— トピックス —
体重設定値・恒常性
2025.12.12
減量後に体重のリバウンドを促進する生物学的反応
要 約
・カロリー制限によって個人が体重を減らすと、代謝、神経内分泌、自律神経、行動の変化の協調的な作用を伴う適応反応が引き起こされ、体重の再増加が促される。これは、減量のためのカロリー制限がしばしば失敗する理由を説明できる可能性がある。
(1) 代謝適応
カロリー制限による減量では、体組成の変化から予測される範囲を超えて、有意に安静時エネルギー消費量が低下する。この適応は、かつて肥満だった人だけでなく、もともと痩せ型の人にも見られ、体重が元に戻りやすくなる状態を生み出す。
(2) 内分泌機能
レプチンやグレリンなど、消化管や脂肪組織から分泌されるホルモンは、食欲、食物摂取量、およびエネルギー消費を調節している。カロリー制限は満腹感を低下させ、空腹感を増大させるため、過食を招く可能性があります。
(3) 食物報酬、依存症との類似性
美味しい食べ物は、ドーパミンなどの神経伝達物質を通じて、報酬に関連する神経回路を活性化させます。この快感をもう一度得たいという欲求が、さらなる摂食への動機づけとなる可能性があります。カロリー制限や断食は、特に高カロリーで非常に美味しい食品の報酬価値を高める可能性があります。
(4) 抑制制御、過食
短期的なダイエットの成功は、「食べたい」という欲求を一時的に抑制する抑制反応の強化によるものかもしれない。しかし長期にわたる食事制限は、報酬に関連する反応を強め、抑制制御を弱める可能性があり、その結果、食欲の衝動に抵抗することがますます困難になる。
(5) 脂肪細胞の大きさと数
減量によって脂肪細胞の大きさは縮小するが、数は基本的に変化しません。縮小した脂肪細胞では脂肪分解が低下し、脂肪を再び蓄積しやすくなることで、体脂肪の再増加を促す可能性があります。
(6) 腸内飢餓
上記の(1)~(5) の反応とは異なり、私の「腸内飢餓」仮説では、食べた物が完全に消化され、腸管内に未消化物が残らない状態を、生体が飢餓シグナルとして認識する可能性を想定しています。
結 論
一部の研究者は、「これらの減量後に体重の再増加を促す生物学的力は非常に強力であり、克服するのは容易ではない」と指摘する。私は、こうした反応を「克服する」のではなく、できるだけ強く起こさないような食事・生活習慣を取り入れることが、長期的な体重管理には重要だと考えます。
【全 文】
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<目次>
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1.リバウンドを促進する多様なメカニズム
(1)代謝適応
(2)内分泌機能
(3)食物報酬、依存症との類似性
(4)抑制制御、過食
(5)脂肪細胞の大きさと数
(6)腸内飢餓2.結 論
<はじめに>
「肥満者は食べる量を減らし、運動するように」という処方箋は、長期的な成功率の低さが繰り返し報告されているにもかかわらず、現在でも体重管理のための一般的なアプローチとして広く用いられています[1]。
一方で、近年の遺伝学・疫学・生理学などの研究から、体重や体脂肪は生体によって一定の範囲に保たれるよう調節されていることが明らかになっており、ダイエットの長期的な成功率の低さを説明する生物学的な枠組みが整いつつあります。個人が減量すると、代謝、神経内分泌系、自律神経系、さらには行動にまで及ぶ協調的な適応反応が引き起こされ、減量した状態を維持することに抵抗することが示されています[4]。
今回は、このような減量後の体重回復(リバウンド)や、場合によってはさらなる体重増加を促す可能性のある生物学的メカニズムについて簡単に紹介します。また、これらの生物学的メカニズムと、私の「腸内飢餓」理論との関係や違いについても説明します。
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1.リバウンドを促進する多様なメカニズム
(1)代謝適応
エネルギー制限は安静時エネルギー消費量(REE)の減少と関連している[5]。多くの研究では、行動的な減量により、体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも、安静時および総エネルギー消費量が有意に大きく減少すると報告されている[4,6]。
この現象は適応性熱産生(AT)または代謝適応と呼ばれ、体重が戻るのに理想的な状況を作り出す[7]。
代謝適応は、身体が飢餓状態と認識した際に、生存に必要なエネルギーコストを低下させ、延命を図る反応として目的論的に解釈することができるが、興味深いのは、肥満の人にも同様に作用し、エネルギー貯蔵量(体脂肪)の大小によって弱められないように見えることである[7,8]。

(著作者 rawpixel.com /出典:Freepik)
しかし、その開始時期についての証拠は一貫性がない[9]。いくつかの研究では、エネルギー制限から1週間以内にATを検出した。これは、インスリンの急激な低下、グリコーゲン貯蔵の枯渇、細胞内外の液体の損失に関連している[10]。
対照的に多くの証拠は、ATの発症するまでに数週間かかることを示唆しており[11]、これは、貯蔵脂肪の減少によるレプチン分泌の低下やその他の生理的適応と関連している[9,12]。
ATの持続性についても議論の余地が残るが[7]、減量前より低い体重でエネルギーバランスが回復した後も代謝適応が何年にも渡って続く可能性が指摘されている[13]。
(2)内分泌機能
消化管と脂肪組織から分泌される多くのホルモンが、食欲、食物摂取量、エネルギー消費量、および体重の調節に関与していることがわかっています[14,15]。
レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、食欲を抑え、エネルギー消費に影響を与えることで体重を調節します。レプチンレベルが高いと脳はエネルギー貯蔵量が多いと解釈し、レプチンレベルが低いとエネルギー貯蔵量が少ないと解釈します[16]。
レプチンは、エネルギー制限後 24 時間以内に低下すると確認されているが [17]、多くの研究では、脂肪組織の損失に対して予想されるよりも大きなレプチンの減少が報告されています[18,19]。
レプチンの主な役割は、体重調節そのものではなく、飢餓の防止である可能性が示唆されており[15,20]、レプチンレベルが閾値(特定の反応の起こる境界値)未満になると、まだ豊富な脂肪が蓄積しているにもかかわらず、飢餓防御反応が誘発され[17]、代謝率と身体活動性が低下し、空腹感が増加する[ 21,22]。
(注1)この閾値は脂肪組織の増加に伴い上昇すると提案されている[17]。
さらに、減量した人において、食欲促進ホルモンであるグレリンの増加と、食後満腹シグナルであるペプチドYY(PYY)とコレシストキニン(CCK)の減少が観察されています[23]。
したがって、食事療法による減量は満腹感の低下と空腹感の増加を同時に引き起こし、過食を促す可能性があります[15]。
(3)食物報酬、依存症との類似性
食物報酬とは、食物に対する脳の報酬的な反応であり、食事をすることで得られる喜びや満足感と、「また食べたい」という動機付けを生み出します。脳内の報酬系という神経回路が活性化され、ドーパミンなどの神経伝達物質が放出されることで、幸福感や食欲増進につながります。

(著作者 rawpixel.com /出典:Freepik)
食物摂取量の調節には、恒常性因子と非恒常性(快楽的)因子の密接な相互関係があります。
前者は栄養必要量に関連し、血液と脂肪貯蔵庫内の利用可能なエネルギーを監視し、エネルギーバランスを維持する。後者の多くは脳の報酬系に関連しています[24,25]。
食物摂取量は、多くの場合は恒常性によって調整されるが、報酬関連シグナルは、本来は安定した体重を維持するために働く恒常性シグナル(満腹感)を容易に上書きするため、過食につながる可能性があります[25,26]。
現代の神経画像技術(機能的磁気共鳴画像法:fMRI) を用いた実験により、栄養状態(例:空腹時 vs. 摂食時)と食物刺激(例:高カロリー vs. 低カロリー、食欲をそそる vs. 味気ない食品)は、どちらも脳報酬系の活動を変化させることが知られている[27-29]。
健康的な人を対象とした最近の研究では、短期又は長期のカロリー制限や絶食は、特に高カロリーで美味しい食品の報酬価値を高める可能性があることが示された[27,30]。
これらの研究結果は、カロリー制限ダイエットがしばしば失敗する理由を説明できるかもしれません[28,30]。
<食物依存と薬物依存:その共通点と違い>
薬物と食品は共通する特性を持つ一方で、重要な点において異なる。
コカインなどの乱用薬物は脳のドーパミン回路に直接作用するが、食物は同じ回路により間接的に影響を与える。味覚や嗅覚からの情報、消化管に存在する栄養センサー[31]、さらに食物の消化・栄養吸収の過程で分泌されるホルモンは、いずれも脳へ情報を伝え、ドーパミン系を活性化します[25]。

砂糖・甘味料・塩・脂肪などの食品成分に依存性の様なプロセスを引き起こす可能性があるかどうかは議論されているが[25]、脂肪や糖分を含む高カロリーな食品(例えば、チョコレート、アイスクリーム、クッキー)や塩味のスナック菓子などは、ストレスの多い現代社会では快楽と満足感を生み出す強力な報酬となるため、「食品依存」という概念で薬物依存との類似性が指摘されている[32,33]。
(4)抑制制御、過食
食物摂取は、主として、恒常性維持系、報酬関連系、抑制系という3つの相互作用する神経系によって調節される[15]。抑制系は、主に自制心や意思決定をつかさどる脳領域が関与しており、食行動を調整し、過剰な食物摂取を抑制するのに役立っている[34]。
食物報酬の認知制御
人間において、美味しい食べ物を求め摂取したいという衝動は、実行機能(自制や意思決定に関わる認知プロセス)によって抑制される。
日常生活における中心的なジレンマの一つは、自分の内的目標(例えば、健康維持や体重管理のためにスイーツを控える)と、食欲をそそる食物を摂取するという目先の報酬とのバランスを取ることです。この葛藤は、食べたくて仕方ない食べ物(例えば、ドーナツやピザ)がすぐに手に入る場合に特に困難です[25]。

