を摂ったときの吸収率も高まると考えるので、減らした300 kcalを毎日、例えば2週間、合計しても計算通りに体脂肪は減らないでしょう。(また体重減少に伴い基礎代謝も落ちるので、予想よりも少ない体重減少で体は均衡状態になると言われる。)


それとは逆に、空腹でもないのに3~4時間おきに無理して食べ続けると吸収力は相対的に低下します。3~4時間かけて消化され胃袋をやっと出て、『これからさらに吸収するぞ・・・』という時に、また胃に別の食べ物が運ばれてくるわけだから、体は『また、食べ物が入ってきたぞ。あれから栄養を摂ればいいや・・・』という風になるわけです。

先ほどの血糖値の例で言うと、食事の2時間前にアイスクリームを食べておけば、食事での血糖値の上昇は緩やかになるはずです。

プロテインと女性

バーベルを使用した激しい運動をする人が、食事の合間にプロテインや牛乳を飲むことは必要かもしれませんが、軽い運動をする一般の人がこのような食べ方をすると、吸収率が低下し、消化のためのエネルギー(食事誘発性熱産生)は増加するのでダイエットに効果がある場合があります。

(2)食品の組合せによって吸収率が変化する

食事中の食品をどの様に組み合わせるかによっても、空腹感や吸収率に違いがでてくるのです。

一例として400 kcalの朝食(トースト、ハム、目玉焼き)について考えてみましょう。たとえカロリーが増えたとしても、朝食にゴボウサラダ、チーズ、豆、キノコソテーなどを加えれば、昼食時の空腹感は和らぎ、昼食時の血糖値の上昇も抑えることができるはずです。(NHK「ガッテン流、脱糖尿病の新ワザ」2011年)

繊維たっぷり料理

繊維質を多く含む食品や、消化に時間のかかる食品を常に食べることで、体の中では未消化物がたっぷりある状態が続き、その結果、空腹感が抑えられ吸収率が低下することが一部の理由と考えます。繊維質そのものが吸収を若干抑えるという可能性もあります。

ですから、たとえ摂取カロリーが増えたとしても、このような食べ物を毎日の3回の食事に加えることは、ダイエットに効果がありえます。


逆に摂取カロリーを減らしたとしても、繊維の乏しく加工度の高い食品ばかりを食べていると、すばやく消化されるために体は労力を使わずに多くのカロリーを得ます[2]。常に空腹感を感じるため吸収率は上がり、血糖値のアップダウンを繰り返すことも考えれます。

(3)脂質が常に太るわけではない

エネルギー源となる、炭水化物、タンパク質、脂質の組合せでも違いがでます。

カロリーの理論に基づくと、脂質は1グラムあたり9kcalなので「沢山食べれば太る」というふうに、私達は、栄養士や医師、テレビなどを通して教えられています。

三大栄養素

しかし、糖質制限ダイエットに見られるように、炭水化物を減らし、タンパク質や脂質を食べたいだけ増やす食事は、一日の摂取カロリーが増えたとしても被験者に体重が減少したという研究結果が1970年代まで繰り返し報告されています[4]

2008年にイスラエルで行われたDIRECT試験 (食事介入による無作為比較試験)でも、「地中海食ダイエット」、「アトキンス・ダ イエット」(低炭水化物)は、「低脂質ダイエット」に比べ体脂肪減少に大きな効果があることが確認されています[5]

もちろん、タンパク質の消化に使われるエネルギー(食事誘発性熱産生)が高いことや、刺激されるホルモンに違いが出ることが知られていますが、私が付け加えたいのは吸収率です。

上記(2)と同じ理由で、消化の良い精製された炭水化物を減らし、消化のよくない脂質や肉類(特に加工されないブロック)などを相対的に多くした食事は、未消化物質が長時間に渡り腸内に残るので、空腹感を抑え、吸収率を低下させダイエットに効果があるでしょう。脂質を毎食あるいは、間食にも取り入れることでより多くの効果を得ることができるはずである