(著作者及び出典: Freepik)
ダイエットの短期的な成功は、抑制性神経反応の亢進が、おいしく高カロリーな食品を消費するという神経生物学的衝動を一時的に克服できることを示唆している[35]。
しかし、近年の研究では、報酬関連の神経活動も、抑制系の神経活動と並行して増加することが示されています[36]。
つまり簡単に言えば、食事制限が長引くに連れ、食欲をそそる美味しい食品を食べたいという衝動が抑えられなくなる可能性がある。
若者を対象とした前向き研究、並びにげっ歯類による動物実験の結果は、24時間の断食や無脂肪食を特徴とする著しいカロリー制限は、将来の無茶食いや神経性過食症の発症リスクを高める可能性を示唆している[37,38]。
(5)脂肪細胞の大きさと数
減量ダイエットでは脂肪細胞の大きさは縮小するが、脂肪細胞の数は減らない[39]。体重が抑制されていた人の体重再増加が、過形成(脂肪細胞数の増加)によって促進されるかどうかはまだはっきりと分かっていないが[15]、肥満ラットによる研究では、絶食後の再給餌で脂肪細胞数の増加(過形成)が観察された[40]。
人においても、以下の可能性が指摘されている。
通常、エネルギーが不足しているときには、脂肪貯蔵庫のトリグリセリドは分解され、細胞にエネルギーを供給します。
しかし、脂肪分解の速度は脂肪細胞の大きさと細胞表面積に関連しているようであり[41]、脂肪細胞が小さくなることで脂肪分解の速度が低くなります。
縮小した脂肪細胞が、脂肪の分解よりも蓄積を促すように機能的に変化すると、それらは再び徐々に肥大化し、失われた体脂肪の再増加を促す可能性があります[15,42,43]。

(著作者 brgfx /出典 Freepik)
(6)腸内飢餓
上記の(1)~(5)の反応は、エネルギー制限や減量に伴って生じる一連の抗飢餓(あるいは抗減量)メカニズム(注2)と考えられています[15]。その一方で、私の「腸内飢餓」仮説では、食べた物が完全に消化され、腸管内に未消化物が残らない状態を、生体が飢餓シグナルとして認識する可能性を想定しています。
腸内飢餓は、減量目的の厳格な食事制限(食事を抜く、極少量しか食べないetc)で引き起こされる場合もあるが、より気軽なダイエットや、減量とは直接関係のない生活習慣(朝食抜き、軽い昼食、遅い夕食、一日二食など)でも、引き起こされる可能性があります。
また私は、腸内飢餓による適応反応によって、体重の設定値上昇を示唆する体重増加が起こりうると考えていますが、この体重増加には、体脂肪だけでなく筋肉などの除脂肪組織も含まれると想定しています。そのため、このメカニズムは、主として体脂肪の増加によって説明される従来の肥満形成メカニズムとは異なる可能性があります。
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(注2)これらの反応は、十分なエネルギー貯蔵量があるにもかかわらず作動するため、一部の研究者は「抗飢餓」ではなく「抗減量」メカニズムという表現を用いています[15]。
2.結 論
今回紹介した (1)~(5) の生物学的反応と減量後の体重回復(リバウンド)との因果関係は、現時点では十分に証明されているわけではない[15]。しかし、ダイエット後にリバウンドを経験した多くの人にとって、実感として納得できる点が少なくないのではないでしょうか。
一部の研究者は、「これらの減量に抵抗し、失った体重を取り戻そうとする生物学的力は非常に強力であり、行動介入によって減量を試みる人のほとんどにとって克服することは難しい」と指摘しています。一方で、長期的な減量を実現するためには、こうした生物学的反応そのものを弱める介入法の開発が必要であるとも述べています[15]。
私の考えも基本的な方向性は同じですが、アプローチが少し異なります。
私は、生物学的反応を弱める介入法の開発だけでなく、そもそも抗飢餓(抗減量)メカニズムをできるだけ誘発しない食事・生活習慣を選択することが、長期的な減量にはより重要ではないかと考えています。
具体的には、精製炭水化物や超加工食品を減らしながらエネルギー摂取量を適切に調整することは重要です。
一方で、野菜、海藻、乳製品、加工度の低い肉・魚、ナッツ類などの自然由来の食品は、むしろ積極的に摂取することが望ましいと考えています。特に、消化されにくい成分を含む食品や、消化に時間を要する食品(注3)を十分に摂ることに意味があります。
(注3)脂質を多く含む食品も、食事全体の内容や摂り方によっては、必ずしも避ける必要はないと考えています。

このような食事を継続することで、満腹感が持続し、空腹感が軽減されます。長期的に、腸脳軸を介して「食べ物が十分に存在する」という情報が脳へ伝わりやすくなる可能性があると、私は考えています。
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[2-3](削除)
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2024.10.04
重要性を増す体重の「設定値」理論:近年の肥満増加はどう説明できるのか?
要 約
(1) 体重の設定値モデル
1953年、ケネディは、体脂肪の蓄積が生理学的に調節されている可能性を提案した。その後1982年に、栄養学者のウィリアム・ベネットとジョエル・グリンがこの概念を発展させ「設定値理論」を開発した。
(2) 体重恒常性
個人が体重を減らすと、身体はエネルギー消費量を予測以上に低下させるだけでなく、ホルモン調節を通じて食欲を増加させ、食べ物の好みにも変化を生じさせる。その結果、体重がリバウンドしやすい状態が形成される。
一方、一時的な過食による体重増加でも、体重を設定値の範囲に戻そうとする代償機構が働くと考えられている。しかし、これらの機構は、体重減少に抵抗する機構ほど強力ではない可能性が指摘されている。
人の体重設定値は幼少期から青年期にかけて形成され、その後は比較的安定していると考えられているが、結婚・出産・移住などの環境変化によって変動する可能性も示唆されている。
現在、設定値理論は、体重が単純な意志やカロリー計算だけでは調節されないことを説明する重要な枠組みとなっている。
(3) 設定値モデルの限界
体重を一定範囲に保つはずの設定値モデルでは、1970年代以降に西洋諸国を中心として肥満が急増してきた背景を十分に説明できない。これに対し一部の研究者は、減量の維持に対する代謝的抵抗は強力である一方、持続的な脂肪の増加に対する代謝抵抗は生理学的に長続きしない可能性があると指摘する。
(4) 高エネルギー食仮説への疑問
動物実験では、高エネルギー食の長期摂取により不可逆的な体重増加が報告されている。しかし人間では、同じ高カロリー食を摂取していても肥満にならない人が存在し、社会階層・環境変化に関連する体重増加などの現象とも単純には一致しない。
(5) 腸内飢餓という新たな視点
近年の肥満増加は、単なるエネルギー過剰では十分に説明できない。体重の設定値上昇を反映する不可逆的な体重増加は、むしろ身体が「食べ物が不足している」と認識することを契機として引き起こされる可能性がある。
1970年代以降、食品の(超)加工が進み、食環境が大きく変化する中で、摂取した食物が腸管内で完全に消化されたと身体が認識する生理的状態、つまり「腸内飢餓」が生じやすくなっている。
【全 文】
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目次
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- 「設定値」理論への理解の進展
- 設定値モデルにおける問題点
- 体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因
私は、人には体重を一定の範囲内に保とうとする恒常性システムが存在すると考えており、その観点から、体重の「設定値」理論は重要な意味を持つと思っています。
本稿では、近年あらためて注目されている設定値理論の背景と課題について述べます。設定値の上昇に関与しうる環境的・行動的要因を理解することが、肥満問題に対処する上で重要だと考えています。
1.「設定値」理論への理解の進展
<肥満と減量の試み>
♦肥満者が、「痩せている友人の方が、太っている人よりも常に多く食べている」と主張するのは、真実かもしれないということである。(略)
肥満患者の中で私たちの理解を大いに必要としているのは、1日 1,000 kcal 程度のカロリー摂取を守っているにもかかわらず、減量が1週間に1kg にも満たない人たちである。このような人々が存在することは疑いなく、メタボリック病棟で、「ごまかし」が事実上不可能な条件下で、気付かれずに研究することができる。
通常、このような人は、おそらく 40 kg 太っていて、すでに 20 kg ほど減量している中年女性である。彼らはしばしば抑うつ状態で、低体温であり、代謝率が低い。低カロリー食に対するこの代謝適応の性質はわかっていない(1973年当時)が、1920 年代以前から知られている現象である (J S Garrow, 1973) [1]。
♦肥満者にとって、さまざまな治療法で一定の減量は可能ですが、減量した体重を長期的に維持することははるかに困難であり、ほとんどのケースで体重が元に戻ってしまうと言われる[2]。29の長期減量研究のメタ分析では、減量した体重の半分以上が2年以内に元に戻り、5年後には減量した体重の 80 % 以上が元に戻りました[3,4]。
さらに、持続的な減量に成功した人の研究では、体脂肪を減らした状態を維持するには、おそらく生涯にわたってエネルギーの摂取と消費に細心の注意を払う必要があることが示されています[5]。
<肥満者のエネルギー消費量>
♦1930年までに、体表面積のより正確な計算により、肥満者の代謝率が正常であることが示され、代謝低下説は好まれなくなった[6]。
♦1日のエネルギー消費 (TEE) には、食物の熱効果 (DIT)、身体活動消費 (PAEE)、安静時エネルギー消費 (REE)の3つの要素があるが、平均体重 100 kgと 70 kgの男性のエネルギー消費を比較したモデルケースでは、100 kg の男性の方が一日のエネルギー消費量 (TEE) は高くなる[7]。

(平均体重100kgと70kgの男性のエネルギー消費量)
一般に信じられていることとは逆に、肥満の人は一般的に、痩せた被験者と比較して絶対的な安静時エネルギー消費(REE)が高いです。それは、肥満では体脂肪とともに代謝が活発な除脂肪質量が増加するためです[7,8]。
身体活動消費(PAEE)は、「自発的な運動」と「日常生活の活動」に分けられる。PAEEは体重に比例するため、肥満の人は一般的に身体活動が少ないにもかかわらず、身体活動にかかる毎日のエネルギーコストは肥満でない人と同程度であることが多い[7,9]。また、肥満の人は食物摂取量が多くなる傾向があり、食べ物の熱効果(DIT)も高くなります[7]。
<エネルギー消費の動的変化>
♦肥満の予防は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスを取らなければならないという単純な帳簿管理の問題であると誤って説明されることが多い[10]。
このモデルでは、エネルギーの摂取量と消費量は行動によってのみ決まる独立したパラメータと考えられており、肥満者は単に、食べる量を減らして運動量を増やすだけで、累積食事カロリーの不足 7,200 kcalごとに1kg の割合で着実に体重を減らすことができると考えられている[7,11]。これは減量の静的モデル (static model) と呼ばれるが、生理学的に不可能であることが分かっています[7,12]。

(減量の静的モデル)
(3,500 kcalルールは、単純すぎると認識されているにもかかわらず、科学文献に登場し続けており、2013年時点で 35,000 を超える減量教育ウェブサイトで引用されています。)[12,13]
♦現在では、エネルギー摂取量と消費量は相互に依存する変数であり、お互いに、また増減する体重によって恒常性シグナルの影響を受けることがわかっています[7,14]。
食事や運動によってエネルギーバランスを変えようとする試みは、体重減少に抵抗する生理学的適応によって阻止されるのです[7]。
<体重の設定値理論>
♦近年では、恒常性制御の影響が認識され、体はエネルギーバランスを操作する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持するという証拠が増えつつある[12]。
1953年、ケネディーは体脂肪の蓄積が規制されることを提案しました[15]。1982 年、栄養学者のウィリアム ベネットとジョエル グリンは、ケネディの概念を拡張して設定値理論を開発しました[16]。このモデルは広く採用され、1990年代のレプチンの発見以降強化された[7,12]。
個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を減らし、ホルモンの調節を通じて食欲の増加を引き起こし、行動の変化を通じて食べ物の好みを変え、体重を設定値の範囲に戻します[7,16]。

(減量の設定値モデル)
♦減量研究では、体内の脂肪蓄積量は中枢神経系を介したメカニズムによって保護されており、脂肪組織、消化管、内分泌組織からの信号を介してエネルギー摂取量(EI)と消費量(EE)を調整し、恒常性を維持し、体重の変化に抵抗することが示されています(設定値モデル)[12,17]。
♦エネルギー危機の際にエネルギー貯蔵量を維持しようとする身体の保護代謝メカニズムは、適応性熱産生 (AT)または代謝適応 として知られています[7,12]。
ATは、体組成の変化とは無関係に、摂食不足に関連する安静時エネルギー消費量(REE)の低下として定義されます[12]。
♦痩せ型または肥満型の個人が体重を 10 % 以上減らし続けると、24 時間エネルギー消費量が約 20~25 % 減少します。この減少幅は、脂肪と除脂肪量の変化のみに基づいて予測される減少量より 10~15 % 大きい値です[17,18]。
肥満の個人も、食事療法による減食に対してこのような代償的な代謝的調整を示すことから、肥満は一部の人にとって自然な生理学的状態であると考えられる可能性があります。肥満動物の実験研究でも同様に、肥満を、高い設定値での体内エネルギー調節の状態と見なす見方を示唆しています[19]。
♦体重を減らした元肥満の被験者と、BMI が一致する肥満ではなかった被験者を比較して 適応性熱産生(AT) を調査した横断研究のメタ分析では、肥満経験のある被験者は肥満経験のない対照群と比較して安静時エネルギー消費量(REE)が 3~5 % 低いことが報告されている[20]。
つまり、肥満の女性が 100 kg から 70 kg に体重を落とした場合、体重がずっと一定だった 70 kgの女性よりも、70 kgを維持するために必要なエネルギーが少なくて済むことを意味する[6]。肥満のラットと正常体重のラットによる動物実験においても同様の結果が示されている。
このことから、肥満の人が、「痩せた仲間と同じかそれ以下しか食べていないのに体重は減らない」という頻繁な主張には、通常認められている以上の信憑性が与えられるべきです[19]。
♦一方、1960年代にバーモント州でイーサン・シムズ教授が囚人に対して行った過食実験で示されたように、一時的な過食による体重増加も、体重を設定値の範囲に戻すような代償機構を誘発します。
しかし一部の研究者は、これらは体重減少に抵抗する機構よりも弱い可能性があると指摘する。この非対称性は、食糧不足や飢餓の期間中に生き残るために脂肪を蓄えるという進化上の利点によるものである可能性があります[16,17]。
♦また、実験的な半飢餓および短期的な摂食不足の後に過食症が実証されており、これはおそらく体脂肪と除脂肪組織の両方の喪失から生じる恒常性シグナルの結果です[7,21]。

♦この理論はまた、人の体重設定値は人生の早い段階で確立され、特定の条件によって変更されない限り比較的安定したままであることを示唆しています。ただし、結婚、出産、閉経、加齢、病気などの要因により、生涯を通じて設定値が変化する可能性があります[16]。
その一方、設定値理論は、設定点制御に関与する分子メカニズムが完全に解明されていないため、依然として仮説のままであり、一部の研究者はこの理論が単純すぎると考える可能性があります[16]。
2.設定値モデルにおける問題点
一方で、体重の設定値モデルには限界があると指摘する研究者もいます。
体重を一定の範囲内に保つ恒常性システムが存在するのであれば、なぜ西洋諸国の多くの人が人生の大半で徐々に体重を増やし続けるのか、という疑問が生じます。 特に、このモデルでは、1970年代頃から世界の多くの社会で観察されてきた肥満の増加傾向を十分に説明できていません[22]。
これに対し一部の研究者は、減量の維持に対する代謝的抵抗は強力である一方、持続的な脂肪の増加に対する代謝抵抗は生理学的に長続きしない可能性があると指摘する。実際、肥満の有病率が着実に増えていることからも、体が「痩せること」よりも「太ること」を生理的に許容しやすいことを示唆しています[17,23]。
ラットを用いた動物実験では、高脂肪食を与えた初期(3~4週間)には、エネルギー消費量の増加や交感神経系(SNS)の活性化が認められるものの、高脂肪食を数か月間継続すると、これらの反応は次第に明らかでなくなることが報告されています[17,24]。
さらに別のラット研究では、ポテトチップスやチーズクラッカーなどの嗜好性の高い高エネルギー食を長期に摂取させた結果、設定値の上昇を示唆する不可逆的な体重増加が生じたと報告されています[19,25]。