もちろん脂質、タンパク質を早く消化できてしまう人や民族はこの効果が薄い可能性があるのですが、私を含め脂質をすばやく消化できない人にとっては、脂質を多く摂取することは太る原因とはならないでしょう。

これはアメリカにおいて、1976~1996年にかけて低脂質ダイエット(高炭水化物)を推進した結果、BMI 30以上の人が1977年から劇的に増加したとするデータ[6]とも関係するのではないかと思っています 。

【関連記事】脂質における3つの視点

    

3. 肥満は、体重の「設定値」理論で説明できる

体重増加の異なるプロセス

上記「2」の説明は一個人における吸収率の変化ですが、私がこのブログを通して言うように、根本的な太り過ぎと痩せの違いは、設定体重(set-point weight)の値の違いであると思っています。

カロリーの摂取量や運動によって、多少太ったり又は痩せたりするのは、設定体重の範囲内(図のA)ですが、設定体重そのものがアップするのは腸の飢餓メカニズムなので、摂取するカロリー量とは直接関係ありません。

そして私の理論上、この設定体重が高いことは、平均的な体重の人に比べて「吸収効率が高い」ことと関連しており、すべての吸収される栄養が増加すると考えるので、体重の増加は体脂肪だけでなく、筋肉量の増加なども含みます。

今の時点では、アトウォーター係数の矛盾を指摘して、設定体重がどう変化するかを説明をすることはできないのですが、必ず腸の飢餓状態で人が太ることを証明したいと思っています。

まとめ

(1) 大量調理(給食や老人ホーム)などの場合に、平均的な目安として一日の摂取カロリーを計算することに意味があるが、それをダイエットでの体重管理にあてはめてもあまり意味がない。過体重・肥満という概念においては別の問題が多くある。

(2) アトウォーター係数では消化吸収率は被験者の平均値だが、人の消化吸収の過程は複雑であり平均値では語れない

(3) 空腹感や運動によって吸収率は変化すると私は考える。食事の時刻や間隔、どの食品をどの様に組み合わせるかも結果に影響する。

(4) 肥満の根本的な原因は、体重の「設定値」が高いことが原因であり、摂取カロリーを減らすことで一時的な減量にはなっても、長い目では効果が薄い。
      

<参考文献>

[1] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. サンマーク出版. 2019. Page 67.

[2] Rob Dunn. 「カロリー計算が間違っている理由を科学が明らかに」. 2013.

[3] Japan Food Research Laboratories. 「食品の熱量について」. 2003 Jul. 

[4] ゲーリー・トーベス. 「人はなぜ太るのか」. 2013. メディカルトリビューン. Pages 164-175.

[5] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. 2019. Pages 177-179.

[6] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. 2019. Pages 54-55.

2015.05.04

脂肪(脂質)における3つの視点:腸内飢餓の抑制効果

目次

  1. 低脂肪食はダイエットに効果がなかった
  2. 脂質における、3つの側面

(エネルギーの持続性 / 太ることの抑止 / ダイエット効果)

多くの人は、「高脂質な食事を食べると太る」と常識のように言いますが、オイルや脂肪を沢山摂っても痩せることができたという研究結果もあります。どちらが真実なのでしょうか?

私の結論から申し上げると、どちらも真実である(間違っていない)ということです。
私がこのブログで何度も言う通り、「太る」という言葉には2つの意味があり、私の理論に基づくと、脂肪には3つの視点があると言えるでしょう。今回はそれを説明します。

1.低脂肪食はダイエットに効果がなかった

▽『炭水化物が人類を滅ぼす』の著者である夏井 睦氏(日本人医師)は自身が糖質制限(炭水化物抜き)をする中で、「脂肪はカロリーを気にすることなくいくら摂っても太らない。糖質を制限することで痩せることができたし、空腹を我慢することもなく体調もすごくよくなった」と言われています。