このような「高カロリー食品の継続的な摂取によって、体重の設定値が上昇する」という説明は、初めは妥当のようにも思われます。しかし、一つの外的要因によって体重が一方向に変化していくのであれば、これはもはや「設定値」と呼ぶべきものではない。
さらに、この仮説を人間に当てはめると、同じように高カロリーな食品を頻繁に摂取しているにもかかわらず、肥満にならない人が存在するという事実とも整合しません。実際、以下のような矛盾が指摘できます。
(1) 西洋諸国の低所得層や、発展途上国における比較的裕福な層で、肥満が頻繁に認められること[22,27,28]。
(2) 1950年代以降、貧困層において低栄養と肥満が同時に存在する現象が世界各地で観察されていること[29]。
(3) 大学進学、結婚、出産、あるいはアジアから欧米への移住など、環境の変化を契機として体重が増加する人が少なくないこと[22]。
私は、体重の設定値が上昇する背景には、腸内飢餓による適応反応が関与していると考えています。
次のセクションでは、この点についてより具体的に説明します。
3.体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因
現在、多くの国際機関は肥満を慢性疾患として位置づけている。
体重の設定値理論に関心を持つ一部の研究者は、慢性疾患としての肥満が治癒可能かどうかは、遺伝要因と環境要因がどの様に組み合わさって設定値が調整されるのかを理解することが不可欠であると指摘しています。一方で、多くの重要な環境的・社会的影響を十分に説明できていないのも事実です[22]。
本稿では、こうした課題を補完する視点として、「腸内飢餓」の概念を提示します。
以下では、その要点を4つに分けて述べます。
(1)プラスのエネルギーバランス仮説の限界
一般的に、体重増加にはプラスのエネルギーバランスが必要であると考えられているため、高カロリー食品の増加や身体活動量の低下が近年の肥満の蔓延を招いたと説明される。しかし逆説的に、肥満の増加が減量を目的としたダイエットの増加と並行して起こっているという事実は[30]、私たちのエネルギーバランスに対する考え方に再考の余地があることを示唆しています[12]。
私が強調したいのは、過食による一時的な体重増加は「エネルギー過剰」で説明できる一方、長期的かつ不可逆的な体重増加は、むしろ、エネルギーの枯渇や「食べ物が不足している」という身体の認識を契機として引き起こされる可能性があるという点です。これは、実験的飢餓や減量ダイエットの後に体重が以前より増加する現象とも共通しています。
【関連記事】 ダイエットの普及が肥満の増加に拍車をかけている可能性
(2)食品加工がもたらした消化・吸収の変化
1970年代以降、高カロリー食品が増えたことは確かですが、それ以上に身体に大きな影響を及ぼしている可能性があるのが、食品の(超)加工です。食品加工の進展により、固く消化されにくい部分は取り除かれ、柔らかく消化の良い部分が中心となりました。その結果、消化・吸収速度や腸内環境に大きな変化が生じていると考えられます。
腸内飢餓は、精製炭水化物や(超)加工食品の頻繁な摂取と関係しており、肥満が1970年代以降に増加してきた背景や、先進国に限らず発展途上の一部地域でも頻繁に生じうる理由を説明しうる。
【関連記事】 肥満の増加は、超加工食品の消費量と密接に関係している
(3)腸内飢餓という多因子モデル
腸内飢餓は、4つの要因が同時に重なったときに生じやすくなる生理状態である。この概念は、肥満を遺伝要因と環境要因の相互作用によって生じる慢性疾患として理解するための枠組みを提供します。
【関連記事】腸内飢餓を加速する3要素(+1)
(4)肥満状態で、なぜ身体が減量に抵抗するのか?
腸内飢餓を通じて起こりうる、設定値上昇を示唆する体重増加では、栄養全体の吸収効率が高まると考えられます。つまり、エネルギー恒常性の観点から、摂取と消費が釣り合うポイントそのものが高い水準へ移行することを示唆します。これは、十分な体脂肪を有する肥満者であっても、カロリー制限に対して代謝的な代償反応を示すことを説明できる可能性がある。
【関連記事】 なぜ、腸の飢餓状態で太るのか?
▽前節で紹介したラットの動物実験では、90日間にわたる高エネルギー食の摂取によって、設定値の上昇を示唆する不可逆的な体重増加が生じたと報告されています(Rollsら,1980)。しかし、この実験で用いられた「太らせる餌」は、ポテトチップス、チーズクラッカー、クッキーなど、市販の嗜好性の高い食品が中心でした[25]。これらは同時に、高度に精製された炭水化物や(超)加工食品でもあります。
一方、対照群に与えられた固形飼料は、挽き割り穀物・大豆ミール・魚粉などで構成されており、食物繊維や植物の硬い細胞壁といった消化されにくい成分が多く含まれていた可能性があります。これは、50年以上前の人間の食事構成とも類似しています。
したがって、この結果をもって「継続的な高エネルギー食の摂取が、設定値の上昇を示唆する体重増加を引き起こした」と結論づけるには、慎重な解釈が必要であると私は考えています。
<参考文献>
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[26](削除)
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[28] Poskitt EM. 「移行期にある国々:低体重から肥満へノンストップ」. Ann Trop Paediatr. 2009 Mar;29(1):1-11.
[29] Gary Taubes. 「ヒトはなぜ太るのか?」.メディカルトリビューン. 2013. Pages 22-40.
[30]Montani JP, Schutz Y, Dulloo AG. 「ダイエットとウェイトサイクリングは心臓代謝疾患の危険因子である」.Obes Rev. 2015 Feb;16 Suppl 1:7-18.
2024.06.16
過食実験は、「過食」が肥満の原因でないことを示唆する
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目次
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- 過食実験で、人を太らすことはできるのか?
- それ以降の過食実験
- 代謝で、この体重の戻りは説明できるのか?
- 肥満と過食実験の違い(私の考え)
1.過食実験で、人を太らすことはできるのか?
ジョージ・A・ブレイ氏(2020年現在、ペニングトン生物医学研究センターの名誉教授)によると、1960年代まで、肥満は「意思力の欠如」とみなされ、多くの人もそう思った。中には「(肥満)患者がテーブルから離れさえすれば、この問題はなくなるだろう」という者もいたという。
そんな中で、肥満が真の学術的関心領域として受け入れられるようになったきっかけは、過食に関する研究であったと、ブレイ氏は振り返る。過食の研究は肥満の生物学に関する貴重な洞察を提供し始めていたのだ。当時、ボストンのニューイングランド医療センター病院で博士研究員であったブレイ氏にとって、バーモント州での過食研究が1968年に初めて発表された時の興奮は忘れがたいものとなった[1]。
■1960年代後半にイーサン・シムズ教授が行った過食実験がそれにあたる。それまで「食べ過ぎれば肥満になるのは当たり前だ」と思われていたため、このような実験が行われることはあまりなかった。
The Obesity Codeの著者、ジェイソン・ファン氏によると、シムズ教授は近くのバーモント大学の痩せた学生を集め、沢山食べて体重を増やすように指示したが、予想に反して学生達は太らなかった。
教授は「学生が運動量を増やしたのではないか?」と考え、今度は刑務所の囚人達を被験者に選んだ。受刑者らは運動を制限され、毎日 4,000 kcalの食事を残さず食べているか厳しくチェックされた。
受刑者の体重は初めこそ増えたが、その後は増えなくなった。中には、元の体重の20%以上増えた者もいたが、体重の増加の仕方は人によって大きく異なっていたのだ[2]。

この過剰摂取を200日間続けた結果、20人の囚人の体重は平均20~25ポンド(約10kg) 増えた。しかし実験が終了し摂取カロリーが通常に戻ると、ほとんどの被験者は増えた体重を維持するのが難しく、彼らの体重は比較的容易に元に戻った。例外は、体重を落とすのに苦労した2人の囚人だけだった[3]。
ブレイ教授は当時、体重増加中に脂肪組織に生じる代謝の変化を調べるために、このシムズ教授の実験に共同研究者として参加していたのである。その後、1972年には自らがモルモットとなって、過食実験を行ったという。
初めは、毎食の量を2倍にしようとしたが食べきれず、途中からアイスクリームのようなエネルギー密度の高い食品に切り替えたのだ。
開始から10週間で体重は10キロ増えたが、終了すると体重は急速に減り、6週間後には元の75kgに戻り、それ以来何の問題もなく体重を維持しているという。
自己実験終了後の1972年の夏には4人のボランティアが同様に過食を始めたが、彼らも実験終了後には元のベースラインの体重に戻ったという。

ブレイ氏は言う。
この標準体重への急速な戻りは、肥満のほとんどの人が苦労して減量し、減量した体重を維持しようとする時に経験する困難とは対照的であると。
数年かけて肥満を発症する人の多くの人は、過食によって急激に体重が増えた私達とは異なる種類の苦痛に苦しんでいます。彼らににとって、肥満は「うっかり」起こり、一度そうなると元に戻すのは困難を伴う。
過食と減食の試験の歴史やその他の証拠は、肥満の治療が単に「食べる量を減らして運動を増やす」というアドバイスに頼るだけではダメであることを明確に示しているのだ[1]。
2.それ以降の過食実験
アレックス・リーフ(ウエスタンステーツ大学) とホセ・アントニオ(ノーバー・サウスイースタン大学)は、2017年までに行われた過食実験で、体組成に与える影響を評価した研究をレビュー(再検証)した。
体重増加に加え、脂肪量 (FM) と除脂肪量 (FFM) の変化を報告した過食研究は25件あった。研究の期間は9日から100日であり、4件を除きすべて運動不足の集団で実施されたものである[4]。なお、それぞれの研究の目的は異なっており、実験終了後の体重の減少については、必ずしも言及されていない。
いくつか例をあげると、1990年に発表された一卵性双生児を対象とした研究がある。
■ブシャール (ラヴァル大学、カナダ)らは、運動習慣のない男性一卵性双生児12組(24名)を募集した。各参加者のエネルギー必要量は2週間のベースライン期間に計算され、その後 100 日間にわたり(週6日、合計で84日)、一日あたり1,000 kcal(蛋白質 15%、脂質 35%、炭水化物 50%) 過剰に摂取した。

彼らはは大学寮の閉鎖されたセクションに収容され、 スタッフによって 24 時間監視されていました。
体重は平均 8.1 kg 増加したが、そのうち67%が脂肪量 (FM) であった。また、体重の増加の仕方はバラつきが大きく、範囲は 4.3 ~ 13.3 kg であった[5]。
実験終了から4カ月後、双子の体重は平均 61.7 kg となり、開始前のベースライン体重 60.4 kg と比較してわずか 1.3 kg 高かったが、ほぼ戻っていた[1]。
【双子写真出典】:写真素材 freepik
■コンフォード(ミシガン大学)らは、健康で肥満ではない男性7人、女性2人を対象に試験を行った(2012年)。
参加者は2週間病院に入院し、その期間に1日 4,000 kcalの食事(蛋白質 15%、脂質 35%、炭水化物 50%) を摂取した。被験者のエネルギー必要量は、開始前1週間のベースライン期間中に決定された。参加者は3回の食事の他に4回の間食をした。体重は、平均 2.1 kg増加し、そのうち 67 %は脂肪(FM)であった[6]。
このレビューの要約では、炭水化物と脂質の両方を適度に多く、蛋白質を少なく(エネルギー摂取量の11~15%) した食事を運動不足の成人に摂取させると、主に体脂肪 (FM) が増加し、それは体重増加の 60~70 %を占めることが示された。また、体脂肪を除く体重 (FFM)の増加は、骨格筋組織ではなく体内の水分量の増加による可能性があるとしている。
それに対し、蛋白質を大幅に増やした食事では、摂取エネルギーが増加しても、体組成に好ましい変化が見られたとしている[4]。
3.代謝で、この体重の戻りは説明できるのか?
なぜ被験者の体重は実験終了から数週間でに急速に元に戻ったのか?
ブレイ教授によると、このバーモント州での過食研究における印象的な発見の1つは、被験者が過食後に増えた体重を維持するために、体重増加前よりも単位面積あたり多くのエネルギーが必要になったことであるという。ブレイ氏が1970年にカリフォルニア大学に移った時、新しい研究室が稼働し始め、増加した体重を維持するために余分なエネルギーが必要になる理由に関する仮説についての調査が始まった[1]。
■ライベル (ロックフェラー大学)らは、肥満 (BMI 28以上)の被験者 18 名と肥満経験のない被験者 23 名を対象に、通常の体重のときと、摂食不足で体重を10%以上減らした時、または摂食過剰で体重を 10%増やした時のエネルギー消費量の変化を調査した(1995年)。
体重を初期体重より10%以上低いレベルに維持すると、総エネルギー消費量が、体重1kg1日あたり、肥満者で8±5 kcal減少し、非肥満者では6±3 kcal減少した。
また体重を10%高いレベルに維持すると、総エネルギー消費量は、肥満者で8±4 kcal増加し、非肥満者で9±7 kcal増加した。