▽「瘦せたければ脂肪を沢山摂りなさい」の著者であるジョン・ブリファ氏(イギリス人医師)は著書の中で、いろんな食事を長期間摂取してもらう相対実験で、「低脂肪食にダイエット効果がないこと、高脂質な食事のほうがダイエット効果があること」を述べておられます。

「瘦せたければ脂肪を沢山摂りなさい」より引用

常識的には、ダイエットを成功させるための鍵は摂取カロリーを下げることにあり、そのために展開するべき重要な戦略は、脂肪を減らすことだと言われています。脂肪は炭水化物やタンパク質と比 べて、2倍のカロリーがあります。しかも、脂肪には「体脂肪」という意味もあります。どうやらそのせいで、脂肪は本質的に太るもとだと見なされるようです。

その結果、あなたも過去のダイエ ットで、一生分の無脂肪牛乳を飲み、皮なしの鶏胸肉を食べたかもしれません。

他方、低炭水化物ダイエット(アトキンス法など)で卵、クリーム、チーズ、バターのような 脂肪たっぷりの食べ物をおなかいっぱい食べても、自分の体脂肪が少しずつ消えていくのがわかる、という経験をしたことのある人も大勢いるでしょう。そんな経験をすると、少なくとも疑問はわきます。 「私たちが口にする脂肪は、最終的に体脂肪として蓄えられる運命にある」という一般常識は本当な のでしょうか?
(ジョン・ブリッファ. 2014.「痩せたければ脂肪をたくさん摂りなさい」. Page 45)
         

ブリファ氏は著書の中で以下のように結論づけています。

  • 食事脂肪の摂取量に体重との強い関連はなく、脂肪摂取量が増えると体重が減少することを示す証拠もある。
  • 低脂肪食は減量に効果がない。
  • インスリンが体脂肪の蓄積を促す主要な因子であり、食事脂肪がインスリン分泌を直接促すことはないので、太るもとである可能性は限られている。
  • 脂肪だけの食事は勧められないが、脂肪たっぷりの食事がダイエットに役立つ可能性がある。
    (Pages 53,57)

私は研究者ではないので、インスリンが体脂肪の蓄積においてどの様に働くのかについては、今は言及をさけますが、なぜ低脂肪食が減量に効果がなく、脂肪を多く含む食事に減量効果があるのかは、私の理論でも説明できると考えています。
             

2.脂質における、3つの側面

そこで私の実体験に基づく考えなのですが、脂肪を摂取して太ったという人、あるいは痩せれたと言う人、両方とも間違いではないけど、それは脂肪のもつ性質の一つの側面であるということです。これは、カロリーに固執すると見えなくなってしまいます。摂取する対象(誰が)やその摂り方(量、回数)などにより、3つの効果が期待できます。
                   

(1)エネルギーが持続する(当然体にも蓄えられる)

食事脂肪

脂質は重要なエネルギー源であり、1gあたりkcalの熱量を供給します。また、細胞膜やホルモンの構成成分として重要な栄養素であり、その他にも私達の健康には欠かせないいくつかの重要な働きをもっています。

しかし、糖質やタンパク質に比べ消化に時間がかかるため、以下のような特徴があると言えるでしょう。

  • 腹もちがいい(満腹感が持続する)。
  • 胃の滞在時間を長くするため、ご飯と一緒に食べても血糖値が急激に上がりにくい。
  • エネルギーが長時間持続する。
体重増加の2パターン

私は、"太る" という言葉には2つの意味があると言いましたが、設定体重に戻ろうとする場合 (図のA)においては、エネルギーの総量として太る原因になるものと考えます。

とりわけ脂肪に対して消化力の強い人、その中でも体重を低く抑えるためにダイエットに力を注いでいる人や、無駄な脂肪をそぎ落としムキムキの筋肉を目指している人は、お菓子やケーキ・揚げ物などの高カロリーな食べ物を食べれば、数日で体重が一機に増えることでしょう。