この研究での結論として、体重の減少又は増加の維持はエネルギー消費の代償的変化と関連しており、これが通常とは異なる体重の維持に抵抗し、元の体重に戻すように機能しているのだと言う。これが、摂取カロリーを減らすことによる肥満治療の長期的な有効性が低い原因である可能性を指摘した[7]。
4.肥満と過食実験の違い(私の考え)
ブレイ教授が言われるように、私も一時的なカロリーの過剰摂取による体重の増加は、根本的な肥満とは全く異なるメカニズムによるものだと思っています。代謝の代償的メカニズムが体重の変化に抵抗するのであれば、なぜ太る人は太っていくのでしょうか?
このブログを通して何度も言うように、太っている人と痩せている人、両者の違いは体重の設定値の違いによって説明できると思っています。(体重の設定値を上昇させるのは腸内飢餓です。)
■例えば、普段から体重が60kgで安定している人が、一時的な過食を強いられ63kgになったとします。
それはグラスに例えると、グラスに97%ぐらい入っていた水が 100 %となり、さらに表面張力が働いてグラスの上端から水が盛り上がっているようなものだと思っています。
逆に、食事量を減らし体重を57kgに保つというのは、グラスの水が一時的に減り、水面がくぼむような状態であると思っています。つまり、どちらも設定体重は変化していません。

■それに対し、60kgの人が数年かけて徐々に太り、安定的に90kgを維持しているとすると、それは設定体重そのものが上昇したこと、つまりグラス自体が大きくなったことを意味します(エネルギーがより高いレベルで釣り合っている状態)。

現在、私達は肥満を助長する「肥満誘発環境」に生きていると言われることもあるが、それは必ずしも高カロリーな食品や座りがちな生活を意味するものではない。一部の研究者も既に言及されている通り、カロリー計算にあまり意味がないことは明白です。摂取カロリーの増減は一時的な体重増加又は減少をもたらすだけです。
私の考える「肥満誘発環境」はむしろ、消化の良すぎる食べ物(精製炭水化物、ファーストフード、加工食品)や食事のバランス(野菜不足)などと関連しています。それらが、朝食抜き・遅い夕食などのいくつかの条件と重なれば「腸内飢餓」が引き起こされる可能性があるのです。
もちろん、研究者なら「太る為には、以前よりもより多くのエネルギーが体内に取り込まれないといけない」と言うでしょう。なぜ腸内飢餓によって、エネルギーがより多く体内に摂り込まれ、人は太るのか?については、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】 腸の飢餓状態でなぜ太るのか?
<参考文献>
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2022.09.25
摂取カロリーを減らすと、体は自動的に消費を減らす
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目次
-
- 運動以外の「消費エネルギー」は一定ではない
- 摂取カロリーを減らした時に何が起きるのか?
- 摂取と消費は相互に依存している(私の感想)
<まとめ>
以下の記事で、「ダイエット(食べる量を減らす、運動をする)が上手くいかなかった」という研究結果をいくつか見てきましたが、多くのダイエット経験者が感じるのは『減った体重が思ったよりもはるかに少ない』ということではないでしょうか?
【関連記事】ダイエットは、長期的にはほぼ成果なし
今回は単に、『摂取カロリーを減らせば、体にどんな反応が起こるのか』について見ていきたいと思います。これまでに、従来のカロリー制限系のダイエットをしたことのある人にとっては、身に覚えのあることだと思います。ほとんどが引用になってしまうのですが、とても興味深い内容なので紹介します。
1.運動以外の「消費エネルギー」は一定ではない
「The Obesity Code」Dr. ジェイソン・ファン著(2019年)より引用
"私たちは摂取カロリーのことは気にするくせに、「運動以外で消費されるカロリー」のことはほとんど考えない。摂取カロリーを計算するのは簡単にできるが、体全体のエネルギー消費量の計算は複雑だ。
エネルギーがどう消費されるかはホルモンによって自動的にコントロールされるため、私たちが意識的にコントロールできるのは運動によるエネルギー消費だけとなる。
「脂肪の蓄積にこれくらい、新しい骨の形成にはこれくらいのエネルギーを振り分けよう」と自分で決めることはできない。
だから、運動以外で消費されるエネルギーは「常に一定である」というわかりやすい仮説が生まれたのだが、これは完全に間違いである。

基礎代謝量、食事による熱発生効果、非運動性熱産生、運動後過剰酸素消費量、それから運動によって消費されたものをすべて足し合わせたものが、「総エネルギー消費量」だが、この数値は、摂取カロリーやその他の要因で、人によっては50%も前後する。(略)
仮に、私たちが一日に2,000 kcalの化学エネルギー (食べ物)を摂り入れるとしよう。この2,000 kcalはどのような代謝活動に使われるだろうか? 可能性として挙げられるのは、次のようなものだ。
・熱の発生 ・たんぱく質の合成 ・新しい骨や筋肉の形成・認知(脳) ・心拍数の上昇 ・1回拍出量(心臓が1回の拍動で送り出す血液の量)の増加 ・身体運動 ・解毒作用(肝臓、腎臓) ・消化(すい臓、腸) ・呼吸(肺) ・排泄(腸および結腸) ・脂肪の生成

私たちは、摂取したエネルギーが燃やされて熱になっても、たんぱく質の合成に使われてもまったく気にしないのに、ことエネルギーが脂肪として蓄えられるとなると気になって仕方がなくなる。
だが、人間の体が過剰なエネルギーを消費する方法は、体脂肪として蓄えるほかにも無数にあるのだ。"(略)
(ジェイソン・ファン. 2019. The Obesity Code. サンマーク出版. Pages 67, 74-6.)
2.摂取カロリーを減らした時に何が起きるのか?
<ワシントンでのカロリー制限実験>
"1919年、ワシントンのカーネギー研究所で、摂取カロリーを減らしたときにエネル ギーの総消費量がどのように変化するかについての詳しい研究が行われた。
研究対象とな ったボランティアは、1日1,400 kcalから2,100 kcal程度に食事を制限する半飢餓状態におかれ、経過を観察される。これは通常の摂取カロリーより30 %削減された食事である(今日の減量のための食事療法では、ほぼ同じレベルのカロリー 制限が課されている)。
その結果、実験参加者の総エネルギー消費量は 30%も減少し、平均して、実験前のおよそ3,000 kcalから1,950 kcalに減っていた。100年近くも前から、摂取カロ リーは消費カロリーに深く関わっていることが明らかだったわけだ。
<ミネソタ飢餓実験>
その数十年後の1944年~45年、今度はアンセル・キーズ博士(1904~2004年)が飢餓実験を行っている。(略)
ミネソタの実験では、カロリー制限をしている時期と、飢餓状態からの回復期における人間の状態を理解する目的で行われた。(略)
実験内容はこうだ。被験者は平均身長 178センチ、平均体重 68・3キロの健康で、平均的な体格の若い男性36人。
始めの3か月、被験者は1日の摂取カロリーを 3,200 kcalとする、ごく標準的な食生活を送った。次の6か月は半飢餓状態にするため、1,570 kcalのみが与えられたが、目標である体重24%減(もとの体重比)を達成するよう摂取カロリーの調整が行われたため、1日の摂取カロリーを 1,000 kcal未満に制限された男性もいた。

与えられた食事は高炭水化物のものばかりで、ちょうど 戦後の荒廃したヨーロッパで手に入る食べ物と同じようなもの(ジャガイモ、パン、マカ ロニなど)が与えられた。肉や乳製品などはほとんど与えられなかった。加えて、彼らは 運動として週に22キロ歩かされた。
カロリー制限の時期が終わると、3か月間のリハビリ期間に入り、この間、徐々に摂取カロリーを3,000 kcalまで増やしていく。
いったい何が起こったのか。
実験を始めるまで、被験者たちは一日 約3,000 kcalを摂り、消費していた。それが突然、摂取カロリーを1日約1,500 kcalに減らされたことで、体の機能は30~40%のエネルギー削減を余儀なくされ、彼らの体内では混乱が生じたのだ。
- 体温が下がる。その結果、常に寒けを覚える。
- 心臓のポンプ機能が弱くなり、心拍数と1回拍出量が減る。
- 血圧が過度に下がる。
- 脳の認知機能が弱くなる。倦怠感を覚え、集中力が欠如する。
- 動けなくなり、身体活動が不活発になる。
- 髪や爪が生え変わらなくなり、爪が割れ、髪が抜ける。
毎日1,500 kcalしか摂取しないのに、体が毎日3,000 kcalのエネルギーを使い続けたとしたら、いずれ死に至る。当然である。だから、体はエネルギーのバランスをとるため、自動的に1日の消費カロリーを1,500 kcalに抑えようとするのだ。(略)ミネソタ飢餓実験の被験者たちは35・3キロほど体重が落ちる計算だったが、実際に落ちたのは16・8キロだけで、予測の半分以下にとどまった。
そのあと、被験者の体重はどうなっただろうか?
半飢餓状態にあるとき、体脂肪は体重よりもずっと速く落ちていった。体に力を与えるため、体内に蓄積されていた脂肪から先に使われていくからだ。回復期に入ると、被験者の体重はおよそ12週間で元に戻った。だが、体重はその後も増え続け、結果的に実験前の体重よりも重たくなってしまった。(略)