多めの炭水化物と一緒に食べた時や、一日2食の時に太る効果はてき面のようです。

このイメージによって、多くの人は「痩せるために脂肪やオイルを摂りましょう」という画期的な提案を拒否し、この理論が社会で受け入れられ難くなっています。
   

(2)太ることの抑止効果

上記グラフの(B)の部分、設定体重そのものがアップする場合においては、どちらかと言うと(注1)抑止効果として働きます。体重の設定値がアップするのは腸内飢餓のメカニズムですが、脂肪は消化に時間がかかる為、未消化物が腸内に残りやすく、腸内飢餓を起こりにくくします。(注1:脂肪に対する消化力の強い人では、少しくらいなら抑止力とならない場合があります。)

高脂肪食

実際、脂肪の消化はほぼ腸から始まるのですが、脂肪が十二指腸に入ると、脂肪の消化吸収を促進するホルモン(コレシストキニン:cholecystokinin)が分泌されますが、これは同時に胃の働きを阻害すると言われています。

それによって胃の排出作用が抑制され、食べ物が胃の中に長くとどまったりするため、人によっては、満腹感、膨満感の原因となる場合があります。

いずれにせよ、脂肪の消化は他の栄養素に比べ複雑であり、腸内飢餓を防止する傾向があります。

例えば、痩せている人が 「太りたい」という時などは、過度の脂肪摂取は太ることを抑止します。「あの人は、お菓子や焼肉、揚げ物など沢山食べるのになぜ太らないんだろう?」なんて不思議に思ったことはありませんか?

実は、低脂肪で消化の良い食事のほうが、設定体重そのものをアップさせるという意味においては太りやすい、と言えます。
         

(3)ダイエット効果(大きく分類すると「抑止効果」に含む)

ブリファ氏の言われる通り、「低炭水化物ダイエットにおいて、脂肪摂取量を増やすとダイエット効果が期待できる」というのは、全員に当てはまる訳ではないけど、ある意味正しいと私も考えています。

一般的には、炭水化物と違って脂質がインスリンの分泌を促さないことが要因と考えられているようですが、それについては私は今は言及を避けます。それ以外に、私の理論上で追加して言いたいのは以下です。


脂肪が完全に消化されるまでの時間は、食べる量や食材の組合せなどによって異なりますが、6~8時間に及ぶ場合もあります。それゆえ、こまめに(4~5時間おきに)脂肪分・オイルを摂り続けることで、腸の広範囲にわたり未消化物が残ることとなります。そうすると、空腹感が抑えられ、相対的に吸収力が低下していきます(人によっては、膨満感、下痢などの症状を引き起こすことがある)。

また、低炭水化物ダイエットで見られるように、炭水化物をある程度減らし、脂肪や肉・野菜・ナッツなどを増やすことで、濃密な栄養が腸に送られるため、さらに消化に時間がかかり、それを継続することでダイエット効果は高まると考えています。

【関連記事】炭水化物が人を太らせる:希薄効果、プッシュアウト効果

  
  

まとめ

(1)脂質が1gあたり9キロカロリーだからと言って、脂質を摂ると必ずしも太る訳ではない。
脂肪に対する消化力の強い人、中でも普段から体重を低く抑えている人にとっては太る原因だが、食べる対象(誰が)や食べ方(量、回数)によっては、体重増加の抑止やダイエット効果として働く。

 
(2)脂肪は、他の栄養素に比べ消化に時間がかかるため、未消化物が腸内に残りやすくなる。それによって腸内飢餓は起こりにくくなるため、体重の設定値がアップしないという意味において、体重増加を抑止する傾向がある。

 
(3)低炭水化物で高たんぱく・高脂質の食事ではダイエット効果がある可能性がある。脂質は炭水化物と異なりインスリン分泌を促進しないことが主な理由として一般的に考えられている。
私の理論上で付け加えれば、消化の悪い脂質を4~5時間おきに摂取することで、腸内に未消化物が広範囲に残るため、空腹感を抑え、吸収率が低下する。その状態を継続すればダイエット効果がありうる。

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