摂取カロリーを減らすと消費カロリーも必然的に減るので、「摂取カロリーを減らせば 体重が減る」という理論の根幹となる仮定条件が、そもそも間違っているのだ。この結論は、これまでに何度も証明されてきた。
それでも私たちは、「今回のダイエットこそはどうか成功しますように」と願い続けている。
うまくいくことはない。カロリー制限をしたり、1回の食事量を減らしたりしても、倦怠感と空腹感を覚えるだけなのだ、と。最悪なのは...減った体重がすべて元に戻ってしまうことである。"(引用以上)
(ジェイソン・ファン. The Obesity Code. Pages 78-87.)
3.摂取と消費は相互に依存している(私の感想)
「ミネソタ飢餓実験」について少し気になった点は、被験者が実験に入る前に食べていた 3,200 kcalが平均体重68キロの人が必要とする1日の摂取カロリーより高い気がした。これをベースに試験開始後のカロリー(1,570kcal)と比較するのは適正なのかということである。
もう一つは、この実験では被験者は肉や乳製品はほとんど与えられなかったということだが、微量栄養素(鉄、カルシウム、銅、亜鉛)やビタミン、タンパク質などは代謝に関わる栄養素もあるし、その不足は様々な病状を引き起こす。つまり被験者に起こった様々な症状は単に『カロリー摂取量』だけの問題ではないはずだ。この点は考慮して欲しい。
しかし、実験の本来の目的、その規模、過酷さを考えるとこのデータは貴重なものであると思うし、尊重しないといけないと思う。
▽私は痩せているのでダイエットはしたことはないが、同じ様な体の反応はもちろん経験がある。
30代の時、京都の和食店で働いていたが、忙しい桜や紅葉・年末の時期は休憩も食事もなしで12時間以上働く時もよくあった。体が疲れているので、無駄な動きはしないようになり、指先は冷たくなる。栄養分や酸素を細胞に運ぶために心臓の鼓動が激しくなる。元気に振舞ってはいても口数は減り、仕事の後の食べ物のことしか考えなくなる。
現在は調理の仕事は辞めているが、健康診断の時(朝食を抜いているので)、私の脈拍数は1分間に35程度の時がある。医者に「低すぎるからペースメーカーを入れた方がいい」と言われたこともあるが、断っている。
私は血液が少ないのは自分が分かっているから、血液を無理に循環させても別のところに歪(ひずみ)が来てしまうのではないかと思ったし、体が無駄なエネルギーを使わないためにワザと代謝を低く調整しているのだとも思っている。すべては、自分の意思とは関係がない。ホルモンのなせる技である。

ゲーリー・トーベス氏が、「人はなぜ太るのか」で説明されたように、私たちはロボットではない。人間を含め動物はすべて命を最優先にするため、脳・心臓・肺・肝臓などをストップさせることはできない。
そのため食事を制限された動物は無意識に不活発になったり、優先度の低い可能なところから少しづつ代謝を減らすと考えるのは妥当ではないだろうか?
摂取カロリーと消費カロリーは、相互に依存している。数学的に言うなら独立変数ではなく、従属変数である。[1]
(引用元: [1] ゲーリー・トーベス,「人はなぜ太るのか」, P.89)
まとめ
(1) 運動以外で消費される(基礎代謝などの)消費エネルギーはホルモンにより自動でコントロールされるが、その値は一定ではない。摂取カロリーを減らせば、消費されるエネルギーも減ることが確認されている。
(2) 1919年、ワシントンのカーネギー研究所で行われた研究では、摂取カロリーが30 %削減されると総エネルギー消費量もおよそ30%も減少した。
(3) 1944年に行われたミネソタ飢餓実験では、被験者たちは摂取カロリーを約3千kcalから約1,500 kcalに減らされたことで、体の機能は30~40 %のエネルギー削減を余儀なくされた。体重減少だけでなく様々な症状が確認された。
(4) 戦争、飢饉または科学実験で半飢餓状態におかれた人たちは、いつも空腹を感じるだけでなく、無気力になり、エネルギー消費量も少ない。体温が低下するため、彼らは常に寒さを感じる傾向にある。私たちが摂取するエネルギーと消費するエネルギーは相互に依存している。
2019.04.05
リバウンドしない減量には、2ステップ必要
要 約
(1)太る場合と同様に、「痩せる」場合にも、生理学的に異なる2つのプロセスが存在すると考えられる。一般的なカロリー制限では、身体がエネルギー不足と認識し、従来の体重水準を維持しようとする適応反応が生じるため、体重減少は持続しにくく元の体重に戻りやすい。
リバウンドなく長期的に痩せた体重を維持するには、体重の「設定値」そのものを低下させる必要がある。
(2)体重の設定値そのものを下げるためには、少なくとも次の2つの生理学的ステップを踏む必要がある。第一に、体重を減らす前に、身体がエネルギー欠乏と認識しない生理的環境を整えること。第二に、その環境のもとで、体脂肪が自然に減少していく過程を経ることである。
ステップ1:栄養密度が高く、かつ消化に時間を要する食品(野菜、乳製品、ナッツ、特定のタンパク質など)を食事の中心として選択する。
腸管内に消化されにくい成分を含む内容物が長時間残ることは、身体にとって「食物が十分にある」というシグナルとして認識され、その結果、全体のエネルギー収支がわずかにマイナスになっても、強い適応反応が生じにくくなる可能性がある。
ステップ2:満腹感が持続することで食べ過ぎが抑えられるだけでなく、吸収効率も徐々に低下する可能性がある。長期的には、視床下部を中心とした脳と、末梢の臓器・組織との協調的な作用により、体脂肪が段階的に減少していく可能性がある。
(3)「2ステップ法」は、結果として低炭水化物ダイエットと似た食事内容になる場合があるが、目的は本質的に異なる。
低炭水化物ダイエットは、主にインスリン分泌を低下させることを目的として、糖質の摂取量を制限する。一方、2ステップ法では、腸内飢餓(長時間にわたる空腹)とは逆の生理的環境を整えることを目的とし、炭水化物の摂取を抑えつつ、それ以外の栄養密度が高く消化に時間を要する食品を十分な量摂取することが重要となる。
【全文】
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<目次>
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- 「痩せる」にも2つの異なるプロセスがある
(1)体重は減るが、リバウンドする場合
(2)体重の「設定値」そのものを下げる場合
- 体重の設定値を下げるには何が必要か?
- 低炭水化物ダイエット(糖質制限)との違い
- 「痩せる」にも2つの異なるプロセスがある
このブログはダイエットを目的としたものではありませんが、体重増加のメカニズムを考察する以上、その逆である「痩せる過程」についても理論的に整理する必要があると考えました。
今回の記事では、私の仮説に基づき、持続可能な減量のための理論のみを述べます。実践に基づくものではありませんが、従来の考えにとらわれず、一つの新しい考え方を共有することを目的としています。
1. 「痩せる」にも2つの異なるプロセスがある
『太る』に生理学的に異なる2つのプロセスがあるように、『痩せる』にも生理学的に異なる2つのプロセスが存在すると考えられる。
(1)体重は減るが、リバウンドする場合
一般的なカロリー制限や低脂質食は、摂取エネルギーを減らし、消費エネルギーを増やすことで体重を減少させることを目的としています。この方法では慢性的な空腹を伴うことが多くなります。
このブログでは、体重の恒常性を説明する概念として「体重の設定値」仮説[1,2]を使用しています。
摂取エネルギーを大きく制限して体重が減少すると、身体はエネルギー不足と認識し、貯蔵エネルギーを維持しようとする適応反応が生じます[3,4]。これは、代謝・神経内分泌・自律神経・行動における変化が相互に作用する反応として理解されています[5]。
加えて、私の考えでは、空腹状態が長く続くと、体は食べ物から最大限に栄養を摂ろうとするために吸収効率はアップするのです。

ほとんどの場合、体重の設定値自体は変化しないため、体重減少は持続せず、最終的には元の体重の範囲に戻る可能性が高くなります。
【関連記事】
減量後に体重のリバウンドを促進する生物学的反応
(2)体重の「設定値」そのものを下げる場合
私は、肥満の本質的な問題は体重の「設定値」が高くなっていることにあると考えています。
体脂肪として十分なエネルギー貯蔵がある肥満者でさえ、カロリー制限に対して代謝的抵抗を示すことから、肥満は一部の人にとって生理学的に安定した状態であると考えられています[1]。動物実験においても、肥満は高い設定値で調整されたエネルギー恒常性の状態として捉えられています[1]。
したがって、長期的に痩せた体重を保つには、短期のエネルギーの収支のみに焦点をあてるのではなく、体重の設定値そのものを低下させる必要があります。これに関連する文献を以下に引用します。
”体重や肥満に関しては『設定値』というものがあると考えられているが、肥満の問題点は、「設定値が高くなっている」ということにある。(略)
長年にわたる研究で分かったことが二つある。
一つは「どんなダイエット法も効果的であるということ」。
もう一つは「どんなダイエット法も効果的でない」ということ。
どういうことかと言うと、地中海式ダイエットもアトキンス・ダイエット(糖質制限)も低脂質、低カロリーダイエットも、短期的には体重はおちる。それはそうだろう。摂取量を控えているのだから・・・。
しかし、しばらくすると体重は減らなくなり、その後、無常にも増え始める。(略)こうしてどんなダイエット法も失敗する。実は半永久的に体重を減らすには「2段階のプロセス」が必要だ。肥満には「短期的な問題」と「長期的な問題」がある。”(引用以上)
(参考文献: ジェイソン・ファン. 2019.「The Obesity Code 」. Pages 120, 358.)
2.体重の設定値を下げるには何が必要か?
Fung氏が述べる「2段階のプロセス」とは、肥満治療(減量)を「短期的な課題」と「長期的な課題」から成るものと捉える概念的枠組みであり、主に臨床的・実践的な観点から整理されたものだと、私は理解しています。
一方でこの記事では、この「長期的な問題」、すなわち、なぜ身体が体重減少に抵抗し、長期的に体重が元に戻ってしまうのか[6]という点を、生理学的な観点からさらに掘り下げて考察します。
その結果、私は、長期的に痩せた体重を維持するためには、少なくとも以下の2つの生理学的ステップを踏む必要があると考えました。
(1)体重を減らす前に、身体がエネルギー欠乏と認識しない生理的環境を整えること
(2)その環境のもとで、体脂肪が自然に減少していく過程を経ること
私の理論では、体重の設定値上昇を伴う体重増加は、身体が「飢餓状態にある」と認識した結果生じる適応反応と関連しており、持続的な体重減少には、その逆の生理的環境を作る必要があると考えています。
多くのダイエットは、初期段階から体重減少を狙いますが、(1)のステップを飛ばすことで、恒常性を取り戻そうとする適応反応が生じ[6]、結果として長期的な減量に失敗する可能性が高いのです。
具体的には以下の通りです。
<第一のステップ>
食事量を減らして空腹を我慢するのではなく、栄養密度が高く、かつ消化に時間を要する(又は部分的に消化されない)食品を中心に食事を構成します。
具体的には、精製炭水化物の摂取量を減らし、その代わりに全粒穀物、食物繊維の多い野菜、ナッツ類、乳製品、脂質、加工度の低いタンパク食品などの摂取量を増やすことが望ましいと考えています。

(出典:Freepik)
これにより、腸管内に消化されにくい成分を含む内容物が長時間残り、空腹感が軽減されるだけでなく、身体にとって「食物が十分にある」というシグナルとして認識される可能性があります。そのため、全体的なエネルギー収支が若干悪化しても、身体はエネルギー欠乏と判断する可能性は低いと考えています。
<第二のステップ>
空腹感の軽減に伴い食欲が低下し、吸収効率も徐々に低下していきます。最終的には、視床下部を中心とした脳と末梢の臓器・組織の協調的な作用により[7]、体脂肪が減少していく可能性があると推測しています。
吸収率の変化は直感的に分かりにくいかもしれませんが、例えば、強い空腹状態で炭水化物を摂取すると血糖値は急上昇しやすく、一方で食後数時間経過した状態では上昇が抑えられます。アルコールについても、空腹時は酔いが早く回り、食後では緩やかになります。
このように、空腹を避け、消化に時間のかかる食品を適切な間隔で摂取することにより、吸収効率は相対的に低下していく可能性があるです。
3.低炭水化物ダイエット(糖質制限)との違い
私の考える「2ステップ法」は、結果として低炭水化物ダイエット(糖質制限)と似た食事内容になる可能性があります。しかし、両者は出発点と目的が異なります。ここでは、その違いを整理します。
▽低炭水化物ダイエットは、炭水化物(糖質)の摂取を制限することで血糖値の急上昇を抑え、脂肪蓄積に関与するインスリン分泌を低下させることを主な目的とします。
糖質由来のエネルギーが不足すると、体は脂肪を主要なエネルギー源として利用するようになり、いわゆるケトーシス状態に移行します。その結果、体脂肪が利用されやすくなり、比較的短期間で体重が減少しやすいと考えられています。また、厳密なカロリー計算を必要とせず、高タンパク・高脂質の食事により満腹感が得られやすい点も特徴です。
▽これに対し、私の理論でも、精製炭水化物や高度に加工された食品に偏った食事が、現代の肥満蔓延に関与している可能性は高いと考えています。ただし、その理由は、炭水化物そのものが直接的に悪いからではありません。
私が重視しているのは、炭水化物が持つ消化の速さや、炭水化物と水分を同時に摂取した際に生じる「希薄効果」、さらに胃内容物が腸へ急速に送り出される「プッシュアウト効果」といった性質です。
これらの要因が重なることで、食べた物が比較的早く消化され、特定の条件下で、腸内飢餓が生じやすくなる可能性があると考えています。
【関連記事】
炭水化物で太る?:希薄効果、プッシュアウト効果

(著作者:brgfx/出典:Freepik)
そのため、2ステップ法では、腸内飢餓とは逆の生理的環境(腸管内に消化されにくい成分を含む内容物が長時間残る状態)を整えることを目的として、希薄効果やプッシュアウト効果を弱めるために炭水化物の摂取を減らし、その他の食品(繊維質の野菜、乳製品、脂質、加工度の低いタンパク食品など)を相対的に増やすことが必要となります。
低炭水化物ダイエットでは、糖質の摂取量そのものを減らすことが中心的な方針となり、タンパク質や脂質は代替的なエネルギー源として比較的自由に摂取されます。ここに、2ステップ法との本質的な違いがあります。
【参考文献】
[1]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen, 「体重設定値:決定と調整」, The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.
[2]Ganipisetti VM, Bollimunta P. 「肥満とセットポイント理論」. 2023 Apr 25. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan–.
[3]Hall KD, Guo J. Obesity Energetics: .「肥満エネルギー学」. Gastroenterology. 2017 May;152(7):1718-1727.e3.
[4]Egan AM, Collins AL. 「栄養不足に対するエネルギー消費の動的変化:レビュー」. Proc Nutr Soc. 2022 May;81(2):199-212.
[5] Rosenbaum M, Leibel RL. 「ヒトにおける適応的熱産生」. Int J Obes (Lond). 2010 Oct;34 Suppl 1(0 1):S47-55.
[6] Ochner CN et al. 「肥満者の減量後に体重が戻ることを促進する生物学的メカニズム」. Physiol Behav. 2013 Aug 15;120:106-13.
[7] Wilson JL, Enriori PJ. 「体重をコントロールするために脂肪組織、腸、膵臓、脳の間で対話する」. Mol Cell Endocrinol. 2015 Dec 15;418 Pt 2:108-19.
2015.01.12
同じ「太る」でも意味が違う:2つの異なるプロセスとは?
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<目次>
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<はじめに>
1.体重が現状維持の基点(体重の設定値)に戻る場合(A)
2.現状維持の基点がアップする場合(B)
3.体重増加における A と B の併存
<はじめに>
一般的に「太る」と言うと、単に ”以前よりも体重(体脂肪)が増えること” と理解されがちである。しかしこの表現は、生理学的に異なる複数のプロセスを一括りにしている可能性がある。
ここでは理解を容易にするため、体重増加に関わる複雑な現象を、仮説的な整理として、あえて2つのプロセスに分けて説明する。
例えば、「高カロリーな食品を食べれば太る」という理解は広く共有されている。一方で、ダイエット後に体重がリバウンドし、以前より太ってしまうといった現象を理解するためには、より生理学的な視点が必要となる。
これら性質の異なる体重増加のプロセスが明確に区別されないまま語られてきた結果、減量に関する誤った情報が広まり、多くの人が適切とは言えない方法でダイエットを行っている可能性がある。
【関連記事】重要性を増す体重の「設定値」理論
1.体重が現状維持の基点(体重の設定値)に戻る場合(A)
まず1つ目の「太る」は、体重の設定値に戻ろうとする身体の恒常性の働きを反映しており、その一環として生じるものである(図1-A)。

<図 1:2つの異なる体重増加プロセス>
太っている、あるいは太り気味の人の多くは、日々の摂取カロリーを減らしたり、運動をすることで、体重を低く保つようにコントロールしています。
そのような状態では、身体は多くの場合、設定体重に戻ろうとする方向に働くため、摂取カロリーが増えれば体重が増加することは自然に起こり得る。
(注:一時的な過食によって、設定体重を超えて体重が多少増加する場合もあるが、その場合の体重の増加は一過性であり、設定体重そのものが変化したとは考えにくい。)
日本では、多くの人が「お正月太り」について話したり、「高カロリーな食品は体重増加につながる」と言う。中には「少し多く食べるとすぐに太る」と主張する人もいる。
しかしほとんどの場合、こうした経験は体重を設定値に戻そうとする身体の恒常性メカニズムによって説明でき、その人は「ミニダイエット」と「ミニリバウンド」を繰り返している状態にあると考えられる。
【関連記事】一番優先されているのは現状維持
▽これは、水の入ったグラスに例えると、グラスの中で水が一時的に増減を繰り返している状態に相当しますが、グラスの大きさは一定です。
また、一時的な過食によって、設定体重を超えて体重が多少増加する場合は、グラスの水が一杯になった後に、表面張力によってグラスの上端から水が盛り上がっている状態と捉えることができる(図2)。

図2:水の入ったグラスの例 (1)
2.現状維持の基点がアップする場合(B)
これに対して、2つ目の「太る」とは、現状維持の基点となる体重の設定値、それ自体が上がっていく場合です(図-1 B)。
体重の設定値が上昇する背景には、身体が「飢餓状態にある」と認識したときに生じる生理学的な適応反応が関与していると、私は考えています。身体が飢餓を認識する経路には大きく2 つあると考えており、1 つは過度のカロリー制限による深刻なエネルギー不足、もう 1 つが、このブログで述べている「腸内飢餓」です。
【関連記事】減量後に体重のリバウンドを促進する生物学的反応
▽ここでは、後者の「腸内飢餓」が主に関与していると考えられる、体重の設定値上昇のケースについて説明します。
摂取カロリーを気にして、朝食や昼食を軽い食事(シンプルなバーガーやサンドウィッチ、即席麺など)で済ましているにもかかわらず、「この1年で3キロ太った」「この3年で10キロ太った」というように最高体重が更新していく場合がある。これは、単純なカロリー収支だけで説明できる現象ではなく、むしろ、長時間に及ぶ空腹状態の間に誘発されうる腸内飢餓、及びその他の調節メカニズムによって、体重の設定値が引き上げられた可能性を示している。
例えば、これまで体重60キロを超えなかった人が、この1年で最高体重を更新し、安定的な65キロになったとします。この場合、体重の設定値が60➡65キロに上昇したと考えられ、エネルギー収支の釣り合う基準ライン自体が引き上げられたことを意味します。
体重の設定値が上昇する状態は、水の入ったグラスで例えるなら、グラスそのものが徐々に大きくなっていくようなイメージに近い(図-3)。

図3:水の入ったグラスの例 (2)
これは、太りやすい人と痩せている人の間に生じる、より根本的な違いを生み出す要因となり得る可能性があります。
実際、設定値理論に関する研究は、肥満が一部の人にとっては、特定の高い設定体重のもとでエネルギー収支が安定している「自然な生理学的状態」である可能性を示唆しています[1]。
3.体重増加における A と B の併存
実際の体重増加やリバウンドでは、現状維持のメカニズム(A)と、設定値そのものが上昇するメカニズム(B)が同時に、あるいは重なり合って働くことが少なくありません。
例えば、ダイエット後にほとんどの人が元の体重まで戻ってしまう現象は、恒常性に基づく現状維持のメカニズム(A)によるものと理解できます。
一方、元の体重を超えてさらに太ってしまう場合には、設定値そのものが上昇するメカニズム(B)が関与している可能性があります。なぜなら、カロリー制限の過程で、身体が飢餓状態にあると認識してしまう条件が整う場合があるためです。
・日本のお相撲さんは、食事量が多くて、体重が増えていくことで知られていますが、実際のところは、上述の(A)と(B)のメカニズムが混在していると考えることができる。
彼らがが太るのは、腸内飢餓を通じて、まず体重の設定値がアップし(B)、その後に沢山食べることによって、実体重が設定値に近づくというモデルで説明できる。
見た目には多く食べて太っていくように見えますが、ダイエット後にリバウンドして、以前よりも太ってしまう人と同じメカニズムが働いていると言えます。
【関連記事】
お相撲さんが太るのも、腸内飢餓のメカニズム

【参考文献】
[1] Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen, 「体重設定値:決定と調整」, The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.
2015.01.08
一番優先されているのは現状維持(設定体重とは?)
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目次
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- 人それぞれに現状維持的な機能がある
- 「設定値」理論との出会い
1.人それぞれに現状維持的な機能がある
まず体重に関する話を進めていくうえで一番大切なことをお話しますね~。
人にはそれぞれ、その時点での現状維持的な機能が働いているという仮定です。
この現状維持こそ、体重管理において、すべての前提にあるものであると考えています。

例えば、3人の女性がいて、
(Aさん)48キロ・・・食べても太れない体質
(Bさん)58キロ・・・油断するとすぐに2キロ太ってしまう
(Cさん)85キロ・・・ 〃
1年中を通して忙しい時は少し痩せたり、また食べてゆっくりすれば少し太ったり・・・を繰り返しているけど、細かなカロリー計算しなくても、人の体型ってそれほど変わらないものです。太っている人は太っているし、痩せている人は痩せている。つまり、人ぞれぞれに恒常性の機能に基づく安定的な体重があると考え、私は当初「基本体重」を以下のように定義しました。
基本体重 (Base weight) =過度な運動や仕事はせずに3~5日ゆっくりして、一日のエネルギー必要量に基づくカロリーを摂取したときに戻ってしまう安定的体重。
しかし、公式には証明・定義されていないものの「体重の設定値」「設定体重」という概念が一部の研究者の中で既にあること、また英語に翻訳した「base weight」は研究などで使用される「baseline weight (ベースライン体重)」 と紛らわしいことから、今後は「体重の設定値」又は「設定体重」を使用することとする。
この例の場合、Aさんの設定体重は48キロですが、Bさん、Cさんは油断するとすぐに戻ってしまう体重である、それぞれ60キロ、87キロが実際の設定体重と言えます。その体重に戻るように恒常性による現状維持の機能が働いいているということになります。
ですから、3人の体重をカロリー摂取量や消費量だけで規定するのには無理があり、Aさんが毎日、必要とするカロリーの100kcalオーバーの食事を何か月~何年も繰り返せば、それが脂肪として蓄積され、やがて60➡ 70➡ 80キロとなるというのは間違いです。(なる場合もありますがまたそれは別の理由で・・・)
一般的に、太っている(太り気味の)人はカロリー制限して控えめに食べて生活していることが多いため、普段の体重は設定体重より低く、痩せている人は普段からカロリー制限などしていないので、設定体重と普段の体重が近いと言えます。
その為、痩せているAさんは食べても体重は増えないのに対し、Bさん、Cさんは食べるとすぐに太ってしまう・・・ということが考えられます。(注:一時的な過食により、設定値を超えてさらに体重が増加する場合もあるが、その場合の体重増加は一時的であり、設定値そのものに変化はないと考えています。)
【関連記事】
同じ「太る」でも意味が違う:2つの異なるプロセスとは?

■私の好きなボクサーである長谷川穂積選手。
(第26代WBC世界バンタム級王者として10度防衛、第42代WBC世界フェザー級王者)
バンタム級は体重のリミットが53.5キロ。身体が成長するにつれ減量も過酷になり、防衛戦では1か月前後で10キロ以上の減量をしなければいけなかったそうです。しかし試合が終わり食べると、わずか数日で10キロ戻ると言われていました。
それくらい戻るスピードは早いんだなと思います。
今まで、ダイエットされてきた方なら少しは思い当たる節があるのではないでしょうか?
2.「設定値」理論との出会い
私達のほとんどは、日々のエネルギー摂取量、消費量を意識的に調整しているわけではありません。それにもかかわらず、個人の体重は比較的安定しています。
個人の体重の変動は6~10週間で 0.5 %程度に留まります[1,2](Khosha and Billewicz 1964)。横断的データによると、長期間にわたる体重の変化は依然としてわずかで、糖尿病患者でさえも、5年間の体重変化係数は 3.7~4.6 %に留まると言われています[1,3](Goodner and Oglive 1974)。
1970年以降、世界的に肥満が増加している状況では、その体重変化係数はもはや正確ではないかも知れないが、痩せた状態を維持している人は多いし(特にアジア圏)、過体重や肥満の人でさえも、重いなりに、彼らの体重を何十年も維持しているのです[4]。つまり、日々の暮らしで多少の体重の変動はあるにしても、長期にわたり特定の範囲内に体重、体脂肪を維持しようとする体内の調整メカニズムがあるはずです。
近年では、人体の恒常性調整の役割が認識され、体はエネルギーバランスを制御する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持する[5]という証拠が増えつつあります。
個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を低下させ、さらに、食欲を増進させるホルモン変化を誘発し、行動の変化を通じて食の嗜好を修正し、体重を設定値の範囲に戻すのです[6]。
このフィードバックメカニズムは減量だけでなく、一時的な過食にも当てはまることが知られています[7]。

私はこのブログを書き始めた時は、この体重の「設定値」に関する理論の存在は全く知りませんでしたが、私がずっと思っていたこととほぼ合致しました。設定値理論を理解することは、肥満の蔓延の防止、効果的な減量法の提案という観点から非常に重要だと考えています。
特に、1970年代からの肥満の世界的な増加原因を説明するには、(I)遺伝的・生物学的要因と、(II)環境・行動要因がどの様に組み合わさって体重の設定値が上昇するのかを理解することが必要だと思っています。私の腸内飢餓理論はそれに役立てると信じています。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】
<参考文献>
[1]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen.「体重設定値:決定と調整」. The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.
[2]KHOSLA T, BILLEWICZ WZ. 「体重変化の測定」. Br J Nutr. 1964;18:227-39.
[3]Goodner CJ, Ogilvie JT. 「糖尿病クリニックの患者における体重の恒常性」. 1974 Apr;23(4):318-26.
[4] Gary Taubes.「人はなぜ太るのか」. 2010, Page 69.
[5]Egan AM, Collins AL. 「栄養不足に対するエネルギー消費の動的変化:レビュー」. Proc Nutr Soc. 2022 May;81(2):199-212. doi: 10.1017/S0029665121003669. Epub 2021 Oct 4. PMID: 35103583.
[6]Ganipisetti VM, Bollimunta P. 「肥満と設定値理論」. 2023 Apr 25. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan–. PMID: 37276312.
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